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強い者は生き残れない 環境から考える新しい進化論  

強い者は生き残れない 環境から考える新しい進化論
吉村 仁
【良かった度】★★★☆

新潮選書強い者は生き残れない環境から考える新しい進化論新潮選書強い者は生き残れない環境から考える新しい進化論
(2009/11/25)
吉村 仁

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 筆者は素数ゼミの研究でも有名な進化論の研究者。専門は数理生物学とのこと。

 進化論は学校の授業では極めてベーシックなところだけ説明されるため、中・高校レベルだとダーウィン的理論しか頭に残らない。しかし現在も新たな理論や論証が続いており、進化論は常に洗練されつつある。

 さて、動植物を観察し、その生態について考えるとき、進化論的発想が必要となるが、あまりに単純なダーウィン的進化論しか土台にないと、かなり誤った解釈になりかねない。そこで動植物を深く知りたいと思うならば、様々な進化論的考え方を身に着けておくことが重要である。

 筆者は本書で、大きく二つの新しい解釈を提示している。

 一つは、変動する環境の中では、絶滅を回避するため中庸な個体ほど最適である、ということ。本書のタイトルでは「強い者は生き残れない」という表現がなされている。最も最適化が進むと、その依存する環境が変化すれば絶滅せざるをえない。よってどのような環境にでも対応できる方が良い、ということだ。

 もう一つは、環境の激変に対応していくために、生物は「共生」という手段を獲得したのではないか、ということ。上記のとおり「強い者は生き残れない」ため、自分自身を最適化することはリスクが高い。そこで共生により、その時々の環境に最適になろう、というわけである。

 この2点の例示として、思いつく事例がある。

 例えばA種とB種の共進化。ある種のハチドリと花のように、嘴と花の形態が1対1で共進化すると、どんどん極端化していく。これを走り出したら(特殊化しだしたら)とまらないという意味で「暴走(ランナウェイ)共進化」というが、このような種の場合、一方の絶滅(環境変化)があれば、対応できない。

 もうひとつ。1681年に絶滅したドードー(モーリシャス島)とカルバリア(Calvaria major)という木の関係。モーリシャス島で、S.テンプル(1973)は原生林の中にカルバリア(Calvaria major)を13本しか確認できず、全て樹齢300年以上であることを見出した。ドードー絶滅も300年前。カルバリアの種子は、そのまま地上に落ちても発芽しない厚い皮がある。そこで1977年、カルバリアの種子はドードーの砂嚢で表皮が削り取られ発芽するのではないか、という仮説を立て、シチメンチョウにカルバリアの種子17個を与えると、3個が発芽した。これも共生が機能しなくなったことが、カルバリアの減少につながっている。

 進化論に関する説明書は多いが、利他行動を血縁選択だけで説明しない、かなり納得のいく本であった。


以下、メモ書き。

P19
例えばモンシロチョウの生涯繁殖成功度。
生涯繁殖成功度=産卵数×成虫(親)になるまでの生存率
産卵された卵が、どれだけ成虫(繁殖可能個体)になるかが重要。

P30-
ダーウィンの自然選択理論では説明できない現象があった。そのひとつが利他行動(altruism,altruistic behavior)。これに対して、「種全体が有利になるように行動する(集団選択)」という解釈がなされてきた(1966.ウィン=エドワーズ)。しかしこれだけでは説明がつかない事実も多い。生物にとってはやはり「種の利益」より「個体の利益」の方が重い。それを説明する方法として、ゲーム理論が発展している。
・囚人のジレンマゲーム
・「個体群がある戦略Xをとっているとき、ほかの戦略の個体が侵入しようとしても侵入できずに排除されてしまうような場合、その戦略をESSという」ESS=進化的安定戦略evolutionarily stable strategy
・ウソつきと正直者のゲーム→正直者だけの集団にESSは生じない。ただしこのゲームには、集団の人数は変化しないという前提がある。実際には人数が変化する。

P46
利他行動を、集団選択ではなく説明する概念
血縁選択kin selection と 包括適応度inclusive fitness
血縁選択=社会性昆虫(アリ、ハチなど)で端緒。

