ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

長い旅の果てに、 海岸に流れ着く軽石を追う。「軽石―海底火山からのメッセージ」  

軽石―海底火山からのメッセージ
加藤 祐三



1990年代の後半には、よく海岸に行っていた。
貝殻が目的だったが、1度だけサンゴ(オノミチキサンゴ)を拾ったことがある。
サンゴ
瀬戸内海(特に香川県沿岸)ではオノミチキサンゴは珍しく、
生体の採取記録が正式に報告されたのは2007年の庵治沖での潜水作業中のもの。
他には島嶼部の神社の御神体として奉納されている例が多く(明石ほか2007,香川生物)、昔から貴重な存在だったようだ。
僕は坂出市沙弥島で拾ったのだが、その後の潮流の変化等でサンゴどころか貝も漂着しなくなったし、
それなりに重要な記録だったと思っている(とりあえず、香川生物学会誌で報告は発表している)。

ところで、その海通いの中で、同じく一度だけ拾ったものがある。軽石だ。
軽石

サンゴ同様、当時は軽石が香川県へ自然に漂着するとは思えず、
またその滑らかさから、市販されているものかとも思った。
だがサイズからして、どうも自然物のような気がする。そこで拾得したまま今日に至っていた。
悶々としたまま数十年が経過したのだが、本書に出会った。

本書は沖縄大学において岩石学・防災地質学を専門としている著者による、「軽石」研究とその結果に関するもの。

自然に漂着する軽石は、漂流・再漂流という過程を経るため、通常はその産地も、産出時期も分からない。

だが著者は、沖縄に多く漂着する軽石の成分分析、大きさ等の変化、
また過去の西表島海底火山から噴出される軽石の目撃記録や漂着記録等を踏まえて、
漂着している軽石から、その産地、時期を推定する手法を見出していく。

例えばその結果、1986年に琉球諸島に大量に漂着した軽石が、
小笠原諸島の福徳岡ノ場であることが判明するなど、「海底火山」と「漂流」というダイナミックな世界が開けてくる。

本書ではその他、軽石が生成されるメカニズム、また深海の海底火山頂上部にのみ生成する材木状軽石など、
近年の「深海学」の面からも興味深いトピックが多い。
中でも、「しんかい2000」で材木状軽石を探索中、温水噴出孔を発見するなどのトピックは、
他の深海関係の本(しんかい2000関係の本)と併せて読むと楽しいだろう。

漂流物に関する本というと、
中西弘樹氏の「海流の贈り物―漂着物の生態学 (平凡社 自然叢書)」が概論書として有用(というか、昔はこれしか無かった気がする)。
改めて確認すると、さすが軽石についてのトピックも含まれているが、わずか3頁に留まっている(だからこそ、様々なトピックが収録されているのだが)。

その点、「軽石」のみにフォーカスをあてた本書は、類書もなく、非常に得難い一冊である。
海岸で、つい「何か」を探す性質の方には、お勧めである。



【目次】
1章 海岸に漂着した軽石
2章 西表海底火山
3章 軽石に関わる用語
4章 火山ガス
5章 軽石の性質と判別法
6章 北海道駒ヶ岳
7章 福徳岡ノ場
8章 西表島群発地震
9章 遺跡から出てくる軽石
10章 漂流できなかった変わり種材木状軽石
 このエントリーをはてなブックマークに追加

category: 地学

thread: 読んだ本の紹介 - janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 0

知らないだけで、ダニは面白い。「ダニにまつわる話」  

ダニにまつわる話 (ちくまプリマーブックス)
青木 淳一



本ブログでは様々なジャンルの本を紹介しているが、コンスタントに閲覧件数が多いのが
ダニ・マニア―チーズをつくるダニから巨大ダニまで」(レビューはこちら)である。

ダニに関する本として、「ダニ・マニア―チーズをつくるダニから巨大ダニまで」が最新知見の本であるとすれば、
本書は日本におけるダニ研究の黎明期から第一線で活躍した研究者が、
その知見を元に、60歳になった時点で「ダニにまつわる話」一般向けに書き下ろしたもの。

