ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

地球環境の変遷から、生命誕生に関する理論モデルを構築する。「生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像」  

生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像 (講談社現代新書)
中沢 弘基



生命の系統樹、というモデルを見ることが多い。
昨年国立科学博物館であった「生命大躍進展」、NHKでタイアップの番組もあったが、そこでも生命の樹モデルが使われていた。

そのモデルの暗黙の前提は、最終的に幹にまとまり、1点から生じること。

すなわち、生命はある一つの起源生物から進化した、という考えだ。
そして、その「ある一つの起源生物 」はどんな生物なのか、というスタンスでの研究が行われている。

だが、筆者はその点に疑義を投げかける。

そもそも、生命の種分化が、生物進化というメカニズムであるならば、
その前に存在する生命誕生以前の、様々な分子が結合する段階にも、「分子進化」のメカニズムがあり、
それは当時の地球環境の変化による選択圧があったはずだ。

また、その「分子進化」のメカニズムは、
なぜ鉱物ばかりの地球に炭素や水素でできた有機分子が出現したか、
しかもアミノ酸などの基本的な有機分子は、全て水溶性で粘土鉱物と親和的なのか、という生命研究上の
課題にも矛盾なく回答しうるはずだ。

そうした視点から、本書ではまず、従来の起源生命に関する考え方の矛盾指摘に、ほぼ半分を割いている。
やや長いながらも、確かにこの部分がなければ、
著者がどうしてこれほど地球環境の変化という選択圧による「分子進化」のメカニズムに拘るかが、理解できないだろう。

そして、旧来の起源生命観を否定した後に展開される説は、
かなり刺激的だ。
当時の「陸地のない海ばかりの地球」に降り注ぐ、「後期重爆撃期」と呼ばれる隕石落下。
その落下により発生する破壊の中で生じる有機分子の結合。
様々な有機分子が海中に落ちた後、濃縮され、かつさらに結合するメカニズム。
その過程で説明される、基本的な有機分子が、全て水溶性で粘土鉱物と親和的な理由。

また、様々な有機分子が結合し、様々な働きを行う小胞の融合により、
単機能の小胞が代謝可能な小胞になり、
さらに遺伝子の水平転移や共生により網目のように起源生命が発生したという考え方は、
なるほどと唸らされるものだ。

このように、様々な傍証と実験を踏まえて展開される説には目立つ矛盾もなく、
かなり説得力があるように感じる。

ただキラリティの問題(分子の鏡像性の問題、例えば生体のアミノ酸が全てL体である点等)については、
明確な説や傍証が示されておらず、この点まだ熟していないようだ。

もちろん、本書の前提としている地球環境史が修正されたり、新たな要因が発見されるかもしれない。
「起源生命」については、どんどん新しい説も出てくるだろう。
だから、本書の説がそのまま正解ではないだろうが、
世間一般が抱いている「起源生命」観が誤っていること、
そして「起源生命」を考える際には地球環境史の視点が欠かせないことを、本書は教えてくれる。

各章ごとに、それまでの総括と今後の展開の概要、
また多くの参考文献と引用源を提示するなど、
新書というカテゴリーながら、一般人が起源生命の研究を見守るうえで欠かせない一冊ではないだろうか。

【目次】
第一章 地球「ダイナミックに流動する水の惑星」
第二章 なぜ生命が発生し、生物は進化するのか
第三章 「究極の祖先」化石の証拠と遺伝子解析
第四章 生命の素材 有機分子の生成と自然選択
第五章 アミノ酸からタンパク質へ
第六章 生命機能の成立 個体、代謝、遺伝の発生
第七章 生命は地下で発生、海洋に出て適応放散した
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category: 進化論

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産学官プロジェクトの困難さ。「香川発 希少糖の奇跡」  

香川発 希少糖の奇跡
松崎 隆司



香川県内の小売店では、希少糖を含んだ「レアシュガースウィート」の販売が定着したようだ。
他県での状況までは分からないが、「トクホ」(特定保健用食品)として、
難消化性デキストリン同様、おそらくいつの間にか定着し、拡大していくのだろう。
こうした特殊な素材(食材に限らず、材料一般)は通常大手企業が開発するため、
その「産地」が話題になることは少ない。

