ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

「イルカの不思議: 2時間で生まれかわる皮膚? アゴが耳? 驚きの能力に迫る!」 海のトリトンもびっくりだ!!(古い)   

イルカの不思議: 2時間で生まれかわる皮膚? アゴが耳? 驚きの能力に迫る!
村山 司



特定の種の研究者が、対象生物に関するベーシックな話題から、自身の研究分野まで展開して紹介するもの。
コンパクトながら、毎回質が高く、楽しい一冊である。

本書のテーマはイルカ。
哺乳類でありながら、海棲生物として成功した種。
その立ち位置は、いわば、鳥類におけるペンギン。
圧倒的な身体能力で海に適応したタイプで、頭がよい、優しいというイメージが強いが、
本書でもまずはその卓越した身体能力が語られる。

例えば、
流線形で最も抵抗が少ないのが縦と横の割合が1:5であり、
イルカの体高と体長の割合がこれにちかい、とか、
皮膚が2時間ごとに更新されており、一日に12回も入れ替わっていること、
血液にヘモグロビンが多く、また筋肉にも酸素と結びつくミオグロビンが多いこと、
低酸素下では、心拍数を減らして脳や心臓だけに集中させるなど、
これらは、生物進化の潜在的な力を見せつけるものといえる。

また、人間は左右の目からの視神経が両方の脳の半球に入るが(左右両方とも、視神経は途中で枝分かれし、左右両方の半球に入る=脳全体で理解する)。
ところがイルカは、左目は右半球、右目は左半球のみに入るため、片目ずつ(左右の脳半球ごと)に機能している。
ここから、さらにイルカは左右の半球単位で「眠る」(半球睡眠)ことが可能という。
この半球睡眠は渡り鳥でも見られるそうだが、左右の脳の使い分け、人間と全く異なる脳の使い方というのは、
とても興味深い分野である。

こうした脳力の潜在的な可能性を踏まえて、後半は、著者の研究分野であるイルカとの音声コミュニケーションが語られている。
イルカに言語を教える方法はもとより、それを実際にこなす個体がいることなど、進展が気になる研究である。

特に僕としては、サルなど個体の持つ意識や社会性が人間と同じ線上にある生物と違い、
全くバックボーンが異なるイルカと、どこまでコミュニケーションできるのかが興味深い。

ところで、著者のように特定の動物種と話ができるとしたら、あなたは何を選ぶだろうか。
イヌやネコというのもメジャーなところだが、僕は、まずはぜひアオサギと話がしてみたい。
池の畔でよく佇んでいるアオサギ。
アオサギ201502
きっと奴は、何も考えていないはずだ。それを確かめたい。

なお、九州では、エイを飲み込めずに困っているアオサギを見たことがある。
食えるはずがない。やっぱり何も考えていないに違いない。
DSCN1718

【目次】
第1章 イルカとはどんな生き物か
第2章 イルカの驚くべき能力
第3章 群れをつくるイルカ
第4章 賢いイルカ
第5章 イルカと話したい
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category: 哺乳類

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「喰らう読書術 一番おもしろい本の読み方」読むことを恐れてはいけない。  

喰らう読書術 一番おもしろい本の読み方
荒俣 宏



フィクションは、自身の嗜好(時には、自分自身も意識したことがない嗜好)に合うものとの出会いを喜ぶもの。
ノンフィクションは、自身が知らないモノとの出会いを喜ぶもの。

推理小説作家の森博嗣氏がこんな感じのことをもっと上手い表現でどこかに書いてたと思うのだが(「封印サイトは詩的私的手記 I Say Essay Everyday」あたりと思う)、メモし損ねたので、正確なところは分からない。

もちろん、どちらか上というものではない。

僕も若い頃から、文学かエンターティメントかを問わず、フィクションも割と良く読んでいた。
だが、いつの間にか世界は自分が知らないことだらけだと気づいて、ノンフィクションばかり読むようになった。
(正確には、読みたいノンフィクションが増えて、フィクションを読む暇がなくなった、という感じである。)