著者のお人柄だろうか、文章は平易かつ誠実さに溢れ、ダニというテーマながら、
とても心地よく読み進めることができる。

本書は全7章。
それぞれは2~10ページ程度のトピックスが集められており、
「七味唐辛子事件」「団地のダニ対策委員会」という生活に密着した話題もあれば、
「鳥につくダニ」「アリに家畜にされたダニ」など、進化史上も興味深いトピックス、
また、「ダニによる環境診断」「木もれ日公園のダニ」など、環境保護への展開、
「プールのダニ研究で博士になった人」「銀座のダニの故郷」など、ある場所に生息するダニの種類から、
生物地理学的な知見を探るもの等、分野は極めて広い。

もちろん、「ダニ・マニア―チーズをつくるダニから巨大ダニまで」でも取り上げられている、
チーズをつくるダニ(造られるチーズは、アルテンブルガーチーズ)の話もある。

また、ダニの繁殖方法として、雄は精子の入った風船珠(精苞)を何個か立て、
それを見つけた雌が精子を受け取るなんて、そんな不可思議な繁殖方法だとは思ってもいなかった。

さらに、日本において、かつて書画の表装や紙細工を生業としていた「経師屋」が、
「古糊」という3年以上寝かした良質の糊を用いていたのだが、
それをつくるのにダニが一役買っていた等、歴史的にも興味深いエピソードまである。

「ダニ」というと厄介な生物というイメージが強いが、自然界ではむしろ分解者として有用であり、
人間に悪影響を及ぼすダニの方が少ない。

正しいダニの姿を理解するためにも、ぜひ、多くの方にお読みいただきたい。
小学校高学年でも、十分理解でき、そして必要な知識と思う。

なお、著者である青木淳一氏は既に退官しているが、
その研究姿勢や考え方、また著者が考える「博物学」の意義、面白さを紹介する本として、
博物学の時間: 大自然に学ぶサイエンス」(レビューはこちら)がある。
こちらもお勧めである。

【目次】
第1章 ダニ・ノイローゼ
第2章 ダニ騒動
第3章 日本人の住居とダニ
第4章 本物の街のダニ
第5章 役に立つダニ
第6章 ダニのおもしろい習性
第7章 ダニ研究余話





 このエントリーをはてなブックマークに追加

category: 節足動物

thread: 読んだ本の紹介 - janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 0

最先端にして、等身大のマヤ文明。「マヤ文明を知る事典」  

マヤ文明を知る事典
青山 和夫



「謎と神秘の文明」マヤ。
そうしたイメージは大きな誤りであり、
既にマヤ文明の研究は、大きな進展を見せているという。

ところが一般的には、未だ「謎と神秘」の世界としてしか見ていない。
そうしたイメージの堅持は、客観的な研究を遅らせるとともに、
現在現地に生きるマヤ文明の子孫である人々への偏見にも繋がりかねない。

しかし現在、
歴史、地理、言語、習慣、宗教、農耕、工芸、作物等々、
既にマヤ文明については、エジプトやインダス等、ユーラシア大陸の古代文明同様、
様々な分野において研究が進んでいる。
だが、もちろん、未だ不明な点も多い。

本書は、そうした現在のマヤ文明研究の到達点について、
著者一人が一貫した解説を行うという、極めて力技の事典である。
しかも「事典」と言いつつ、各章は、それぞれのテーマに従って関係のある小項目ごとに記述されており、
通読できる概説書となっている。
(巻末の索引によって、「事典」としての使い方も可能である。)

ユーラシア大陸起源の諸文明と、マヤ文明等のアメリカ大陸等起源の諸文明。
もちろんポリネシア・ミクロネシア等の海洋民族経由の影響はあるかもしれないが、
大きな部分については独立した文明圏と思う。
そうすると、それぞれの大陸で、
同じように文明が発展したきたという事実は、ホモ・サピエンスの持つ文明化の力の発現と言えるのではないか。
そして一方、その数学・農耕・宗教等の差異は、人間の精神世界・知識の発展において、
様々な示唆を与えるものと思う。

マヤ文明という隔絶された文明は、
人類文明の発展を考えるうえで、書くことができない材料である。
それに対する最新の知見がまとられた本書は、現在に生きる者の特権とも言えるのではないだろうか。