だがこの「希少糖」は、まさに「香川発」という点が特徴だ。

現在商品化されている希少糖は、主にD-プシコース。
だが一般的には、「自然界にその存在量が少ない単糖とその誘導体」を指すため、
D-プシコース<希少糖 という関係になる。
これらの希少糖は自然界に少ない=有用性が少ないという考えが一般的だったが、
香川大学の何森教授は、
50種類以上の希少糖を含んだ単糖の分子構造と生成酵素の関連性を体系化した「イズモリング」を考案し、
希少糖の展開に道筋をつける。
そして、D-プシコースの大量生産方法を見いだし、その機能を明らかにしていく。
カロリーはほぼゼロながら、血糖値上昇を緩やかにしたり、内臓脂肪の蓄積を抑えるなどの機能を確認し、
役に立たないと思われていた希少糖を、一転、次世代の機能性食品に押し上げた。

その過程には、様々な立場の関与・協力がある。
難消化性デキストリンを5g配合したトクホコーラである
「キリンメッツコーラ」、「ペプシスペシャル」がヒットしているが、
まさにその「難消化性デキストリン」を生産する「トクホの松谷」こと松谷化学工業。
また、何森教授の研究から、香川県産業として商品化するまでのベースを築いた香川県。

本書では、何森教授が単身研究を続けるところから始まり、
様々な立場の方が参画し、
ついに現在の「レアシュガースイート」の商品化、そして世界への展開を見据えた時点までを辿っていく。

そのプロジェクトも興味深いが、
やはり感じるのは、「産学官」の協力の難しさだ。
実のことろ、希少糖は成功例だが、
多くの「産学官プロジェクト」は失敗に終わることが多い。

その背景として、まず企業・自治体・研究者の「時間認識」のズレがある。
単年度予算主義である自治体は、通常1年単位で考える。
企業は、商品化に向けた様々なハードル(特許化や生産ライン等)のため、少なくとも1年では無理だ。
研究者は、考えているような研究結果が「いつ」出るかどころか、そもそも「出るかどうか」自体が不明だ。

また、その知財への意識も異なる。
自治体は、「税金を投入しているから」原則公開。
研究者は、論文発表こそが成果であるため、公開。
企業は、特許取得や競争のため、非公開。

「産学官プロジェクト」は聴こえは良いが、こうした相反する立場を統合するものゆえ、
実はかなり難しいシロモノだ。
だから、「希少糖」プロジェクトは非常にまれな、幸運な成功例ではないかと思う。

だから、本書を読み、この成功例を既存の産学官プロジェクトに発破をかけたり、
新しく手を出すと、恐らく多くは失敗するだろう。
また、安易・過度な期待を寄せた者は、失望と怒りを感じるかもしれない。

ただ、そもそも何かを商業化しようとするプロジェクトというものは、そういうものではないだろうか。
結果が出る見込みだが、その確証があるわけではない。
早く成果を出したいが、それが「いつ」かは、わからない。
本書は「産学官プロジェクト」による輝かしい成果を伝えるものではあるものの、
むしろ「産学官プロジェクト」の難しさを知るための本として、読むべきだと思う。

【目次】
〈序章〉食べても太りにくい新素材が世界を救う
〈第1章〉香川大学発「夢の糖」が生まれるまで
〈第2章〉希少糖「産学官プロジェクト」の挑戦
〈第3章〉トクホ市場を切り開く松谷化学工業
〈第4章〉“希少糖トクホ"ついに船出へ
〈第5章〉レアシュガースウィート商品化
〈第6章〉次世代「D.アロース」の衝撃
〈第7章〉香川発の希少糖が世界に羽ばたく
〈付録〉希少糖「産学官プロジェクト」の歩み

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category: 技術

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街を歩き、野鳥を見よう。「身近な鳥の生活図鑑 」  

身近な鳥の生活図鑑 (ちくま新書)
三上 修



スズメの謎―身近な野鳥が減っている!?」(レビューはこちら )、「スズメ――つかず・はなれず・二千年 (岩波科学ライブラリー〈生きもの〉)」(レビューはこちら )など、スズメの研究者として認識されている著者による、
「身近な鳥」-スズメ、ハト、カラス、そしてツバメ・ハクセキレイ・コゲラを取り上げた本。
ただ「図鑑」と言いながらも、内容は識別ではなく、特徴的な生態の紹介である。