※以下、「ノンフィクション」という言葉が、(ドキュメンタリー的なものに限定された)やや狭い定義と混同しそうなので、
「非フィクション」と称する。

本ブログでも9割以上は非フィクションを紹介しているが、
読めば読むほど、個々の本やジャンルがネットワーク化されて、世界が立体的に見えてくる(と、感じている)。
また一方で、自分が世界の「何」が知りたいのかが浮かび上がってくる(僕だと、例えば生物地理学と進化史だ)。
少しずつ世界が見えてくる喜び。
フィクションだけを追っていると絶対に味わえない感動である。

この感動が非フィクションを追う原動力になるのだが、荒俣氏はその原動力を、見事に説明している。

たとえ悪魔に魂を売り渡しても、知りたい、教えてもらいたい、この世の秘密を少しでも解きたいという渇きが、私の魂を揺するからです。好奇心が満たされる歓びよりも上の幸せなんて、滅多にありません。


「たとえ悪魔に魂を売り渡しても、」と言い切れるかどうかが荒俣氏と余人との違いなのだろうが、
それでも、僕程度の人間でも非フィクション街道から抜け出すことは容易ではない。

本書は、そんな非フィクションを愛してやまない荒俣氏による読書方法論。
ただ、そんなに具体的なHOWTOが記載されているわけではなく、
・非フィクションを読むことは、ヴァーチャルな経験だよね
・非フィクションを好きになるって、こんな事例があるからだよね
・自力で非フィクションを読み続ければ、自分に合う本を見つける読書感度が増すよね
・とはいえ、慣れないうちは、大系的に読むのも良いよね
・あと、見つけた本から興味の趣くままに展開すると良いよね
的なことが記載されている。

ただ、そこかしこに荒俣氏の実体験や実際の本の紹介があるのが、読みどころだろう。
実際の非フィクション系の読書に役立つ「術」が書かれているかと言えば、たぶん多くの人には、満足できる「術」は無いだろう。そういうのは、「読書は1冊のノートにまとめなさい[完全版]」とかの得意分野である。

本書はそれよりも、非フィクションを読むという「人類の知を探る愉しみ」を実例で紹介する点に、大きな主眼がある。
自分はこんなに本ばっかり読んでいていいんだろうか、と不安になった時に、ぜひお読みいただきたい。
開き直る特効薬となるだろう。

▼「他人がどんな本を読んでいるか」というのは、下世話ながら興味深いところ。(レビューこちら)

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category: 読書

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「絶対に見られない世界の秘宝99」宝は、必ずあるッ!!  

絶対に見られない世界の秘宝99
ダニエル・スミス



ナショナル・ジオグラフィックから刊行されている世界のナントカ99シリーズ。
「絶対に見られない」ということは、本書には(おそらく)その秘宝について、失われる前に写真がなければ全く具体的な映像は無い、ということになる。
それはちょっと残念だなと思いつつ、「秘宝」という言葉に抵抗できなかった僕がいる。

掲載されている秘宝を例示すれば、有名なキャプテン・キッドの宝(宝関係では定番)、ビール暗号の宝(暗号関係では定番)、そして沈没した様々な船舶などだ。
また、防錆潤滑剤WD-40の成分やケンタッキー・フライドチキンのレシピといった企業秘密も取り上げている点が、ちょっと変わったところ。また確かに、ここまでは宝と言えなくはない。

だが、中にはちょっと「宝」と言うのはいかがなものかというものまで掲載されている。

アトランティスやインカの都市、果ては
ジョン・F・ケネディの脳や、ベートーベンの「永遠の恋人」、
逃亡したハイジャック犯、イギリスのスパイ「第五の男」等まである。研究者にしたら宝だろうが、これらはむしろ「謎」だ。

さらには、探索の結果「宝は積まれていなかった」と結論づけられるものまで掲載されている。
このため、読み進めめるにつれ、かなり違和感が増すのだが、これはそもそも、邦題がミスリード。

原題は「100 Things You Will Never Find: Lost Cities, Hidden Treasures and Legendary Quests」 と、はっきり
「失われた都市、隠された秘宝そして伝説的な探求」と書かれている。
(ところで、-1は何なのだろう?)

