ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

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炭素文明論 「元素の王者」が歴史を動かす  

炭素文明論 「元素の王者」が歴史を動かす (新潮選書)
佐藤 健太郎



炭素、C。鉛筆でもお馴染みで、ダイヤモンド、炭、石油と、何となく分かっているような気がする物質。

しかし、その原子は単純・安定的であるがゆえに、恐ろしく多彩な化合物になる。
何と、天然又は人工化合物として知られている約7000万以上の物質のうち、
約80%が炭素化合物という。

地球の地表及び海洋での炭素が、重量比で0.08%しかないにもかかわらず、
我々人体の構成元素の18%は炭素。しかも水分を除いた体重の半分は炭素ということだから、
地球生命とは炭素化合物生命体と言える。

本書では、その多彩な炭素化合物について、
その性質はもとより、人との関わり、歴史的変遷なども踏まえて紹介していく。
【目次】を見ていただければわかる通り、
それぞれの炭素化合物はとても身近な物質ばかりだ。
これらがいかに人の歴史に関与したか。

先ほど生化学的な意味で、地球生命は「炭素化合物生命体」と言ったが、
本書によってヒトの歴史も「炭素化合物との関わり史」であることを痛感する。

これほどまでに、ヒトが特定の原子とその化合物に、依存というか囚われた存在だとは知らなかった。
「炭素文明論」という大上段のタイトルだが、それに反しない充実した本である。
世界を見る一つの角度として、本書の内容は押さえておきたい。


【目次】
元素の絶対王者
第1部 人類の生命を支えた物質たち
 文明社会を作った物質―デンプン
 人類が落ちた「甘い罠」―砂糖
 大航海時代を生んだ香り―芳香族化合物
 世界を二分した「うま味」論争―グルタミン酸
第2部 人類の心を動かした物質たち
 世界を制した合法ドラッグ―ニコチン
 歴史を興奮させた物質―カフェイン
 「天才物質」は存在するか―尿酸
 人類最大の友となった物質―エタノール
第3部 世界を動かしたエネルギー
 王朝を吹き飛ばした物質―ニトロ
 空気から生まれたパンと爆薬―アンモニア
 史上最強のエネルギー―石油
炭素が握る人類の未来

【メモ】
p15-16
地球の地表及び海洋での炭素=重量比で0.08%

しかし、化合物を作るという面では恐ろしいほど多彩
天然or人工化合物:約7000万以上 うち約80%が炭素化合物

人体の構成元素の18%は炭素(水分を除いた体重の半分は炭素)

p17
炭素は+にも-にも偏らない安定性を持っていることが決定的に重要
電子に偏りがない:炭素同士で結合してもはじき合わない
最も小さい部類:短く緊密な結合が可能、単結合・二重結合・三重結合など様々な結合が可能

p34
デンプン:水を加えて加熱することで、グルコースの間に水分子が入り込んで膨張する(糊化)。
ex)炊いた米、蒸かした芋
デンプンの鎖が緩んでいるので消化しやすくなる。

火を使った料理のため十分な炭水化合物が得られるようになり、大脳は発達

一方、糊化していないデンプンを消化する能力を喪失。

p43
縄文時代終期:日本の人口は60万人程度→3世紀:250万、9世紀6-700万
ヨーロッパ諸国を上回る人口=米によるもの

p56
ヨーロッパ:中世、トマス・アクィナスが「砂糖は食品でない(消化を助ける薬)」としたため、キリスト教における断食の日にも口にできるようになり、需要増大
一方、サトウキビは寒冷地で育たない=ヨーロッパでは育たない

コロンブスによるアメリカ発見:サトウキビの産地化
ただしサトウキビは土地を痩せされるため、頻繁な植え替え、製糖作業が必要
16世紀半ば
ヨーロッパ→武器→アフリカ→奴隷→アメリカ→サトウキビ→ヨーロッパ
の三角貿易が発達

