ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

美しき姫君  発見されたダ・ヴィンチの真作  

美しき姫君  発見されたダ・ヴィンチの真作
マーティン・ケンプ パスカル・コット



表紙を飾る、端正な横顔。
「美しき姫君」(La Bella Principessa)と題された絵は、黄金色の背景から、ふわりと浮かび出る。
素人目にも、相当作品だろうと感じる。

この絵は、1998年に、1万9千ドルで落札された。当時は、「19世紀前半、ドイツ流派の作品」という触れ込み。

だが、この絵に美術評論家ニコラス・ターナーは、ダ・ヴィンチ特有の筆遣いを感じる。

そして2008年、ダ・ヴィンチ研究家のマーティン・ケンプによる精査の結果、この作品はダ・ヴィンチの真筆であるという結論に至る。

ダ・ヴィンチの作品が発見されることは時折りあるものの、これほどのまでに完成度が高く、そして制作当時の姿を留めているものは稀有だという。

そんな「大発見」を、最先端の美術史的・科学的研究によって、ダ・ヴィンチ作と結論づけるまでの精緻な論証過程。
それを追体験できるのは、人生に幾度も無いだろう。

本書前半では、通常の美術史的側面からの追究過程が論じられる。
だが「タッチがどうこう」というものだけではなく、「横顔」という描写等からは、北イタリアの貴族のフォーマルな肖像画様式を、
そして描かれた人物の髪型(コアッツォーネ(髷)の使用)から、スフォルツァ家の人物であることを示す。
この時、併せて示される数点のスフォルツァ家の肖像画を見れば、この「美しき姫君」が間違いなく当時のスタイルに忠実であることが分かる。

そして、ダ・ヴィンチの手記と画材との一致等々、感覚ではなく、まさに論証により、この絵がダ・ヴィンチのものであることを示していく。

後半は、科学的検証だ。
羊皮紙(実際は子牛の革)の年代測定、使用された画材(チョーク)等の分析、下書きの修正跡、左手によるシェーディング、そして残された指紋。
全てが、ダ・ヴィンチ作であることを示していく。
「法医学」という言葉が使用されているが、まさしく科学捜査である。

そして何より、この論証全てを通じて、いかにダ・ヴィンチが独創的で、卓越したテクニックを持ち、
同時代の画家から超越した存在なのかを知ることができる。

また、「美しき姫君」の一部の拡大図や、マルチスペクトル撮影により復元した、制作当時の色合いの図、傍証となる様々な作品など、本書以外では、決して見ることができない画像も多い。
ひっそりと出版されているが、とても貴重な一冊である。

なお、本書の検証過程は、なんと映像化されているようだ。
僕は未見だが、いずれ見たいものである。



また、「美しき姫君」にも、ダ・ヴィンチ特有の人体の理想的比率が使用されている。
その思想の根幹を知る本として、「ダ・ヴィンチ・ゴースト: ウィトルウィウス的人体図の謎 (単行本)」(レビューはこちら)がある。
ダ・ヴィンチがいかに論理的に美を追求したのか。その歴史的推移については、本書をお読みいただきたい。


【目次】
第1部 作風からモデルまで
 序説
 画材を科学的に検証する
 作風、制作時期、服装
 肖像画の役割、詩、モデル
第2部 物理的・科学的検証
 序説
 マルチスペクトル撮影
 土台
 画法
 修復作業
 描画材のスペクトル解析
 X線による調査
 指紋の検証
 さらに、「チェチェリア・ガッレラーニ像」との比較
第3部 総括
 発見のまとめ
 何が証明されたのか?
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