そうした前提で読めば、それぞれの探求物語を素直に楽しむことができるだろう。

内容としては、1トピック2~3ページ。日本からは草薙剣と潜水艦イ52の金塊、阿波丸の財宝がエントリー。
失われたモノの多さもさることながら、
ナショナル・ジオグラフイック的な視点からすると、こういうトピック(ウォーターゲート事件時に、おそらくニクソン大統領が消した部等)もエントリーするのだなというのも面白いところ。
それぞれのトピックが詳細に掘り下げられているものではなく、誤りとは言えないまでも端折っている部分も多いので、気楽に楽しんでいただきたい。

なお、一部内容の見本がナショナル・ジオグラフィックのサイトで見られる。
こちらをご確認いただきたい。
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category: 歴史

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「お皿の上の生物学」 目の前に、知識がある。  

お皿の上の生物学
小倉 明彦



「そう来たか!」というのが、書名を知った時の感想。
世の中に生物学関係の本は多く、また「楽しい」「身近」をウリとしたものも多い。
だが、「生物学」そのものを語るか、
フィールド体験から入るか、になりがちだ。

そこに、「お皿の上の」である。
目の前の料理、確かに動植物である。
ただ、そこから生物学に展開し、きちんとしたストーリーを作るとなると、かなり力技となるだろう。

本書は、大阪大学の新入生向けの「基礎セミナー」において、
実際に著者が行った講義をもとにしたもの。
全7講のうち、4講までが実際に行った講義録、
5~7講が予定稿を元に作成したもの。
実際には、実物(食品も含む)、写真、調理から試食のまでも含む講義とのことで、想像するだけで楽しそうである。
大学に入ってこんな講義に巡り会えば、「学問って身近で楽しいモノなんだ」と実感するだろう。羨ましい限りである。

さて、著者は神経生物学が専門とのことだが、各講義はその専門にとらわれず(基礎セミナーだし)、味覚・触覚・痛覚、臭いや味(旨み)、食材の色、調理による化学変化、食器の違い、そしてクリスマスケーキやお節料理など、多岐にわたる。
実際のところ、話が生物学の範疇にとどまる方が(たぶん)少なく、
研究史、発見史などの歴史や雑学・トリビアの域に入るものも少なくない。

しかし本来、「生物学」というカテゴリ自体が不自然なものだし、現在は特に学際的な視点が求められているわけだから、
むしろ学生に対しては、幅広い好奇心を刺激する方がいいだろう。
(と、高いトコロからの物言いになるが、僕ならそうしてほしい、ということである。)

細かくエピソードを紹介したいところだが、この本の場合、そうした蘊蓄展開こそが楽しみのツボなので、そんな野暮なことはしない。
ただ、様々なトピックについて、「生物学だから」と手を抜かず、
むしろ他書には見られない細かい情報が盛り込まれている。

また、講義の流れを途絶えさせないよう、重要な語句等には脚注があるし、別項に解説も立てられている。

さらに、最後の「科学論文の話」は、科学論文の書き方だけでなく、その受理・公表・評価を巡る諸問題、発表媒体や基礎研究費の実利・メジャー分野への偏向による弊害などを指摘しており、多くの方に読んでいただきたい。

著者には、「実況・料理生物学」という前著がある。
早速読みたい本リストに追加である。

【目次】
第1講 味の話
第2講 色の話
第3講 香りの話
第4講 温度の話
第5講 食器の話
第6講 宴会料理の話
第7講 季節の食品の話
第8講 論文の話
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category: 動物