p66
甘味:人工甘味料の発達
1879.サッカリン 砂糖の300倍 他、ズルチンやチクロ→毒性または毒性の疑い
アスパルテーム 砂糖の200倍
→反対運動:アスパルテームを構成する2つアミノ酸の一つ、フェニルアラニン
 フェニルアラニン:フェニルケトン尿症という遺伝病を持つ新生児が摂取すると知能障害の可能性
 ただし、
 ・フェニルケトン尿症=8万人に1人、埋まりた時に必ず行われる試験で判明
 ・フェニルアラニン:あらゆるタンパク質に含まれる
 ・新生児がアスパルテーム入りの菓子・飲料を口にす可能性がほぼない
現在:スクラロース 砂糖の600倍
2007年に日本でも新認可 ネオテーム 砂糖の1万倍
ラグドゥネーム(未認可) 砂糖の約22万倍

p65
甘味を感じる物質の構造には共通点がない。
クロロホルムやニトログリセリンなども強い甘味があるが、構造の共通点がない。
どういう分子が甘味を感じさせるのか、糖尿病の発症メカニズム、体内での糖の役割も未解明の部分が多い。

p70
香辛料の化学構造;ベンゼン環(いわゆる「亀の甲」)に酸素分子が結合した「フェノール」というユニットを持つものが多い。
これは消毒剤クレゾールなどにも含まれており、香辛料がある程度の殺菌力を持つのも納得できる。

p76
唐辛子:ヨーロッパでは流行らなかった
    アジア 16世紀以降にポルトガル人がもたらしてから流行(インドでもタイでも韓国でも。)

唐辛子:カプサイシン:体内でTRPV1という受容タンパク質に結合→痛みを感じる→熱さを感じる
唐辛子は痛覚と温覚
痛覚→それを癒すため脳内麻薬エンドルフィンが放出→満足感

p80
麻薬分子はカギとなる窒素原子を持つが、香辛料の分子はこれがない。
よって香辛料が強い向精神作用を持つとは考えられない。

p94
グルタミン酸は重要な神経伝達物質であり、この化合物がなければ人間は記憶も学習もできない。

p95
グルタミン酸は長らく欧米科学者からは「無味」とされていた-
欧米人が常食する肉などのうま味はイノシン酸(日本のダシに当たるブイヨンもこれ)。
欧米人はこれに慣れていた。
イノシン酸はグルタミン酸と一緒に口に入れると相乗効果があり、うま味を極めて強く感じることができる(昆布+鰹節は理に適っている)。
この作用があったため、欧米人は「グルタミン酸は他の味を変えるだけの物質であの、単独の味覚ではない」とされていた。
2000年、マイアミ大がグルタミン酸の受容体が舌の味蕾にあることを発見し、ようやく基本味であることが確定した。

p104
ある種のアルカロイドが毒になる理由
アルカロイドは窒素原子を含み、これはタンパク質と結合しやすい。運悪く生体に不可欠なタンパク質に結合した場合、その働きが阻害され、最悪死に至る。
ex)ストリキニーネ 脳内のグリシン受容体というタンパク質に結合し、中枢神経を異常に興奮させ、痙攣や呼吸麻痺を起す。
一方、窒素原子を含む化合物の多くはアルカリ性を示し、これを生態は苦みとして受け取るよう進化した。
アルカロイドの分子構造は千差万別だが、その多くは苦く感じられるから、これは理に適っている。

p123
コーヒー、紅茶、緑茶、コーラに共通するもの カフェイン
チョコレートにもカフェイン

p126
普段からカフェインを摂取していると、脳内のカフェイン受容体が増える=慣れる
初めてカフェインを摂取すると強い心拍上昇や血圧上昇があるが、それが次第に収まる。
カフェインが入るのが遅かった欧米では、今もカフェイン耐性が低い人が少なくない。
=カフェイン抜きコーヒーの普及

p130
カカオは、カフェインとわずかに構造が異なるだけの化合物テオプロミンを多く含む。その作用はカフェインより弱いが、一緒に摂取すると相乗作用がある。

p142
尿酸=痛風の原因
多くの哺乳類は尿酸を分解する酵素を持っており、痛風という病気は存在しない。
霊長類と鳥類、一部の爬虫類だけがこの酵素を失っている。理由は不明。
なお鳥は白い糞として尿酸を排出している。

p157
エタノールは興奮性の物質ではなく、いわゆる「ダウナー系」の薬物。
酒を飲むと人格が変わるのは、興奮して人格が変わっているのではなく、
本性を隠す能力が弱まり、本来の姿を出している。
「酒が人間がダメをするんじゃない、人間はもともとダメだということを教えてくれるものだ」立川談志

