ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

職業は武装解除  

職業は武装解除
瀬谷ルミ子


久しぶりに、一気に読んだ。良い本であった。

本書はDDR、兵士の武装解除(Disarmament)、動員解除(Demobilization)、社会復帰(Reintegration)までをサポートする手法について、おそらく日本で数少ない実践者である著者の半生を綴ったもの。
半生といっても本書刊行時点(2011年)ではまだ30代半ば。
それでいて、ルワンダ、シエラレオネ、アフガニスタン、コートジボワールなどなどの世界の紛争地で、
タフな交渉で武装解除を行い、様々な手法で社会復帰への道を作り上げている。
この分野で活躍することになったのも、誰かモデルケースがあったわけでもなく、
者自らが拓きつづけたもの。そのくバイタリティに触れるだけでも、読む価値があろうというものだ。

「◯◯国の◯◯軍(派)が、武装解除に応じた」という報道を、時々耳にする。
単なる降伏のようなイメージを持っていたのだが、実際はそんな単純な話ではない。

いかに武器を捨てさせるか。そして武装解除した後の兵士をどう社会復帰させるか。
また、兵士らに支配されていた一般人と、どうバランスをとっていくか。
極めて難しく、おそらく同じケース・同じ答えなんて有り得ない状況だろう。

DDRという仕組みの存在自体を、僕は本書で初めて知ったくらいの平和ボケである。
その分野で、日本人女性がスペシャリストとして活躍しているという事実に、本当に驚いた。

著者が現場の体験をふまえて語る平和の姿は、とても厳しい。

 平和をつくるプロセスとは、当事者が望んではじめて行われるべきであること、部外者が興味本位でかき乱すことがあってはならないことを痛感した。そして、皆が手を取り合って仲良しでなくても、殺しあわずに共存できている状態であれば、それもひとつの「平和」の形であり得ることも。(p41)



また、戦争犯罪に問われる可能性があるのに武装解除や和平に応じるお人好しはいない。
そのため多くの場合、和平合意の際は、武装勢力が武装解除に応じることと引き換えに、戦争犯罪を無罪にする取引がなされる。

平和とは、時に残酷なトレードオフのうえで成り立っている。安全を確保するためのやむを得ない手段として、「加害者」に恩恵が与えられる。
加害者(兵士)のうちには、子ども兵士や、強制された者もいる。しかし、「被害者」に同じレベルの恩恵が行きわたることはめったにない。

被害者たちは、元兵士たちの不満が爆発した時、犠牲になるのは自分たちであり、我が子であることがわかっている。そして、『平和』という大義のために、加害者の裁きをあきらめ、理不尽さを飲み込み、自らの正義を主地要することを身を切られる思いであきらめる。(p66)



平和と言えば、仲良しグループの「バラ色の未来」を夢見がちな日本では、理解しにくいかもしれない。
しかし、現実に殺し合いが続く地域では、この程度の平和すら、構築するのは難しい。

もちろん、紛争を防ぐことが、最も大事だ。
だが国家間というより民族・宗教間の対立が深まっている今、今後も残念ながら紛争は起こるだろう。

その時、どのように収め、どのような手段をもって、どのような平和を構築するのか。
そして、日本という国や、我々には何ができ、何ができないのか。
そうした問いを続け、現実的かつ具体的な活動を続けることが、今平和な国々の責務だろう。

特に日本は、DDRにおいて大きなアドバンテージがある。
第二次大戦で破壊されても復興した日本の姿を見て、紛争国の人々はこう感じているという。

「今はボロボロの自分たちの国も、日本のようになれるのではないかという希望を与える存在となっている。
 日本が背負ってきた歴史的経緯は、他の国がどれだけお金を積んでも手に入れられない価値をもっているのだ。」

日本が自信をもって国際貢献できる分野、すべき分野は何か。
著者のような人が活躍している今のうちに、日本は前に進まなければならない。

著者、瀬谷氏の活躍するNGOのホームページはこちら。ぜひご覧いただきたい。

特定非営利活動法人 日本紛争予防センター

なお、国際的に活躍する日本人女性ということで、「私たちにできること。 新型インフルエンザとの戦い (NHKプロフェッショナル仕事の流儀)」(レビューはこちら)の進藤奈邦子氏を思い出した。

