ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

天皇陵 (中公選書)  

天皇陵
矢澤 高太郎
【残念度】★★★☆

天皇陵 (中公選書)天皇陵 (中公選書)
(2012/10/09)
矢澤 高太郎

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 本書は、読売新聞で23年間古代史・考古学担当記者であったジャーナリストによるものである。

 裏表紙には、「天皇陵の謎を追い続けてきたジャーナリストが、被葬者を巡る最新の学説を紹介し、さらに発掘成果をセンセーショナルに報道するマスコミのあり方への違和感、日本の文化財保護行政に対する疑問などを率直に綴る」とある。
 嘘は書いていない。素直に受け取れば本書はジャーナリストによる学説紹介と冷静な現状批判となる。ただ、そのウェイトはかなり異なる。正直なところ、学説紹介のかたちをした自説開陳と、自己中心的な主張が強く感じられた。
 考古学的興味から手にとったが、新しい知見が得られる喜びよりも、著者の主張に辟易して何も頭に残らなかった。残念である。
 

まず本書の主な主張は、下記のとおりと把握した。
①実際の研究結果と比較すると、宮内庁による陵墓及び陵墓参考地の同定は誤りが多い。
 宮内庁は姿勢を改め、陵墓及び陵墓参考地の同定を見直せ。
②陵墓及び陵墓参考地として指定するエリアも中途半端であり、必要な保全がなされていない。
 墳丘頂上部だけ指定したり、陵墓の直近にラブホテルが建つなどという状況を改善せよ。
③研究者による調査と一般国民の立入りを許可せよ。

 しかしながら、本書の底辺に流れるのは○行政を批判することが正義というジャーナリズム、○自分こそが価値あるテーマに取り組み、正義と真実を貫く記者である自信、○それの裏返しとして、他分野の記者や他社を見下した批判である。

 なるほど、陵墓及び陵墓参考地指定の問題や、遺跡管理など宮内庁や所轄官庁の問題は確かにあるだろう。しかし、陵墓にラブホテルが隣接する現状に対して、「こんな風景を創造してしまったのも、過去の政治家と、行政の怠慢や意識の低さによるものだろう」と、官批判のみでまとめるのはあまりに単純である。周囲の市民の美意識や歴史意識、郷土を守る意思、ラブホテルを建設した民間人、そこを利用する者たちの「民間」にも問題があるのではないか。ジャーナリズムとは、官批判が目的ではないはずだ。
 特に、「われわれ国民の血税で維持される宮内庁のあるべき姿ではないだろうか」という記載は、「官を攻撃する新聞記者」として、あまりにステレオタイプな結論の持っていきかたである。

 また、民は善という感覚からか、筆者は研究者による調査と一般国民の立入りを許可せよ、と主張する。高松塚などで現代技術と行政制度の限界が露呈しているのにも関わらず、こうした主張をするのはあまりに無邪気だろう。宮内庁の陵墓及び陵墓参考地指定に問題があるにせよ、その結果多くの古墳がそのまま次世代に残されていくという状況にはメリットもある。
 

 他分野の記者や他社を見下した批判としては、次のような記述がある。
 「現代の文学なるもののレベルへの疑問、作家という人種と、それを取り巻く各出版社の編集者との付き合いがまったく肌に合わなかった。」
 「芥川賞・直木賞に代表されるごとく、作品の質、内容よりも話題作りに奔走する関係者と、それに疑問すら感じることなく提灯記事を垂れ流す各紙の文芸記者の集団には絶望的なものを感じていた。」
「私は朝日という新聞社はライバル紙という以前に、その主義、主張、社論、社風が大嫌いだが」
 フェアに行くと、最後の引用文はそれでも朝日の一事業については褒めている。
 しかしジャーナリストが、これほどまでに私的な感情を、他社から刊行される本に記載するものだろうか。公私混同というか、少なくとも天皇陵、というテーマで官行政を批判するのに、こうした私的主張は全く必要ない。

 繰り返すが、著者はジャーナリストとして本書を書いている。本書の目的がジャーナリズムとして行政を批判することにあるなら、陵墓及び陵墓参考地指定については考古学者の学説紹介で足りるはずであり、著者の見解は不要である。
 また長年の文化専門記者として陵墓及び陵墓参考地指定問題に自己の見解を述べるのなら、純粋な考古学的検討のみで良く、ステレオタイプな行政批判は不要である。
 いずれにしても、他紙・多分野を批判する必要性は全く無い。
 一読して感じたのは、著者はどういうスタンスで、どういう目的をもって一書にまとめたのかという疑問である。後半になるほど、過去に書いたものの修正収録があるためか、統一感のなさは加速する。
 結論として、純粋に考古学的興味を持つ人ほど、本書には手をださない方が無難と感じた。
 ただ、これは私の私的な感情である。人によってはすごく共感するかもしれない。 
 いずれにしても、考古学の本でありながら、好き嫌いが分かれる稀有な本だろう。
 
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