ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

鳥・人・自然 いのちのにぎわいを求めて  

鳥・人・自然
樋口 広芳



野鳥の識別は、始まりである。
以前はここから、どれだけの種を見たか、という方向へ進む人が多かったが、
最近はデジタル光学機器が普及したので、多くの人が撮影種数の増加を求めているようだ。

しかし、いずれにしても種数の増加である。
もったいない。

野鳥は我々人間にもっとも身近なところに住む野生生物であり、
かつ多くは昼行性であり、
さらに人間と同じく見た目と音でコミュニケーションをとる。

言い換えれば、最も人間が見やすく、情報が得やすい野生動物なのだ。

そのくせ、哺乳類とは全く異なる形態・生態。

知れば知る程不思議な生き物である。
それを、種名だけ覚えておしまいとは、もったいない話である。
ぜひ、様々な調査・研究結果を読むことをお勧めしたい。
そうすると、目の前の野鳥が、「被写体」から「生き物」に変わるはずだ。

さて、そうした調査・研究結果には様々な良書があるが、
本書は日本を代表する野鳥研究者の一人でもある、樋口広芳氏による、
樋口氏の研究結果の入門書というか、ガイダンスである。

樋口氏は現在は慶應義塾大学大学院に勤務されているが、
2012年に東京大学を退官されている。
その最終講義を踏まえて、それまでの研究生活や研究結果についてまとめたのが本書である。
樋口氏の研究のアウトラインを知ることができるとともに、
巻末に収録された参考文献によって、より深く進んでいくこともできる。

また、第一線の鳥類研究者の状況を知る、という点でも、学生には興味深い一冊となるだろう。

さて、様々なトピックが掲載されているが、何といってもリアルタイムで面白いのは
渡るワシタカ類・ハチクマの衛星追跡結果である。

2012年の秋の渡りからインターネットで公開されており、
「HACHIKUMA Project 2012」http://hachi.sfc.keio.ac.jp/
4羽のハチクマの移動状況が具体的にわかる。

図鑑や書物、また国内での観察などで、鳥類が海外まで渡っていることはもちろん理解しているが、
こうして地球儀レベルの移動を細かくリアルタイムで見ると、
やはり驚かされる。
また同時に、無事通過できているだろうか、という心配も発生する。

こうした驚き・不安を4羽のハチクマから感じること、
それはこの4羽が通過する国々の人々も、同じように感じている。

p179
「同じ鳥たちの渡りの様子を異なる国や地域の人たちが見る。ちょっと不思議で、なんともうれしいことである。」
p180
「渡り鳥は、ほんとうに異なる国や地域の人たちをつないでくれている。」

こうした思いを共有できること。幸せなことである。

ぜひ、本書を紐解くか、
上記ホームページを一度ご確認いただきたい。




【目次】
はじめに
第1部 鳥との一期一会
第1章 日々のくらしの中で
第2章 日本と世界の片隅で
第2部 鳥のくらしと人のくらし
第3章 人慣れスズメ、急増中―出現の記録とその背景
第4章 鳥たちの貯食
第5章 カラスと人の地域食文化
第6章 島の自然と生きものの世界―三宅島とのつき合い
第7章 放射能汚染が鳥類の生活に及ぼす影響―チェルノブイリ原発事故二五年後の鳥の世界
第3部 世界の自然をつなぐ渡り鳥
第8章 渡り鳥の衛星追跡
第9章 鳥の渡り衛星追跡公開プロジェクト
第4部 鳥・人・自然
第10章 これまでの研究生活を振り返って
第11章 若き日の「恩師」、エルンスト・マイヤー
第12章 日々のできごとの中の鳥や自然
おわりに

