ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

人類とカビの歴史 闘いと共生と  

人類とカビの歴史 闘いと共生と
浜田信夫



梅雨を経て、カビの季節である。
風呂場や洗濯機でカビと戦っている方も多い。正直なところ我が家もそうである。
わりと高頻度で掃除をするのだが、いつのまにかヌメッと発生している。もちろん手が付けられないような状況ではないが、汚れているだけで嫌ではないか。

ただ、そもそもがカビって何だ、と言われるとよく知らない自分がいる。
カビはカビだ、と言ってしまいそうだが、菌類? コケ? 
その正体を知れば、より適切な対処も可能となるだろう。
そこで見つけたのが本書である。
と言うもっもともらしい弁明をしたが、正直変な生き物好きの血が騒いだだけである。

さて、本書はカビ研究者が、特に身近な環境におけるカビについて、
それぞれの特色・生態・対処法などを説明している。
既に発生したカビ除去に役に立つかというと、そういう効果は少ないだろう。
しかし、
それぞれの環境の「何が」カビから見て「生息に適した環境なのか」、
そして、それによって「どんな特徴のカビ」が発生するか、
また、どんな状況になると「成長が促進されるか」、が示される。

これは裏返せば、予防策になりうるだろう。
また、
なぜ柑橘類にカビが生えやすいかという生態的側面から、
つい民間療法的に信じてしまそうな「カビ退治に酢」という方法は、
実は無意味であることを説明する。
こうした論理展開は、研究者ならではであろう。

僕としては、風呂場に生じる赤っぽいヌメリ、カビが、紅色細菌や赤色酵母である、と正体がわかったことが収穫であった。
本日も「このカビめ」ではなく、「この赤色酵母め」と、適切に戦ったところである。


【目次】
第1章 カビとは何か
第2章 食品とカビ
第3章 住居とカビ
第4章 カビと健康
第5章 カビと人の関わりの変遷

【メモ】
p9
カビは呼称であり、学術用語ではない。
同じ菌類のキノコの仲間にも非常に小さいものがあり、どこからカビかも明確できない。
菌類は、胞子を大量に作り、菌糸と呼ばれる一般に長い糸のようにつながった細胞でできている。

カビ、キノコ、酵母では、細胞の大きさに大差はない。
ただし一般に、酵母の細胞は糸のようにつながっておらず、増殖しても球形の粘性のある固まりになる。
酵母もカビとは深い関連があるが、発酵など実用面で重要なものが多いため、カビとは区別されている。

p19
カビはいずれも好気性の微生物。
また、10℃以上ならほとんどのカビが生息する。30℃を超えると生息が鈍る。
なお50℃を超える環境で良く育つものを好温菌という。
缶詰は空気をなくすことで、好気性のカビが生えないようにしている。

p20
柑橘類にはアオカビが良く生じる。
カビと細菌は生存競争にあり、酸性の柑橘類では細菌が育ちにくいため、カビが勝つ。
pH5以下の酸性条件では、細菌の増殖が抑えられる。しかしpH2くらいのレモンソーダでもカビは生息できる。

p22
カビ臭の成分として、ゲオスミン、2メチルイソボルネオールなどが知られている。
これらの成分は多くのカビが生産し、ごく少量でもヒトが感知できる。

p27
粘菌は人の筋肉と同じタンパク質を大量に含んでいる。
ATPを使い、菌体内のアクチンとミオシンの伸縮作用によって動いている。
粘菌は世界で約1000種。

p36
食品汚染が問題となる現在、カビの種類がわかれば汚染された地域がわかると思う人が多い。
しかしカビは世界共通で、ある地域固有のカビは非常に少ない。
また十分な調査もなされていない。
ただし成長具合から、汚染後の経過日数はだいたいわかる。

p47
昔、餅にカビが生えるのを防ぐため、冬の間に大きな樽に塩水を入れ、モチを浸けていた。
水が汚れると取り替える。
こうして10月まで食べることができたという。

p51
ブドウの表面には他の果実よりも多い野生酵母が付着している。ブドウが偶然つぶれて果樹が出ると、アルコール発酵が始まる。これがワインの始まりと考えられる。
紀元前6000年前のシュメール。腐りやすいブドウを保存するため、アルコール発酵させていた=ワイン。

