ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

ねずみに支配された島  

ねずみに支配された島
ウィリアム ソウルゼンバーグ




生態系とは、例えれば凸凹の地面に、不定形のブロックを積み上げていくようなものと思う。

凸凹の地面が、外的な要因。この制約を受けて、一段目に置くことができるブロック(各生物種)の形が決まる。
上に積み上げるブロックは、下段のブロックの形の制約を受ける。
こうして、環境や他の生物種との関わりによって、次々と生物種が積み上げられていく。

類似した環境(凸凹の地面)なら、同種のブロックが流用できる。
真四角とか、流用性の高いブロックは、様々な地面・段に応用可能だ。
こうした汎用的なブロックは、分布域の広い生物種に相当する。

一方、特殊な環境(凸凹の地面)なら、そこ用の特殊な形のブロックが形成される。
これが固有種だ。

どんなブロックを形成し、どのように積み上げるか。
それを決定するのが、歴史的な時間だ。

こうして出来上がったピラミッドは、それぞれ固有の価値を持つ。
これが各地域の生態系。

一見似ているし、出来上がったものだけを見れば簡単だが、
一度崩すと、二度と同じものを作るのはできない。

こうして組み上げられたピラミッド(地域の生態系)
は、そのブロックの形や積み上げ方を丁寧に解読すれば、
地域の歴史や環境(凸凹の地面)といった、「必然性」が見えてくる。

これを理解するのが、生物地理学だろう。

人間が外来種を持ち込むということは、このブロックを無理に押し込めるようなものだ。

汎用性の高いブロックなら、入るかもしれない。
また環境(凸凹の地面)が似ていれば、より入りやすいだろう。
しかし、どこか見えないところで、必ず歪みが生じる。
そしてそのピラミッドは、必然性のあるピラミッドではない。

また、特殊な形のブロックを、他の環境に押し込めることはできない。
固有種を、その環境から断絶したところで維持することはできないのだ。

しかし、ブラックバス(魚類)、セイタカアワダチソウ(植物)、ドバト(鳥類)、ウシガエル(両生類)、アメリカシロヒトリ(昆虫)、チャコウラナメクジ(軟体動物)…。
僕らの周囲は、外来種だらけだ。

これらが生態系に影響を及ぼしていないはずがない。
単に僕らが見えない、気づかないだけだ。

だが、外部から隔絶された環境に、外来種が侵入すればどうなるか。
その環境の在来の生態系は、破壊的な影響を受けるだろう。


身近な例として、ため池へのブラックバスの侵入がある。
バスが放流されると、在来種はよくて激減、通常は消滅してしまう。

これは閉鎖された水域だが、
「閉鎖された陸域」-すなわち「島」においては、何が破滅的な外来種となるのか。

その恐ろしい実例と、対策の歴史が本書である。

陸域での破滅的な外来種は、ネズミ、ネコ、ヤギなど。

特にネズミは駆除が難しいこと、
また地面に営巣する海鳥の卵、ヒナ、そして抱卵中の親鳥までも襲う、獰猛な生物である。

本書では、ニュージーランドの飛べないオウム、カカポと、
ベーリング海に浮かぶキスカ島の海鳥を中心に、
ネズミ等によって激減する生物と、それを保護しようとする人間の努力が語られる。
その苦難の歴史は、ぜひ本書でお読みいただきたい。

ただ結局のところ、一つの島でネズミを駆逐するためには、
殺鼠剤を圧倒的な量でばらまくしかないようだ。
(ただしその安全性の確認や、他の動物の配慮等は当然あり得る。)

その費用、危険性を問題にする人も多い。
だが、それだけのリスクを負わねばならないような状況(ネズミ等の外来種の侵入)を作り出したのも、
人間である。

この点については、人によって見解は異なる。
「人間の活動も自然の一環」というものだ。

確かに、本書において示されているように、
例えば過去、ポリネシア人が進出する際、船旅や移住先での食料として
ナンヨウネズミを持込んでいたようだ。
ナンヨウネズミの骨は、ポリネシア人の進出の痕跡となっているほどという。