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「にっぽん全国土偶手帖」 古代人もフィギュア好き。  

にっぽん全国土偶手帖
譽田 亜紀子



縄文時代というと、どうしても石器・土器といった無味乾燥な遺物を想像しがちだが、
夢をかきたてる「土偶」も、縄文期に多い。

宇宙人への連想として、よくあげられる「遮光器土偶」が代表的だ。

著者は奈良女子大学の方、 専門は文化人類学や民族考古学とのことだが、
そうした専門性はちょっと置いといて、
土偶への愛に満ち溢れた一冊である。
土偶を楽しむ、親しむための入門書として、同著者による
はじめての土偶」と共に、類書の無い一冊だろう。

本書は北海道から九州まで、著者が「これは!」という土偶50種を紹介するもの。


岡本太郎の「太陽の塔」、あのモデルが神奈川県 稲荷山遺跡出土の「筒型土偶」だとは知らなかった。
新書版サイズ、左ページに写真、右ページに紹介と、ごく簡単なデータを示す。
学術的な記述ではなく、力を抜いた(むしろ脱力系か)文章なので、
気軽に楽しめる。
逆に言うと、学術的な紹介ではないので、そういうマニアックな層は買うべきではない。

パラパラとめくり、
鼻が目の上についた土偶や、「縄文の女神」に類似した土偶、板状土偶や十字型土偶など、
様々なバリエーションを味わいながら、
縄文期の人々がどんな思いで作ったかを想像するのが楽しい。


それにしても、「国分寺を歩く (日本六十余州 全国分寺を完全収録)」(レビューはこちら)にしても、
いかなる分野にも全国行脚系のマニアはいるものである。



【目次】
北海道
東北
関東
中部
近畿
中国
四国
九州
◆土偶&縄文への旅◆
 1青森の縄文遺跡を訪ねる
 2女神たちに会いに行こう!in茅野
 3東京土偶散歩
◆考古学コラム◆
 1はまったら抜け出せない !? 魅惑の発掘ワールド
 2土器が好きでたまらない! 作業員の世界
 3探検! 博物館の舞台裏




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category: 歴史

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「白河天体観測所: 日本中に星の美しさを伝えた、藤井旭と星仲間たちの天文台」今夜は、星空を見上げよう。  

白河天体観測所: 日本中に星の美しさを伝えた、藤井旭と星仲間たちの天文台
藤井 旭



冬に星空を見上げるのが好きだ。
肌に感じる冷気に耐えながら、仰ぎ見る星々。
中学生の頃、夜にこっそり窓を開けて月と星を見ていた。
自分が 何者なのか、どんな人生を歩むのか。漠然とした不安と期待を抱きながら、
変わらない星空をただ見ていた。

あれから数十年(!)が経ってしまった。
結局個々の星の名前も位置も覚えられなかった。
反射望遠鏡も、結婚を機に捨ててしまった。
星座にまつわるギリシャ神話も忘れてしまった。

だが、それでも星空を見上げるのは、やはり好きだ。

本書は、その星に魅せられた人々(特に著者、藤井旭氏を中心とした人々)によって作られた、
私設の共同天文台、「白河天体観測所」の物語だ。

白河天体観測所は、1969年に星仲間によって作られた。
観測はもとより、この観測所に集った星仲間たち(という言葉がぴったりだと思う)は、
自ら星を楽しみ、そして日本中の人々に星の魅力を伝えた。
その中心にいたのは、同天文台の台長チロ。精悍な顔立ちのアイヌ犬だ。

人里離れた土地に、手作りの天文台。
皆で囲む鍋、夜空、様々な事件と笑い話。
隕石探し、日本中の星仲間が集うイベント、「星空の招待」などなど、
本書には、星を中心とした人々の喜びと夢が詰まっている。

全国の星仲間に愛された天文台長チロ。
幾葉も掲載された写真、スナップ写真も集合写真もあるけれど、
その中にはいつもチロの姿がある。

星に魅せられた人々が、自ら作り上げた私設天文台。
その所長、チロ。
まるで夢物語のような白河天体観測所の歴史は、しかし時の流れと、東日本大震災による幕を閉じることになった。