【目次】
第1部 プロローグ マヤ文明とは何か?
第2部 解き明かされたマヤ文明の実像
第1章 マヤ文明の地理・歴史
 地理と環境/交通・交易/暦・算術・天文学/文字/歴史
第2章 古代マヤ社会
 諸王朝と都市/戦争/建築/日常生活と家族/儀式・行事/
 世界観・神話・宗教/美術・工芸/生業と作物・食料
第3章 現代に生きるマヤ
 現代に生きるマヤの人々/「発見された」マヤ文明とマヤ考古学/日本人とマヤ文明
索引・年表
 このエントリーをはてなブックマークに追加

category: 歴史

thread: 読んだ本の紹介 - janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 0

臭いッ!だけじゃもったいない。「カメムシ: おもしろ生態と上手なつきあい方」  

カメムシ: おもしろ生態と上手なつきあい方
野澤 雅美



洗濯物を取り込む。
何だかコゲ茶色の丸々っとした虫がついている。マルカメムシだ。

僕はG(正式名称を書きたくもない、あの黒いヤツ)がとても苦手で、
道端に転がっているだけでも1m以内には入りたくない。
カメムシの仲間は、そこまでもないのだが、
何にせよ、「つまむと臭い」というのが困る。

そのくせ、家庭菜園とか昆虫採集をしていると、最も頻繁に出会うのが
たぶんカメムシとハムシではないか。

これほど身近な昆虫ということは、生物学的に言うと
大成功したグループと言える。

しかし、臭いムシに脚光が当たることは少なく、
あまり本屋でも図書館でも「生物」としてのカメムシに取り組んだ一般書は見かけなかったのだが、
登場したのが本書。タイトルからして、「おもしろ生態と上手なつきあい方」である。

第1章では、まずはカメムシの多様性が紹介される。庭・畑はもちろんのだが、
野山、山地、田にも住む。店舗の白米だけを購入している方は、多分見た事が無いだろうが、
自家栽培した米を入手している方には、カメムシの食害による斑点米はお馴染みである。
また、地表・地中にもいるということ、これは驚きであった。どこにでもいるのである。

第2章は、そうした多様なカメムシの生態について。食性、冬越し、繁殖等々だ。
カメムシは蛹にならない不完全変態を行う昆虫だということは知っていたが、
多くは5回の脱皮(1齢~5齢幼虫まで)を経る、という。
そのため、野外で見るカメムシには同種でもステージで姿・形が異なり、
バラエティに富んでいるのだ。

またあの臭いニオイである。多量の放出では外敵への攻撃・忌避物質として、
少量なら集合や分散の合図としてと、これも種によって様々な使い分けがなされている。
ニオイは単一の化合物ではなく、ヘキサナールやオクソヘキサナールなどの揮発性の高いアルデヒド群や、
それらを揮発させにくくしたり、滑らかにする炭化水素等、種によって多くの化合物がブレンドされているという。

特にヘキサナールはダイズや草の「青臭い」ニオイの原因物質だが、これがカメムシの体内で合成されているのか、
それとも生物濃縮によるものかは分かっていないという。

ただこの強烈なニオイ、あまりにも密閉空間だとカメムシ自身も死ぬくらいであり、
かなり危険な防御策と言える。

その他、本書では外来種として分布を拡大しているカメムシや、
最近よく見かけるサシガメ類、そして見た目が鮮やかなキンカメムシの仲間なども紹介しており、
カメムシの多彩な世界が堪能できる。

第3章は、そんなカメムシの見つけ方、捕まえ方、
またカメムシを調べることによって地域の自然を調査する方法などが紹介されており、
まさにカメムシ研究入門書と言える内容となっている。

惜しいのは、様々なカメムシが紹介される一方で、種名による索引がないこと。
「他の図鑑やネットで知ったカメムシが出ているか」という使い方は難しい。

それでも、カメムシというマイナーだが極めて身近な昆虫を知ることは、
確実に、自然に対するアンテナの拡大に繋がる。
こうした本は、各小学校に必置すべきだろう。

ちなみに野鳥で有名な氏原氏、「決定版 日本のカモ識別図鑑 」(レビューはこちら)などの図鑑を刊行されているが、
同氏はカメムシも守備範囲にされている。サイトは、「カメムシも面白い!!」だ。
昆虫ブログも多々あるが、野鳥の世界では的確な識別に定評がある氏を信頼し、まずはこちらを紹介しておく。