最近は、特に珍しい野鳥を追いかける人が多くて、
「なんたらなんたらシギ」も「なんたらかんたらズク」も撮影したけど、
目の前の野鳥の生態については何も知らない、という人も残念ながら少なくない。

どうも、識別図鑑は持っているけれど、各野鳥の研究者の本とか、渡りの本とか、
その他生態や保護に関する本なんて読んだこともないようだ。

本書は、最新研究成果のダイジェストではなく、
身近な鳥の存在を最近知ったような、初心者の方向けの内容となっている。

だが実のところ、珍鳥を追いかけて日が暮れる人、
野鳥撮影に夢中になって当の野鳥を飛ばしたり、地元の方とトラブルになる人など、
「野鳥の見た目」だけを気にする人にこそ、読んでいただきたい。

野鳥は、人間が日中観察できる、数少ない野生動物だ。
野鳥を相手にした趣味を楽しむなら、まずはその生き様を知ることの方が、
撮影のために地元の人に迷惑をかけたり、
珍しい野鳥が飛び立つまで追いかけ回すよりも、よっぽど先に行うべきことと思うが、いかがか。

【目次】
第1章 鳥にとって町はどんなところか?
第2章 スズメ―町の代表種
第3章 ハト―いつからか平和の象徴
第4章 カラス―町の嫌われ者?
第5章 町で見かける他の鳥たち
第6章 都市の中での鳥と人



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category: 野鳥

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単なるブックガイドではなく、科学史概論だ。「科学の本一○○冊」  

科学の本一○○冊
村上 陽一郎



本との出会いは、難しい。
新刊ならまだしも、数年前に刊行された本-しかも科学やノンフィクションといった本だと、
刊行部数自体も少なく、あっと言う間に時の谷間に消え去ってしまう。
その谷底から、自分が読みたい本や読むべき本を見つけるのは、かなり経験とテクニックが必要だろう。
本書のようなブックガイド本も、そうした探索の手掛かりとなることから、
気が付いた時には手に取るようにしているが、
本書は、単なるブックガイドではなかった。嬉しい誤算である。

著者は物理学史が専門。だかそれはおそらく研究範囲であり、それを知るためには当然より大きい科学史を知ることが必要となる。
その科学史を学んできた著者のバックボーンを活かし、
科学史上重要な本や、著者自身の研究において大きなターニングポイントとなった本を100冊取り上げる。
本書を通読すれば、自ずと「科学史」を辿ることになるのだ。

かといって、単なる歴史順に並んでいるわけではなく、
まずはアインシュタインの「自伝ノート」から始まる。
次はアリストテレスの「自然学」と、科学史家ならではの知識を踏まえて縦横無尽に展開していく。
ただ、(全く存じ上げないのだが、)文は人なり、
非常に読みやすく、簡潔にして丁寧、かつ明確な文章。関係する章があればそれも記載されており、
心地よく読み進めることができる。

そのうえで、科学史を知るうえで、一般的なイメージと大きく異なる点等が、紹介されていく。
例えば、次のようなことだ。

・コペルニクスが地動説を説いたが、その著書は、
 実のところ現代でいう科学的論拠によるものではなく、
 ルネサンス期という時代を踏まえて、地動説を「採用した」。

・ガリレオが地動説により迫害されたというイメージがあるが、
 「それでも地球は動く」と言ったことも虚構であり、
 むしろ当時のヨーロッパの最高権力者の多くがパトロンだった。

・西洋科学はヨーロッパ圏で発達したのではなく、
 むしろ一時期のイスラム圏が、
 ローマ時代の西洋知識とインド等の東洋知識を融合し、
 それがヨーロッパに逆輸入されたことが大きな影響となっている。

また、本書は、最新の科学書(だけ)を紹介するものではない。

むしろ科学史上スタンダードとなっているが、実際のところ現代では殆ど読まれない書物-、
例えばガリレオの「天文対話」、ニュートンの「自然哲学の数学的原理」、コペルニクス「天球の回転について」など。

