ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

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ダ・ヴィンチ・ゴースト ウィトルウィウス的人体図の謎  

ダ・ヴィンチ・ゴースト ウィトルウィウス的人体図の謎
トビー レスター



「ウィトルウィウス的人体図」といってもピンとこないが、これである。
ウィトルウィウス的人体図

本書は、タイトルがいかにもなので損をしている。
邦題だけかと思ったら、原題も「DA VINCI'S GHOST」だった。
海の向こうにも「ダ・ヴィンチ・コードにあやかろう」という、つまらない思惑を持った人がいるようである。
しかもAmazonのレビューを見ると何だか胡散臭そうな内容に想えるが、オカルトティックな話は一切ない。

本書はダ・ヴィンチの「ウィトルウィウス的人体図」という、史上最も有名なイメージの一つについて、
徹底した資料と、無理のない推測により、
紀元前の一建築家の夢想的理論が、人類史に残る天才によって普遍化された歴史を辿るものである。
とても興味深く読んだ。

非常に簡単で誤解を招くかもしれないが、簡単にまとめておく。
詳細は、ぜひ本書を読んでいただきたい。

まず、「ウィトルウィウス」って何か。これすら知らなかったが、人名である。
マルクス・ウィトルウィウス・ポッリオ(紀元前70~80年頃から紀元前15年頃)。
ローマの建築家・軍事技師にして、「建築十書(デ・アルキテクトゥーラ・リブリ・デセム)」(紀元前20年代の半ば)の著者である。

まずギリシア人は、
・神々の意思が造形物に現れている
・よって理想的な人体が存在し、そして人体の各部位には、理想的な比例関係がある
・また建築学とは人、神々の意思を明らかにして人工物と神的なものを結びつけるもの
と認識していた。

さらにウィトルウィウスは、
・全ての構造は、正方形と円を操る行為になる
と考え、
人体の理想的な比例関係、例えば「顎から髪の生え際までは、手首から中指までの長さに等しく、
 いずれも身長の10分の1に等しい」とか「胸の中心から頭頂までの長さは身長の4分の1」などを整理するとともに、
円と正方形の考えから、「人体の中心はへそであり、へその部分にコンパスをおいて円を描くと、指先と爪先が円に内接する。足底から頭頂までの長さを測り、広げた両手の長さと比べると、正方形のように等しい」と説いた。

ただ、いずれも全く図は無かった。単なる説明だけだったのだ。

そして1400年代、再び理想的な人体比例を見出すことは、理想的な建築へと繋がることになる。

まずアントーニオ・ディ・ピエトロ・アヴェルリーノは、1464年に「建築の書(リブロ・アルキトッテニコ)では、「建築物はじつは生きた人間だということを示そう」とした。
ここでは建築と人体は比喩的な関係にある。

さらに、フランチェスコ・ディ・ジョルジョ・マルティーニは、
「建築論」(1481-84頃)において、建築は極めて論理的な知的学問であるとし、
ウィトルウィウスを踏まえて、あらゆる調和的な設計は「均衡と釣り合いのとれた人体」から派生するとした。
また、1480年代にはウィトルウィウス的人体図も描いている。

ところがそれは比喩的なもので、円も正方形も正確でなく、また人体の細部もウィトルウィウスの比例に従っていない。さらに、円・正方形の中に納まっていない。


ここで、ダ・ヴィンチが関与する。
当時、建築家として名を馳せようと思っていたダ・ヴィンチは、フランチェスコと交流する立場にあった。

ここからは著者の推測となるが、
ダ・ヴィンチは、フランチェスコにこれらの本を見せられたと考えられる。

そしてその不完全さから、
芸術家・建築家・自然哲学者として生きていたダ・ヴィンチは、
建築物と人体に関係があるならば、誰よりも徹底的に人体の性質を、内外から調べる必要があると考え、人体の解剖を開始したのではないか(1488年か89年頃には、人体比例を徹底的に調査し始めている)。

そして1490年、再びダ・ヴィンチがフランチェスコ一緒に旅をした年に、現在のウィトルウィウス的人体図を描いたらしい。

本書によって初めて知ったが、そもそもウィトルウィウスは、その建築十書に図解は入れていない。
そして、その比例もさして正確ではなかった。

ただその概念だけが独り歩きし、ダ・ヴィンチに至るまで、適当な比喩図や、不正確なウィトルウィウス的人体図しか描かれなかった。描きようがなかった、とも言える。

しかし、人体の解剖学知識を持ち、徹底して調べ、そして類まれな芸術の才能を持つダ・ヴィンチによって、
初めて僕らが現在目にする、「完全なウィトルウィウス的人体図」が生まれたのだ。

そう考えれば、数百年の歴史を経て、このイメージが結実し、
今、ウィトルウィウス的人体図は極めてベーシックなモチーフとなっているが奇跡のようなものだ。

例えばスカイラブ3号のワッペン、
Skylab2

ドコモの電子マネー・iDのマーク。
ドコモ iD

今度から、このモチーフに出会うと、ちょっと楽しくなりそうだ。

なお著者は、ダ・ヴィンチの「ウィトルウィウス的人体図」は出版のための清書のようなものであり、実は「建築十書」の図解版を画策していたのではないかと推測している。

実際に、ジャーコモ・アンドレアという建築家兼軍事技師による「建築十書」の図解版があり、
これにはダ・ヴィンチが共同制作しているフシがあるという(ウィトルウィウス人体図のデッサンのようなものも含まれている)。

また一方、人体の比例だけでなく、動きも図示した書をダ・ヴィンチが考えており、
現在は失われたが「ホイヘンス稿本」と呼ばれる手稿には、
その中には様々な動きをしているウィトルウィウス的人体図のような図があったと言われる。

多彩な天才と言われるダ・ヴィンチだが、まだまだ謎と驚きは尽きない。

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