ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

NHKスペシャル 日本列島 奇跡の大自然  

NHKスペシャル 日本列島 奇跡の大自然
NHKスペシャル「日本列島」プロジェクト



外来種の鳥に、ソウシチヨウというのがいる。
日本ではペットや動物園の展示のために移入されてきたが、
それらが逃げ出し、全国各地で繁殖している。
また香川県では他に、ハッカチョウという外来種も分布を広げている。

ただ、スズメだって農耕にあわせて移入してきたものだから、
「外来種」という括り方に対して、それが「いつの時代か」を問い、
そもそも全部外来種だ、と極論を言う人もいる。

そうではない。

外来種とは、「人間が直接関与する以外に、存在する必然性がない種」だ。
農耕という環境の改変によって侵入してきたもの。
また恐らく今後、温暖化によって侵入してくる南方種も多いだろう。
そういうものは、その侵入速度がどんなに早くても、それが入り込むニッチが生じた結果だから、
外来種ではない。

しかしソウシチョウやハッカチョウは、人間が持ち込まなければ、現在も存在していない。
入り込むべきニッチは生じていないからだ。

在来種とその環境は、ニッチという設計図に従い、
長い歴史によって組みあがった構築物のようなものだ。
無理やり柱(外来種)を入れことは、本来できない。

しかしそこに無理やり侵入するのだから、
在来種や在来の環境に対して影響を及ぼすのは当然だ、と言える。

さて、「恐竜絶滅 ほ乳類の戦い」のレビューで、
「この地球の歴史を見ると、ヒトが進化したのは奇跡的に様々な偶然が組み合わさった結果であり、
また他の生物も、その歴史の上に現在存在していることに気づかされる。」
と書いた。

本書ではその対象を日本列島の自然とし、次のように伝えたくなる。
「この地球の歴史を見ると、日本列島の自然が現在の多様性をもっているのは、
奇跡的に様々な偶然が組み合わさった結果であり、
また日本に存在する生物も、その歴史の上に現在存在していることに気づかされる。」

なぜ乾燥しやすい中緯度地方にあって、日本だけが多雨多湿なのか。
なぜ日本は温暖なのか。
なぜ日本の樹木は様々な樹種によって構成されているのか。
なぜ日本近海に魚が多いのか。
なぜ日本のサルは北限なのか。
なぜ日本に固有種が多いのか。

こうした様々な疑問に対して、的確にこたえることは難しい。
しかし本書によって、
「それは疑問は地形的な偶然と、氷河期を通じた歴史的な偶然のためだ」、と答えることができる。

例えば「雨の日は森へ -照葉樹林の奇怪な生き物-」(レビューはこちら)
でも触れられていたが、氷河期に照葉樹林が残ったレフュージアが存在したこと。
それがサルや、様々な固有種にも影響している。

再確認するが、日本に存在する生物は、全て歴史的な偶然によって構成された、必然的存在なのだ。

だからこそ、外来種は認められない。
また急速な人間活動による環境改変は、
その偶然の連鎖を断ち切ることになる。
だからバランスが崩れるのだ。

春には里山でウグイスがさえずる。
それが日本の春だったはずだ。
しかし現在、ソウシチョウの声が響く山が増加している。
僕らの次の世代も、春にウグイスの声を当たり前のものとして聞く権利はあるはずだ。


人間は、膨大に時間の積み重ねをカバーすることなどできない。
だから、
次の世代にこの日本の自然を残していくことを義務として、
あるべき自然を、あるがまま残していきたいと思う。

さて、本書は「恐竜絶滅 ほ乳類の戦い」(レビューはこちら)とともに、NHKの番組のノベライズ。
とは言っても、番組をふまえて「恐竜絶滅」が解説書としても十分な量を持っている一方、
本書は番組の雰囲気をそのまま本にしたような、見て楽しむ一冊ともなっている。

ただ章末には、番組で取り上げられたテーマの研究者による概説が収録されており、
単なるビジュアルを楽しむ本ではない。

読みやすく、日本の自然のかけがえのなさに気づかせてくれる、良い本である。

なお、DVD、ブルーレイもある。
NHKオンデマンド(http://www.nhk-ondemand.jp/)では、有料視聴も可能なようである
(「日本列島 奇跡の大自然」で検索)。


【目次】
第1章 森―大地をつつむ緑の物語
 ヒマラヤの雨が作った森
 山と海が守った紅葉
 激動の大地が生んだ固有種
 雪の森が呼んだ北限のサル
 日本人が生んだ「赤とんぼ」
第2章 海―豊かな命の物語
 海流が作り出す七色の海
 生きものたちを引き寄せる巨大な渦
 日本海を支える無名の魚
 はるか大陸から続く鉄の道
 温暖化と海

【メモ】
p18
日本の降水量は平均1800mm/年。同じ中緯度に多く存在する乾燥地帯の7倍以上。

偏西風
冬:ヒマラヤ・チベットが冷やされるため、南のインド亜大陸と大きな温度差が生じる。
偏西風は温度差の大きいヒマラヤの南を通る。
夏:乾燥したチベット高原の温度が上がるので、チベット高原とシベリアの間で温度差が生じる。
偏西風は温度差の大きいチベット高原の北を通る。

