ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

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「考古学」最新講義シリーズ 装飾古墳の世界をさぐる  

「考古学」最新講義シリーズ 装飾古墳の世界をさぐる
大塚 初重



「装飾古墳」と言えば、本書カバーにもあるが高松塚古墳を思い出す。
そして高松塚古墳と言えば、カビによる汚染と古墳解体が思い出されるが、
あの報道が続いていた頃、二つの疑問を抱いていた。

①なぜこれほど「価値がある」とされるのか。
②なぜ保存できなかったのか。

もちろんあの極彩色の絵は素晴らしい。
しかし、それが日本古代史でどのような意味があり、価値があるのかとなると、
正直、僕は何も知らなかった。
例えば、ああいう人物画のある古墳が他にあるのか、
また、どんな装飾古墳が日本で代表的なのか。そういう基礎知識が、全くない。

それを補って余りあるのが、本書。
「装飾古墳」について、実際に16回実施された講義をまとめたもののため、
そのため、やや専門的用語が説明なく出たり(後で詳しく話されたりする)、
同じ話題・感想が反復されたりする。
しかしそれをふまえても、かなり珍しい分野に関する入門書であり、貴重である。

本書によって、まず①について、
日本における装飾古墳の分布、地域的な特性、また発見・研究経緯を知ることが可能となる。

彩色古墳は九州となぜか東日本太平洋沿岸であること、
その彩色古墳も抽象的図像が多いこと、
近畿・瀬戸内などでは線刻画が多いことなどを知ると、
高松塚古墳の採色壁画(むしろ絵画だ)のずば抜けた完成度が、
時代的に後期であることをふまえても、極めて突出していることがわかる。

そして②について。
本書によって研究史を知れば、装飾古墳はほぼ全て偶然の発見であること、
それも過去に発見されたものが多いことなどがわかる。

すなわち、高松塚古墳発見当時、世界的にも未盗掘古墳の壁画を保存するノウハウ-経験知は存在しなかった。
だから、最初から適切に保存するということは不可能だったのだ。
(ただし問題発生後の対処が後手後手になったのは、別問題である。)

だからこそ、高松塚の反省を生かし、筆者が出会った未盗掘の装飾古墳・「虎塚古墳(茨城)」では、
内部の空気分析をはじめ、壁画を劣化させないための研究・対策を行った。
これが高松塚の経験知を、正しく活かした結果なのである。

ところが気になるのは、こうした装飾古墳の発掘・保存ノウハウが、
以降蓄積されているようには感じられないことである。

例えば現在の考古学界には、高松塚古墳のトラウマもあり、
「未盗掘古墳は発掘しない」というコンセンサスがあるという。

その点について、詳しく問題提起したのが「未盗掘古墳と天皇陵古墳」(レビューはこちらhttp://birdbookreading.blog.fc2.com/blog-entry-223.html)。
こちらの本でも、天皇陵や未発掘古墳など、学術的に高度な知識・経験が必要される発掘はなされておらず、その結果、こうした古墳に対応するノウハウは蓄積されなくなっている状況を問題視している。

今後、もし偶発的に装飾古墳を発掘せざるをえなくなったとき、
それを適切に保存できるのか否か。
正直なところ、不安を感じざるをえない。


【目次】
はじめに
序―「装飾古墳」を学ぶ前に
第一講 線刻壁画を考える
第二講 古墳壁画の王者「王塚古墳(福岡)」の歴史的意義
第三講 古墳集中地域にある「珍敷塚古墳(福岡)」の壁画世界
第四講 「チブサン古墳(熊本)」石室内壁画に見る世界観
第五講 「竹原古墳(福岡)」ストーリーのある傑作壁画の解釈
第六講 「日ノ岡・重定古墳(福岡)」の壁画世界
第七講 「高松塚古墳(奈良)」の壁画と被葬者を考える
第八講 「虎塚古墳(茨城)」の壁画発見と保存


p10
考古学で、江戸から現在までの学史、研究史を知ることで、何が課題か、何が問題かが見えてくる。

p70
日本の装飾古墳の中で、壁画に色を付けている彩色古墳壁画は九州が中心で、九州以外には鳥取県の鮭を描いた絵しかない。近畿、瀬戸内、四国・関東・東海は線刻壁画。
しかし茨城・福島・宮城という東日本の太平洋沿岸地域に、また彩色壁画が存在する。

p94
「須恵器」
日本書記:「陶器」と書いてスエノウツワモノ、「土師器」と書いてハジノウツワモノ。
帝室博物館の高橋健自と後藤守一が、「陶器」は既に使用例があるので、
「須恵器」という呼び方を提唱した。
(他にも京大系の「祝部土器」いわいべどき・はふりべどき、「陶質土器」などもあった。)

p194
三角文:
装飾古墳にも弥生時代の銅鐸にもある。
古代の日本社会で、忌み嫌う、除魔、辟邪、鎮魂などの意味があったと思われる。
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