【目次】
1 身近なカメムシとことんウォッチング
2 おどろきの素顔と暮らしぶり
3 カメムシと上手につきあう
 このエントリーをはてなブックマークに追加

category: 昆虫

thread: 読んだ本の紹介 - janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 0

この夏は、「虫のしわざ観察ガイド—野山で見つかる食痕・産卵痕・巣」を持って歩こう。  

虫のしわざ観察ガイド—野山で見つかる食痕・産卵痕・巣
新開 孝



フィールドに出て、目当ての生物に出会える者は幸いである。
だいたいは、フィールドにも出られない悶々とした日々を過ごし、
街中の植え込みや街路樹に、慰めとなる生きものの姿を求めることも多い。

待ちに待った休みにフィールドに出ても、
もちろん目当ての生き物の時期・場所にマッチすることは難しい。

自分だけならまだしも、
観察会など、野外での観察に馴染みの少ない方を案内している時など、
お見せできる生きものの姿がない時は、大変だ。

どれだけ、「見えない生きもの」を語り、興味を持ってもらえるか。
案内人の引き出しと話術が問われるところである。

そんな時、野鳥なら羽根、古巣、食痕、糞などから、
今はいない野鳥を語ることができる。
そうした、痕跡から生き物を見つけることを、トラッキングという。

トラッキングの愉しみが伝わる本として、「自然ウォッチングのコツ (コツがわかる本!)」(レビューはこちら)を紹介したが、
本書は昆虫トラッキングに特化したもの。

それだけに、収録されている「虫のしわざ」は多岐にわたるとともに、
生き物をもとめてフィールドを彷徨ったことがある方なら、
どこかで見た事がフィールドサインが満載である。

収録方法も、虫の分類別ではなく、
草花、タケ・ササ、樹木、地面や崖、水辺、人工物と、
フィールド別になっているのも、嬉しい。
しかもその「しわざ」が何と言う虫のしわざなのかというだけでなく、
何のためか、なぜなのかと、
生態にまで視野が及んだ解説が、コンパクトになされているのも有り難い。

本書があれば、生き物に溢れた世界を実感できるだろうし、
もしかしたら小学生などは、「身近な虫のしわざ」を探すという夏休みの宿題もできるかもしれない。
そうして「見過ごしている命」に気づくことが、おそらく今最も大事な経験ではないかと思う。
本書のような本は、もっと刊行されるべきだろう。

なお、鳥関係のフィールドサインについては、「自然ウォッチングのコツ (コツがわかる本!)」のレビューに少しまとめて紹介しているので、ぜひこちらも参考にしていただきたい。
 このエントリーをはてなブックマークに追加

category: 昆虫

thread: 読んだ本の紹介 - janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 0

自分で考えてみることの大切さ。「人生一般ニ相対論」  

人生一般ニ相対論
須藤 靖



三日月とクロワッサン」(レビューはこちら)が面白かったので、
同著者の本を入手。順番としては、こちらが先の刊行である。

三日月とクロワッサン」で考察が含められている「クロワッサン問題」の走りも収録されているため、
やはり順番としてはこちらを先に読んだ方が楽しめる。
といっても、国ごとによる正答・誤答に対する◯×の記載方法の違いや、
「ガリレオ・ガリレイ」の名前の問題、
シュレディンガーの猫で有名な「シュレーディンガー」の表記の問題(「ー」が違う)など、
ちょっとしたテーマに関する掘り下げ・考察が、軽妙な文章で楽しめる。

通底に流れているのは「相対論」。
ただ、実際の相対論というよりも、
「立ち位置(国、言語、世代等)によってモノの見方は変わるよね」というものだ。
本書は、具体的な何かを学ぶというものではなく(失礼)、
「モノの見方の多様性を楽しむ」というものだろう。