p162
高濃度の蒸留酒は悪条件でも保存がきく。大航海時代に船によく積まれた理由。

p164
新大陸でのサトウキビ栽培=砂糖の廃液(糖蜜)から作った酒がラム酒
「喧噪」を意味するイギリスの方言「ラムバリオン」(ルンバの語源でもある)から

p176
ニトロ基(-NO2)を含むニトロ化合物/火薬等

p188
より多くのニトロ基を狭い空間に詰め込むへく、スパコンで分子設計・結晶化法が研究されている

p192
空気中の窒素個体反応
1 稲妻により窒素分子を破壊し、酸素と結合させる
2 マメ科植物の根の特殊な細菌 これが持つ酵素ニトロゲナーゼが窒素分子をアンモニアに変換する

p195
1856年 アメリカ
「グアノ島法」アメリカ市民なら誰でも、グアノのある島を発見すれば領有権を主張してアメリカの領土にできる法律
ウェーク諸島やミッドウェー島などの太平洋の島々がこれにより領土化

p201
窒素不足の危機→食糧生産の危機
1913年 ハーバー=ボッシュ法 アンモニア合成プラント 人工窒素固定の装置
我々の食料に含まれる1/3の窒素を供給している
これが無ければ食糧増産は不可能だった
1918 ハーバー、1931ボッシュ ノーベル賞受賞

p204
ただし、ハーバー=ボッシュ法は恐ろしくエネルギーを消費する
原料の水素生産にもエネルギーが必要
→膨大な二酸化炭素排出

p205
リン不足 DNAやRNA合成に不可欠
島国ナウル リンを産出 21世紀に枯渇し暴動発生、一時は国ごと音信不通になった
このままだと2060年頃リン枯渇 

p216 
炭素 1つ メタン 都市ガス
炭素 3-4 液化石油ガス(LPG)
炭素 5-10 ガソリン
炭素 11-15 軽油
それ以上   重油
残油 アスファルト

石油は多くの成分に分けられ、それぞれが無駄なく利用できる理想的な資源

p218
石油:有機起源説と無機起源説 未だ由来不明
無機起源説:ロシアのドミトリ・メンデレーエフ
地球生成時に閉じ込められた炭化水素が変成したもの
この場合、想定よりも多く、地球深部から湧き出していることになる
・枯渇した油田を放棄していると再び湧くことがある
・産地による組成がほぼ一定
・生物とは無縁と思える超深度でも原油がある

p221
シェールガス:頁岩と呼ばれる粒子の細かい岩石に天然ガスが含まれている
世界の需要の300年分

シェールガス 炭素1:水素4 二酸化炭素排出量 石炭の55%
石油 炭素1:水素2 二酸化炭素排出量 石炭の80%
石炭 ほとんどが炭素

アメリカでシェールガス増産→中東の天然ガスが余剰→3.11後の日本が買い付けしている
3.11以前 天然ガス3割→ 3.11後 天然ガス5割

p231
現在の太陽電池:ケイ素結晶を用いる
フラーレン(炭素60個のサッカーボール型形態)を用いる→薄くて軽く、印刷するように生産できる 研究中

1991年 飯島澄男 カーボンナノチューブを発見
あらゆる原子結合中最強

p244
オーランチオキトリウム 1/1000mmの藻類
2009年 筑波大学 渡邉信教授 沖縄で発見
炭素化合物を食い、スクアレンを作る
スクアレン=炭素30個を含む炭化水素、本質的には重油と変わりない

適切な環境なら4時間ごとに倍増する



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category: ノンフィクション

thread: 読んだ本の紹介 - janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 2

コメント

コメントありがとうございます。

炭素を巡る技術発展や、生命との関わりに関する研究など、これからも面白そうですね。

BIRD READER #aYDccP8M | URL
2016/12/12 19:49 | edit

ピストンピンでの変化点

 日立金属の久保田博士は機械工学を揺るがす炭素結晶の競合モデルを発表した。
このインパクトはとてつもなく、自動車部品業界が特殊鋼業界を情報で操る時代を
終焉させるだろう。

フリクションインパクト #- | URL
2016/12/11 20:50 | edit

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