また、「科学」「科学者」という存在が発生し、持続する背景となる学問-、
ヴィトゲンシュタイン「論理哲学論考」、プラトン「ソクラテスの弁明」など。

そして、人の営みとしての 「科学」を研究する上で重要となる、
「創世記」、「古事記」、「解体新書などと、非常に幅広い視野で選定がなされている。

数多あるブックガイドは、最先端か、有名なものに特化している。
だが本書は、科学史という確固たる土台の上に立ち、
現代の人類にとって、知識の「骨」となってる本を紹介してくれるものだ。
一人でも多くの人が、本書から、一冊でも「読みたい本」に出会えることを願う。
(こういう本こそ、学校図書館に必置すべきだ。)

なお、こうしたバックボーンがある著者が、一書から「学問」についての考え方を紹介している。
文系は役に立たないとか馬鹿なことを言っている時代への警鐘として、引用しておく。

学問は、科学を含めて、経済的な成功や、世間的な豊かさをもたらすものではなく、
一人の人間としての、人間性の豊かさを広げ、深めていくものである。


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category: 読書

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今西生物学からの考察。「フンころがしの生物多様性 自然学の風景」  

フンころがしの生物多様性 自然学の風景
塚本珪一



フンころがし、いわゆる糞虫、食糞性コガネムシ類。
糞を喰う虫なんて、バッチィ!と拒否反応がある方も多いかもしれないが、
生物がいる以上、死骸と糞を喰う存在は、欠かせない。

本書は、そんなフンコロガシを対象とした日本各地の調査経験を踏まえて、
それぞれの地の生物多様性を探るもの。

ただ、一般的な研究解説―食糞性コガネムシ類の生態等を踏まえ、
客観的に論じるもの―ではない。

著者自身が今西生物学をベースとしていることから、
単純な生物書ではなく、生物哲学書といった趣をもっている。
各章も、それぞれが独立した思索の章となっている。

正直なところ、食糞性コガネムシ類に関する客観的知識を得ようとする方には、
お勧めはしない。

ただ、生物研究を通して、その地域の環境を含め、「総体」を理解しようと考える方、
(僕は全くの素人だが)今西生物学のスタンスを好む方は、
楽しめるのではないかと思う。


【目次】
1 自然学への道
 今西錦司先生の「自然学」を読む
 遠い日々の記憶・原風景
 京都北山・糞虫の発見
 私の自然学への道
2 「フンころがし自然学」の風景
 ファーブル『昆虫記』は自然学
 聖なる虫=スカラベ
 糞虫考
 糞虫考現学
 糞虫の種社会・分布
 糞虫地理学から風景論はの展開
 糞虫と野生動物の創る風景
 糞虫の生息空間
 糞虫の道=生態回廊
 都市・里山の風景論
 京都御苑の自然学・風景
 散歩道・雲母の森から
3 日本列島の自然学の風景―フィールドノートより
 オホーツクの風景
 北の島の風景 利尻・礼文・トド島
 イーハトーブの糞虫たち
 生と死の連鎖を見た日
 「山の牧場」の風景
 蓼科山のふもとから
 糞虫の聖域=奈良
 高地性コウチュウについて
 近畿圏の特異性
 冠島・無人島・生と死の風景
 兵庫県から宮古島・台湾
 三瓶山「山の牧場」・ダイコクコガネ
 隠岐の糞虫
 対馬紀行
 四国・糞虫のいる風景
 アカマダラセンチコガネとムネアカセンチコガネ
 屋久島・世界遺産の島
 北海道から南西諸島までの物語
4 生きもの社会再考
 群・家族・種社会
 食の順位のモデル
 種社会の構造とモデル
 ビオトープと種社会
5 二一世紀「生物多様性社会」の構築
 マンダラ=モデルという考え方
 生物多様性社会から共生へ
 絶滅危惧のフンころがしたち
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category: 昆虫

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生物好きの子供に届くことを願う。「理系アナ桝太一の 生物部な毎日 (岩波ジュニア新書)」  