なお、本文は横書きなので、ちょっと最初は馴染みにくいかもしれない。

【目次】
基礎編
 海底人の世界観
 外耳炎が誘う宇宙観の変遷
 都会のネズミと田舎のネズミ ほか
応用編
 土曜の昼、午後3時半
 高校物理の教科書
 東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 ほか
問題編(復習問題25)
ちょっと長いあとがき
 このエントリーをはてなブックマークに追加

category: エッセイ

thread: 読んだ本の紹介 - janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 0

人間に最も身近で、最もかけ離れた野生動物を知る。「野鳥ってすごい!」  

鳥ってすごい! (ヤマケイ新書)
樋口 広芳



昆虫はすごい 」(レビューはこちら)の後追いタイトル。
出版社の意向もあるのだろうが、こうした追随タイトルは正直情けない。
各書には各書の価値があり、それを表現する最も適したタイトルがあるはずだ。
追随タイトルは、出版社自ら「本書は流れに乗って作った程度の本です」と言っているようなもの。

本書も、内容はとても良いのに、その浅薄なタイトルで損をしている例である。
著者は、現在日本の鳥類学を牽引する第一人者。鳥類学といえば「鳥類学者 無謀にも恐竜を語る (生物ミステリー)」が昨今有名だが、鳥類そのものを地道に研究し続けるという意味で、愚直なまでの正統派と言える。

その著者が、最新の世界の研究も踏まえて、野鳥の驚くべき生態等を紹介するのが、本書である。
「渡り」というテーマにしても、過去の人工衛星を用いたアルゴスシステムによる渡り研究から、
最新のバイオロギングを用いた調査、著者によるハチクマ追跡プロジェクト(ハチクマ渡り公開プロジェクトサイト)などの知見まで盛り込まれており、初心者向けながらも、
ある程度野鳥好きにも楽しめる本である。

むしろ、最近多くなった撮影主体の鳥見屋さんには、こうした生態系の本も読み、
野鳥という生物の面白さを感じ、広めてほしいと思う次第である。

さて、本書のトピックをいくつか紹介しよう。
例えば、渡りだ。オオソリハシシギというシギ・チドリ類。
春秋に渡りを行うが、衛星追跡した結果、
繁殖地アラスカから越冬地のオーストラリア東部等まで、♂2羽は5日間で約7400~7400kmを、
♀7羽は6~9日で8100~11700kmを、無着陸で飛行したという。
「飛翔する生物」は数多いが、風に飛ばされるというレベルではなく、
自律的な飛翔において、ここまで特化しているというのは、凄まじい。

また、最近NHKで時折放送される、ハチを捕食するワシタカ類、ハチクマ。
なぜハチクマだけがハチに襲われても平気なのか、またなぜハチの攻撃が他の動物に対するもの程激しくないのかが不思議なところだが、近年の研究によって、
ハチクマの体全体(特に頭部)に、糸状微粒子があり、これがハチの行動を不活性化している可能性があるという。
ハチという強烈な攻撃性を持つ昆虫に対して、いったいどのような化学的防御を行っているのか、
そしてそれはどのように進化してきたのか。興味はつきない。

色について。
野鳥はヒトより可視領域が広く、近紫外線まで知覚できため、ヒトよりも多彩な色の世界に生きている。
そして、ヒトから見て雌雄が識別できない野鳥も多いのだが、
そのうち139種を調査した結果、9割以上の種にヒトが感知できない色の差があったという。
こんな情報を知ると、なんとかしてそれを見てみたいと思う。

また、野鳥自身の色については、黒や灰色を示す真正メラニン、栗色や赤褐色の亜メラニン、
赤、橙色、黄色を示すカロテノイド色素などが主体だ。
その上に本書では、アフリカに棲むエボシドリ類が固有に持つ赤(トラシン)、緑(トラコバジン)、
インコ類が持つ鮮やかな赤・黄を示すサイタコファルビンなども紹介されている。

また構造色についても、鳥類では青い色素は知られておらず、青や紫は全て構造色と考えられること、
また白い羽毛の多くも色素ではなく構造色であると紹介されている。

生態面では、
つがい外交尾を行う率が高い鳥ほど、♂に鮮やかな色や模様が発達している例が多い、とか、
日本周辺で繁殖するカンムリウミスズメが、例えば九州北部で繁殖した個体は1年をかけて日本を一周しているとか、
前述のハチクマ渡り追跡プロジェクトで得た結果、春秋の渡りコースが明確に異なること等、
野鳥を見る目が変わる話題が満載である。

