ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

角筆のみちびく世界―日本古代・中世への照明  

角筆のみちびく世界―日本古代・中世への照明 (中公新書)
小林 芳規



増補 書藪巡歴 (ちくま文庫)」(レビューはこちら)に、角筆が出てきた。

角筆とは、先のとがった木製の筆記具。これで書くと紙が凹むため、一見何も書かれていないようだが、角度によっては読むことが可能となる。

この角筆研究の第一人者である小林芳規先生の集中講義を大学院時代に受ける機会があり、香川大学図書館所蔵の和本と柴野栗山の栗山文庫の調査に同行させていただいたことがある。

その懐かしさもあって探してみると、何冊かご著書を発見。
そこで、最も手軽と思われる一冊を入手した。

本書は、小林先生と角筆の出会い、各地での研究、次々と発見される新たな事例といった経験を軸に、
「角筆」というモノに対する歴史上での認識の変遷、角筆そのものの発見、
個々の事例から判明したことなど、日本語学的な分野までも解説する。

角筆という筆記方法は、これまで知られていなかっだたけあって、
既に毛筆面では調べつくされた既知の文献上であっても、
そこに角筆が発見されると、あたかも新たに膨大な文献資料を発見したかのような状況となる。

特に、「一目見ただけでは見えない」という面から、
落書きのようなもの、イラスト、日常口頭音での書入れなど、
日本語史、地域文化史など、様々な方面での新資料となる。

その一例として、本書では大宰府の岩蔵寺の「宋版大般若経」六百巻を取り上げる。
その「大般若経」には多数の角筆による書入れがあり、
記載されていた内容から、鎌倉後期には、今は失われた明星寺という寺で用いられていたことが判明。
多くの寺僧の名前、当時の儀式手順などが判明した。
これなど、「角筆」という視点がなければ、到底知り得ない情報であった。

ところが、この貴重な「宋版大般若経」六百巻を、
昭和59年5月28日、ある若い僧が本尊の前に積み上げて、周囲に蝋燭を灯して祈りをあげ、やがてその火を用いて焼いてしまった。

焼失してしまったという事実には悲しみしかないが、
それでも角筆文献として精査されていたことは、唯一の救いだろう。

そう考えると、今も調査されずに放置されていたり、これまでに喪失した文献を考えると、
日本語資料としてだけでなく、歴史史料としても「角筆」として精査する重要性が痛感される。

例えば香川県でも、小林先生による調査により、次のような記事が掲載されたこともあった。
角筆が面白い ~旧高松藩士の獄中記発見から 3つの謎に迫る

お住いの地域でも、こうした事例は有り得る。
また旧家であれば、角筆文献を所蔵している可能性も無くはない。

実際に研究するか否かは別としても、
「角筆」という存在を知っていることは、古来から紙での文献が多く残る日本においては、
必須の知識ではないかと思う。

【目次】
角筆と角筆文献
 第一話 王朝物語の世界
 第二話 角筆文字との出逢い
 第三話 出現した"幻"の角筆用具
 第四話 埋もれた北九州の文化
 第五話 角筆文献の内容と言葉の性格
角筆の言葉
 第六話 女手のもう一つの世界
 第七話 王朝人の日常口語をかいまみる
 第八話 俗語を掘り起こす
中国大陸へ
 第九話 法隆寺金堂壁画から中国唐墓の壁画へ
 第十話 中国大陸二千年前の古代へ
角筆文献一覧(二百点)




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