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宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議 (講談社現代新書)   

宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議 (講談社現代新書)
吉田 たかよし



「宇宙生物学」という言葉は、まだ殆ど市民権を得ていないだろう。
どうも、宇宙全体の成り立ちや構造をふまえて、生命の起源や仕組みを考える分野のようだ。

なるほど本書を読めば、確かに宇宙的なレベルでの出来事が、地球生命に多くの影響を与えていることが分かる。

ただ、この「宇宙生物学」という言葉のために、読まない人も多いんじゃないかと思う。
なかなか面白い本なので、ぜひ手に取っていただきたい。

端的に言うと、本書は「なぜ地球生命に◯◯という物質が多いのか(必要なのか)」という疑問について、地球生成史のレベルから解読するものだ。

例えば、ナトリウム。
人体にとっては必須だが、地球上にナトリウムが多いことから、地球生命はナトリウムを大量に利用するスタイルをとっている。ここまでは、まあそうかという感じである。
ところが、「地球上にナトリウムが多い」のは、実は45億年前には月は現在の1/12の距離にあり、その恐るべき潮汐力(地球が6時間で1回転する間に、干潮と満潮が2回発生する!)によって、陸の岩塊が削られ続けたためらしい。
そのダイナミックな動きが、地球に生命が誕生する基礎を作った。

また、化合物は分子構成によって鏡像関係が生じ、それぞれ右手型・左手型がある(光学的な活性から右旋性物質(dextrorotatory、d体)と左旋性物質(levorotatory、ℓ体)という)。
例えば目薬や虫刺されの薬に入っている「ℓ-メントール」は、ℓ体の化合物のみ、ということだ。

化合物としてはd体とℓ体は分子的には同一なので、様々な物質にはd体とℓ体が混在するのが普通だ。

ところが地球生命は、なぜかℓ体のみを利用する。
これに対する理解がまだ不十分な時代に発生したのが、サリドマイド事件である。
サリドマイドと呼ばれる化合物では、ℓ体は生命の利用する型のため薬効が有った。
しかしd体は、胎児に対する催奇性があったのだ。

なぜ、地球生命は、ℓ体の化合物を利用するのか。
厳密には、ℓ体の化合物が適合する、ℓ体のアミノ酸で構築されているのか。

本書では、これに対しても宇宙レベルでの仮説を紹介する。

まず、電磁波の中には、波が伝わる際に振動する向きが円を描くように回転する特殊なタイプがある
(円偏光)。波が回転する向きが右向きだと「右円偏光」、逆は「左円偏光」だ。
そして、右円偏光の紫外線があたれば、右型(d体)アミノ酸が破壊される。

さて、宇宙においてアミノ酸が生成されたとき、d体もℓ体も同量生成された。

ところが太陽系が形成された時、宇宙のこの領域では右円偏光の紫外線が多く放射され、これにより右型(d体)アミノ酸が選択的に破壊された。
そのため、生命はより多いℓ体(左型)アミノ酸を利用したのではないか、という。
もちろん、まだ仮説の域だろうが、なかなか魅力的だし、説得力のある仮説だと思う。

我々は地球生命を考える時、隕石による大量絶滅はあるにせよ、そうした宇宙レベルの要因は稀なケースであって、どうしても地球上の環境圧による淘汰だけを考えてしまう。

しかし、地球上の生命体という次元で考える場合、やはり宇宙レベルの要因は無視できない。
本書は、そうした新たな視点を提供してくれる面白さに満ちている。

実際、これまで本ブログで紹介してきた様々なテーマが、本書では「宇宙生物学」という視点で統合されている。

例えば上記の化合物のd体・ℓ体の話は、「生命世界の非対称性―自然はなぜアンバランスが好きか (中公新書)」(レビューはこちら)や「右?左?のふしぎ」(レビューはこちら)に詳しい。

また、本書では人体に鉄が必要な理由と、それと病気(病原菌)との関係が語られているが、
同様の視点では「迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか」(レビューはこちら)がある。

様々な事実が、ある特定の視点から統合されていく。
そんな興奮を、本書では味わえるだろう。







【目次】
第1章 人間は月とナトリウムの奇跡で誕生した
第2章 炭素以外で生命を作ることはできるのか?
第3章 宇宙生物学最大の謎 アミノ酸の起源を追う
第4章 地球外生命がいるかどうかは、リン次第
第5章 毒ガス「酸素」なしには生きられない 生物のジレンマ
第6章 癌細胞 vs.正常細胞 「酸素」をめぐる攻防
第7章 鉄をめぐる人体と病原菌との壮絶な闘い
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category: 進化論

thread: 読んだ本の紹介 - janre: 本・雑誌

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コメント

「自然界における左と右」、気になりながら、いつの間にか忘れてました。
これから読む本リストに入れました。ありがとうございます。

BIRD READER #- | URL
2014/12/22 19:52 | edit

そして右左の古典と来たらガードナーの「自然界における右と左」が入りますね。この辺り私にとっても興味深いところです。

nitta245 #- | URL
2014/12/21 16:32 | edit

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