理系アナ桝太一の 生物部な毎日 (岩波ジュニア新書)
桝 太一



「ザ!鉄腕!DASH!!」のダッシュ海岸のコーナーで、稀に出現する生物屋レアキャラクター。
その時の顔は、いつもの番組とは異なるワクワクに溢れていて、
見ているこちらも楽しくなる。

一般にテレビの出ている人の趣味と言うとスポーツや芸術が多いが
やっと共感できる生物屋が現れて、嬉しい限りである。
(まあ、トラブルメーカーのような生物屋は、そもそもテレビに露出しないだろうが。)

さて、その桝氏が、どのような生物屋人生を歩んできたか、
そしてなぜアナウンサーになったのかを辿るのが、本書。

枡氏の、子供時代の生き物との出会い、
高校での生物部活動、大学でのアサリ研究。
一般人なら「マニアック」ですますのだろうが、
生物屋からすると、羨ましい人生がここにある。
そして今の枡氏の成功が、生物屋として培ってきた「ひたむきさ」の延長にあることが、わかる。

さて、親や周囲にモデルとなるような生物好きがいなくても、
やはり自然発生的に、生物好きの子どもがいる。

そうした子どもたちは、成長するにつれて、
「そんな暇があったら勉強しろ」「そんな趣味は何の役にも立たない」と言われがちだ。
そして残念ながら、スポーツや音楽のように日常的に目にする成功のロールモデルもなく、
「こんな趣味を続けていいのだろうか」と、孤独に陥ることも多いと思う。

もちろん、枡氏の人生における重要なポイントの一つである、
麻生学園生物部のような「場」は、なかなか普通の人には無い。
だが、歩み続ければ、いつかはそれなりの場所に辿りつくものだ。

本書は、枡氏という人気者の本ながら、
「岩波ジュニア新書」という若い世代向けのシリーズとして刊行されている。
おそらく枡氏と出版社との間で、単純に「話題になって売れる本」を目指すのではなく、
やはり若い世代に向けたメッセージを伝える本としたいという願いがあったのではないかと思う。

人気アナウンサーという肩書を重視せず、
本書がより多くの若者―特に、孤独な若者に読まれることを、願う。

【目次】
1 生き物との出会い
2 チョウ男の日々
3 有栖川班の挑戦、そして理系へ
4 アナゴ大学生
5 アサリ漬けの修士課程
6 「理系アナ」の試行錯誤と現在地
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category: エッセイ

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自分で考えることの楽しさ。「三日月とクロワッサン」  

三日月とクロワッサン
須藤 靖



私事乍ら、久しぶりに異動になった。
事務屋なので、効率化・簡略化を徹底して残業しない主義を徹底してきたのだが、
今度の職場は物理的な量が甚だしく、どうも危険な香りがする。
この春で異動、新規採用となった方の中にも、僕のように青ざめている方も多いのではないだろうか。
ただ、自分自身にも言い聞かせているのだが、自分の人生、家族の人生を豊かにできるのは自分だけである。
やりたい事が仕事という方はともかくとして、生きる手段として仕事をしている方。
「仕事のための人生」を過ごさないよう、常に注意しましょう。

また、そもそもどういう人生を送るべきなのか。それを常に意識しておきたい。
最近僕もよく振り返って読んでいるのだが、下記の本をお勧めする。特に若い人、読んでおいて損は無い。
というか、読んでいないと人生で損をする。
7つの習慣-成功には原則があった!
TQ―心の安らぎを発見する時間管理の探究
小さいことにくよくよするな!―しょせん、すべては小さなこと
人生の100のリスト 」(レビューはこちら)
また、例えば 楽しいことを仕事にするドキュメンタリーブログ、「jMatsuzaki」をお勧めしたい。(熱いぜ!!)