しかしその結果、近年の研究ではハワイの固有種を消滅させたらしいことが分かっている。

外来種の影響や、生態系の価値を知らなかった時代の所業と、
こうした負の歴史を知っている現在の人間を同列にするのは、やはり甘すぎるだろう。


最後に、本書で初めて知ったことは多いが、ぜひ紹介しておきたいエピソードがある。

スティーブンイワサザイという孤島の鳥が、1匹の猫によって絶滅されたという話は、
野鳥好きにはかなり有名だ。
ネコがいかに恐るべき外来種かという例として語られることが多い。

しかし実際は、1894年、灯台守の助手デヴィット・ライオールが、
ネコが取ってきた鳥を見て、ニュージーランドの鳥類学者のウォルター・ブラーに剥製を送付。
それが新種とわかり、ブラーがより多くの標本を要求。
動物商のヘンリー・トラヴァースが仲買となり、
ブラーや鳥類収集家のウォルター・ロスチャイルドに売りつけた。

これにより、ネコ(1匹ではなかった)とデヴィット・ライオールが捕獲し続けた。

そしてついに、ライオールは「もうすぐ絶滅するだろう」と報告したが、
その結果、剥製の売値があげられた。
そこで捕獲を続け、絶滅するに至った。

ネコが主犯ではなく、欲の皮が突っ張った人間が主犯だったのである。

だが、僕らはこのデヴィット・ライオールを笑えるだろうか。

剥製を「資源」と置き換えれば、
結局同じ過ちを続けているだけのような気がする。

外来種がいかに問題か、
それを駆逐するのがどれほど大変か、
それでもなお、それに取り組む人々が、特に海外でどれほどいるのか。

そうした実態を、ぜひ知っていただきたい。


【目次】
太平洋の墓場
無人島の番人
ベーリング海のキツネ
楽園の破局
地球でもっとも弱い動物
ネズミを出血させる薬
バハ・カリフォルニアのネコ
ネズミも痛みを感じている
集まったラット・バスターズ
シリウス岬の殺戮
イースター島はなぜ滅亡したのか
消えたネズミ


さらに最後にもう一つ。
別件だが、本書において、
1949年、ニュージーランド野生生物局は外来種のヘラジカ調査のためフィヨルドランドを探検し、
2羽のカカポに遭遇。
その後野生生物局は調査員を投入し続け、9年に及ぶ調査で1羽も発見できず。
そして1958年、探索隊が食痕や糞など痕跡を発見し、ついに生きたカカポを捕獲したというエピソードが述べられている。

ここで思ったのが、我が日本。
ニホンオオカミは、人里で殺された個体をもって、絶滅した最後の個体とされている。
政府によるきちんとした生息調査は、行われていない。

しかし、未だ目撃情報は続いている。地道に探し続けている方もいる。
ニホンオオカミを探す会の井戸端会議

これを幻と笑うことは簡単だが、
「幻」と断言する根拠となる調査が、実は存在しないことを、多くの人は知らない。

ニホンオオカミは、ツチノコや、ヒバゴンなどのUMAではない。
かつて確実に日本に生息していた動物なのだ。

なぜしっかりと探さずに、「いる筈がない」と言えるのか、不思議でならない。

それどころか、「生態系回復のために」大陸から別亜種を導入すべきだという論すらある。

上で述べた各地域の生態系の価値、様々な外来種問題、
そしてこのニホンオオカミの生存確認問題など、考慮すべき課題を全く無視して、
残念だが僕には、ニホンオオカミはいない、生態系は捕食者-日捕食者という関係性が大事で、地域固有の生物種は関係ない、という、あまりにも無邪気な論としか思えない。

ニホンオオカミは生きている」(レビューはこちら)は、現時点で、最も客観的かつフェアにニホンオオカミの生存可能性を整理している。

この本のニホンオオカミの特徴を頭に入れて、国立科学博物館の剥製を見ると、とても良く特徴が分かって面白い。
逆に、この特徴を知らない人は、山でニホンオオカミに出会っても「イヌ」と思うだろう。
ニホンオオカミに出会う可能性がある秩父山系、大分の祖母山系をフィールドにしている方には、ぜひ読んでおいていただきたい。


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