ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

南極観測船「宗谷」航海記―航海・機関・輸送の実録  

南極観測船「宗谷」航海記―航海・機関・輸送の実録
南極OB会編集委員会



昨年末、丸亀市綾歌町総合文化会館(アイレックス)にある、南極の石。
南極の石
1968年(昭和43年)の第9次観測隊の隊長で、日本人として初めて南極点に到達した村山雅美氏が寄贈?したものを見て、
いいタイミングで出会ったのが本書、日本による南極観測の最初期、第1次から第6次まで活躍した「宗谷」の乗組員、観測隊員による記録集である。

航海士による1~3次の航海記録。
飛行長による、3次から導入された大型ヘリコプターによる航空輸送オペレーションの記録(3次~6次)など、「宗谷」の根幹部に関わる話だけでなく、
医務、主計、機関部、航空整備部など、通常は表に出てこない方々の証言が収録されているのが特徴である。

宗谷が最初に南極に向け出発したのは昭和31年(1956)11月8日。
10年前に第二次世界大戦が終結してからわずか10年後であり、まだまだ戦争の余波が残っている時代である。

例えば、「宗谷」自体、昭和15年には海軍に徴用されている(もとの名前は「地領丸」)。同じく昭和13年に竣工した姉妹間の天領丸、民鎮丸は、共に米潜の雷撃により沈没している。
また、宗谷の改造艤装を設計した牧野茂は、「大和」の設計にも携わっている。

こうした雰囲気の中、「宗谷」に寄せられた期待、そして乗組員の気負いはどれほどのものだったか。
第1次隊の片岡機関士は、「10年前には世界を相手に戦ったが、今は、世界の仲間入りの航海である。」と綴っている。

本書では、各部署の方々が自らの職務内容を淡々と綴っており、
「読者にわかりやすく」という気配はない。
だがそれだけに、各氏の任務遂行に賭けた意気込み、それを達成した誇り、時には、全うできなかった無念が伝わってくる。

また、個人的に本書で気になるのは、やはり第2次越冬隊の際に樺太犬が置き去りされた経緯、そしてタロ・ジロの発見の物語である。

まず、第2次越冬隊の際に樺太犬が置き去りされた経緯。
南極越冬記 (岩波新書 青版)」では、第1次の越冬隊長である西堀氏が、犬に不慣れな第2次越冬隊のために鎖に繋がざるを得なかったこと、そして第1次越冬隊の成功が慢心に繋がり、「例え少人数でも越冬する」という気概が第2次越冬隊になく、決断の遅れから撤退せざるを得なかったと綴っている。

一方本書では、第2次越冬隊の犬係として、中村純二氏-最後の犬を残す処置を担当せざるを得なかった方が、次のように綴っている。
「正午頃隊長からは次のような最後通告が戻ってきた。『3名を収容して外洋に出るのはバ号艦長からの至上命令であり、気象的にも空輸の可能性はあと1便しかない。からふと犬は野犬化したり、共食いしたりしないよう、必ず鎖につないだまま帰船してほしい』バ号艦長の命令とあらばこれに従うほかはない。」
3名とは、一時は昭和基地に入っていた、中村氏をはじめとする第2次越冬隊。
そしてバ号とは、南極の氷に阻まれた「宗谷」を助けていたバートン・アイランド号のことだ。
これが事実かどうかはわからないが、少なくとも「宗谷」が主体的に、そして独立的に判断できる状態には無かったのではないか、と窺わせる。

そして西堀第1次隊長が綴っているとおり、決断さえすれば、第1次越冬隊がもう1年残ることも、第2次越冬隊をもう少し追加して越冬させることも可能だったようだ。

タロ・ジロの発見の経緯については、ぜひ本書で生の声が読んでいただきたい(本書の楽しみの一つでもあるので、詳細は綴らない)。
ただ、本書には、上空から撮影されたタロ・ジロ発見時の写真が収録されている。胸が締め付けられる思いである。

タロ・ジロについて詳しくは調べてもいなかったが、どうもアザラシの糞などを食して越冬したようだ。
また、子犬の頃に「宗谷」に乗せられ、「家」が昭和基地だったため、遠くへ行かなかったのではないか、とも考えられている。

タロとジロは南極に順応していたので、第3次、第4次ともに南極で過ごした。
ただ第4次の間にジロが死亡したので、タロは第5次夏隊と共に帰国。
タロは、北大の植物園に入れられ、子も作り、1970年8月に死亡。15歳だった。

僕は偶然、札幌の北大植物園でタロの剥製に出会い、「なんでここにいるんだろう」と思ったのだが、
本書によってその疑問が解消した。あのあたりで余生を過ごしたのだ。
なお、ジロの剥製は、国立科学博物館にある。

▼上段の黒い犬がジロ。手前の白い犬は忠犬ハチ公。
ジロ&ハチ公


南極観測は今も続き、多くの成果を生み出している。
だが、その黎明期の姿について、やはりもっと振り返っておきたいと思う。

【目次】
01 航海記
02 航空オペレーション
03 観測隊員の記録
04 資料

▼これ無しでは話にならない。日本初の第一次南極越冬隊(1956年(昭和31年)出発)の隊長の手による生の記録。
レビューはこちら。西堀氏の主張を踏まえたレビューなので、やや第2次隊に辛辣。


▼現在の南極仕事人たちの記録。レビューはこちら


▼南極で研究する女性研究者による旅の記録。とても素敵な一冊である。レビューはこちら

関連記事
 このエントリーをはてなブックマークに追加

category: ノンフィクション

thread: 読んだ本の紹介 - janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://birdbookreading.blog.fc2.com/tb.php/508-db831280
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

中の人

アクセス

RSSリンクの表示

最新記事

カレンダー

アクセスランキング

月別アーカイブ

ブロとも申請フォーム