さて、ここからが本書の紹介。

有名なミステリ作家である森博嗣氏は、いくつかエッセイも刊行している。
工学部ならではのテーマもあるが、何より、
日常のそこかしこに疑問を抱き、自分なりの仮説を立て、検証し、
そこから何かしら―人生の意味であったり、教訓であったり、普遍性であったり―を見いだしている。
その切り口と分析に、うむむと唸らされることも多い。

さて、本書の著者は東大の物理学の教授である。
森氏と同様に、日常のかけらに対して切り込んでいくのだが、
そのテーマの選択・展開・考察の明瞭さが、心地よい。

「サクサクとパリパリ」は、どう違うのか。
「幸せ」を数式化してみれば。
クロワッサンや三日月の「正しい向き」。
世界における「指を追って数える方法」の違いと、そこに秘められた謎。

などなど、テーマだけでも面白いが、
その文章・考察も機智とウイットに富んでいて、いやはや味わい深い。
本書は「人生一般ニ相対論」の続編であり、僕もまだ前著は未読なのだが、十分楽しめる。

それにしても、森氏といい本書の著者といい、
理系の学者というのは、何にでも突っ込んで考えないと気が済まないのか(悪い意味ではなく、素敵である)。
柳沢教授(by「天才 柳沢教授の生活」)がいっぱいいるようである。

【目次】
展開編
 サクサクでパリパリ
 幸せ相対論
 大学教師をめぐる3つの誤解
 ローの精神
 三日月とクロワッサン
 指折り数えて
 サイコロを振れ、受験生
 宇高連絡船のUDON
 裸の学者
 無科学哲学のススメ
考察編
 出版業界の苦悩
 夜空ノムコウに思いをはせる
 4月になれば駒場は
 ポスドク問題:大学の論理、企業の論理
 たかがナカグロ、されどナカグロ―科学技術か、科学・技術か

▼同著者による前著。


▼年末に嫁さんと協議のうえ、全巻古本で大人買いした。良い。
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category: エッセイ

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宇宙は、夢を追う人の世界だ。「ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験 」  

ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験 (光文社新書)
大鐘 良一,小原 健右



宇宙からの危機に際して、映画では、そこらのおっちゃんが宇宙によく行く。
しかし当たり前の話だが、現実の宇宙開発は少なくても国家的プロジェクト、有人レベルとなると世界的プロジェクトである。

一方、宇宙は言うまでもなく、物理的にも精神的にも極限状態であるから、
世界的プロジェクトを遂行するという、とてつもないプレッシャーの下で、
円滑にミッションを遂行させなければならない。
宇宙飛行士には、恐ろしく高度なスキルとタフさ、そして人間性が要求される。

だが人間は、機械と異なりゼロから設計できず、一人一人に個性がある。
その中から、いかに宇宙飛行士にふさわしい人物を選抜するかというのは、
なかなか興味深いテーマである。

幸いにも、現在は「宇宙兄弟」(僕はつまみ読み程度)でその片鱗は伺えるが、あれはあくまでもフィクション。
おそらくそのベースの一つとなったであろう、
世界で初めて国家レベルの宇宙飛行士選抜試験に密着したドキュメントが、本書である。

ISSに滞在する宇宙飛行士を選抜するJAXA。
2010年に刊行された本書の時点では、
今回追う試験を含め、25年でたった5回しか開催されていない。
そして2008年、10年に年ぶりに募集された宇宙飛行士選抜試験には、
全国から963人の応募があった。

書類選考、当初の健康診断、英語の筆記試験等で、
まず230人に減少。

続く1次選抜試験では、
さらに詳細な医学検査や心理・精神面の検査と、
数学・物理・化学・生物・地学と一般教養の筆記テストで、48人に減少。

さらに第2次選抜試験であるJAXAによる面接を経て、
最終候補者として絞られた10名が、
やっと最終選抜試験-
10日間の閉鎖空間での生活に入る。
宇宙飛行士になるには、この常時チェックされている空間において、
次々と出される様々な課題に取り組む中で、
他人より秀でながらも、他人を敬う協調性を示さなければならない。
それも上辺だけでなく、その人の本性として。

普通に考えると、宇宙飛行士選抜試験にトライできるような人間自体、
そうそういるとは思えない。
逆に言えば、最終選抜試験に残った10人は、
宇宙飛行士にふさわしい資格・人間性を秘めた錚々たるメンバーであり、
しかも「宇宙飛行士になる」という夢に手がかかっている状態だ。

