ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

犯罪は「この場所」で起こる  

犯罪は「この場所」で起こる
小宮 信夫



タイトルから、具体的な事例を収集して、「こういう場所が危険」と示すのかと思ったが、全く違った。
しかし、逆に学びは多かったと思う。

本書は、犯罪を防止する考え方の転換を紹介する。

現在の日本における犯罪防止は、個々の犯罪者が、なぜ犯罪に及んだかという動機や社会的要因といった「原因」を追究するといった視点に立つ。これを「犯罪原因論」という。

殺人など、犯罪者が大きくマスコミで取り上げられるとき。
「アニメが好きだった」「ホラー映画が好きだった」「職場でトラブルを起こしていた」などといった、特定個人の嗜好や生活態度に報道が収束していくのに接して、正直うんざりする。

アニメが好きだろうと、ホラー映画が好きだろうと、犯罪を起こさない人間の方が圧倒的に多い。

それなのに、こうした「わかりやすい原因」にマスコミが注目するのは、結局は犯罪者を「自分たちとは異質な者」と認識して安心するためだろう。
テレビ・週刊誌を通してしかニュースに接しない中高年層には、「アニメ好き」「ホラー映画好き」「職場の人間関係が下手」というのは、「自分たちとは異質な者」のステレオタイプとして、非常に理解しやすい。

しかし一方、たぶん40代より若いと、アニメやホラーは当たり前で、別にそれがどうしたという感じである。
だから、「アニメ好き」「ホラー映画好き」「職場の人間関係が下手」というのは、自分と「異質」ではない。
それなのに、そこに犯罪の原因を求めるマスコミに、うんざりするのではないか。

本書を読むと、こうしたマスコミ報道が「犯罪原因論」の枠組みにあることが理解できる。
そこで著者が進めるのは、欧米で取り上げられている「犯罪機会論」という視点だ。

「犯罪機会論」では、犯罪性が高い人物でも、犯罪機会さえなければ犯罪を実行しないと考え、その機会を減少させることを重視する。

最も分かりやすい「犯罪機会の減少」の考え方は、次のようなものだ。

・物理的・心理的なバリアがあれば、標的への接近を防げる。
・犯罪者が勢力圏の内側に入っても、目撃される可能性が高ければ犯行を阻止できる。
・犯罪者が標的に近づいても、その抵抗性が高ければ犯行を防げる。

これに注目し、バリア-領域性と監視性のハード面を重視する手法が、欧米でセプテッド(CPTED:Crime Prevention Through Enviromental Design)、「防犯環境設計」と呼ばれるものだ。

例えば児童公園で、壁による視覚を無くしたり、周囲の建物から常に見えるようにするのも「防犯環境設計」だ。
そして監視カメラの導入も、監視性の向上に効果がある。
監視カメラは日本では個人情報面でやや過敏な反応もあり、なかなか導入されないが、通り魔的犯罪が増加すれば、いずれ考えねばならないだろう。
その時、すでに多数が導入されているイギリスでの運用を参考に、冷静に導入の可否を判断する必要があるだろう。
 (例えばイギリスでは、私的な場所を撮影しないことはもとより、
 ・監視カメラの存在を知らせる
 ・保管期間の設定: 居酒屋7日、街路31日、ATM3ヶ月
・権限者のみがモニター視聴、管理者だけが録画を視聴
 ・被撮影者からの開示請求への対応、その際の第三者の画像のぼかし処理、
 ・モニター室訪問者への守秘義務契約などが定められている。)

また有名な「割れ窓理論」も、実は犯罪機会論からの対策である。
・窓が割れているような「場所」は縄張意識が感じられないため、犯罪者への心理的なバリアがない
そこで、割れ窓を無くす(ような環境整備)対策を行うことにより、その場所に対する公共の縄張り意識が感じられるようにして、心理的なバリアを構築する手法である。

ニューヨークでの犯罪減少実績を踏まえれば、犯罪機会論の効果かわかる。

また、「不審者情報」という妙なシステムが盛んになっているが、これも犯罪原因論に執着した結果というのが、本書でわかる。

不審者情報や不審者マップは、不審者という人、すなわち潜在的な犯罪者に焦点をあわせた犯罪原因論の視点に立つ。
しかし、不審者かどうかは主観による。
先に不審者と見極めるのは困難なため、結局子供の大人不信を増長させるだけであり、子どもに挨拶しただけで「不審者」とされかねない。
こんなものは、万一犯罪が発生した時だけは検挙に役立つかもしれないが、犯罪機会を減少することにはならない。

むしろ、「どのような場所で不審者に遭遇すれば危険か」という犯罪機会論の立場で分析すれば、子どもたちが危険な場所を回避したり、回避できなくても「その場所では特に注意する」という日常的な防犯が可能となる。

「犯罪原因論」から「犯罪機会論」という視点は、地域の防犯活動を行う人々だけでなく、小さな子供が周囲にする大人にも、非常に役に立つものと思う。

【目次】
第1章 機会なければ犯罪なし―原因論から機会論へ
 (1)欧米の犯罪対策はなぜ成功したのか
 (2)新しい犯罪学―犯罪をあきらめさせるアイデア
第2章 犯罪に強い空間デザイン―ハ-ド面の対策
 (1)「防犯環境設計」で守りを固める
 (2)監視カメラが見守る、監視カメラを見張る
第3章 犯罪に強いコミュニティデザイン―ソフト面の対策
 (1)「割れ窓理論」で絆を強める
 (2)被害防止教育の切り札「地域安全マップ」の魅力
第4章 犯罪から遠ざかるライフデザイン―もう一つの機会論
 (1)立ち直りの「機会」をどう与えるか
 (2)非行防止教育で「対話」と「参加」を促す
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