移動の途中、偏西風はヒマラヤで南北に分かれる。
この時、ヒマラヤの南を通る偏西風が、インド洋の水蒸気をたっぷり含んだ空気を含み、さらに太平洋に差し掛かった時にも水蒸気を含む。これが日本に梅雨をもたらす。

梅雨の時期に衛星画像を見ると、ヒマラヤから日本にかけて雲が連なっていることがある。

p31
紅葉
ふだんはクロロフィル(緑)とカロチノイド(黄色)がある
秋、クロロフィルは寒さで壊れる


秋、葉と枝の間に壁(離層)をつくり、葉に残されたでんぷんが分解されるとアントシアニン(赤)ができる種
→紅葉

アントシアニンができない種
→黄葉

p32
日本は樹木の種類が多い
ex)カエデ
日本:26種 ヤマモミジ、ウリハダカウデ、イタヤカエデなど
北米:13種 サトウカエデなど
ヨーロッパ:13種 ヨーロッパカエデなど

様々な樹種があるため、秋には紅葉・黄葉が入り乱れる
外国では単一種なので、単一の黄葉などになる

・なぜ日本に樹木の種類が多いか?
p38
氷河期、日本では落葉広葉樹は対馬海峡付近を除いたほぼ全域の海岸で生き延びた。
また地形が複雑なため、内陸にも残った部分があった。
これらが多様な樹種を生きのびさせた。

ヨーロッパ:氷河期、厚い氷河に覆われた

p46
日本は固有種が多い
哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類をあわせると
日本:131種
ガラパゴス諸島:110種
イギリス:0種

ガラパゴス…一度も大陸と繋がったことがない。よって、流木や飛んできたものが先祖種となったため、
そもそもの種が限られている

日本:ユーラシア大陸と地続きになったり離れたりした
   氷河期に落葉広葉樹林が残った
   最終的に島になった

ヨーロッパ:氷河期、厚い氷河に覆われた

p62
「厩ザル」馬や牛などの家畜の安全・健康祈願のため、ニホンザルの頭骨が祀られていることがある
長野、岡山、熊本などで約80例発見、かつては日本全国にあったと思われる

厩ザル含めて全国135箇所のニホンザルの遺伝子を調査した結果:
53のミトコンドリア遺伝子タイプ
関東以南:様々な遺伝子タイプ→歴史が古い
福島~下北半島:2箇所を除き、全て同じタイプ→東北地方は定着してから歴史が浅い

p69
化石を踏まえると、
氷河期終了後、わずか数千年でニホンザルは兵庫県あたりから下北半島まで拡大した

p70
日本へのニホンザルの祖先の侵入:約43-63万年前
南緯30-35度までしかサルはいないが、
ニホンザルは北緯40度を超える地域に住む

53タイプの詳細
・西日本と東日本の2グループに分かれる
 酒井は兵庫県と岡山県
 西日本の起源は古く、東日本は新しい
・東日本は多様性が少ない
・白神山地、津軽半島、下北半島に至る奥羽系のグループ
・北上山地の北上系のグループ→現在は岩手県南部の五葉山しか残っていない
 (京大霊長類研究所准教授川本芳)

p78
アキアカネが夏に山地に移動する理由:有力なのは避暑説
アキアカネの祖先は寒い地域に住み、氷河期に南下したため寒さに適応したトンボのため、
平地の夏は暑すぎるというもの。
また夏の山頂には虫が多い。
アキアカネは山に来て1カ月で、体重が2-3倍になる。

p87
日本のサンゴは世界北限。
日本でのサンゴ:約400種
世界最大のサンゴ礁、グレートバリアリーフに匹敵

サンゴの宝庫である赤道付近の海域を流れる暖流が、様々な種類のサンゴを運んできたため

p94
日本近海は温度差が激しく約20℃、世界でもほとんど例がない。
太平洋で比較すると、アラスカ-ハワイの温度差に相当する。

3万4000種にのぼる世界一多くの生き物が日本の海にすむ。

p110
日本海海底には、膨大な数のキュウリエソ(体長4-5cm)が生息している。
海底近くの水深250mは約1℃、他の海に比較してはるかに冷たい。
太平洋では3000mの深海に相当。

氷河期に日本海の水位が下がり、貧酸素となり、大多数の生物が死滅。
後に水位が上昇しても温度が低く、そこに進出できたのは
低温に強いキュウリソ。
これが爆発的に数を増やした。

キュウリエソは毎日、水深250m:水圧は25気圧のばしょから、浅海の3-4気圧の場所を
往復している。(日周鉛直移動)

これが浅海の魚の餌にもなっており、キュウリエソは日本海の食物網を支えている。


p124
太平洋-オホーツク海の鉄濃度を調査
日本の周りの海が、他の海に比べてはるかに鉄濃度が多い
鉄=植物プランクトンが増えるのに欠かせない

p128
アムール川流域の鉄が集められ、流れ出す
流氷は真水が凍るため、流氷の下からは塩分の濃い水が大量に排出される
これは重いため、潮の満ち引きなどによって、海底にたまった鉄とまじりあう
鉄を含んだ重い水は海底の地形にそって水深400mまで沈み、サハリンの東を流れる海流に沿って南下
島の間の水深が400mしかない千島列島によってさえぎられるが、
唯一、幅50km、水深2000mあるブッソル海峡を抜け、日本海まで南下する

p134
温暖化によって鉄を運ぶ海岸の鉛直循環が弱まりつつあり、
日本近海の植物プランクトンが減少する。

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