本書とあわせてこの2冊は、世界という舞台で働くことについて、とても良い指針になると思う。
女性はもちろん男性でも、そして特に、踏み出すことを躊躇している学生の方々にお勧めしたい。


【メモ】
p35
「DDR」兵士の武装解除(Disarmament)、動員解除(Demobilization)、社会復帰(Reintegration)
和平合意が結ばれて紛争が終わっても、そのままでは安全にはならない。
DDRは、兵士や戦闘員から武器を回収し、除隊させ、一般市民として生きていける職業訓練や教育を与える取り組み。
 
p41
犯罪被害者の家族に、部外者が加害者との和解を尋ねることは、無神経なもの。
それは被害者にとって、心の傷を深める「言葉の凶器」と感じられるのではないか。

「平和をつくるプロセスとは、当事者が望んではじめて行われるべきであること、部外者が興味本位でかき乱すことがあってはならないことを痛感した。そして、皆が手を取り合って仲良しでなくても、殺しあわずに共存できている状態であれば、それもひとつの「平和」の形であり得ることも。」

p66
戦争犯罪に問われる可能性があるのに武装解除や和平に応じるお人好しはいない。
そのため多くの場合、和平合意の際は、武装勢力が武装解除に応じることと引き換えに、戦争犯罪を無罪にする取引がなされる。
「平和とは、時に残酷なトレードオフのうえで成り立っている。安全を確保するためのやむを得ない手段として、「加害者」に恩恵が与えられる。」
加害者(兵士)のうちには、子ども兵士や、強制された者もいる。しかし、「被害者」に同じレベルの恩恵が行きわたることはめったにない。

「被害者たちは、元兵士たちの不満が爆発した時、犠牲になるのは自分たちであり、我が子であることがわかっている。そして、『平和』という大義のために、加害者の裁きをあきらめ、理不尽さを飲み込み、自らの正義を主地要することを身を切られる思いであきらめる。」

p86
著者はアフガニスタンで、武装解除の枠組みを作っていた伊勢崎賢治氏と働いている。

p78
アフガニスタンの支援は、五分野で行われた。
アメリカ-国軍再建
イギリス-麻薬対策
ドイツ-警察改革
イタリア-司法改革
日本・国連-DDR

日本がDDRを選択したのは、他の4分野が各国の外国戦略に基づきすぐに担当国が決められたため。

p91
アフガニスタンでは、日本側で武装解除の交渉や方針に関わっていたのは著者と駒野大使の二人だけ。
アメリカやイギリスでは、専門家や財務情報、軍とのネットワークがすぐに得られるが、
日本にはそのようにノウハウが無かった。

p194
紛争について意識することは、二つの点で日本人にとって重要。
①テロのように、どこでも紛争に巻き込まれる恐れがある。
②「日本のもつ中立性と大戦後の復興が、世界各地の紛争地に大きな影響を与えているという事実がある。」

②について:
第二次大戦で破壊されても復興した日本の姿を見て、
「今はボロボロの自分たちの国も、日本のようになれるのではないかという希望を与える存在となっている。
 日本が背負ってきた歴史的経緯は、他の国がどれだけお金を積んでも手に入れられない価値をもっているのだ。
 日本人の多くは、それを知らない。そして、世界で一定の地位を築いた今、道を見失い、自信を失っている。」

【目次】
1 群馬の田舎から世界を目指す
2 武装解除の現場に立って
3 生きる選択肢を、紛争地の人々へ
4 紛争地での事件簿
5 50年後の世界と日本、そして私たち
関連記事
 このエントリーをはてなブックマークに追加

category: 戦争

thread: 読んだ本の紹介 - janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 1

コメント

 私は絶対平和主義者ではないですが、こうした話を聞くとやはり日本という国自身の、外から見たときの良しあしに依存するところが大きいのだろうな、と思います。私自身は戦争学側から平和にアプローチしようという考えですが、本書の述べるところもぜひ知見として入れたいです。

 ・・・でも積読が増えるだけ?

M氏 #- | URL
2014/05/19 19:08 | edit

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://birdbookreading.blog.fc2.com/tb.php/382-2c14c731
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

中の人

アクセス

RSSリンクの表示

最新記事

カレンダー

アクセスランキング

月別アーカイブ

ブロとも申請フォーム