さらに一章を割かれているカラス類については、
学習、遊びなど、身近で楽しめる観察テーマに直結する話も多い。
僕も電線に逆さにぶさがって遊ぶ(としか見えない)カラスを見たことがあるが、
その賢さに関しては、驚くばかりだ。

昆虫が、その小ささ・単純さ(に見える)に比して、
驚くべき複雑さを示したのが、「昆虫はすごい 」だった。

本書は逆に、それなりに複雑そうな野鳥が、
実は人間の想像を超える能力を多々持っている、という点を明らかにするものだ。

その面白さを伝える素晴らしい一冊だからこそ、ヒネリの無いタイトルが勿体ないのである。

【目次】
第1章 なんと言ってもすごい鳥の飛行術
第2章 羽毛は鳥の命綱
第3章 鳥はとってもおしゃれ
第4章 くちばしとつがいに見る鳥という生き方
第5章 渡りの謎その一 どこからどこへ?
第6章 渡りの謎その二 さらなる疑問を追って
第7章 カラスおそるべし!その知能の秘密
第8章 ずるがしこさの極み―托卵
第9章 遊ぶ鳥たち
終章 鳥からのメッセージ
 このエントリーをはてなブックマークに追加

category: 野鳥

thread: 読んだ本の紹介 - janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 0

ZABADAK「遠い音楽」、繊細な美しさと儚さ。  

ZABADAK「遠い音楽」、繊細な美しさと儚さ。

高校から大学にかけての頃、ZABADAKというデュオに出会った。
遠い音楽、水のルネス…。
アルバムでいえば、「遠い音楽」だ。


流行には程遠い。爆発的に売れるようなものでもない。
けれども、ZABADAKの音楽は、
当時でも、日本の音楽の奥行きを拡げるかけがえのない存在だった。

誰でも若いころに聞いた音楽は、幾つになっても時折り聞きたくなるものだろう。
けれども、歳を重ねて聴くほどに、心をより穏やかにしてくれるという曲は、そうそう無い。

この「遠い音楽」は、そうした稀有な曲の一つだ。
例えばこのライブの、危うい程の繊細さを体験していただきたい。


残念だが、ZABADAKの一人、吉良知彦氏が7月3日に逝去された。
56歳。早すぎる死。心からご冥福を祈る。

オフィシャルサイトはこちら
こうしたかたちで紹介することになるとは、思ってもいなかった。
 このエントリーをはてなブックマークに追加

category: 音楽

thread: 日々のつれづれ - janre: 日記

tb: 0   cm: 0

ケンさんは、虫と虫のいる世界を慈しむのである。「虫屋のみる夢」  

虫屋のみる夢
田川 研



虫屋の虫めがね」(レビューはこちら)で紹介した、
広島県在住、ごく身近な世界の虫をめぐる日常の楽しさを綴ったエッセイ集、第二巻である。
前著同様、6ページ程度の短いエッセイが33編収録されている。

前著ではイラストは著者ともうお一人が分担していたが、
本書では全て著者。そのイラストだけで、その細やかな人柄が偲ばれるというものだ。

とはいえ、独特のケンさん節は健在。安心して楽しむことができる。

前著の紹介でも、著者田川 研氏は、
「ユーモアをもって、人生を等身大かつ最大限に楽しむこと」を伝える優れたフィールド・エッセイストだと書いたが、
本書でもその才能は如何なく発揮されている。
またその一方、「本当に見ること」や、「素直に美しさ・楽しさを感じること」の難しさを潜ませたりと、
前著よりもさらに円熟味を増した一冊である。
こうした文体・テーマで、これほど楽しく、かつ「良い」エッセイを書くというのは、
やはり著者が自分自身のスタイルを確立しているためだろう。

文章の軽妙さが受け入れられない方もいるかもしれないが、
前著とあわせて、隠れた名エッセイである。
 このエントリーをはてなブックマークに追加

category: 昆虫

thread: 読んだ本の紹介 - janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 0

太陽が及ぼす地球への影響、そして太陽系の謎を探る。「とんでもなくおもしろい宇宙」  

とんでもなくおもしろい宇宙
柴田 一成



冥王星のクォリティの高い画像を見られたり、
木星の衛星エウロパの氷の下に水がある可能性が高いことから、生命が期待出来たりと、
宇宙探査もワクワクする時代となっている。