p53
日本酒では、コメの主成分であるデンプンをカビによって分解してブドウ糖にし、その後酵母で発酵させている。このような醸造はアジアに多い。
日本酒ではデンプンの分解(糖化)と発酵を同時に行う。
ヨーロッパでは、大麦を発芽させた麦芽をまず糖化し、その後発酵させてビールやウイスキーを作る。

p59
プーアル茶:紅茶を多湿状態にして、カビの発酵作用によって作る。

p60
カワキコウジカビ:好乾性のカビ
カツオ節の生産に用いる。
煮立てたカツオを断続的に12回程度乾燥(焙乾)し、天日干し。水分量25%程度。
これを整形したのが裸節、削ったのが花カツオ。
その後、「カビ付け」し、生えたカビを取り除くことを3-4カ月間に3-5回繰り返す。
水分量15%程度ねタンパク質はアミノ酸に分解され、うまみ成分のイノシン酸が作られる。

カワキコウジカビによってアミノ酸が生じ、同時に脂肪が取り除かれる。
発酵学者:小泉武夫
「カツオ節が油の出ないだしだからこそ、日本料理は繊細になった。」

p75
洗濯機のカビ:
水道水=塩素殺菌されている。
風呂水=胞子が発芽して成長し、成熟して再び胞子ができるまで3日以上かかる。これほど長く残り湯はためていない。

p82
一般のカビは合成洗剤(界面活性剤)を栄養にできないが、スワレコバシディウムは可能。
このような特殊なカビが洗濯機で増殖している。

p84
欧米では約60℃の熱水を用いて選択するため、カビは発生しなかった(ただし近年の省エネ傾向から、今後は増殖する可能性がある)。

p87
洗濯機に対する「酢」によるカビ除去も、カビが酸性食品にも生えるように、効果は疑問。

p88
洗剤等の泡がたまった部分にカビが多く生じているので、
洗濯機のカビ取り剤を使うときは、いつもの水量より多く水を入れる必要がある。

p96
エアコン内部にカビが多いと、つけた直後に多くカビの胞子が放出される。
使用直後には窓開けすることが簡単かつ有効。
なお、フィルターが元凶と思われているが、実際にどこに多いかはまだ不明。
ただし熱交換器付近に多いことは確か。

p98
エアコンのカビが成長するのは、内部が結露したとき。
内部が結露=使用し、電源を切ったあと。

p106
熱めのお湯(45℃程度)を使って風呂掃除を繰り返せば、効果的。
※なおかなり厚いと、配管やパッキンを傷それがある。

p108
風呂のピンクのぬめり=紅色細菌や赤色酵母。
赤色酵母は汚れなどの栄養がないと、色がつかない。
よってピンクの場所だけでなく、その周囲も取り除く必要がある。

またユニットバスでは、クロカワカビが少なく、エキソフィアラやスコレコバシディウムなど、界面活性剤を好むカビの比率が高い。

p114
シリコンの黒いカビ:フォーマというカビ。
丸い壺状の子実体の中に胞子を持つ。
この子実体は次亜塩素酸に対して抵抗力があり、塩素系カビ取り剤に強い。

p128
古文書などの黄色い斑点:フォクシングfoxing現象
好乾性カビのカワキコウジカビやA.レストリクタスなど。

p134
室内の湿度が高いとカビが生えるというが、水蒸気は水の代用ではない。
カビは水蒸気を生育に利用することはできない。
実際は、それが結露することによってカビの生育を促す。

p145
最も毒性の強い天然毒の一つ=アフラトキシン
コウジカビ属のA.フラバスが作ったカビ毒
ただし、ナッツ類に感染すると大量にカビ毒を作るが、
穀物では少量にしかつくらない。また株によって生産量も異なる。
厚生労働省の検疫では、アフラトキシンの検査も行われている。

p210
スリランカ:19世紀半ばにはコーヒーの産地であり、イギリスに大量に輸出されていた。
しかし19世紀末にサビ病菌というカビによって全滅し、代用品としてお茶の木を栽培するようになった。

p230
歴史的に最も古くから知られていたカビ毒=麦角
ライ麦などがC.プルセアという菌類に侵され、黒い爪のような菌体が穂のあちこちから出る。
これを食べて起こるのが麦角中毒。

流産や、「身を焼かれるような痛み」という。
中世ヨーロッパ各地で、多くの幻覚を伴う患者・死者が出た。
また、幻覚症状が出た患者を魔女と勘違いしたケースもあった。
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