本書は、白河天体観測所とチロを誰よりも深く知る藤井氏による物語。
他の誰にも成し得ない、そして二度と得られない夢のような時代の物語が、この一冊に詰まっている。

星に興味がある人はもとより、
むしろ、星に何にも興味が無い人にこそ、本書を読んでいただきたい。
そして、夜空を見上げるきっかけになればと思う。
誰の心にも、僕の心にも「白河天体観測所」を建てることができる。

近年、殺伐とした本が多い中で、これほど爽やかな本は滅多にない。

なお、藤井旭氏といえば、星をかじったとも言えない程度の僕だが、
星雲・星団ガイドブック―小型カメラと小望遠鏡による星雲・星団の観測 (1971年)」という本を持っていた記憶がある。
星雲星団ガイドブック
もちろん白黒写真だし、画像も粗かった(なんせ1971年刊行ですから)けれども、「星雲」という存在の魅力を感じるのに十分な一冊だった。

あと、本書は「星になったチロ―犬の天文台長」をベースにしているものの、
児童向けだった同書に比べて、文章の細かさ、また新しいエピソードなども追加されている。
以前「星になったチロ―犬の天文台長 」を読んだ方も、ぜひ手に取っていただきたい。


なお、なかなか忙しくて夜空を見られない方は、ぜひこちらのブログ、「星と写真の部屋」をどうぞ。


【目次】
まずは、私ごとから少々…
白河天体観測所をつくる
犬の天文台長さん
観測所日誌から(冬)
観測所日誌から(春)
観測所日誌から(夏)
観測所日誌から(秋)
隕石さがし異聞
白河天体歓食所のお楽しみ「アストロ鍋」
真夜中の訪問者たち(三田誠広/星新一/津島佑子)
チロの星まつり星空への招待
チロ望遠鏡づくり
一九八六年のハレー彗星
日本ハレー協会同窓会
南十字輝くチロ天文台
チロ天文台長の宇宙遊泳
あゝ、東日本大震災
ああ、楽しかったの五十年

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category: 地学

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「かつお節と日本人」 生産地の変遷と、日本人の南洋進出。  

かつお節と日本人 (岩波新書)
宮内 泰介,藤林 泰



昆布と日本人」(レビューはこちら)があまりにも良かったので、伝統食材と日本人シリーズとして入手。

かつおぶしといえば、我が家の食卓にもふりかけ等があり、まあ日常的な食材である。
だが、いったい日本人といかなる関わりがあるのか。

結論から言うと、「昆布と日本人 (日経プレミアシリーズ)」は昆布そのものから商品化、流通と、昆布の全てに視野が行きわたっていたが、本書のターゲットは主に「明治時代以後のかつお節生産史」である。

かつお節そのものの特徴や成り立ちなどを期待すると、ちょっと物足りない。

だが一方で、かつお節という食材について、やはり僕は何も知らなかったなと思い知られた。
まず、産地について。カツオというと四国では高知県が有名だが、
現在の産地は鹿児島と静岡。この2県で本書執筆時点で約97%を生産しているという。
これらの地が産地として伸びた経緯には、明治以降のかつお節を国策として拡大してきた殖産事業、
江戸期以前の漁業形態等、様々な理由がある。

また、現在ではインドネシア産かつお節が、特に伸びている。
こうした南洋産かつお節も、明治から昭和初期までの南洋進出の歴史が重なっており、
それだけに、太平洋戦争における南洋でのかつお節生産者への影響は甚大なものだった。
その歴史を踏まえて、インドネシアでかつお節生産が復興し、
しかも地場産業として、明確に「インドネシア産」として輸入されるに至るまでの歴史。

