ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

ミツバチの世界 個を超えた驚きの行動を解く  

ミツバチの世界 個を超えた驚きの行動を解く
Juergen Tautz



ミツバチが突然消滅するCCD(蜂群崩壊症候群Colony Collapse Disorder)。
ハチはなぜ大量死したのか (文春文庫)」(レビューはこちら)が2009年刊行だから、本書が話題となってからも、もう5年以上が経過している。
CCDについては、ネオニコチノイド系農薬が原因だとの主張も多いものの、諸々の報道を見ても、今のところ確固たる話ではないようだ。
むしろ、CCDと呼ばれる現象はあるものの、その中には別々の原因によるもの、また複合要因によるハチの消滅があり、それを総括して、少なくとも一般人は「CCDと把握している」のではないかと思う。

いずれにしても、CCDの発生原因については、より精緻な検証が必要だし、わかりやすい原因に飛びついて、短絡的な解決策を「取った気になる」のも問題だろう。

ところで、ではそのハチについて、僕は何を知っているのか。
とりあえずニホンミツバチとセイヨウミツバチの識別は実際に行ったし(我が家のニホンミツバチ)、それなりの概要は読んだことがあるが、正直言って知らないことだらけだ。

そこで、本書。ミツバチ(セイヨウミツバチ)について、現在の研究によって得られている知見-特に生態学知見について、網羅的に整理した一冊だ。

本書では、ミツバチを理解する手段として、
本書ではアメリカの生物学者ウィーラー(W.M.Wheeler)が提案した、「スーパーオーガニズム(超個体)」という概念を用いる。

超個体とは、簡単に言えば、アリのように社会性昆虫のコロニー全体が、1個の生きもの(有機的統一体)としてみなせる型の生物のことだ。

生命が、単細胞→組織化による多細胞となったことと同様に、単一個体→組織化による多個体という有機的な統一もありうるのではないか、という観点は面白い。

確かに、ミツバチのように女王バチと雄バチ、働きバチと個体が分化していることは、細胞が生殖細胞と体細胞に分化していることに対応可能だ。
また、その巣も、構造・材質的に高度に統一化・制御化されており、あたかも巣がミツバチという超個体の「体」のように働いている。

ミツバチが、巣を「体」とした超個体である、という観点は、ミツバチを理解するのに良い出発点となる。

そう考えると、ミツバチの多様性についても理解ができる。
全世界で、でミツバチ属(Apis)はたった9種のみ。
うち8種はアジアに生息しており、セイヨウミツバチ(Apis melifera)だけがヨーロッパとアフリカの二大陸に生息し、各地で亜種に分化している。

この極端な多様性の少なさは、ミツバチという種の進化の行き詰まりを示すのではなく、
むしろ顕花植物の花粉媒介者として、同属他種の競争を排除するほど成功した結果と考えられる。

実際、ミツバチにより授粉される顕花植物は約17万種、うちミツバチに完全に依存している顕花植物は約4万種という。ヨーロッパとアフリカでは、たった1種のヨーロッパミツバチが授粉していることを考えれば、現在の顕花植物の世界は、まさにミツバチという超個体あってこそと考えられる。

CCDを解明し、対応しなければ恐ろしい事態となる。
現在、「ハチはなぜ大量死したのか (文春文庫)」刊行時とは異なり、ミツバチの消滅が世界的問題と報道されることは滅多にない。
まさに喉元過ぎれば何とやらだが、問題は「現実には、喉元を過ぎていない」ことにある。
ミツバチを取り巻く情勢について、もっと敏感になる必要があるだろう。

さて、最後に本書で興味を惹かれた事柄を記録しておく。

◇巣について
p137
蓋で覆われた巣板のうち、働きバチの巣房は平板な蓋。雄バチの巣房はドーム状。
→巣板の写真を見ていたら凸凹があったのだが、理由が判明。

p176
ミツバチの巣房が正確に六角形なのは、蜜蝋の化学的な性質のため。
ミツバチは円筒形の巣房を作るが、巣房内でミツバチが発熱し、37-40℃に上がった時点(ミツバチは体温を43℃以上に上げられる)で蜜蝋が柔らかくなり、隣接する巣房と引っ張られることで側面が滑らかな平面となり、厚さ0.07mm、角度は120℃となる。

p183
巣房が多目的に使用できるのは全てのハチの中でミツバチのみ。
他のハチは、巣房を単独の目的にのみ使用する。

p234
巣板の建設中、ミツバチは互いに連結して「脚の巣板」あるいは「生きている鎖」を作るが、その意味はまったく分かっていない。


・以下の2点は、巣が情報伝達の媒介であることは、巣が「超個体の体」である、とみなすと理解しやすい。
p192
ミツバチの情報伝達には、振動が巣材を伝達する必要がある。
しかし養蜂による巣板(木材の枠)では、伝達できない。
そのため、ダンスが行われ場所の巣板と木枠の間に隙間を設け、情報伝達が可能になるようにしている。

p99
ミツバチは、餌場の方向を尻振りダンスで伝えるが、その方向を尻振りダンスに暗号化(翻訳)するには暗い巣でも方向を示せる基準が必要。巣の中では巣板が垂直にかかるため、重力と反対方向を太陽の方向として基準化している。
 巣に垂直な平面の無いマルハナバチ、スズメバチ、熱帯のハリナシミツバチには情報交換の手段がない。

