ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

猟師というスキルの素晴らしさと、日本の限界。「ぼくは猟師になった」  

ぼくは猟師になった (新潮文庫)



野鳥観察や野鳥保護に関わっていると、狩猟には断固反対と思われることがある。
人それぞれだろうが、僕は狩猟には狩猟の価値があるし、
その技術や伝統も尊重されるべきと思っている。
ただ、それは当然ながら現行法の範囲であり、伝統があるからといって法を逸脱して良い筈はなく、
また現行法の制限範囲を拡大するのであれば、それなりの根拠が必要だろう。

なお平等を期するために書いておくが、
昨今では野鳥観察愛好者・撮影者もマナーを守らない―というか、
道交法を守らなかったり、不法侵入や器物損壊を平気で行う輩も出だしている。
ハンターも観察・撮影も、当然ながら法を守って活動すべきだ。

では、法を守って狩猟を行うとき、その実態はどのようなものなのか。
アジア圏では率先して野鳥保護が進んだ(実効性は別だが)日本では、
マタギなどの伝統猟はともかくとして、
日常的な趣味としての狩猟は、長らく日蔭にあった感があり、情報もなかった。

そこに現れたのが、おそらく本書と、「山賊ダイアリー (イブニングKC) 」である。

本書では特に、ワナ猟をする際の技術や、捕獲した獲物の処理方法(トドメから精肉まで)がつぶさに記載されている。
また、解体に必要な場所や保存方法など、
著者自身がそうした情報が得にくかったという経験からだろうか、
次に目指す人にとっては、かなり有用な技術手引きとなるだろう。

また、スズメやカモ類といった、野鳥観察愛好家からすると眼を剥くような獲物もあるが、
それも現行法で認められた範疇の話である。
これについても、単純に毛嫌いして否定する(単純に言えば「かわいそう」とか「残酷だ」という感情論)のではなく、
各種について、狩猟を制限して保護する必要があると認められた場合にのみ、
堂々と反論するべきだろう(と、ぼくは考えている)。

ということで、本書は真っ当・真面目なハンターの物語であり、
動物保護を志す人でも、読んで損は無い。
むしろ、その動物の生態を見る眼の確かさや真摯さは、
珍鳥ばかりを追い求める鳥屋が範とすべきほどである。

だが一方、本書でも様々な課題が提示されている。
例えばシカの増加だ。
現在も沈静化する様子はないほど増加しているシカだが、その対策としてハンターの育成が行政により推進されている。
しかしながら、本書では食材としての価値はイノシシの方が上であり、また販売する場合もイノシシの方が高いことが指摘されている。
ハンターが増えても、シカを積極的に狙うことはないという事実がある。

似たような話で、僕も「ハンターが減ったからカラスが増えた、ヒヨドリが増えた」と言われることがたまに有るが、
ハンターも野鳥で獲るならまずカモ類だろう。

すなわち著者も指摘しているが、「ハンターを増やすこと」と、「有害鳥獣の駆除が進むこと」は直結しない。

「有害鳥獣駆除の実働部隊になる」という目論見があるのかもしれないが、
果たして趣味のハンターに対して、そこまで期待したり、背負わせて良いものか。

そしてもう一点気になるのは、ハンターの質である。
本書において、カモ猟の手伝いを始めた頃の著者自身が、
夕暮れの中、「双眼鏡を覗くと、薄ぼんやりとなんとかカモのシルエットが確認できますが、僕にはカル(マガモ)とアオクビ(マガモ)の区別などまだまったくつきません。」と記している。

シルエットというハンデがあること、
マガモもカルガモも狩猟鳥獣だから結果オーライかもしれないが、
やはり鳥屋からすると、「種類の識別もできないのに、なぜ狩猟免許がおりるのか」という疑問に至る。
これはハンターの問題というより、法制度の運用の問題である。

例えば香川県の狩猟鳥獣のうち、カモ類は11種。
ヨシガモ、ヒドリガモ、マガモ、カルガモ、ハシビロガモ、オナガガモ、コガモ、ホシハジロ、キンクロハジロ、スズガモ、クロガモ
一方、香川県で一度でも記録があるカモ類は、29種。
個体数が少ないとはいえ、例えばトモエガモやオカヨシガモは上記の群に混じっていても不思議ではない。
特に雌だと、条件によっては識別が難しい。
また、アメリカコガモ・アメリカヒドリなんて、もうサイズも雰囲気もコガモ・ヒドリガモだ。

イノシシやシカといった哺乳類とは違い、野鳥はかなり識別が難しい筈なのだが、
この識別能力が未熟なまま狩猟免許が出れば、錯誤捕獲は避けられない。
もちろん経験によって識別できるようになるだろうが、
そもそも「識別できるから」狩猟免許が出るのではないのかというのが、
一人の鳥屋から見た素朴な疑問である。

現在の「ハンター育成推進」という旗振りは、実のところ、
有害鳥獣の駆除には協力せず、
無法にワナ猟を実施し、錯誤捕獲しまくるような質の悪いハンターを濫造するだけではないかと、
危惧するものである。

ただし改めて書いておくが、本書著者が質の悪いハンターだと言っているのではない。
本書も「山賊ダイアリー (イブニングKC) 」の著者も、
初心者がまず目指す手本となる、善きハンターである。

【目次】
第1章 ぼくはこうして猟師になった
第2章 猟期の日々
第3章 休猟期の日々



 このエントリーをはてなブックマークに追加

category: 技術

thread: 読んだ本の紹介 - janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 2

中の人

アクセス

RSSリンクの表示

最新記事

カレンダー

アクセスランキング

月別アーカイブ

ブロとも申請フォーム