ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

南極越冬記 (岩波新書 青版)  

南極越冬記
西堀栄三郎
【良かった度】★★★★ 【殿堂入り】

南極越冬記 (岩波新書 青版)南極越冬記 (岩波新書 青版)
(2002/06/12)
西堀 栄三郎

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 南極。

 ペンギンを見るツアーもあるし、今はかなり身近な場所である(とは言っても、かなり縁遠い場所だが)。
 しかし現在に至るまでには、シャクルトンをはじめ様々な探検家の歴史がある。それらを綴った南極探検史というものが書かれるとすれば、南極大陸での越冬というのも、重要なステップとして記録されるだろう。

 本書は、日本初の第一次南極越冬隊(1956年(昭和31年)出発)の隊長の手による、生の記録である。出版からかなり年数も経過しており、新書の新刊が溢れる中、書店で偶然出会うのは難しいかもれない。しかし、ぜひ手にとってほしい一冊である。
 著者は、南極大陸到達の状況、輸送、越冬施設の建設、隊員のマネジメントなどを、情緒豊かな文章で綴る。つくづく思うのだが、この時代の人の文章は、どうしてこんなに落ち着いて滋味溢れるものなんだろうか。この文章を楽しめるだけでも、幸せである。

 第一次の越冬隊であるため、全てが手探り。著者は国民に対する責任を意識しながら、山男的な慎重さで着実にこなしていく。到着早々、物資を運びきる前に一部が流失したり、ある施設が火事になったり、トラブルは絶えない。それでも筆者は任務を達成するために最大限の努力をしつつ、生活物資の心配よりも最低限の観測機器すらない状況を憂える。「越冬すること」が目的なのではなく、越冬は手段であり、「観測し、科学的な成果を得ること」が重要なのだ。そのような姿勢に、著者の高い見識がうかがえる。

 ところが第2次越冬隊との交代時に、気象条件の悪化などから、残るはずの第2次越冬隊が退却する事態となってしまう。この結果、あのタロとジロで有名な、犬の置き去りが発生したのだ。

 さて、Wikipediaなどでも、この第2次越冬隊の退却がやむをえないもので、第1次越冬隊が退却するにあたり、犬を鎖につないだまま残してきたように記載されている。
 しかし実際は、第2次越冬隊が甘い準備、判断の結果、紆余曲折を経て交代できずに戻ってきたのだ。著者らの第1次越冬隊は、第2次越冬隊が犬になれていないため、とりあえず鎖につないで引き継ごうとしたにすぎない。また著者らの一部は、このまま残っても良いとまで思い、その主張もしていたが、その提案も却下されてしまう。責任は第1次越冬隊ではなく、安易に引き継げると思っていた第2次越冬隊と日本政府にあったのだ。
 第1次越冬隊は努力と工夫し、初の「越冬」を達成した。それが日本からは、「越冬は簡単だ」と誤解した。パイオニアの成果を見て、「あんなの簡単だ」というのはたやすく、今もそうした風潮は多い。それがどれだけくだらない考えなのか、この時代に明らかになっている。僕たちは学ばなければならない。

 第2次越冬隊とともに退却せざるをえない局面にいたって、筆者の文章から豊かさは失われている。

 ところで、もう10年くらい前に北海道へ出張に行ったとき、北海道大学植物園で野鳥観察して時間をつぶした。そこには小さな展示館があった。まあ北海道ならではの動植物がいるだろう、と軽い気持ちで入り見ていると、思いがけなく犬の剥製があり、「タロ」とある。なんとあのタロの剥製が、北海道にあったのだ。何も知らなかったので、ものすごく驚いた。帰ってから、初めて2匹とも剥製が残されており、ジロは国立科学博物館にいることを知った。会いに行くことは、ちょっとした宿題であった。
 そして昨年、やっと「ジロ」の剥製も見ることができた。
 
2匹とも思っていたよりも遥かに大きく、精悍な犬だった。

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