ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

役に立つ植物の話―栽培植物学入門  

役に立つ植物の話―栽培植物学入門
石井 龍一



「岩波ジュニア新書」には、ジュニアのみに読ませるにはもったいない本が埋まっている。
本書もその一冊。
世界の栽培植物のうち、主なものについて、その栽培史を簡潔にまとめている。
野菜や産業植物はあまりに身近になりすぎて、少なくとも日本人には、
すでにその存在は空気のようになっていると思う。

しかし、その味わい、便利さを享受できるようになったのはここ数百年。
全ての栽培植物が高度に利用できるようになったのはつい最近であり、
本当に現在の日本人は、世界的・歴史的にみて恵まれたものだなと思う。

ところが、そういう栽培植物について、何をしっているか。
どこが原産で、どのような栽培上の制約があり、
どのような工夫によって現在の収量が確保されたのか、ということを、
全くといっていいほど知らない。

本書は個々の栽培植物について、そうした歴史をわかりやすく説明してくれる。
人間の工夫のうえに現在の「豊かさ」があることを、実感できるだろう。

そして、本書をよく読むと、その多くの「収量確保」がF1種によるものということに気づく。
F1種には子孫ができないため、その系統は独占的な企業秘密となっている。
もしそれが破綻すれば、日本の栽培植物はどのようになるのか。
その危惧について、わかりやすく説明しているのが
「タネが危ない」(※レビューはこちら)である。
本書を読むと、野口氏の危機感が改めて現実的なものとして迫ってくる。




一方、F1種の生産には雄性不稔種と、花粉媒介者としてのミツバチが必要な場合が多い。
そのミツバチ群が突然消滅してしまうCCDについて説明しているのが
「ハチはなぜ大量死したのか」(※レビューはこちら)である。
F1種を持続的に栽培する、という面でも、危機は迫っている。




こうした事情を踏まえると、本書が示している栽培植物史は、
現在危機的な状況に近づきつつある、とも言える。
私たちはどう行動していくか。それが今後の課題である。


さて、こうした栽培植物史の類書としては、
「文明を変えた植物たち―コロンブスが遺した種子」(※レビューはこちら)がある。


こちらの方が個々の章では詳しいが、本書にしか収録されていない栽培植物もある。
また、本書はジュニア新書といいつつ、
例えばC3植物とC4植物の話のところでは、
カルヴィン回路とハッチ・スラック回路それぞれの炭酸固定の図があったり、
栽培コムギの歴史をたどるのに、野生種の一倍体・二倍体のゲノムの組み合わせの話があったりと、こっちの方が詳しいものも多い。

どっちかを楽しめた方には、もう片方もお勧めしたい。



【目次】
第1章 野生植物を栽培植物にする -農耕の起源
第2章 緑の革命を起こした世界最大の作物 -パンコムギ
第3章 アジアの人口を支える湿生植物 -イネ
第4章 コロンブスの大発見 -トウモロコシ
第5章 アンデスから贈られた救荒作物 -ジャガイモ
第6章 土の中にまめがなる? -ラッカセイ
第7章 産業革命と南北戦争にかかわった作物 -ワタ
第8章 昔、ランプの明かりはこの油で -ナタネ
第9章 高い光合成能力で砂糖を作る -サトウキビ
第10章 緑茶と紅茶とウーロン茶 -チャ
第11章 自動車の発達とともに -ゴム
第12章 オオカミは来るか? -食糧生産の今後
おわりに


【メモ】
p6
野生植物→栽培化
・種子が落ちにくくなる(脱粒性が小さくなる)
・種子の休眠性が弱くなる

p15
ある作物の起源は特定の起源を持つ「一作物一起源地」
人の移動と共に拡散していった

p16
中尾佐助博士の分類

・旧大陸農耕文化
-①根栽農耕文化 湿潤な熱帯で発達
種子を使わないで繁殖させる作物(イモ、バナナ、パンノキなど)が主体
-②サバンナ農耕文化 乾燥した熱帯
アワ、キビ、トウジンビエ、シコクビエなど雑穀類が主体
-③地中海農耕文化 温帯
コムギが中心
・新大陸農耕文化
根栽農耕文化+サバンナ農耕文化

p20
C4植物
小粒穀類=small grain cereal(アワ、キビ、トウジンビエ、シコクビエなど)や
サトウキビ
=乾燥に強く、光合成の効率が良い

C3植物
=イネ、ムギ、ダイズなど多くの植物

p28
コムギ:一粒系、二粒系、三・四粒系(普通系、現在主流のパンコムギ)がある

一粒系 染色体:二組 Aゲノムを2組=AA
二粒系 染色体:四組
三・四粒系 染色体:六組 AABBDD

[自然交雑]野生ヒトツブコムギ(一粒系)AA+クサゴコムギ(一粒系)BB
=エンマコムギ(二粒系)AABB+タルホコムギ(DD)
=パンコムギ(普通系)AABBDD

