ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

日本を襲ったスペイン・インフルエンザ―人類とウイルスの第一次世界戦争  

日本を襲ったスペイン・インフルエンザ―人類とウイルスの第一次世界戦争
速水 融


2009年に世界的に流行した新型インフルエンザ。
新型であるがゆえに、その流行の拡大には眼を見張るものがあったが、
幸いにも感染死亡率がさほど高くなかった。
そのせいか、今はインフルエンザのパンデミックに対して、社会的な関心は低下しているように感じられる。
もちろん、「喉元過ぎれば」という話だ。
インフルエンザの変異は常にあるし、いつか、かつてのスペイン・インフルエンザのような爆発的・劇的流行もあるだろう。

ただ、前回の2009年新型インフルエンザの時に感じたが、
リアルタイムでネット上に情報が溢れ、記録された。

もちろん、重要な部分や個別的に問題まで掲載しているのが少なく、
そこに「インフルエンザ21世紀 (文春新書)」(レビューはこちら)などのような文献が生まれる意味がある。

ただ、それにしても、こと「記録」という面では、人類は既に新しい時代に突入していると言っていい。

一方、甚大な被害を起こしたスペイン・インフルエンザ。
実はこれについて、記録媒体が少ない。
社会的混乱もさることながら、こうした病気の大流行が、
誰もが遭遇している故に、後世に伝えるべき特筆すべき事象であるという意識が希薄だったのかもしれない。

その点について、日本各地に残されている当時の新聞記事を収集し、
スペイン・インフルエンザの日本における流行状況を明らかにしたのが本書である。

内容は地道な収集・整理の成果。
日本各地まで目を届かせた大部な本であり、
「労作」という言葉はこの本のためにあるようなものだ。
当時の新聞記事や社史、軍隊の記録等、様々な史料を駆使した流行解析は、他書では有り得ない唯一の強み。

例えば一口に「スペイン・インフルエンザ」と言っても、
実は日本では3回に分けて流行している。

 第一波は大正7(1918)年5月~7月。死者は出ず、「春の先触れ」と呼ぶ。
 第二波は大正7(1918)年10月~翌年5月。約26万人の死亡者を出した「前流行」。
 特に、大正7年11月は流行のピークとなり、社会的影響が甚大だった。死者が集中した翌年1月には、各地で火葬場が大混雑になった。
 第三波は大正8(1919)年12月~翌年5月頃。死者は約18万人である。

様々な様相を呈するインフルエンザ流行の各段階。
その時々に、社会はどう反応し、マスコミはどう報じたのか。
本書の存在は日本にとって非常に有益なものである。
多くのインフルエンザ対策従事者が知っておくべきだろう。

目次を末尾に掲げているが、それを見ただけでも、
本書の守備範囲の広さがお分かりいただけると思う。
日本各地、自分の住んでいる地域で何が起こったのか。
真に危険なパンデミックが発生した時、社会はどこまでマヒするのか。
歴史に学ぶ、というのはこういうことだ。

【目次】
序 章 “忘れられた”史上最悪のインフルエンザ
第1章 スペイン・インフルエンザとウイルス
第2章 インフルエンザ発生 一九一八(大正七)年春―夏
 三月 アメリカ
 四月―七月 日本
 五月―六月 スペイン
 七月―八月 西部戦線
 「先触れ」は何だったのか?
第3章 変異した新型ウイルスの襲来 一九一八(大正七)年八月末以後
 アメリカ
 イギリス
 フランス
 補 遺
第4章 前流行 大正七(一九一八)年秋―大正八(一九一九)年春
 本格的流行始まる
 九州地方
 中国・四国地方
 近畿地方
 中部地方
 関東地方
 北海道・奥羽地方
 小 括
第5章 後流行  大正八(一九一九)年暮―大正九(一九二〇)年春
 後流行は別種のインフルエンザか?
 九州地方
 中国・四国地方
 近畿地方
 中部地方
 関東地方
 北海道・奥羽地方
 小 括
第6章 統計の語るインフルエンザの猖獗
 国内の罹患者数と死亡者数
 全国の状況
 地方ごとの状況
第7章 インフルエンザと軍隊
 「矢矧」事件
 海外におけるインフルエンザと軍隊
 国内におけるインフルエンザと軍隊
 小 括
第8章 国内における流行の諸相
 神奈川県
 三井物産
 三菱各社
 東京市電気局
 大角力協会
 慶應義塾大学
 帝国学士院
 文芸界
 日記にみる流行
第9章 外地における流行
 樺 太
 朝 鮮
 台 湾
 小 括
終 章 総括・対策・教訓
 総 括
 教 訓
 あとがき
資料1 五味淵伊次郎の見聞記
資料2 軍艦「矢矧」の日誌

新聞一覧
図表一覧

▼WHOの新藤氏によるもの。レビューはこちら

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