ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

危険不可視社会  

危険不可視社会
畑村 洋太郎


以前、「(真夏に)公園の滑り台で子供を遊ばせようとしたら、ステンレスの滑走部分がものすごく熱くなっていた。」という苦情を見た記憶がある。

それは当たり前じゃないのか。
真夏の金属部分は熱くて、時に火傷する恐れすらある。
その危険性が知識として無い、想像できない。それが当たり前で、管理者責任だとする感覚に驚いた。

そして、どうしてこれほど危険に無頓着な人がいるようになったのか、疑問を抱いた。

本書は、おそらくそれに応える一冊である。

「安全を絶対視するがゆえに、危険が一般社会から隠されているのではないか。
 そのために、かえって潜在的な危険性が増しているのではないか。」

様々な事例を用いながら、本書は現在日本の安全管理の考え方と、
そこに潜む様々な落とし穴を示していく。

例えば「制御安全」。
コンピュータの発展により、様々なシチュエーションを想定することで、
危険を防止する手段。これが現在は主流となっている。

コンピュータは発展し続け、プログラムは多岐にわたる。
おかげで多くの機械は、以前に比べれば格段に安全になった。

だが、「想定の範囲内で安全」ということと、「絶対に安全」は異なる。
ところが僕らは、安全に慣れすぎて、「絶対に安全」と誤解しがちだ。

その結果、(故意かどうかは別として、)設計者が想定しえないシチュエーションになった時、
それすら「安全」だと思い込む。

しかし、「制御安全」の考え方では、想定しえないものの安全は担保されない。

そこで有効なものとして、
どう転んでも安全側に働く「本質安全」というアプローチや、
「責任追及」と「原因究明」を別にすることなどを、本書では示している。

また本書では、
群衆雪崩、遊具、原発と、近年「安全性」が話題となった事例を豊富に用いながら、
危険とは何か、安全とは何かを、
きちんと整理された視点から解説している。

なぜ科学・技術が進歩しているのに、安全にならないのか。
それどころか、以前では考えられない「お粗末な事故」が発生するのは、なぜか。

「安全社会」と「危険不可視社会」は同じではないのだ。
だが、僕らは現代の「危険不可視社会」を、「安全社会」と勘違いしている。

それが個人の問題ではなく、システムの問題であることを明確にする本書は、
家庭から企業まで、様々なレベルで参考になるだろう。

【目次】
序  危険を可視化するということ
第1章 制御安全の落とし穴
第2章 制御システムの暴走
第3章 「つくる側」と「使う側」の間
第4章 人も凶器
第5章 原発が信用されない理由
第6章 子どもから危険を奪う社会
第7章 規制・基準で安全は担保されるのか
第8章 安全社会の危険

【メモ】
p2
・人間と人工物の関係の変化により、新たな危険が生まれているのではないか
・安全を絶対視するがゆえに、危険が一般社会から隠されているのではないか。
 そのために、かえって潜在的な危険性が増しているのではないか。

p6
危険そのものを完全に排除しようとすると、意識の中で「あってはいけないもの」から
「ないもの」に変わり、社会で「存在しないもの」として扱われるようになる。
いわゆる"禁句"扱い。

p24
「制御安全」
 機械やシステムを常にセンサーでチェックし、異変が現れたら察知し、停止(回避)する仕組みで安全確保すること
 近年の安全社会は、この「制御安全」が中心

p26
制御安全は想定外の事態生じれば無力。

p30
回転ドア:元々は寒さの厳しいヨーロッパで暖房効率を上げるためのもの。
日本では高層ビルのドラフト現象(煙突効果により、外から風が吹き込む現象)対策や、ビル風防止が目的となった。そのため材質がアルミからスチールになったり、ステンレス化粧が施され、ヨーロッパの3倍の重さ(2.7トン)になった。

p35
「本質安全」機械そのものの働きを、どんなときでも安全側に向かうようにする方法。
致命的な被害が起こる確率を減らせる。

回転ドアでの死亡事故後、「本質安全」の考え方をふまえて事故を防ぐ回転ドアが開発された。
しかし2009年の商品化後、1年間全く売れていない。
改良・改善がなされても、一度事故が発生すると黙殺されたり信頼されなくなる。「絶対安全社会」の負の面ではないか。

p66
制御安全の限界
 機械の性能は、設計者が使用環境に配慮しながらどこまで想定してロジックを作っているか。

p77
メーカーが想定した製品寿命を超えて使用することは、危険が増大し、また万一の際のメーカー負担も無制限に続きかねない。

p81
機械式駐車場での事故のように、使用者の不適切な行動が原因の事故は報道されることが少ない。
それが、逆に同様の事故が発生する原因になっている。
身近に起こっている事故情報をきちんと発信することが必要。

p84
原子力やロケットなど、開発・使用の歴史が浅い先端分野は、どうしても経験不足(人間のその分野に対する知見の積み重ね)により生じる危険がある。

p94
製品故障=初期不良が多く、ある時期から安定使用でき、しだいに経年劣化の不良が増加
→U字のグラフになるため、「バスタブカーブ」という。
エレベータの保守では、このバスタブカーブの底(安定時期)を狙った保守セールスも多い。
その時期は保守の手間がほとんどかからない。経年劣化が増大する頃には契約しなくなる。

p111
群衆雪崩;
「体が空中に浮いている感じ」→両方から押され、人間がアーチのようになる。どこかの圧力が抜けると、とたんに崩壊する。
アーチ作用が強く働くのは、10人以上/㎡。13人以上/㎡になると死亡事故の危険性。

p157
遊具の危険は遊具そのものの改良もあるが(本質安全の設計)、メンテナンスも問題。
管理者の問題だが、そもそも日本の社会全体がメンテナンスを軽視。

p162
万一事故が起これば、現在の日本では管理者が徹底的に責められる風潮。
そのため安全管理が、「危険の管理」ではなく「危険の排除」になる。
しかし使用者の禁止行為や想定外の行動、未知の要因などの場合、これらを検証することが社会の利益になる。

p164
最近、作り手が想定していない使用方法での事故が増加。
安全であることが当たり前となり、誰もが危険に鈍感になり、
「何をやっても大丈夫」と思って無茶なことを平気で行う。
これによって、様々な要因が重なると事故になる。

p183
日本の法体系は、「責任追及」と「原因究明」がセットになっているため、
責任追及されないために原因を隠す、
誰の過失でもない(責任追及が不要)場合には原因究明も止まる(もしくは開示されない)などの弊害がある。

p187
アメリカには業務上過失致死傷罪のような刑事罰がない。
よって民事裁判で被害者が損害賠償請求を行うしかない。

p197
人間が異常を感じた時、最後に
人間の判断を優先する→ボーイング型
機械の判断を優先する→エアバス型
どちらも完全に安全な状態を作ることはできない。
ただし、どちらか一方に統一することが大事。
→実際に航空業界では、パイロットの操縦する機種を制限するのが常識となっている。

p209
リスク・ホメオスタシス理論は、便利で安全なものができると人間の行動範囲が広がり、
新たな危険に遭遇する確率が高まるというもの。
また、一応は警戒するが、注意力が継続しないために高まる危険もある。






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