そうした人たちが、極限状態で陥る混乱と焦り。
全員を応援したくなる雰囲気の中で、読んでいるこちらまでドキドキしてくる。

また、本書では続いて、NASAによる選抜も紹介されている。
アメリカならではというか、長い宇宙開発史をふまえた人選方法は、
日本の選抜方法とも異なる深みがある。

この試験の結果、誰が選抜されたかという結果は、調べればすぐに分かる。

だが、彼らが生まれながらの宇宙飛行士ではなく、
こうした選抜試験を耐え抜いた元一般人であるという事実を知ることは、
日本の宇宙開発を等身大に理解するうえで極めて重大だろう。

宇宙は、一握りのエリートのものではなく、
夢を追う人間のものなのだ。

【目次】
第1章 選び抜かれた10人の“プロフェッショナル”たち
第2章 “極限のストレス”に耐える力
第3章 “危機”を乗り越える力
第4章 NASAで試される“覚悟”
第5章 宇宙飛行士はこうして選ばれた

YOUTUBEで、スペースシャトル・アトランティスの打ち上げと帰還のビデオを発見。
やっぱりスペースシャトル、カッコいいなぁ。


あと、ISSから見た地球の、ライブカメラ。
この美しい地球上で、まさに今、
多くの怒り、苦しみ、哀しみや理不尽が続いていると思うと、やるせない。

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category: ノンフィクション

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分類群の違いを明瞭に説明してくれる、極めて価値の高い一冊。「昆虫の誕生―一千万種への進化と分化 」  

昆虫の誕生―一千万種への進化と分化 (中公新書)
石川 良輔



普通の生活をしていると、生物の分類-、門・綱・目・科・属・種といったレベルを意識することは、
ほとんどない。

だが、生物を相手にした趣味に手を出し、
少し真面目に見ようとすると、こうした分類を意識するようになる。
むしろ、分類を意識することが、様々な種の「違い」について、より早く、より的確に把握し、
その類縁性を知るこテクニックと言える。

ただ問題は、哺乳類や爬虫類といった生物群(おおむね綱のレベル)ごとに、
それ以下のレベルに内包される種数のスケール感が、大きく異なることだ。

例えば現生の鳥類は、約9,000種。
一方、いわゆる昆虫と言われるグルーブになると、記載種だけで約80~90万種という。
それらの種数が目以下のレベルに分類されるため、
鳥類で馴染んだ目や属のスケール感は、そのまま昆虫には通用しない。

ただ上記のとおり、目・科・属の違いを知ることが識別の礎になるとすれば、
自分が興味がある種の分類群を的確に知ることは、非常に重要だ。

本書は、その期待に応える一冊。
刊行時点にいわゆる昆虫と呼ばれる範囲の全ての目について、
昆虫の進化史を辿りながら、
それぞれの目を隔てる進化上の形質を解説し、その系統関係を全て説明していく。

そうすると難しそうだが、
精細な図版と、昆虫の進化史を踏まえた系統順に解説することで、
Aという目とBという目の近縁性と断絶があるかを、非常に分かりやすく解説してくれる。

もちろん図鑑ではないから、この一冊で特定の種が識別できるようになるものではない。

だが、地球史上、おそらく最も成功した生物群である昆虫という分類群について、
的確に把握するには非常に重要な一冊であり、
これほどの本が新書として出版されていることに、日本の出版文化の豊かさを感じる。
(だが一方で、既に本書は絶版らしい。出版文化の衰退も感じるところだ。)

なお、刊行が1996年のため、2002年に新しく―何とガロアムシ目以来88年ぶり― に記載された、
マントファスマ目(カカトアルキ目)は収録されていない。

本書に収録するとすれば、著者はどのような解説を付してくれるのか。
残念ながら改訂版は望むべくもないが、
それでも、ここまでの成果を残しておいてくれたことは、幸せである。

【目次】
1 エントマから昆虫へ
2 昆虫という生きもの
3 昆虫の多様化

なお、マントファスマ目(カカトアルキ目)については、残念ながら一般向けの本は極めて少ない。
だが、子ども向けながら、
カカトアルキのなぞ―世紀の発見88年ぶりの新昆虫 (ドキュメント 地球のなかまたち)」(レビューはこちら)が、とてもわかりやすく、また楽しく紹介している。
おそらく日本で唯一、一般人が読めるマントファスマ目に関する本である。


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category: 昆虫

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