ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

そして謎は残った―伝説の登山家マロリー発見記  

そして謎は残った―伝説の登山家マロリー発見記
ヨッヘン ヘムレブ,エリック・R. サイモンスン,ラリー・A. ジョンソン



エベレスト。
山屋でなくとも、その頂は、憧れの地だ。

公式には、1953年、エドモンド・ヒラリーとシェルパのテンジン・ノルゲイによって征服されているが、
それに至るまで、イギリスは1921年以降、何度も遠征隊を送り込み、失敗した-とされている。

そこには、謎がある。

第1次遠征隊以降、当時最高の登山家であり、名誉が重んじられる当時の登山界において、
その技術により参加していたジョージ・マロリー。
彼は1924年6月の第3次遠征において、パートナーのアンドルー・アーヴィンと共に頂上を目指すが、
北東稜の上部の頂上付近で行方不明となった。

マロリーの技術と当時の状況からすれば、登頂できていたはずだ、と見る人も多い。

果たしてマロリーは、エベレストの初登頂者だったのか。

例えばこれをテーマにしたフィクションとして、日本には夢枕獏の「神々の山嶺」がある。刊行当時、話題になった記憶がある。

だが、事実は小説より奇なり、という。

1979年、日本隊の長谷川良典が、中国人クライマー王から、1975年に高度8,100m付近でイギリス人の遺体を見たという証言を得た。その状況などから、この遺体はマロリーと共に遭難したアーヴィンの可能性が高い、と考えられた。

この遺体を再発見すれば、マロリーの謎を解く手掛かりが得られるのではないか。
いやむしろ、マロリーの遺体そのものを発見することも可能なのではないか。

マロリーの謎に取りつかれた人々は、不思議な縁によって邂逅し、
この可能性を追究するプロジェクトを立ち上げた。

本書は、そのプロジェクトの全貌をまとめ上げたもの。

マロリーが参加した第3次遠征隊の足跡を辿りながら、
捜索プロジェクトが具体化し、メンバーを募り、ベースキャンプに到達する話など、
本書では、1999年の調査隊と、1924年のマロリーの道程を、並行して描いている。
そこに時の流れを感じる一方、エヴェレストのように変わらぬ風景を通して、
凍り付いてしまったマロリーの「時間」を実感する。
本書は、稀有の冒険ノンフィクションでもある。

そして、1999年5月1日、彼らはマロリーの遺体を発見した。

遺体は頂上付近の北壁で俯せになっており、様々な装備はまだ残っていた。
その中にあった物証から、著者らはマロリーが登頂した可能性を客観的に推理していく。

本書の前半が冒険ノンフィクションであれば、後半は科学的推理のノンフィクションである。

その結果、彼らは登頂した可能性が高いと結論付けるが、
それを単純に決定づける証拠は、さすがにない。
「そして謎は残った」という本書のタイトルは、著者らの冷静な視線を証するものだ。

だが、本書で示された推理は全て違和感がない。
酸素タンクの数、残量、最後に確認された位置、時刻…。
彼らが推測するマロリーとアーヴィンの最期の姿は、本当に手に汗握る程、「現実的」なものだ。

そして何より、頂上に残すと常々言っていた最愛の妻の写真と手紙が残っていなかったこと(その他のメモや手紙は残っていた)。
僕は、それをマロリーが登頂したという証と見たい。

世界最高峰のエベレストに残る、謎。

登山そのものに興味が無くとも、この本は読む価値がある。

なお、探して見ると、なんとこの捜索隊がマロリーの遺体を発見した。まさにその時の映像があった。
ネット時代恐るべしである。
本書にも描かれているが、マロリーに憧れたクライマーたちは、
調査後、死と隣り合わせの世界で、厳かにマロリーの遺体を再埋葬する。
マロリーの登山は、ようやく終わった。


【目次】
プロローグ 最後の頂上アタック
第1章 謎に取り憑かれた探偵たち
第2章 冒険というより、むしろ戦争
第3章 地図の空白部へ
第4章 バンダバスト―準備段階
第5章 魔の山
第6章 『イギリス人の遺体』
第7章 頂上ピラミッド
第8章 封筒に記した覚え書き
エピローグ そこに山があるから




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category: ノンフィクション

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コメント

M氏 様

コメントありがとうございます。
昨日「<a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/asin/4635510018/kagawanoyacho-22/" rel="nofollow" target="_blank" >ヤマケイ新書 山岳遭難の教訓 --実例に学ぶ生還の条件--</a>」を読み終えました。道に迷う時は、不思議なくらいあっけなく間違うもののようです。幻覚、高揚、超自然現象、何がそうさせるのかは分かりませんが、やはり山は下界とは異なり、「そういう場所」なのでしょう。

BIRDREADER #- | URL
2015/03/28 12:18 | edit

登頂の証と生還を周知されなければ認められない、という事に関しては、ミスをスコットが正したにかかわらず、南極点の到達がアムンゼンのものになったという事に近いように思います。近代に剣山に錫杖がいくつもあったと言われる話も周知されなかったことに近いものでしょうね。
 初の本格登山で白馬尻を起点に登頂できなかった白馬岳9合目から小槍へ、そこから白馬槍に向かおうという時の鞍部で濃霧(雲?)に視界を阻まれたときに、1本道なのになぜか行く手の道が消える、と言う事態に見舞われたことがあります。過労で判断力が切れていたのでしょう。偶然後方を親子連れが通るのを見て、道を見直し、無事白馬槍をトラバースして山小屋に入ることができた、と言う経験をしました。ではどこで私は道を見失ったか?を2度目同じ経路(かつ白馬岳登頂せず!)を通り、山小屋に連泊して白馬槍(登頂)を過ぎて小槍ののぼりが始まるところまで戻っても判らずでした。白馬槍は登頂するコースと途中で山頂をトラバースするコースがあるのですが、実はもう一つ下に完全に白馬槍をトラバースする道もあり、何気にそちらを通ってみましたが・・・あとで後輩に廃道の入口はその昔遭難した人がいて、人は降ろされたけどザックはそのまま放置されているそうです(今は不明ですが、私が大学院生当時、まだ見えるところに転がってた)。あまり考えたくないですが、マッターホルンを制覇し下山時にウインパーらが奇妙な天象を見た・・・と言う事に近いかもしれません。

M氏 #- | URL
2015/03/25 20:11 | edit

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