ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

生命世界の非対称性―自然はなぜアンバランスが好きか  

生命世界の非対称性―自然はなぜアンバランスが好きか
黒田 玲子



目薬とか、虫刺されの薬を見てほしい。
「ℓ-メントール」が入っていることが多い。
この「ℓ-」って何だろう、と思ったことはないだろうか。



生物は、見左右対称と思いがちだが、実は違う。
例えば右手と左手。左右対称と言いそうだが、厳密には鏡像関係にある。

日常的にはほとんど意識していないが、
実は物質の分子構成において、この右手型・左手型の違いは極めて大きな意味を持つ。

最も悲劇的な例の一つが、サリドマイドである。
この成分の分子構成も右手型・左手型があり、この一方のみが胎児に対する催奇性がある。

かつての製薬では、この分子の右手型・左手型を意識していなかった(ラセミ混合物)が、近年はこれを区別する方向に進んでいる。
実際、気管支拡張薬のイソプロビル・ノルアドレナリンは、一方がその鏡像体よりも800倍も薬効が高く、
他にも右手型・左手型で、格段に薬効が違う物質は多い。

こうした違いは、なぜ生じるのか。またそもそも、分子レベルでの鏡像体とは何なのか。
それを紐解くのが本書である。

正直なところ、完全文系の僕にはなかなか読み進めるのが難しいのだが、
生物を理解するうえで、この鏡像体の話は頭に入れておいて損は無い。

例えば、ある化合物の右手型・左手型を表現する場合、
光学的な活性から右旋性物質(dextrorotatory、d体)と左旋性物質(levorotatory、ℓ体)という。

分子的には同一で、ただ構成が違うだけなので、様々な物質にはd体とl体が混在するのが普通である(ラセミ混合物)。
だからこそ、サリドマイドのような悲劇が発生したのだ。

ところが地球上の生物は、全てℓ体のアミノ酸(L-アミノ酸)からタンパク質を形成している。
生物は、根本的に非対称なのである。

なぜℓ体のアミノ酸しか生命は利用しないのか。
その起源・意味はまだ未解明のようだが、地球生命を知るうえでは欠かせない情報である。
(だからD-アミノ酸で構成された生物が要れば、それは宇宙生命だ。)


さて、これによって、
冒頭の身近な薬剤に含まれているℓ-メントールのℓ、ℓ-アスパラギン酸のℓが、
地球生命に合致する左旋性物質(ℓ体)を選択的に生成したもの、と理解できる。

現在の人類は、同じ物質の分子レベルの違い(d体とℓ体)を知り、理解し、それを活用するに至った。
その事実だけでも、驚愕を覚える。

生命の左・右に関する類書と言えば、今のところ「右?左?のふしぎ」(レビューはこちら)くらいしか知らないが、同書が文化的な範疇にまで手を伸ばしている一方、本書はより分子レベルに突き詰めている。
なかなか読みごたえがある一冊だが、興味がある方はぜひお読みいただきたい。

【目次】
第1章 右の世界、左の世界
第2章 対称とは、非対称とは―靴と靴下の原理
第3章 対称な生物界―マクロの世界
第4章 分子の世界
第5章 非対称な生物界―ミクロの世界
第6章 キラルな医薬品の開発
第7章 生物界はどのようにして完全に左右非対称になったのか―素粒子の世界、宇宙の非対称、そして生命の起源



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