ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

異常気象が変えた人類の歴史 (日経プレミアシリーズ)   

異常気象が変えた人類の歴史 (日経プレミアシリーズ)
田家 康



大規模な気候変動は、淘汰圧として極めて大きい環境要因となる。
また有史以降の人類の歴史においても、気候変動はターニングポイントとなる。

一から十まで気候変動で説明できるとは思えないし、またすべきとも思わないが、
気候変動を視野に入れず、過去の歴史を探ることは意味がないだろう。

本書は、人類史の的を絞り、その時々の気候変動による影響を、短い章立てで紹介するもの。
各章は短いものの、それだけで一書を成すべき内容もあるため、本書は入門書として読んでおきたい。

取り上げるのは、現生人類の台頭から現代まで。
また話題も、日本・西洋、戦争・楽器と幅広い。

僕としては、やはり第Ⅰ章の先史時代が、ホモ・サピエンスの進化史という側面も併せ持っていることから、生物学的にも興味深かった。
本章が楽しめた方は、ぜひ「人類進化700万年の物語 私たちだけがなぜ生き残れたのか」(レビューはこちら)をお読みいただきたい。

ただ、ヒトに寄生するシラミについての解釈だが、
本書では、
・人類に寄生するシラミは、アタマシラミ、コロモシラミ、ケジラミの3種であり、まずケジラミとヒトシラミ(アタマシラミ・コロモシラミ)が1150万年前に分岐し、アタマシラミとコロモシラミは、7万2000年前に分岐した。
・アタマシラミとコロモシラミは、7万2000年前に分岐したが、これは7万4000年前(±4000年)、インドネシア・スマトラのトバ火山噴火により、火山の冬が到来し、衣服を着だしたことが遠因であろう。
・アタマシラミには、7万2000年前に分岐したもの以外に、もう1系統(アメリカやホンジュラスといった新大陸の先住民が持っていたもの)があるが、これは118万年前に分岐した。
 ネアンデルタール人とヒトの共通の祖先は約60万年前、アタマシラミの分化と年代があわないため、
よって、元々は118万年前に分化したホモ・エレクトスが持っていたもので、現生人類とどこかで接触したのではないか。

いう説を出している。つまり、こういうことになるのだろうか(アタマシラミA、Bは僕が便宜上付けたもの)。

1150万年前
 ケジラミ / ヒトシラミ(アタマシラミ・コロモシラミ) が分岐
118万年前
 ヒトシラミのうち、アタマシラミA(ホモ・エレクトスに寄生?)が分岐 
60万年前
 ネアンデルタール人が分岐
いつかの時点
 ホモ・サピエンスとホモ・エレクトスが接触し、
 アタマシラミAがホモ・サピエンスにも寄生
7万4000年前(±4000年)
 インドネシア・スマトラのトバ火山噴火、火山の冬、衣服着用を開始
7万2000年前
 ヒトシラミのうち、アタマシラミB/コロモシラミ が分岐

しかし、「人類進化700万年の物語 私たちだけがなぜ生き残れたのか」では、2系統のアタマシラミのうち一方はネアンデルタール人由来で、2万5000~3万年前のアジアで、ネアンデルタール人からヒトに移った、としている。

この点、全く話が違うのだが、本当のところどうなのか。
シラミ(特にその進化史)に関する本が刊行されることを望むところだが、ニーズが全く無いだろうな。
(ちなみに、野鳥にも種ごとに別種のハジラミが付くことがある。そのため、ハジラミを調べることで、野鳥の種分岐を探る手掛かりに成りうる。)

また、人類進化史の面では、
哺乳類が青・緑の2色覚だが、先に女性がXX染色体変異により赤色色覚を再獲得したこと、

そのため、初期人類では3色覚で赤を識別できる女性の方が、森林中での果実探しや、有毒生物の警戒色の識別に有利であり、一方、明け方や夕方に大地が赤く染まるのを認識しない2色覚の男性の方が、狩りには有利だったという説が紹介されている。
現代の男性・女性の役割分担を云々するつもりは毛頭ないが、そもそもの生物学的差異が、役割分担に影響していたかもしれないという観点は、とても興味深い。

