ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

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変化朝顔図鑑: アサガオとは思えない珍花奇葉の世界  

変化朝顔図鑑: アサガオとは思えない珍花奇葉の世界
仁田坂 英二



夏になるとグリーンカーテンに挑む。
残念ながら僕はグリーンフィンガーを持っていないので、毎年どこがカーテンという体たらくである。
今年も失敗。カーテンにはならなかった。

さて、グリーンカーテンの定番は、アサガオとゴーヤ。
そして、朝顔には様々な園芸品種がある。
そこまでは知っていたので、その「珍花奇葉」ぶりを見ようかと本書を手に取ったが、良い意味で期待を裏切られた。

本書は、二つの面を持つ。
一つは、変化朝顔の品種を楽しむガイドブック。
そしてもう一つは、そうした変化朝顔が生じるメカニズムと実践テクニック。まさか本書で遺伝子のホモ接合・ヘテロ接合はおろかトランスポゾンによる変異等に出くわすとは思わなかった。
変化朝顔は、日本における「メンデルのエンドウ」なのだ。

さて、アサガオIpomoea nilは、英名を「Japanese morning-glory」という(僕は知らなかった)とおり、
日本を代表する園芸植物である。

だが、日本原産ではなく、アジアの熱帯やヒマラヤあたりが原産(本書では中南米原産としているが、はて?)。日本へは、1200年ほど前の奈良時代に中国から渡ってきたらしい。
他の一年草と同様、種子で増やすことしかできないため、栽培・品種改良には高度な栽培技術が必要だが、日本人は爆発的に品種改良を行い、今や原種アサガオとは似ても似つかぬ品種まで生み出している。
世界的に見ても、原種の姿を想像できないほど変化した園芸植物はアサガオだけとのことだが、
ぜひ本書でその「珍花奇葉」ぶりを見ていただきたい。
(もしくは、「変化朝顔」でGoogleの画像検索されたい。)

この変化朝顔、まず品種維持により大きく分けられる。
「正木」(まさき)が、種子を結ぶ品種。
「出物」(でもの)が、不稔性の1代雑種である。

変化朝顔の作出は、まず江戸時代の文化・文政期に第1次ブーム。ここで様々な変種が発見され、
文政~嘉永期の第2次ブームで「珍花奇葉」な不稔性の変化朝顔を維持する栽培技術を確立。
明治中頃から昭和初期にかけての第3次ブームで、人工交配による品種作出がなされた。

つまり、「正木」「出物」の別を知り、不稔性の1代雑種を維持する方法は江戸期には既に確立しており、
これはメンデルの遺伝法則を経験知として持っていた、ということである。
日本人のマニア性は恐るべきものである。

さて、そこで変化朝顔鑑賞の第一歩。
変化朝顔の名前は、ややこしい。
例えば、本書で名前の読み取り方紹介で取り上げられている例は次のとおり。

青斑入縮緬立田葉石化紫覆輪筒白総鳥甲車咲牡丹

さっぱりわからない。呪文である。
しかし、変化朝顔の名前が、

葉色+葉模様+葉質+葉形+「葉」
+つるの形質+濃淡・花色+花模様+花筒の色+均一性+花弁の形+均一性+咲き方+花形+「咲」
+花弁の重ね+花の大きさ

という構造になっていると知れば、なんとなく分かる。
もちろん、花弁の形や花形に独特の言い方(花弁の形…風鈴・鳥甲等、花形…浅切・多曜・獅子等)があったり、独特の省略もあるにせよ、前掲の朝顔は、

青斑入 縮緬 立田「葉」 石化 紫 覆輪 筒白 総 鳥甲 車「咲」 牡丹

と分解して理解すればよいのだ、と分かる。
そして本書では、この葉型・色・花形等のバリエーションがカタログ化されているので、
手元にあれば、「立田」という葉がどんなものか分かる。入門書としては最適である。

一方、後半は変化朝顔が生じる、遺伝的に仕組みについて。
詳細は本書をお読みいただくとして、単なる優性・劣性遺伝だけでなく、
二性雑種、連鎖、複対立遺伝子等、様々な遺伝の組み合わせによって変化朝顔が作出されていること、
また変異を生じるのはトランスポゾン遺伝子がどう動き、離脱するか(タンパク質をつくるエキソン部分に入るか、無意味なイントロンに入るか)等が絡むこと、
また変化朝顔の作出には、植物の体の座標軸を保つ遺伝子の損傷も絡んでいることなど、
遺伝学の基礎を学ぶものとしても十分に楽しめる。

たかが変化朝顔、と軽々しく手に取ったことをお詫びしたくなるほど、充実した一冊であった。
遺伝学に興味がある方は、ぜひお読みいただきたい。

それにしても、たかが「変化朝顔」の入門書だろうに、この深さは何故なのかと思っていたら、
著者は九州大学の講師で、アサガオの系統保存、形態形成遺伝子、トランスポゾン研究がテーマとのこと。
そして出版は、「(株)化学同人」。

単なる園芸家の園芸書ではなく、むしろ遺伝学入門である。やられた。

【目次】
■第一部 入門編 さまざまに変化した朝顔
 変化朝顔の名前の付け方
 基本形(野生型)と部分の名称
 さまざなな変異
  1.葉の色と模様
  2.葉質
3.葉の形
4.つるの性質
5.花の色
6.花の模様
7.花筒の色
8.花弁の形
9.花形
10.花弁の重ね
11.花の大きさ
変異の一覧と本書で用いるアイコン
〔コラム〕子葉の形
■第二部 写真集編
珠玉の変化朝顔たち
獅子咲牡丹
車咲牡丹
采咲牡丹
その他の変化朝顔
■第三部 基礎知識編
変化朝顔のしくみ
アサガオの歴史
遺伝の基本と「正木」「出物」
遺伝の組み合わせ
変異が生まれるしくみ
変化朝顔の栽培・採種
「出物」と「親木」の仕訳
新しいアサガオをつくる
栽培に必要な資材
変化朝顔を見る・入手する
■アサガオ用語集・参考文献
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