ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

アゲハ蝶の白地図  

アゲハ蝶の白地図
五十嵐 邁



昆虫採集の魅惑 (光文社新書)」(レビューはこちら)において、世界を股にかける昆虫採集家の話にワクワクしたが、本書は「蝶」に特化した蝶屋さんの話。

それも、普通の蝶屋さんではない。
日本鱗翅学会の和文誌編集委員長などを務めた後、日本蝶類学会の発起人として初代会長を務め、のちには名誉会長にもなった、日本の蝶屋を代表する方である。
五十嵐氏は未解明のチョウ類の幼虫期研究を行い、「世界のアゲハチョウ (1979年)」、「アジア産蝶類生活史図鑑〈1〉」、「アジア産蝶類生活史図鑑〈2〉」などの大著を刊行している。

また、五十嵐氏の父は「美保関事件」で沈没した駆逐艦「蕨」の館長であり、この事件について「美保関のかなたへ 日本海軍特秘遭難事件 (角川ソフィア文庫)」というノンフィクションも記している(レビューはこちら)。
その筆力は、素人のそれではない。

その方が、自身の蝶人生、特に海外での採集旅行記を纏めたのが、本書である。

本書で取り上げられた期間は、1963-1998の約40年間。
まだ日本を初め、東南アジアの諸国が、発展途上にある時代である。
さらに、訪れた地はインド、中東、東南アジア、オーストラリア、中国と幅広い。

【目次】
第1章 蝶の魔境・インド―1963~1968
第2章 ベンゲットの道・フィリピン―1966
第3章 熱砂の国・イラク―1969~1971
第4章 エルブルツの高峰・イラン―1974
第5章 雨と蛭と原生林・インド―1985~1986
第6章 蒼きブータンの山河・ブータン―1985~1987
第7章 朦気の地・中国―1994.2001.2004
第8章 彩りに満ちる島・スラウェシ―1967.1972.1993
第9章 疫病満ちる半島・ラオス―1998
第10章 遠い国・オーストラリア―1977~1978
第11章 驟雨と老酒・シンガポール―1998

移動だけでも何日も要し、インターネットなど無い時代の、中東・東南アジア諸国の辺境。
蝶を求めて彷徨い、車が故障し、疫病に罹り、飛行機事故に遭遇する。
旅行記としても、俊逸である。

さらに五十嵐氏は、成虫の採集だけでなく、その生活史を解明するというライフワークから、
見知らぬ地で発見した1頭の成虫を手掛かりに、幼虫や卵を探し、食草を見つけ、
採集下での孵化・羽化までを手掛けていく。

その執念、工夫は、驚くばかりであり、生物好き(探究好き)にとって、ワクワクするような瞬間がいくつも閉じ込められている。

東南アジア諸国でもインターネットや携帯電話によってリアルタイムに情報が飛び交い、
一方では、各地の生息地が開発され、、希少な昆虫類が保護対象(そして一方では購入対象)となった現代では、
もう本書のような採集旅行は難しいだろうし、多くの虫屋さんにとっても夢のような世界ではないだろうか。

だからこそ、本書によって、ロマン溢れる採集旅行を追体験できるというのは、非常に嬉しい。
本書は、20世紀ならではの探検記である。蝶好きでなくても、お勧めしたい。







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category: 昆虫

thread: 読んだ本の紹介 - janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 2

コメント

Re: タイトルなし

ネットもパソコンも無い時代に、異国の地でチョウの生活史を解明するという情熱と実行力には、驚くばかりです。もっと多くの人に知られていいし、特に今もいるだろう昆虫好きの子どもたちに、本書はぜひ読んでほしいですね。

BIRD READER #- | URL
2014/08/28 21:01 | edit

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2014/08/16 18:58 | edit

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