ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

サルの小指はなぜヒトより長いのか: 運命を左右する遺伝子のたくらみ  

サルの小指はなぜヒトより長いのか: 運命を左右する遺伝子のたくらみ
石浦 章一



タイトルに惹かれて読んだが、正直なところタイトル(副題も含めて)は内容を表していない。
文庫化される前のタイトルは「生命に仕組まれた遺伝子のいたずら」だそうだが、これもちょっと違う。

本書は、遺伝子の仕組みと、それが人間にどのように発現するか、という枠組みについて、実際の東大の講義を整理したの。ここでいう「発現」は、著者( 東京大学大学院理学系研究科・理学部教授)の研究を踏まえて、主に病気としての発現を取り上げる。すなわち、遺伝病や先天性の色覚異常(著者は「カラー・ブラインドネス」という言葉を用いている)などだ。

講義を踏襲していることもあり、遺伝子とは何で、実際の遺伝病でどのような遺伝子異常が影響しているか、というベーシックな話題。
後半は優性遺伝と劣性遺伝の話から始まり、遺伝子の不等交叉、欠損など、遺伝子異常が起こる仕組みを紹介しつつ、これらが実際の遺伝子病や先天性異常にどのように発現しているのかを説明する。

読みやすく、かつ類書ではない観点・細かさの話が多いため、遺伝子・遺伝病・進化に興味がある方なら、楽しく読むことができるだろう。

特に興味を抱いたエピソードをいくつか取り上げておく。

ヒトの肝臓には、CYP酵素が57種類あり、それぞれで働きが異なる。
CYP1 ダイオキシンを分解 塩素が付いた毒物を代謝
CYP2 植物由来を排泄する
CYP3 毒物を水溶性にする

ところが、このうちCYP3はグレープフルーツジュースで働きが阻害されるため、薬をグレープフルーツジュースで飲むと、CYP3が働かず、薬が分解・排泄されずに濃度がどんどん高くなってしまうとのこと。
(ミカンジュースだとOK、他にブンタン、ダイダイなどは×)
薬は水で飲まなくてはいけないとはよく言われるが、具体的にグレープルーツジュースでダメな理由が分かったのは面白い。

また、この肝臓のCYP2酵素は植物由来の成分を分解するが、人によって非常に強い人と弱い人がいる。
日本人は非常に強いスーパーメタボライザーをはじめ、エクステンシブメタボライザー、インターメディエイトメタボライザー、プアメタボライザーの4種類に分けられる。

そして何と、スーパーはプアの100倍効率が良いらしい。
人口割合でいえば、スーパー10%程度、プア10%程度、大多数はインターメディエイトらしいが、
日本人の10%はものすごく薬や植物由来成分の分解が良く、10%は極めて悪いのだ。

ただ、この分解効率が100倍というのは、むしろ薬剤成分を早く分解して排泄するため、
大量の薬が必要になるとのこと。メリットだけではないのだ。
(CYP酵素については、「迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか」(レビューはこちら)でも取り上げられている。)

もう一つは、色覚について。
ヒトの目には光を感じる色素としてロドプシン、色を感じる色素として青オプシン、赤オプシン、緑オプシンがあるが、ロドプシンと青オプシンは348個のアミノ酸、赤オプシンと緑オプシンは364個のアミノ酸で形成されている。

ここから、まず明暗を感じるロドプシンができ、次に7億年くらい前にロドプシンから青オプシンが、そして3億年前に赤オプシンか緑オプシン、3000万年前くらいに赤オプシンか緑オプシンの残りができたらしいという。こうした色覚の発生過程というのも面白い。

そして同じ赤オプシンでも、180番目のアミノ酸がセリンの人とアラニンの人がいて、
その割合は日本人では78%と22%。そして実際には、赤の見える範囲(最大吸収波長)が60ナノメートル違うという。
これは、同じ赤でもその微妙な差異を見分けられる人がいる、ということらしい。

生物における色覚については、なぜか興味があるところなのだが、
ヒトの見ている世界 蝶の見ている世界 (青春新書インテリジェンス)」(レビューはこちら)でも、このヒトの色覚について紹介されている。

この中で、最近、女性の中には色覚に必要な物質が通常の3種類ではなく、4種類ある人がいることがわかっている(X染色体が2つあるために、一方に異常があると逆に色覚のバリエーションが増える)こと、
その場合、この赤オプシンが増え、もしこれが色覚に反映されれば4色覚になるが、実際にそのような人がいるかは未確認である、ということが紹介されている。

僕らは暗黙のうちに、カラー・ブラインドネスの人を除き、皆同じ色を同じように感知していると思っている。
しかし赤オプシンの違いによって、同じ赤での微妙な差異を見分けられる人がいる。
さらに、4色覚を持つ人もいるかもしれない。
さらに鳥や昆虫は紫外線を見ることができるのだ。

自身がいわゆる健常者であっても、自分が見ている世界がそのままの世界ではないし、
皆が見ている世界でもない、という事実は、もっと認識すべきだろう。

【目次】
第1講義 相手の心を読む遺伝子
第2講義 遺伝子に残る進化の歴史
第3講義 病気や体質とタンパク質
第4講義 病気じゃない遺伝子の変化
第5講義 異母兄弟は結婚できるか
第6講義 男と女で違うこと
第7講義 生物が初めて見た色
第8講義 寿命を延ばす遺伝子
第9講義 脳と意識のからくり


目、色覚、構造色。進化や生物を考える中で、このテーマはとても面白い。

「眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く」(レビューはこちら)


「ヒトの見ている世界 蝶の見ている世界」(レビューはこちら)


「鳥たちの驚異的な感覚世界」(レビューはこちら)


「モンシロチョウ -キャベツ畑の動物行動学」(レビューはこちら)


「モルフォチョウの碧い輝き―光と色の不思議に迫る」(レビューはこちら)
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