P56
適応進化だけでは説明できないケース=履歴効果historical effect,hysteresis
過去の歴史による適応が影響する。Ex)インカの婚姻制度、1夫多妻→階級の増加に伴い1夫超多妻へ

p61
ユキヒメドリの履歴効果
・A,B群に入る場合 1羽だと警戒時間1、2羽だと1/2、…例えば5羽で採餌効率が最大になる場合、5羽を超えてもAの群れに入る。しかし10羽目が別の群Bの1羽目になった途端、AからBへ移動する個体が増え、A5羽・B5羽になる。最初から5羽ずつになればいいのだが、順番に1羽ずつ入るときには既に個体が入っている履歴効果によって、最適な配分から大きくずれる。

P70
進化は連続的に起こるのではなく、安定期-環境激変・絶滅-適応放散-適応(最適化)-安定期 の繰り返し。S.J.グールド=断続平衡説/生物進化は急激かつ断続的に起こる。

P97
親になって1度しか繁殖しない形態=1回繁殖(セメルパリティ、semelparity)
何度も繁殖する形態=多回繁殖(イテロパリティ、iteroparity)
ほとんどの種は1回繁殖。昆虫など。早く成体になれる。多回繁殖は体が大きい。環境の激変に強い大人の時期が長い。多回繁殖の方が存続確率が多いことはわかっているが、1回から多回へ進化する条件はわかっていない。

P98
子どもの個体が環境の変動をうけやすいタイプ=リスキー型=多死・多産
子どもの個体が環境の変動をうけにくいタイプ=セイファー型=少産

p113
死亡率は性比に大きな影響を与える。繁殖前の雄の死亡率が高いと、繁殖期に雌に偏る。よって雄をたくさん産めばよい。

P124
最も強い者が残るのではない。Ex)身長が高いほど強いが、180cm以上だと死ぬ場合。平均180cmだと半分が死ぬ。よって最適は、180を超さないが、十分高い分布。例えば平均は170cmとなれば、合計の適応度は高くなる。
Ex)鳥の一腹卵数(クラッチサイズ)。実際には余裕がある。しかし産卵・育雛中に環境変動がおきた場合、クラッチサイズの最大数を産んでいれば、全雛及び親が死ぬ。環境が良い年の最適なクラッチサイズは大きいが、環境の悪い年には小さい。もし環境が良い年の最適クラッチサイズで常に産むと、環境が悪化した際に親も死んで滅亡する。

P130
筆者の環境変動説
進化理論  /環境  /選択    /適応度w    /生き残る遺伝子型
ダーウィン /A   /自然選択  /w(x)>w(y)>w(z) /x
総合学説  /A→B /方向性選択 /w(x)>w(y)>w(z)→w(z)>w(y)>w(x)  /x→z
環境変動説 /A←→B /絶滅回避 /w(x)>w(y)>w(z)←→w(z)>w(y)>w(x)  /y

p144
アメリカのオオカバマダラ
メキシコ(越冬地)から、北上は約3世代かけて行なう。しかし南下は、1世代で行い、同じメキシコの地点帰ってくる。このメカニズムはわかっていない。

P173-174
「共生の進化史は、環境からの独立の進化史でもある。厳しい環境変化に生物はどう対応してきたのか? 答えは、『お互いの協力』によってである。共生は、様々な生物同士が協力して環境に対抗する方法である。」
「共生という手段はもっとも有効な生き残り方法だったのである。」

p224-225
自由競争=利益の最適化を目指す
しかし、自然増殖にたよる産業(農林水産業)の場合、生物の増殖率による限界がある。
例えば水産業だと、水産資源を維持しながら漁獲できるのはせいぜい2~5%(クラーク,1990「数理生物経済学」)。よって自然の繁殖率に頼る漁業の利益率も最大2~5%。しかしビジネスの利益率は平均7~8%。よって漁業を自由競争で考えれば、一時的には最大利益が得られたとしても、資源が枯渇するのは必然。


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