ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

博物学の時間: 大自然に学ぶサイエンス  

博物学の時間: 大自然に学ぶサイエンス
青木 淳一



自然好きな者の多くは、どうしても資料が溜まってくる。
資料とは、写真・文献だけでなく、実物標本も多い。
素人には必要ないだろうと思われるかもしれないが、
やはりこうした実物標本や資料が手元にあるということは、
その分野について知ろうとする者にとっては、極めて大きな武器となる。

僕は野鳥屋である。
ただ生きている個体を識別するだけでなく、落ちている羽根1枚、古巣からでも野鳥を知り、
その生活について知りたいと思っている。
そのため、特に独身の頃集中して資料を集めた。
現在は剥製標本約50体、そのほか羽根標本がA4クリアファイルで約5冊、古巣が段ボール3箱くらい保管している。文献も多い。

このおかげで、野鳥観察会で野鳥がいなくても、1枚の羽根から解説が可能だ。
また多くの実物標本を用いて、保護を訴えるイベントも行った。

<香川の野鳥を守る会> 野鳥展2005、2008

野鳥展1

野鳥展2
しかしこれらの資料は、僕が死ねば散逸するかもしれない。
どう整理し、残していくかが大きな課題だと思っている。家族は迷惑だろうなあ。
僕などと比較することもおこがましいが、
本書の著者は、そうした自然史研究者として外つの理想的退職を果たした。

著者は、50年間ダニ類の研究を行い、450種の新種を発見。
退職と共に、標本と文献を全て国立科学博物館、横浜国立大学、宮城教育大学に分散して寄贈し、全てを後進に委ねた。現在は昆虫少年に戻っているという。

この見事な引き際の根底にあるのは、
博物学と、収集した自然史標本に対する責任感だろう。見習うべき姿である。

さて、本書の前半では、著者が追求した「博物学」の意義、面白さが紹介されている。

博物学の面白さの一つに、生物分布を通して生物地理学がわかり、
そこから地球の大陸移動や気候変動などのダイナミズムが見えることがあると思う。
そのから逆に、現在の各地の生物相が、如何に重要かが実感できる。

本書では、第2章で命名法、第3章で同定、第6章でそれを分布化する話があり、
完全なマニュアルではないものの、生物地理学に興味がある方には参考になるだろう。

また後半では、ダニ類の研究を半世紀行った著者の研究遍歴が語られている。
どうしても、ある分類群に興味があると、全てをそれで見がちになる。
例えば僕でも、野鳥に対する知識で、ついつい他の生物を類推しがちだ。
しかし、自然はそんなに単純ではない。
異分野の方の研究というのは、そういった自分の思い込みを剥がしてくれるので、
その点でも興味深く読める一冊である。

著者は、「博物学」と言いながら、結局自分の分野だけに特化してしまったと反省しているが、
部分によって、全てを語る良著となっている。
分子生物学といった細部ではなく、昔ながらの動植物研究に興味がある方には、お勧めである。


【目次】
第1章 博物学を楽しむ―大自然に学ぶサイエンス
 博物学とは
 博物学の楽しさ
 役に立たない博物学の意義
 日本の自然
第2章 名前をつける―生物のラベリング
 生物の呼び名
 世界共通の名前、学名
 生物の種数
 生活の中の分類学
第3章 生物を分類する―博物学の仕事
 分類のための図鑑と分類
 種の同定依頼
 新種の発見
 博物館の役割
第4章 生物を採集する―趣味から研究へ
 採集の楽しみ
 子どもの虫採り
 趣味の採集
 アマチュアの貢献
第5章 分布を調べる―生物地理の視点
 生物地理区
 生物境界線
 生物分布図の作成
 垂直分布
 島の生物
第6章 野外へ出る―北のフィールドへ
 美ヶ原で初めての新種発見-1956年 ほか
第7章 野外へ出る―南のフィールドへ
 屋久島の海岸から山頂へ-1974年 ほか
第8章 博物学を伝える―ナチュラルヒストリーの未来
 科学の土台
 標本と文献は国家の財産
 後継者の育成
 分類学者の最期

【メモ】
p12
渡瀬線:奄美大島の北方、トカラ列島の悪石島と小宝島の間
 旧北区系の種の南限
蜂須賀線:沖縄諸島と八重山諸島の間
 動物地理区の旧北区と東洋区の境界
ダニ類の分布でもこの2本が重要である

p43
「博物学、とくに分類学的研究にとって、文献は命である。」

p64
「採集という行為は博物学の入口の扉を開くことであり、出発点でもある。
 その意味からも、子どもたちの採集に対する興味を押さえつけてはいけない。」

p80
ブラキストン線:
 提唱者のBlakistoneの正しい発音に基づき、最近の教科書ではブレーキストン線と表記している

p88
・区画分布図
 緯度・経度を用いた機械的な升目による分布図
 全区画調査を行っていない場合、白抜きの場所は未調査か発見なしか判別できない。

・発見有無分布図
 調査した地点の全てを○で示し、対象生物が発見された地点を●とする。

p103
著者がハワイの博物館に勤務中、5,000mの上空で細かい網による虫の捕獲調査をした。
その結果、小さなカタツムリまで入っていた。
空中に漂っている生物はエアープランクトンと呼ばれる。

p184
自然史標本は文化財の範疇に入らず、文化財保護法の適用を受けない。
東日本大震災では、被災した文化財と自然史標本では、調査や修復に明らかな差があった。

p190
収集した自然史標本
 家族の多くは、当人の研究やコレクションに無関心である場合が多く、生前に寄贈場所を指定して頼んでおかないと、ゴミのように処分されかねない。


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