ただ、「宇宙」と言っても、大きく「太陽系」「太陽系外」という区分が、おそらく無意識にある。
そして太陽系は、その名のとおり「太陽」が中心である。その仕組み・活動を知ることは、
太陽系を理解するために欠かせないベースとなる。

本書は太陽研究を主テーマとする著者が、最新の研究成果等を踏まえつつ、
太陽の仕組みと地球への影響、月、太陽系の惑星とその衛星について解説するもの。
「宇宙」というタイトルだが、おおむね視野は「太陽系」と思って良い。

だから、「宇宙の成り立ち」といった内容を期待すると当てが外れるが、
一方で太陽の不思議さと、それが地球に及ぼす影響については、非常に詳しく、かつ分かりやすい。
太陽フレアやプラズマによる地球への影響となると、まずはオーロラだ。

関係書に「NHKスペシャル 宇宙の渚―上空400kmの世界 (NHKスペシャル)」(レビューはこちら)や、
オーロラ 宇宙の渚をさぐる (角川選書)」(レビューはこちら )があるが、
これらは「太陽からフレアが発生する仕組み」までは、解説されていなかった。

その点、本書ではいわば、「原因」から解説するので、とても分かりやすい。
オーロラ 宇宙の渚をさぐる (角川選書)」でも地球の磁力圏に侵入する電子の動きについて解説されていたが、
本書とあわせて読むことで、そのメカニズムがより一層深く理解できると思う。

また、地球に別天体がぶつかって月が形成されたとする「ジャイアント・インパクト説」によれば、
月の形成には1ヶ月~1年程度しか要しなかったこと、
またできたはがりの月(46~45億年前)は今よりもずっと地球に近く、
地球の半径の3~4倍(現在は60倍程度)の距離にあったという。
こうした過去の地球/月の姿を思い浮かべることも、地球の歴史を考えるうえで重要だろう。

このほか、現在「かに星雲」として知られる超新星爆発の残骸があるが、
その爆発そのものを観測した記録が、藤原定家の「明月記」(治承4年(1180年)~嘉禎元年(1235年)までの56年間にわたり記録した日記)に記載されているというエピソードも紹介されている。

御冷泉院、天喜二年四月中旬以後丑時
客星 觜参の度に出ず、東方に見え、天関星に孛す
大きさ歳星の如し
(オリオン座の辺りに一時的な現れる星が見えた。)

この話題が、グリニッジ天文台の天文学史コーナー、
1000年間に10程度のエピソードしか掲載されていない中に入っているというのも、面白い。

なお本書でも、著者は日本の基礎科学の軽視傾向に警鐘を鳴らしている。

「基礎研究は、研究者自体が予想もしなかったことで実社会の役に立つような成果を出すことがあります。」

「日本の科学、そして学術政策はあまりにも近視眼的になり過ぎています。もっと長い目で、十年、何十年先までを考えて、基礎から人を育てていかなければならないのに、それを怠っているのではないでしょうか。」

「いざと言うときに「人材がいません」となるのも、育ててきていないから当たり前なのです。」

様々な科学的課題について、それを解決するのは応用化学だけでなく、基礎研究も必要だ。
東洋社会において、おそらく素直な基礎研究を行え土壌がある国は、おそらく日本くらいだろう。
だからこそ、日本は率先して基礎研究に注力すべきではないかと思う。

【目次】
はじめに
第1章 とんでもなく激しい太陽の素顔と星のスーパーフレア
第2章 超巨大な衛星、月の不思議
第3章 個性豊かな太陽系の惑星たち
第4章 スーパーフレアの謎を解くリコネクション
第5章 宇宙物理学者による地球外生命体のマジメな議論
終章 天文学者が目指す地平
 このエントリーをはてなブックマークに追加

category: 地学

thread: 読んだ本の紹介 - janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 0

中の人

アクセス

RSSリンクの表示

最新記事

カレンダー

アクセスランキング

月別アーカイブ

ブロとも申請フォーム