ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

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世界を救った医師―SARSと闘い死んだカルロ・ウルバニの27日  

世界を救った医師―SARSと闘い死んだカルロ・ウルバニの27日
NHK報道局「カルロウルバニ」取材班



長らく読みたかった一冊である。
2003年3月、突然世界を震撼させた感染症、SARS(重症急性呼吸器症候群)。
実際は2002年に中国で発生していたが、その情報は抑制されていた。

しかし、2002年3月、ベトナムのハノイ・フレンチ病院に、一人の発熱患者が入院する。
その患者の原因が不明であること、そしてあまりにも急激に病状が進行することから、
未知の感染症だと気づいたWHOのカルロ・ウルバニは、
2002年3月3日以降、患者への処置、次々と発生する二次感染者への対応、そしてWHOやベトナムへの警告・情報発信を続ける。

そしてついに、WHOがグローバル・アラートを発し、ベトナムがハノイ・フレンチ病院の隔離対策を発表するに至った時、
カルロ自身もSARSに感染していた。

カルロが発信し続けた情報は、拡大していたSARS感染者の早期発見・隔離対策に極めて有効であり、
2003年7月には制圧宣言が出されるに至る。
だがそれまで、約8,00人が感染し、その1割近くが死亡した。

カルロが警告していなければ、またその情報が無かったら、
世界はもっとSARSによって混乱していただろう。

だが一方で、カルロは感染した可能性を自覚した直後、ベトナムを離れ、タイ・バンコクへ移動する(そして、そこで死亡した)。
WHOの感染対策としては考えられない行動であるものの、
一個人としてのカルロの「気持ち」を否定することは難しい。

未知の感染症に遭遇したカルロが、どう判断し、行動したのか。
本書は、NHKスペシャル「SARSと闘った男 ~医師ウルバニ 27日間の記録~
として、2004年2月15日に放送された内容をベースにしたものである。
この番組も後で見たが、本書で省かれた内容もなく、非常に丁寧にまとめられている。

さて、SARS、そしてSARSにおけるカルロの行動と死は、WHOにも大きな影響を与えている。
また、そうした感染症対策の場において、WHOの進藤奈邦子氏、押谷仁氏といった日本人が深く関わっている。
これほど人材がありながら、日本の感染症対策は、新型インフルエンザを経た今でも国際的に十分なものではない。
(進藤奈邦子氏とWHOの感染症対策については、「私たちにできること。 新型インフルエンザとの戦い (NHKプロフェッショナル仕事の流儀)」(レビューはこちら)に詳しい。)

SARS以前以後、そして新型インフルエンザ以前・以後で、世界の感染症対策は大きく変わっている。
それを知るうえで、この「原因不明の感染症に遭遇した物語」を知っておきたい。
この物語は、いつどこで再現されるか分からない。

と、レビューの準備を進めていたら、今回のMERSコロナウイルス(中東呼吸器症候群)である。
特定の国をどうこう言う気は全くないのだが、
現状を見ると、SARSや新型インフルエンザの事例やカルロの死から、何も学んでいないように見える。
歴史に学ぶ、とは、まさにこうしたことではないのだろうか。
日本、WHO、世界、そして僕たち一人一人の判断が、今後問われることになる。

【目次】
第1章 謎の肺炎患者との遭遇
第2章 感染拡大の危機
第3章 国家の壁
第4章 未知のウイルスの恐怖
第5章 ベトナム政府との交渉
第6章 世界への警告、グローバルアラート
第7章 ウルバニの死

レビューはこちら
2010年、WHOインフルエンザ担当官であった新藤奈邦子氏の本。

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category: 感染症

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