この進化過程を明らかにした:木原均博士(京都大学)

p36
緑の革命
半矮性多収性コムギの作成、世界への普及=収量の大幅増加

p43
地球上で栽培されているイネ:
アジアイネとアフリカイネ(西アフリカの限られた地域)のみ。

アジアイネ:
ジャポニカ型:草丈が低く、粒が丸い。低温耐性が高い。
インディカ型:草丈が高く、粒が細長い

p73
米:ほとんどがデンプン
デンプン:たくさんのブドウ糖(グルコース)が繋がっている一種の多糖類
ブドウ糖が直鎖状に繋がったアミロース
ブドウ糖が分枝状に繋がったアミロペクチン の混合物。

全てがアミロペクチン:強い粘り気:もち米
ジャポニカ種はアミロース含有量が20%前後
インディカ種は20-30%=よりパサパサしている

コシヒカリやササニシキなどは約16-17%

p83
トウモロコシ:日本全国で栽培しているが、子実(種子)生産はゼロ

・デントコーン 馬歯種 世界のほとんどのトウモロコシ
・フリントコーン 硬実種 山奥で栽培されていた
・スウィートコーン 甘味種
・ポップコーン 爆裂種

p92
アメリカ トウモロコシのF1種(雄性不稔種を使用)で増産
→1970年に「ごま葉枯れ病」が蔓延
=雄性不稔種に「ごま葉枯れ病」に弱い遺伝子が含まれていた

トウモロコシもC4植物

p99
ジャガイモの「目」の規則生
いもの先端から数えて、「周囲を二周する間に5個の目がある」

p101
ジャガイモ=救荒植物
・単位土地面積当たりの乾物収量が高い
・地下に収穫部分があるため、冷害を受けにくい
・タネ芋を使うために生育が早い(約100日)
・ビタミンCを含む

→アイルランドで大規模栽培
19c半ば、ジャガイモの病気が蔓延
→人口の約5分の1が餓死やアメリカに移住
→アメリカでのジャガイモ栽培、
よって英語ではアイリッシュポテト

p125
イギリスで紡績業を中心とした産業革命
→原料である綿花をアメリカから輸入
→アメリカでは、多くの黒人を奴隷とすることでワタ栽培を拡大

p138
光合成
カルヴィン回路:C3光合成
CO2+リブロース-二リン酸(Cを5個)=ホスホグリセリン酸(C3)を2個生成
→C+C5=C3×2

1960年代半ば:C4光合成の発見:ハッチ=スラック回路
C3+C1=C4

C4植物の光合成速度が速い理由:
最初にC4回路でCo2が濃縮され、そのあとカルヴィン回路に供給されるため。


p148
チャ(茶)-亜種シネンシス(中国種)と亜種アッサミカ(アッサム種)

亜種シネンシス(中国種) 耐寒性が強い、灌木、タンニンが少ない=緑茶向き
亜種アッサミカ(アッサム種) 耐寒性が弱い、高木、タンニンが多い=紅茶向き
近年は中国種の方が品質が良いとして、アッサム種が置き換えられつつある


摘み取ったチャ:水分80%近く
・緑茶:熱を加えて酵素を殺して乾燥  …不発酵茶
・ウーロン茶:最初自然乾燥、後で釜で煎る …半発酵茶
・紅茶:加熱しない(酵素による発酵あり) …発酵茶

タンニンは、タンニン酸化酵素によって酸化されると赤褐色になる。
紅茶:酵素が生きているので赤褐色になる。

ビタミンC(アスコルビン酸)
アスコルビン酸酸化酵素によって酸化されるとビタミンCとしての効果は消える
緑茶:酵素を殺すのでビタミンCが多い


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