ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

文化遺産の眠る海 水中考古学入門  

文化遺産の眠る海 水中考古学入門
岩淵 聡文




クライブ・カッスラーに、「タイタニックを引き上げろ」というのがある。
この物語は映画にもなった。
以降に続くダーク・ピットシリーズは、水中に沈む歴史遺産をシリーズの柱、物語の発端として、である。
それを発見し、それにまつわる謎を解く。
その過程で世界的な陰謀に対峙するという、冒険小説の王道として、とても楽しいものである。

著者のクライブ・カッスラー自身、私費でそうした研究所を作っていたし、
水中考古学とは発見し、引き上げ、研究するものだと思っていた。

しかし、違う。

現在は「原位置保存」が原則であり、引き上げずにその場で研究すべきだ、ということになっているという。
さらにユネスコの「水中文化遺産保護条約」というものが存在し、
水中文化遺産の保全方法と研究方法のガイドラインも示されている。

まだ多くの大国は批准していないとはいえ、これが適用されると、
日本が水没した第二次世界大戦中の日本軍の艦船から遺骨を収集することができなくなる。
一方で、日本近海で外国起源の水中文化遺産が発見された場合、現在の体制では、その調査に日本が参加できないばかりか、当該地域での海底資源の探索がストップする可能性もあるという。

まだまだ水中考古学というジャンルはメジャーではないが、
おそらく10年後、20年後には、特に中国・韓国と、この分野での軋轢が生じるだろうことは、想像できる。

「水中考古学入門」というタイトルだから、発見の仕方、調査の仕方などの体験談と思っていたが、
全く違った。
ほとんどの日本人が知りもしない「水中考古学」という学問が、現在どのような状況にあるかという「入門」である。
そしてそれは、日本の国益に直結する問題であり、漫然と構えて良い問題ではない。

啓蒙、という言葉があるが、まさに本書は蒙を啓くものである。
願わくば、社会的に影響力のある層に届き、
しかるべき対応策が講じられることを願う。

でなければ、
例えば昨年も鎌倉時代の元寇の沈没船が発見されたが、
その海域で中国が調査するから日本人は近寄るな、という時代になりかねない。


【目次】
第1章 水中文化遺産と水中考古学
第2章 水中文化遺産は誰のもの?
第3章 水中考古学の方法
第4章 世界の水中考古学
第5章 日本の水中考古学

【メモ】
p34
11c頃 北欧のヴァイキングは北アメリカ大陸に到達していた。

新設:
明代の1405-1432年まで、数回にわたり大船団を率いて中国から東南アジア、中近東、アフリカを訪れた鄭和が、その分遣隊をアメリカ大陸やオーストラリアに派遣したとのことである。
→出典は? また方向も全く違うが?

p37
昔の船の構造はよくわかっていない。
遣唐使船の実態はわからないことだらけ。
全長30m弱、150人弱が乗り込む大船というのが定説だが、もう一回り小さいという説もある。

p45
世界各国は、海の文化遺産の問題に真剣に取り組んでいる。
「海洋法に関する国際連合条約」やユネスコの「水中文化遺産保護条約」が、水中文化遺産の保護を前面に打ち出し、さらに、その文化遺産の文化上、歴史上、考古学上の起源を有する国の権利を明文化したため。

もし海底資源の近くで水中文化遺産が発見されれば、水中文化遺産保護条約の義務によって、
その起源国に優先的権利が生じ、その海底資源探査は中止となる。さらに、起源国の意見を聞きながら調査しなければならない。

日本では水中文化遺産の専門家がいないため、他国(起源国)の水中考古学者が調査することになり、
その学者が調査に50年必要といえば50年間を与えなければならない。

こうした状況をふまえて、各国は水中考古学者の育成をしている。

p69
水没して100年以上たてば「水中文化遺産保護条約」の対象となる。
この条約では原位置保存が原則なので、
沈没船等の引き上げは、その理念に反する。


原位置保存が原則となったのは、潜水技術が進歩したため。
もし引き上げるとすれば、それをそのまま保存できるような大規模な施設が必要。

p76
「水中文化遺産保護条約」
2009年にユネスコ加盟国中20ヶ国の批准をもって発効した。条約の採択から8年後。
2011.8現在の批准国は36ヶ国で、承認国は4ヶ国。
大国としてはスペイン、イタリア、メキシコなど。
日本、韓国、ドイツ、カナダ、オーストラリアはもとより、国連の常任理事国で批准している国はない。
アジアではカンボジアだけ。
このままでは、アジアの中心はカンボジアになる。

先ほどの優先権利の問題もあり、なかなか批准しない。
ただし、韓国、知友語句、スリランカなどでは水中考古学研究所や博物館の整備が進んでおり、
将来の批准を見越した条件整備という見方もできる。

p81
日本、1996年に「海洋法に関する国際連合条約」に批准し、
2007年に「海洋基本法」を制定した。
しかしこの法律では、文化遺産は完全に抜けている。

p88
2045年問題
太平洋戦争中に沈んだ日本の軍艦などが、
「水中文化遺産保護条約」の対象となる。(水没後100年経過)
この対象になると、日本による遺骨収集も
原位置保存の原則に反し、
条約違反となる。

p167
中国はまだ「水中文化遺産保護条約」に批准していないが、海洋政策の中心の一つに水中文化遺産研究を打ち立て、自国の沈没船が存在する他国の領海についても一定の発言権を持つという立場を明確にしはじめている。

このままでは、日本の領海内にある中国起源の水中文化遺産の発掘は中国の水中考古学者が担当し、
日本はそれを見学するだけ、ということになりかねない。
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