ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか (ヤマケイ文庫)   

トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか (ヤマケイ文庫)
羽根田治,飯田肇,金田正樹



 6年前の今日。
 2009年7月16日。北海道のトムラウシ山において、ツアー登山を行っていた18人のうち、8人が死亡するという遭難事故が起きた。
 報道に接した、「なぜこの時代に、国内の夏山で、それほど多人数の遭難が発生するのか」と驚いたことを覚えている。

 まず「この時代」。道具は高機能化され、過去の多くの登山記録もあり、よっぽどでなければ想定外など発生しないのではないか。
 次に、「国内の夏山で」。冬は確かに国内の山でもハードだが、夏はそれほどでもないのではないか?
 そして、「それほど多人数」。不幸にして遭難が発生するのは有るとしても、18人のツアーの半分近くが死亡するなんて壊滅的な事態が有り得るのか?
 
 マスコミ・一般的にも概ねこうした疑問に沿って報道され、最終的には①ツアー登山が危険、②ガイドの力不足、③中高年登山者の力不足に収束されたように思う。
 
 ところが、マスコミ報道で分かったようなつもりになっていものの、
 実際には何もわかっていない。
  
①は、最終的には、今回の旅行会社であるアミューズトラベルが特にずさんだった、となった。
 どうも日本では、「加害者は◯◯の点で一般とは異なっている。その◯◯が原因である。(だから我々善き一般人は問題ない。安心しよう。)」という論に陥る場合が多い(と僕は感じている)。
 本来マスコミとは、そうした漠然とした「思い込み」を排する役割だったと思うのだが、最近のマスコミは、それを代行している(と僕は思う)。

 今回、最初は登山ツアーを問題としていたが、最終的にはアミューズという会社が特に悪かった、となった。事実アミューズがずさんだったとしても、登山ツアーそのものの問題が解決されたわけではないが、いつしか放置されている。

②のガイドの問題は、一般的には「アミューズが悪い」という点に収束されてしまった。少なくとも社会全体を巻き込んで、日本における山岳ガイドの在り方の議論まで展開していない。

③についても、一般論で終わってしまった。何が準備不足だったのか。現地でどう行動すべきだっのか。本当に問題なのは、そこだろう。

本書は、事故報告書や生存者への聴取を踏まえて、この事件を教訓としようとするものである。

 前半は、実際に現場はどのような状況だったのかを、時系列で綴る。今は「なぜこんな行動をしたのか」と言えるが、現地では判断できる状況だったかのか。

 後半では、この事件を元に、ツアー登山の何が問題なのか、死因となった「低体温症」とはどのような症状を経て死に至るのか、旅行会社・ガイド・参加者はどう在るべきなのか、等を論じている。
 各登山行で必要なカロリーの算出方法などの例示もあり、少なくとも百名山に入っている山を登る方は必読だろうと感じた。

 しかし正直なところ、様々な分野において、根拠なく自分が正しい、間違いないと思っている方は、世の中に存在する。
 (そしてそういう人は、自分の「正しさ」を補強する情報しか得ようとしない。)
 また、細かな判断(山であれば行動食を食う・食わない、服を着る・着ない等)を、「金を払っている自分の仕事ではない」と他人(ガイド)に丸投げする人も、存在する。
 そんな方が「ツアー登山の安全は会社が確保するもの」と思って参加し、想定外の悪天候に遭遇した場合、ガイドはそれらの方に独占される。
 その時、残された人々は、自分自身で身を守らなければならない。

 その時に、言葉は悪いが巻き添えにならないように。そして(善き)同行者がいれば、彼らを少しでも手助けができるように、本書をぜひ読んでおいてほしい。
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category: 事件・事故

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