ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

感染症の世界史 人類と病気の果てしない戦  

感染症の世界史 人類と病気の果てしない戦い
石 弘之




インフルエンザ、エボラ、デング熱と、近年は感染症の話題がない年はない。
私感だが、以前は「国内での流行」がニュースのほとんどだった。
だが、近年は「海外での流行」がニュースになり、それが日本に上陸するか否か、また上陸してしまった、というニュースが多い。交通網と物流が複雑に絡む現在、感染症は世界レベルで考える必要がある時代となっている。

本書は、インフルエンザやエボラといった近年メジャーな感染症だけでなく、
トキソプラズマやピロリ菌など、身近な感染症についても、その流行と対策史を紹介するもの。

類書と異なるのは、最新の各ウイルスの遺伝子分析結果をもとに、
それぞれのウイルスの出現時期や、歴史時代における伝播経路を紹介している点である。

例えばヒト単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)は、
 1 欧米型
 2 東アジア型
 3~6 アフリカ中部
の6タイプに分けられ、人類とともにアフリカ起源であり、人類の移動とともに広がっている。
(ヘルペスウイルスが出現したのは2億2000万~1億8000万年前。哺乳動物が登場する遥か以前。)

またピロリ菌は現在7系統に分けられるが、
 ①ヨーロッパ型(ヨーロッパ、中東、インドなど)
 ②北東アフリカ型
 ③アフリカ1型(西アフリカなど)
 ④アフリカ2型(南部アフリカ)
 ⑤アジア型(北部インド、バングラデシュ、タイ、マレーシアの一部など)
 ⑥サフル型(オーストラリア先住民、パプアニューギニア)
 ⑦東アジア型(日本、中国、韓国、台湾先住民、南太平洋、米国先住民など)
これも58000年前頃、アフリカから広がった系統分化を追うと、人類の移動史に一致するという。


一方、新しいウイルスもある。例えばエイズウイルス(HIV)。
まずアフリカ産霊長類で調査された45種には、それぞれ固有のセイズ(SIV、霊長類のエイズ)があり、
これがHIVに突然変異したというのが、定説である。
本書ではさらに、SIVは西アフリカのカメルーン沖のビオコ島で3万1000年前に出現したことをはじめ、
エイズのうちHIV-1型は、1910~1950年にツェゴチンパンジーのSIVが突然変異したもの、
HIV-2型は1940年前後にスーティマンガベイというオナガザルの仲間のSIVが突然変異したものらしいことを示す。
エイズそのものが、極めて新しいウイルスなのである。

またデングウイルスは4つの血清型に分類される(1、2、3、4型)。
各型に感染すると、その型に対する免疫を終生獲得する。
遺伝子の変異から見て、4つの血清型に分化したのは約1000年前。
1970年代、4つともあったのは東南アジアのみだったが、現在は世界中に分散している。

これらの系統分化が地図上に図示されており、まさに「感染症の世界史」である。


また、人類と感染症の歴史という点で、エイズウイルスに体制のある人間の存在も紹介している。
詳しくは省略するが、エイズウイルスへの耐性は、ある遺伝子欠損が原因となっている。
この遺伝子欠損は、実はペストや天然痘にも有利に働くもの。
その結果、これらの病気の大流行を経験しているヨーロッパでは、この遺伝子欠損を持つ人間が有意に多いという。

ヒトと感染症は、それこそ人類出現以来の長い歴史があり、
この「戦い」には恐らく終わりがない。

ただし、個別の感染症との闘いには、適切なワクチン使用等での対処も可能であることを、本書は示している。

問題は、「適切な」という点だ。
日本では、予防接種に非積極的であるとともに、
家畜への抗生物質使用や、タミフルの大量消費など、様々な課題がある。

例えば多剤耐性菌を防止するため、WHOは1997年に抗生物質の飼料添加の禁止を勧告、2000年には家畜用の抗生物質を全て使用禁止するよう勧告を出している。
EUはこれを受けて禁止したが、日本、アメリカ、中国などは依然として継続しており、日本では23種の抗生物質と6種の合成抗菌剤の飼料添加物が許可されている(本書刊行時点(2014.12.))。

また、2009年のインフルエンザ流行時、下水処理場で分析したところ、処理後の下水や河川でタミフルの代謝物が検出された。従来の下水処理技術ではタミフルは完全除去できず、このタミフルを含む水域でカモ類が生息することで、カモ類の体内でタミフル耐性のあるインフルエンザウイルスへの突然変異も懸念されるという。

さらに、ペットとして大量に輸入される鳥類。本書では触れられていないが、小動物・昆虫類の輸入も多く、人畜共通感染症まで輸入する危険性は極めて高いと思われる。

ぜひ、第1部・第2部の「世界史」を読んだうえで、「問題提起」の第3部をじっくり読み、
世界的レベルでの感染症対策と、日本の違いを実感していただきたい。


【目次】
序章 エボラ出血熱とデング熱―突発的流行の衝撃
 1 最強の感染症=エボラ出血熱との新たな戦い
 2 都心から流行がはじまったデング熱
第1部 二〇万年の地球環境史と感染症
 第1章 人類と病気の果てしない軍拡競争史
 第2章 環境変化が招いた感染症
 第3章 人類の移動と病気の拡散
第2部 人類と共存するウイルスと細菌
 第4章 ピロリ菌は敵か味方か―胃ガンの原因をめぐって
 第5章 寄生虫が人を操る?―猫とトキソプラズマ原虫
 第6章 性交渉とウイルスの関係―セックスがガンの原因になる?
 第7章 八種類あるヘルペスウイルス―感染者は世界で一億人
 第8章 世界で増殖するインフルエンザ―過密社会に適応したウイルス
 第9章 エイズ感染は一〇〇年前から―増えつづける日本での患者数
第3部 日本列島史と感染症の現状
 第10章 ハシカを侮る後進国・日本
 第11章 風疹の流行を止められない日本
 第12章 縄文人が持ち込んだ成人T細胞白血病
 第13章 弥生人が持ち込んだ結核
 終章  今後、感染症との激戦が予想される地域は?
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