この他、本書でよく出てくるテーマとして、13世紀後半に火山噴火が頻発(「1300年イベント」)したことによる影響というのも、歴史を読み解くバックデータとして有用だろう。

ところで、これらの本を読みながら最近思うのは、様々な本に記載された生物進化上の歴史的イベントを網羅した年表を作らないと横断的な理解はできないだろうな、ということだ。

全てが地球上で起こっている出来事である以上、火山噴火もサンゴもケイソウも三葉虫も有象無象も全て連携して、現在を形成している。
その意識を忘れないでおきたい。

【目次】
はじめに
第I章 現世人類の最初の試練―先史時代
第1話 氷期(氷河期)は4回ではなかった
第2話 現世人類最初の試練
第3話 ひとつ前の間氷期の気候―海面水位はどこまで上昇したか?
第4話 人類はいつ頃から衣服を身につけたのか?―シラミとトバ火山
第5話 ネアンデルタール人と現世人類の生存競争
第6話 狩猟採集生活における男女の役割
第7話 突然訪れた急激な寒冷化へのサバイバル術―農耕の開始
第8話 縄文人の食生活

第II章 海風を待ったテミストクレス―BC3500年~AD600年
第9話 サハラの砂漠化とエジプト文明の誕生
第10話 紀元前2200年前の干ばつと『旧約聖書』の中のユダヤ人の流浪
第11話 巨大火山噴火による大津波に襲われたミノア文明
第12話 海風を待ったテミストクレス―サラミスの海戦
第13話 ハンニバルが越えたアルプスの峠―第2次ポエニ戦争
第14話 フランスのブドウの先祖は耐寒品種
第15話 倭国内乱と聖徳太子の願い
第16話 皇帝ユスティニアヌスの夢を挫いた新大陸の巨大火山噴火

第III章 京都東山のアカマツ林の過去・現在・未来―700年~1500年
第17話 日本と中国での漢字の違いはいつ頃生まれたのか
第18話 京都東山のアカマツ林の過去・現在・未来
第19話 中尊寺落慶供養願文にみる奥州藤原氏の繁栄
第20話 火山噴火が多発した13世紀後半
第21話 進行時期を逸したクビライの遠征軍――弘安の役
第22話 怪鳥モアを絶滅に追い込んだ森林放火
第23話 寒冷期の訪れが芸術のテーマに「死の勝利」を選んだ
第24話 コンスタンティノープル市民を絶望に陥れた月食

第IV章 ストラディバリウスはなぜ美しい音色を奏でるのか――1550年~1850年
第25話 民衆を魔女狩りに駆り立てた悪天候
第26話 オレンジ公ウィリアムを運んだ「プロテスタントの風」――名誉革命
第27話 ストラディバリウスはなぜ美しい音色を奏でるのか
第28話 宝永噴火の火山灰は江戸町中に降り注いだ
第29話 フランス革命の扉を開いた異常気象
第30話 ナポレオンの進撃を阻んだ温帯低気圧―ワーテルローの戦い
第31話 フレデリック・ショパンとジョルジュ・サンドの愛の旅路
第32話 アイルランドのジャガイモ飢饉を起こした湿潤な天候

第V章 破局的な自然災害をもたらすもの―1900年~未来
第33話 タイタニック号沈没の背景
第34話 大寒波で頓挫したヒトラーの野望
第35話 「氷河期が来る! 」と叫ばれた1960年代
第36話 食料安全保障を生んだ世界食料危機
第37話 桜の開花日からみた京都の春の気温
第38話 人為的温暖化の危機とは何か
第39話 次の氷期はいつ来るか?
第40話 破局的な自然災害をもたらすもの
おわりに


関連記事
 このエントリーをはてなブックマークに追加

category: 歴史

thread: 読んだ本の紹介 - janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://birdbookreading.blog.fc2.com/tb.php/459-0999a3f0
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

中の人

アクセス

RSSリンクの表示

最新記事

カレンダー

アクセスランキング

月別アーカイブ

ブロとも申請フォーム