また、「かつお節」と言う、かつてはハレの食材であった「節」という形態から、
削り節としての流通が主流となった現在への推移。

江戸時代から続く、かつお節生産業者から多大な信頼を得ている卸商、「にんべん」。

明治期以降ではあるものの、かつお節という伝統食材を巡る正に激動の歴史が、
この一冊に凝縮されている。

「伝統食でありながら、いまなお消費が増加している珍しい食材」である、かつお節。

日々の「だし」、ふりかけ、トッピング等に活用しているが、
その背後にある歴史を知っておくことも、悪くないと思う。

特に、沖縄県とかつお節、沖縄県と南洋のかつお節の関わりの深さは、初めて知る事実だった。

あと、「にんべん」のかつお節が食べたくなる一冊。

【目次】
第1章 かつお節は日本の伝統か―たどってきた道
第2章 南洋に向かった沖縄漁民―明治から敗戦まで
第3章 大衆化するかつお節―変わる産地と生産方法
第4章 赤道直下の一大産地―インドネシア・ビトゥンの八〇年
終章 つながりあうかつお節ネットワークと私たち
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category: 歴史

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熱意は、伝わる。「ハーバード白熱日本史教室」  

ハーバード白熱日本史教室
北川 智子



「白熱◯◯教室」というのが流行りであり、正直そういうタイトルには二匹目のドジョウ狙いが多いので、
基本的に避けている。
ただ、本書は先に妻が読了し、薦められたもの。結論から言うと、一読の価値はあった。

著者は、実際にハーバード大学で日本史講座を開講している方。女性である。
そして本書は、高校で理数科を専攻していた著者が、なぜかカナダの大学院で日本史を専攻することになり、
そしてハーバード大学で講座を持ち、
マイナー分野だった日本史講座を、200人を超える(本書時点)人気講座にまでした日々の記録だ。

本書は、主に三つの軸から読む価値がある。

まず1つ。当然ながら、一介の高校生が、ハーバード大学で教えるに至るまでのストーリー。
もちろん誰でもなれるものでもない。
本書でも、「博士号取得候補生」になるための大学院時代のカリキュラム、試験が紹介されているが、
恐ろしいばかりである。
これを実践するには、知力もさることながら、相当な体力が必要だろう。
アメリカ等の博士や教授が無暗にエネルギッシュだと感じていたが、そうでなければ、そもそも生き残っていないのだろう。

2つめ。著者が提起する、「レディ・サムライ」という日本史上の視点。
武士、サムライといった存在は、暗黙の裡に男性となっているが、
では、女性は妻、母という存在でしかなかったのか。
いや、実は当時の女性の中には、「レディ・サムライ」というべき、公的な役割と影響力があつたのだというのが、
著者の講座の視点である(と、僕は解した。また上記紹介もあまりにも簡単なので、ポイントがずれている可能性もある)。

逆説の日本史」も話題となったが、歴史は単なる事実の積み上がりではなく、全て意味と繋がりがある。
そして、うまく歴史を貫く視点-例えば「逆説の日本史」における「怨霊」とか、本書のような「レディ・サムライ」など-を得れば、その視点から歴史を「理解する」ことが可能になる。
それが歴史に学ぶということだと、僕は思う。

3つめ。ハーバード大学の受講システムや講義・教師評価システムと、著者の講座の工夫。
日本の大学ではたぶんまだ導入されていない(だろう)が。
アメリカの大学では、学期末に学生が教師を評価する。
5段階評価。ハーバード大学では、総合的な評価、使われた資料の適正さ、宿題、教師や助手からのフィードバック、講義以外の対応の5分野。そして、他人に薦めるかどうか。
この評価を集計し、公表することで、次年度の学生が講義を選ぶかが決まる。
つまるところ、くだらない講義だと学生は減っていくのである。
良いシステムだ。
だから、日本もかくあるべしと言いたいところだが、ちょっとそうは言えない。
このシステムは、「学ぶ意欲のある学生」が評価するところがミソであって、「楽をしたい大学生」が多いと意味がなくなる。
日本の学生が、きちんとこの評価を行う責任に向き合えるかというと、疑問である。

こうしたシステムでも高評価を得るのは、著者の様々な講義の工夫による。
短い時間で日本史を全て理解するは無理としたうえで、
なぜ日本史を学ぶのか、そして学ぶ過程でどうなスキルを得るのか、そうした視点から、
かなりアクティブな講義となっている。
日本史とテーマを絞ったプレゼン、ラジオ製作、TV製作と、知識と技術を学ぶカリキュラム。
これが実践できるのはハーバードだからという声もありそうだが、
日本でも工夫のしようはあるだろう。

新書サイズながら、知らない世界(ハーバード大学での講義)を具体的に伝えてくれる、学びの多い一冊である。

なお、TED×Sendaiで、著者の講演がアップされていた。
興味がある方は、どうぞ。
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category: ノンフィクション

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「似せてだます擬態の不思議な世界」擬態を、分子から探る!  

