ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

救命救急フライトドクター 攻めの医療で命を救え!  

救命救急フライトドクター 攻めの医療で命を救え!
岩貞 るみこ



以前、海外TVドラマのERを見ていた時のだが、時々ドクターがヘリに乗って移動するシーンがあった。
海の向こうではヘリまで使うのか、ダイナミックだなあと思っていたのだが、
そこから日本の状況までは思い至らなかった。
結局、絵空事として見ていたにすぎない。

だが、本書の中心人物・益子邦洋氏は、そのドクターヘリの必要性を痛感し、日本に定着させた。

そのきっかけは、阪神淡路大震災。
1995年1月17日の発生当時、上空を報道ヘリが飛び交っていたが、まだ日本に救命ヘリというシステムはなかった。
そのため、地震発生当日にヘリで運んだ負傷者は1人。翌日6日。3日目10人。
3日間で、計17人しか運べなかった。

しかし、海外では状況が異なっていた。
1998年6月3日のドイツにおける高速鉄道の脱線・橋脚への衝突事故の際には、
ドイツ全国に配備されている51機のドクターヘリのうち、その半数以上の39機のドクターヘリが集まり、
2時間以内に、専門的な治療が必要な負傷者87人を全て搬送したという。
しかも、現場にはドイツ陸軍の指揮命令担当ヘリが空中で待機し、飛行禁止区域を設け、ドクターヘリの誘導や報道ヘリの規制空域の侵入を監視していた。

どこまで機能的なシステムが構築できるか、また緊急時にそのシステムが機能するかというのは、
社会の成熟度の目安と思っているが、
まさにドイツはその先進事例であった。


さて、そもそもドクターヘリがなぜ有効であり、必要なのか。
全ては、時間の短縮にある。

近年、学校や公共施設にAEDが整備されつつあるように、脳や心臓の病気による心停止はAEDで回復させることが可能だ。

しかし、外傷による心停止は、回復させることは難しい。
そのため、外傷の場合、心停止させないことが非常に重要となる。

しかし救急車の場合、どうしても道路の整備・混雑等によって時間を要してしまう。

そこでドクターが搭乗するドクターヘリがあれば、フライトドクターが現場へ行き、点滴等を行えば、心停止を防げることになる。また信号も混雑もない空中であれば、移動時間も大幅に短縮できる。

重傷外傷の患者を死なせない。

それが、ドクターヘリの最も大きなメリットである。

海外事例や阪神・淡路大震災の教訓を経て、日本においても、少しずつドクターヘリの導入が始まった。

本書は、岡山、神奈川に次いで3番目にドクターヘリを導入した千葉・北総病院において、
その導入者である益子氏や、益子氏と共にドクターヘリのシステムを練り上げた松本尚氏らをはじめとする、北総ドクターヘリの開始から、全国でトップとされる回数・システムを創り上げるまでの記録である。

平易な文章に漢字はルビ付きと、スタイルは小学生向けだが、
日本におけるドクターヘリの黎明期の記録、またそれに関わる人々の努力、
救急現場のドクターやヘリ運用者の苦労と熱意など、
「ドクターヘリに助けられる可能性のある側」として、ぜひ読んでおきたい一冊である。

益子氏らの活躍により、2011年3月11日に発生した東日本大震災では、
全国26機のドクターヘリのうち、16機が集中。
北総ドクターヘリだけで、四日間で30名を超える負傷者を移送したという。

このように、ドクターヘリの評価が定着し、導入が全国で相次ぐが、松本尚氏は満足しない。

「数の増加は、質の低下になりかねない。/使いこなさなければ、ドクターヘリの評価は、逆に下がりかねないのだ。/全体の質を上げるためには、頂点にいる自分たちが、ひっぱり上げる必要があった。ならば自分たちも、もっと高い場所に行かないといけないのではないか。」

本書は、16年程度で、ここまでドクターヘリのシステムを構築してくれたことに、感謝したい。

だが、それでも松本氏らは満足していない。
ドクターヘリの導入が全国で相次ぐが、それに対して次のような考えを抱いている。

「数の増加は、質の低下になりかねない。/使いこなさなければ、ドクターヘリの評価は、逆に下がりかねないのだ。/全体の質を上げるためには、頂点にいる自分たちが、ひっぱり上げる必要があった。ならば自分たちも、もっと高い場所に行かないといけないのではないか。」

例えばイギリスでは、真っ赤なドクターヘリが自分の上空でホバリングすると、人々は自主的に場所を空けるため、交差点でもどこでも着陸可能という。
また、警察もドクターヘリを見つけるとサイレンを鳴らして追跡し、着陸場所の交通規制を行う。

こうした機動性の確保が課題とのことだが、
おそらくそれを達成するには、我々一般人がドクターヘリというシステムを理解し、
救急車と同様に「当たり前」のものと認識できなければならない。

ただ現実的には、日本ではまだそれ以前の問題がある。

我が香川を含めて、ドクターヘリが未配備の県がまだ11もあるのだ。
現在の各都道府県におけるドクターヘリの配備状況は、認定NPO法人救急ヘリ病院ネットワークの「全国のドクターヘリの配備状況」で確認できる。
香川県の場合、一応県防災ヘリコプターを活用し、患者搬送なども行っているため、ドクターヘリの機能の一部は満たされているものの、やはり専用のドクターヘリの導入を期待したい。

また、こうしてドクターヘリの価値や必要性を的確に知るために、
ドクターヘリが未配備の11県において、本書はもっと読まれる必要があるだろう。


【目次】
第1部 救命救急センター
 北総病院医局夜明け前 
 動きはじめた、千葉県ドクターヘリ
 運航開始
第2部 出動
 フライトドクターに求められるもの
 教育
 緊急オペ
 小児救急
 連携
第3部 一番への挑戦
 進化
 大震災
 「一番」になること
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category: 医学

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