【メモ】
p42
カラ類の貯食:ヤマガラ、ヒガラ、コガラでは普通に見られるが、シジュウカラはしない。
ただし、他種が蓄えたものを盗むことはする。
カラス類の貯食:ハシブト、ハシボソともに貯食するが、ブトはボソが隠したものを盗むこともする。

p46
ハシボソガラスの貯食:長野・善光寺・後藤二花氏の調査
パン、ソーセージ、クルミなど様々なものを与えた場合、腐りやすいものは半数以上が隠したその日に食べられ、残りもじきに食べられた。クルミなどは10日以上、場合によっては2カ月も保存された。腐りやすいものとそうでないものを識別している。

p47
ヤマガラ:エゴノキの実などを食べる際、外側の柔らかい果皮を取り除き、種子を取り出す。
これによって、貯食された際の発芽率が上昇していると考えられる。
実験的に果皮を除いた種子:発芽率36%、果皮を待越した種子:発芽率4%
またヤマガラが貯食するのは、種子が乾きにくく、他の植物があまり生えていない崖などの急斜面。これも発芽に適した場所。

p53
ハシブトガラスはビワが好き
6月、東京、ビワの実が熟すと多くのハシブトが集まる。
中の種子は吐き出す。=種子散布に役立っている。
p55
西日本、特に瀬戸内海の島々では、栽培されたビワがカラスによって種子散布され、野生化しているところが多いらしい。

p64
千葉県松戸市のカラス:石鹸を持ち去り、齧る。
ある幼稚園では3-5週間で、屋外の洗面所から60個が盗まれた。
隠した石鹸は貯食されていた。牛脂、ヤシ油、オリーブ油などの動植物油脂から作られるため、この油脂分を好んで食べているらしい。
石鹸齧りは他に、東京、神奈川などでも観察されている。

京都市の神社:ハシブトがロウソクをかじる。火が付いたものでも齧り取る。

p72
カラスの食文化では、環境条件が整っているすべての地域で同じ食文化が見られるわけではない。
クルミ割り行動にしても、能力や関心をもつ個体がいる地域で初めて発達するらしい。

p74
高いところから物を落とす行動:ハシボソしかしない。
食性はかなり重複するが、ブト:より肉食で、草の実よりも木の実を好む。

p78
仙台市でのクルミ割り行動:17地点で見られたが、最も古い記録は、1975頃に花壇自動車学校で見られた。
以降、ここを中心に同心円状に拡大している。
30-40年前には自動車学校周辺にクルミの木があったらしいことから、
まずここで落ちたクルミを割る自動車の関係に気づき、それを利用する個体が生じたと考えられる。

p87
本土のヤマガラ:6,7個の卵/2週間程度の育雛
三宅島のヤマガラ:3,4個の卵/6-8週間程度の育雛

三宅島は1年中温暖なので、冬に死亡する鳥が少ない一方、春になっても昆虫が多く発生しない。
よって少なく生み、大事に育てる方向に発達したと考えられる。

p106
チェルノブイリの高濃度汚染地域でのツバメ:
血液や肝臓中のカロチノイドやビタミンA、ビタミンEといった抗酸化物質が減少。
抗酸化物質の減少=雄の精子異常や部分白化などの原因。
部分白化個体:10-15%の増。
部分白化個体=つがい形成率が低い。

また、
白血球数、免疫グロブリン量の減少、脾臓容積の減少も見られる。
=免疫機能の低下。

また、一腹卵数や孵化率も減少。

p108
特に、土壌中の無脊椎動物を主食にしている鳥の減少が著しい。
また57種を調べた結果では、
長距離の渡り・分散をする種、大卵多産の種、カロテノイドによる羽色を持つ種などで減少が著しい。

これらの鳥は、移動、卵生産、色素形成などに大量の抗酸化物質を消費するため。


p120
太陽電池式のアルゴス・GPS送信機でも、市販の最軽量のものは20g程度ある。
小型~中型のシギやタカ類などにはまだ装着できない。

p121
マガモの衛星追跡の結果図を掲載。
p123
オナガガモの衛星追跡の結果図を掲載。

p133
ハチクマの春・秋の追跡結果(2003-2009)を掲載。

p140-
鳥の渡り衛星追跡公開プロジェクトの紹介




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