似せてだます擬態の不思議な世界 (DOJIN選書 2)
藤原 晴彦



進化史において、眼の誕生がエポックメイキングな出来事であったとすれば、
同時に眼による捕食を避けるための擬態も始まったのだろう。

擬態といえば、無害種が、有毒生物など危険種に似る「ベイツ型擬態」、
危険種が類似する「ミューラー型擬態」、
獲物を得るために何かに偽装する攻撃型の「ペッカム型擬態」などがある。

こうした擬態の妙には驚かされるばかりだが、
「なぜこれほど類似の模様が形成されうるのか」というのは大きな疑問だ。

もちろん、選択圧によって淘汰された結果だというのはあるとして、
その模様なり形が、いかなるメカニズムによって形成されるのかというのも興味あることろだ。

擬態に関する本は多いが、本書はその形成メカニズムについて、分子生物学、発生学の立場から解説されている点が面白い。

例えばコノハギスという昆虫。
この昆虫では、個体ごとに体の一部が枯れ落ちて消失した葉のようになっており、そのパターンは個体によって異なっている。
このように、個体によって体の一部を欠くという発生のメカニズムが成立していることが不思議であると指摘する。
なるほど、確かに世の中を見回せば、同種は基本的に同じ形だ。
あえて常に一部を様々に欠損させるというメカニズム、ちょっと普通では思いつかない。

また、タテハモドキ、ジャノメチョウなどの翅の目玉模様は、ディスタルレス(Dll,Distal-less)という遺伝子セットによるという。
この遺伝子は、実は肢や翅を作るのと同じツールキット遺伝子(ある特定の働きをする遺伝子セット)であり、ショウジョウバエの肢から見いだされた。
一見、目玉模様と脚は関係が無さそうに見える。

ところが実は、ショウジョウバエの肢は同心円状の構造を作り、その中心を伸ばしたような構造であり、目玉模様も同心円状。
Dllという遺伝子は、最初円の中心部で発現し、そこから何らかの物質が同心円状に広がり、Dllの発現を誘導するもの。
「同心円状構造」という点での共通性、単なる模様ではなく、器官的な意味がある。
このため、目玉模様において、Dllが発現している途中で同心円の中心を焼くと、以降Dllによる拡散がなくなるため、同心円は小さいままになるという。

さて、こうした反応拡散による模様形成といえば、チューリング・パターンである。
現在のアルゴリズムによるコンピューターの元となるシステムを開発したアラン・チューリングは、また、ある種の物質が、波のように体表面を拡散することで、様々な動物の模様が作り出されていると提唱した。
この不均一な反応拡散系のパターンをチューリング・パターンという。
本書でも示されているが、近年検証が進み、現実に成立しているモデルと認識されつつある。
今後、動物の模様形成を探るうえで欠かせない基礎知識となるだろう。
(このチューリング・パターンによる模様形成については、本書でも指摘されているが、近藤滋による「波紋と螺旋とフィボナッチ: 数理の眼鏡でみえてくる生命の形の神秘」(レビューはこちら)が詳しい。というか、面白い!)

