ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

ネゴシエイター―人質救出への心理戦  

ネゴシエイター―人質救出への心理戦
ベン ロペス



何だかんだ言っても、日本は世界でトップレベルに安全な国である。
だが、日本の安全を前提にしていると、国外では当たり前の危機に無頓着になりかねない。
その意思のズレは、いざ危機に直面した際に、誤った判断を起こしかねない。

日本国内と国外では状況が違うということを、しっかり前提に置かなければならない。

その一例が、本書のメインテーマであるK&R(Kidnapping for ransom)、 身代金目的の誘拐である。

日本だと、誘拐は大事件。
ただ、近年報道で多いのはストーカーや、乱暴目的の児童誘拐であり、
「行方不明になった」という報道から始まることが多い。
誘拐され、身代金を要求された、という事案は、近年あまり報道で見た覚えがない。
もちろん報道されないだけかもしれない。
それでも多数発生していれば、それなりに情報漏洩も起こるだろうし、警察も防止のための警戒・啓発を始めるだろう。
それらが無いということは、日本では、まだ身代金目的の誘拐は、犯罪として普及していないということだろう。

だが世界では、異なる。
本書の原書は2011年刊行だが、それによると誘拐事件は世界で2万件/年以上発生し、半数以上がラテンアメリカで発生。また近年ではアフガニスタンでも行われているらしい。
誘拐は、収入を得るための生活手段として定着していのだ。

身代金目的の誘拐犯は反復・継続的に誘拐を行う。
もちろん彼らを摘発すればよいが、多くの国では、そうした警察力自体が存在しない(むしろ汚職が蔓延している)。
そこで検討される解決策は、2つ。
一つは警察またはその他の武力をもって、人質救出を行うこと。
もう一つは、身代金を払い、人質を解放させることだ。

身代金を払うことは、「次の誘拐」を防止することにはならない。
しかし、当事者には「次」は関係ない。自分の家族が、仲間が無事戻ればよいのだ。
一方、誘拐犯の目的も、金でしかない。
であれば、冷静に取引し、現実的な身代金を支払うよう交渉し、安全に金と人質の取引ができれば良い。

そのための存在が、本書の著者も行うネゴシエイター、「交渉人」である。
交渉人の目的は、誘拐を

拉致-監禁-生存証明-交渉-身代金の受け渡し-解放


といった流れに乗せ、人質を解放させること。それ以外は含まれない。

身代金を支払うという犯罪者に対する妥協こそ、誘拐を助長しているのではないかと著者に告げる女性もいる。
しかし、著者は語る。

「身代金の支払いに反対し、交渉人が誘拐を助長するという見解は、自動車保険が交通事故を助長するというようなもの。」

交渉人が身代金を支払うのは、人質が無事に帰られるようにするためであり、武装介入や交渉拒否では、人質の解放は保障されない。

実際、誘拐がビジネスとなっている現場では、身代金で解決するのは70%。
一方、力ずくでの救出は10&の成功率という。

日本だと、警察が人質を救出し、犯人を逮捕してくれるはずと思う。
ハリウッド映画などでは、武装チームが急襲して人質を解放してくれる。
どちらも、誘拐がビジネスとなっている現場では、幻想に過ぎないと著者は指摘する。

アメリカやイギリスでは、警察学校で人質交渉人コースがあり、
日常的に交渉をトレーニングする体制となっている。
日本にそのコースがあるのかどうか知らない。
ただ、ニーズの有無に限らず、こうしたスキルとシステムは構築していくべきだろう。


なお、本書で誘拐犯に対する視点として、勉強になった点が二つある。

一つは、いわゆるテロリストは、個人的な計略を満足させるための道具として、主義を利用していることが多く、それは「大義を求める病人」と著者が呼ぶ存在であること。
そして、誘拐においては、身代金を求められる方がビジネスとして完結しており、宗教や政治が目的となった誘拐だと交渉すら困難になるということ。

もう一つは、被害者が加害者と交流して人間として認められることで、殺害される可能性を低くできること。
逆に加害者が、被害者が自分たちと異なる生き物と認識することで、虐殺が容易になる「非人間化」が起こる。
すなわち、例えばグループを形成する時、意識下で同じグループに入らない者は自分と似ていないと感じ、似ていないのなら危険、危険なら殺して構わないと展開しかねない。
こうした内集団と外集団の違いを顕著にして効果を上げた例は宗教であり、外集団を異教徒、不信心者等と呼ぶことから「非人間化」が開始し、迫害・殺害が容易となっていること。

世の中には「大義を求める病人」がいること、外集団の「非人間化」が迫害・虐殺を容易にするとことは、現代においてもっと普及して良い知識だろう。


【目次】
第1部 エンド・ゲーム
 身柄
第2部 ビジネス
 ゴムのニワトリ
 売り込み
 もっとも長い道のり
第3部 降下地域
 初動
 損の上塗り
 詐術
 シェパードの祈り
第4部 新しい波
 最後の手段
 裸の王様
第5部 不和
 立てこもり
 交渉人部屋
 ジャーの兵士
 突破口
 長い議論
 帰ってほしい
 高値の標的
 魔女の集会
第6部 海賊たち
 ザ・ウルフ
 循環

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