◇化学物質関係
p90
若い収穫バチが巣を見つけやすいように、時々年老いたハチが腹部の末端にあるナサノフ腺を開き、ゲラニオールというゼラニウムの匂いのする化学物質を分泌しながら巣の入口に止まり、羽ばたきして拡散している。

p183
哺乳類を差し、残った針の器官からは、警報フェロモンを噴出し続ける。
主成分はイソペンチルアセテート、熟れたバナナの匂いの成分。
→ミツバチの近くでバナナを食べるのはやめよう。

◇毒針関係
p183
サカトゲは、他のハチを刺した時は問題なく抜き取れる。
哺乳類の皮膚ではサカトゲが引き抜けず、毒腺、神経、筋肉まで引きちぎられる。
しかしこれで命を失うミツバチは少なかったため、サカトゲのない針への進化は進まなかった。
→「犠牲を出してでも毒腺を残す」方向に進化したものと思っていたが、逆だったのか。

◇視覚関係
p90
ミツバチは太陽の位置、または空の偏光パターンにより定位している。
偏光パターンは、波長が短いほど安定しており、ミツバチが見える最も短い波長は紫外線。
ミツバチが紫外線を見る能力を進化させたことで、
植物もまた、ミツバチの誘導に紫外線を用いる方向に進化した

p102
・距離の測定は、巣から餌場への往路で計測される。復路では計測されない。
・壁に模様が描かれた人工的なトンネルを通過すると、視覚による距離計測が乱される。

・ミツバチの複眼は紫外線、青、緑を敏感に感じる視細胞がある。
 距離測定に使用されるのは緑の受容体。自然の植物相では緑が最も頻度が高いため、効率的と考えられる。

→ミツバチの視覚が「紫外線、青、緑」というのは「ヒトの見ている世界 蝶の見ている世界 (青春新書インテリジェンス)」でも触れていて知っていたが、距離測定には主に緑を用いる、というのは初めて知った。
定位と花蜜の発見には紫外線、距離測定には緑と、ミツバチの視覚の機能性は面白い。
青は何かなと思ったのだが、空だろうか。

【目次】
プロローグ.ミツバチのコロニーはまるで一匹の動物
スーパーオーガニスム(超個体)であるミツバチのコロニーと哺乳動物の
優れた性質には共通点がある

人類最小の家畜、ミツバチの横顔-フォトスケッチ


1. ミツバチ発生の偶然と必然
 ミツバチの生活形態は進化の過程において、
 絶妙なタイミングで発生したに違いない

2. ミツバチのコロニーは不死
 ミツバチは、最高品質の娘コロニーをつくるために
 周囲から物質とエネルギーを吸収するよう仕組まれている。
 ミツバチの驚くべき能力を理解するためには、
 この活動を中心に考察することが重要である

3. ミツバチは一つの成功例
 ミツバチの種類数は少ないが、
 生態系の形成と維持に果たす役割はきわめて大きい

4. ミツバチが見ている世界
 ミツバチの視覚、嗅覚、方向感覚、情報交換の世界は、
 顕花植物との関係を中心に回っている。

5. 新女王の誕生と、花嫁の付き添い人
 ミツバチの性は秘密に包まれている。
 私たちが知っていることより、推測していることのほうが多い

6. ロイヤルゼリーは自家製ミルク
 ミツバチの幼虫は働きバチの分泌物で養育される。
 これは哺乳動物の母乳にあたる

7. 巣板は育児器官、貯蔵器官、そして通信機関
 巣板は超個体の構成要素として必須であり、社会生理学的にも重要である 

8. 身を燃やして賢い子育て
 育児巣の温度はミツバチ自身が作る環境因子で、
 将来の姉妹バチの性質に影響を与える

9. ミツバチコロニーの血縁関係
 コロニー内の密接な血縁関係は国家形成の原因ではなく結果である

10.環は閉じる ミツバチのコロニーには、
 一匹のミツバチにはみられない性質がある。
 コロニー全体の性質は個々のミ ツバチの性質に影響を与える

エピローグ. ミツバチと人類の未来




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