この他、本書ではカイコ、視覚以外での擬態など、様々な擬態に関する話題が展開される。
全てにおいて分子生物学的知見が盛り込まれているわけではないが、
擬態に関する最新知見を知ることができる一冊である。

【目次】
プロローグ―擬態とは何か
第1章 だまし・だまされる生きものたち
第2章 だましのテクニック―標識型擬態と隠蔽型擬態
第3章 紋様をつくりだすしくみ―擬態の分子メカニズム
第4章 擬態するカイコ
第5章 アゲハに見る擬態の不思議
第6章 だまされるものか―擬態を見破る苦労
第7章 視覚以外の五感でだます
第8章 分子も擬態する―相互作用を真似る世界
エピローグ―人間社会におけるだましのテクニック

レビューはこちら


▼アラン・チューリングは、ドイツの暗号機エニグマの解読物語も有名。
 ベネちゃんがはまり役でした。

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category: 昆虫

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「ゼロからトースターを作ってみた」何でもやってみよう!!  

ゼロからトースターを作ってみた
トーマス・トウェイツ



ちょっと見回してみる。
目の前のPC、TV、iPhone。
電子機器以外だと、電子レンジや電気ケトルなど、日々の生活で利用する工業製品は、極めて多い。
妄想族としては、仮に文明が崩壊した場合、
残った人々で同じ文明レベルを復活させられるのか、つい考えてしまう。

おそらく、現在のような教育システムと、工業的な現場がなければ、ゼロから現在の文明を復活させることは難しいだろう。

そういう思考はたまに行うにしても、実際にチャレンジするかというと、別である。

著者は、大学院の学位取得のためのプロジェクトとして、全くのゼロからトースターを作ることに決めた。

トースターである。考えてみれば、電気でモノを焼くという極めてシンプルな工業製品だから、
何とかなるんじゃないかという気もしてくる。

その期待を胸に、著者が費やしたのは9ヶ月、3060kmの移動、約15万円。

まず、市販の最も安いトースターを分解してみたが、様々な金属・高分子化合物があり、
原材料をそのまま再現することは不可能だという事実に直面する。入り口で敗北。

そこで、市販品の再現ではなく、
最もシンプルなトースターを作ることを目標として、用いる材料を鉄、マイカ、プラスチック、銅に絞る。
たった4種類だ。
だが、これを得てトースターの部品にするために、恐ろしい難題が立ちはだかる。
鉄や銅は鉄鉱石、プラスチックは原油が必要。
また、精製に大がかりなプラントが必要。
そこを著者は様々な工夫(とちょっとした脱線)で、解決していく。
電子レンジを破壊したり、
ごく一般的な施設(駐車場や裏庭)で溶鉱炉を再現したりする。

中々考えさせられる話もある。
鉄の精製において、最も役だったのは16世紀の技術書、「デ・レ・メタリカ」。
人の手で精製しようとすると、ここまで遡る必要があるということだ。
すなわち、以降の技術革新は、一個人で再現できるものではない。

また、鉄や銅の鉱石についても、既に良質なものは採掘され尽していて、
人の手で精製することが可能なものはほとんど無いという。

振り返れば、高度に工業化された現在の科学文明の恩恵にどっぷり浸かっているが、
それは全て、僕個人の手で再現することはできない。
それほど複雑化された技術の先で生活しているというのは、考えてみれば、ものすごく危うい状況ではないだろうか。

そんな心配もあるが、それはさておき、
工業時代の心ときめくチャレンジとして、本書を純粋に楽しむこともできる。
カラー写真が満載だが、前述した駐車場での溶鉱炉(ちっちゃい)、
電子レンジの中で輝く溶けて鉄、
ボロボロになった植物性(元はジャガイモ)プラスチックなどなど、
多分二度と見られないファンキーな写真ばかり。
文庫化もされたようだが、大した差はないだろうし、
ぜひ元版でお楽しみいただきたい。

【目次】
まえがき
第1章 解体
第2章 鉄
第3章 マイカ
第4章 プラスチック
第5章 銅
第6章 ニッケル
第7章 組み立て
エピローグ 「ハロージャパン」
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category: 技術

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謹賀新年2016  

あけましておめでとうございます。

こちらは穏やかな元日となりました(写真は、滝宮天満宮です)。
20160101

今年も一年、よろしくお願いいたします。
また、皆様のご多幸をお祈り申し上げます。
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category: 雑記:日々のこと

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