ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

増補 書藪巡歴 (ちくま文庫)   

増補 書藪巡歴 (ちくま文庫)
林 望



「書誌学」という学問、なかなか一般には馴染みが薄いが、実は極めて重要な学問である。

日本の草創期、まさに「漢字」とともに、様々な文献が日本に伝えられた。
その多くは仏教寺院と貴族に伝えられ、日本の知識階級の基礎文献となっていく。
一方、日本で生まれた万葉集・伊勢物語・平家物語なども、1000年以上の時を超えて伝えられてきた。

その過程で、たった一種類の本に対して、夥しい数の写本・刊本が生まれた。
伝えられるうちに、テキストは変容するため、
必然的に、各時代の人々が読み、学んだテキストが異なってしまう。
そのため、正確に理解するためには、そのテキストの変容を把握する必要がある。

また、そうした変容を経ているため、いったい「原本」はどのようなテキストだったのかが分からなくなってしまう。

多数の写本・刊本を検証し、その変転を明らかにし、
時代時代のテキストと、原本のテキストを明確にしていく営み。
とりあえず僕は、書誌学の意義をそう捉えている。

文字というDNAの変容から、各本の系統関係を明らかにしていく。
実のところ、系統分類学以外の何物でもない。

そして、現在刊行されている日本の古典文学は、
こうした書誌学によって最も原本に近いだろうテキストである本をベースに刊行されている。

さて本書の著者、林望氏。
実のところ、僕は「イギリスはおいしい (文春文庫)」の著者としてしか認識しておらず、
数多あるエッセイストの一人としてしか認識していなかった。

しかし実は、この書誌学という分野において、書誌学上の偉大な研究者の跡を継ぐ研究者だった。

本書はその書誌学を学ぶ学生時代から、紆余曲折を経てイギリスへ渡り、
「『ケンブリッジ大学所蔵和漢古書総合目録」を作成するに至るまでの、
学究的半生を綴ったもの。

本書では、版木による出版文化・刊行業の世界など、
書誌学の面白さ・奥深さを垣間見ることができるのは勿論だが、
何より、著者が学んだ書誌学の師に対する想い、
書誌学に対する熱意が、美しい文章によって綴られている。

個々の文献それぞれについて、徹底的に詳細なアプローチを行う太田次男氏。
一方、膨大な文献をマクロに捉え、「どんな分野のいかなる文献でも分からなければらない」とした阿部隆一氏。
全く逆ながら、けれども認め合っていた二人の間で、
書誌学の後継者たらんとしていた著書。

読んでいて、熱い思いがこみあげてくる一冊となっている。

さて、本書では、尖った骨筆などの先で紙に押し書く「角筆」について触れている個所がある。
墨等を使わないため一見何も書いていないように見えるが、
その凹みを上手い光加減で見ると、文字が見えるというものだ。

僕も大学院時代、小林芳規先生の集中講義を受け、香川大学図書館所蔵の和本と柴野栗山の栗山文庫の調査に同行させていただいたことがある。もう20年程前のことになってしまった。
その時、角筆文字を自分で見つけ出すことができた喜びも味わえたが、
何より、角筆の状況を詳細に記録し、精力的に諸文献を精査していた小林先生が印象に残っている。

日の当たらない学問であり、ともすれば軽く見られがちな書誌学。
しかしそれ無しでは、日本の文芸史は成立しない。
それが、ごく少数の献身的な学者によってのみ持続しているという事実は、
日本の大きな問題ではないかと感じる。
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category: 歴史

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養老孟司のデジタル昆虫図鑑  

養老孟司のデジタル昆虫図鑑
養老 孟司



養老孟司と言えば「バカの壁 (新潮新書)」とかで有名だが、生物方面からすると昆虫大好きおじさんというイメージしかない。

そして結構以前に、昆虫標本をフラットベッドスキャナで取り込むという、新しいかたちの昆虫写真を発表していた。
そのシステムは、(当時は)EPSONのスキャナが必須という条件が有るがため、
ナショナル・ジオグラフック誌に、「養老孟司のデジタル昆虫図鑑」というEPSONの広告連載がなされていた。

本書は、その連載を加筆修正したものである。
(他に、養老氏が追究しているヒゲボソゾウムシに関する章、
そしてスキャナを用いたデジタル昆虫写真作成方法が(簡単に)紹介されている。)

スキャナで取り込んだ昆虫(標本)写真としては、Amazonの本書紹介ページ(「養老孟司のデジタル昆虫図鑑」)にも
ケニアのカワラゴミムシ、バリ島のツマベニルリタマムシ、壱岐のコアオハナムグリが掲載されているので、ぜひご覧いただきたい。
今となってはやや画素数が粗いデータとなってしまったが、その映像は当時、衝撃的なものだった。
現在、スキャナの画素数、そしてPCの画像処理能力は格段に向上している。
本書で紹介されたテクニックは誰でも試せるだろう。

オールカラー、そしてかなり上質な紙を使用している。
古本屋などで出会ったら、落ち着いた夜、ちょっと一息つく愉しみのために確保する価値がある一冊。
ただその紙質のためか、やや背表紙との糊付けが甘いようで、僕の本だけかもしれないが、大きく開くとたぶん傷む。
こっそりと覗くように楽しんでいただきたい。

【目次】
はじめに デジタルの眼で、虫の世界をのぞいてみよう
第1部 デジタル昆虫図鑑の世界へようこそ(ヒゲボソゾウムシなんて、なぜ調べだしたのか
ゴミムシはなぜ美しい
デジタル昆虫図鑑の原点“ミツギリゾウムシさま”
ケニアと日本のカワラゴミムシ
プリントしたタマムシの写真で、玉虫厨子を
ヤマトタマムシへの憧れ
ミヤマクワガタと、養老少年の“夏の思い出”
隠岐に暮らす「青い」コアオハナムグリ
朽木に潜む美麗種、オオキノコムシ
キンイロコガネとコスタリカの密林 ほか)
第2部 ヒゲボソゾウムシの謎を探る
第3部 山根一眞さんに教わろう!デジタル昆虫図鑑のつくり方
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category: 昆虫

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ヤマケイ新書 山岳遭難の教訓 --実例に学ぶ生還の条件-  

ヤマケイ新書 山岳遭難の教訓 --実例に学ぶ生還の条件-
羽根田 治



トムラウシ山遭難を機に、ツアー登山に対する批判が噴出した。
ただその過程で、一般的には「今回の旅行会社であるアミューズトラベルが特にずさんだった」という結論で終わってしまった感がある。
それに対して、「トムラウシ」というケーススタディを元に、ツアー登山の在り方や、ツアー参加者側の問題を分析したのが「トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか (ヤマケイ文庫)」(レビューはこちら)であった。

ただ、それでも登山における遭難ニュースは、後を絶たない。
僕自身は、登山にほぼ関わっていない無責任な立場から「山とはそういうもの」と思っているのだが、
山屋さん自身は、どう分析しているのか。
それが知りたくて手に取ったのが、本書である。

まず、目次をご覧いただきたい。

【目次】
高体温疾患の恐怖―沖縄・西表島
春の爆弾低気圧―八ヶ岳、谷川岳
10月のブリザード―北アルプス・白馬岳
吹雪にかき消えたルート―北アルプス・白馬乗鞍岳
スキーツアー中の雪崩事故―八甲田山・前嶽
冬山登山基地を襲った雪崩―北アルプス・槍平
ゴールデンウィークの低体温症―北アルプス・白馬岳、爺ヶ岳、穂高岳
被雷のち骨折―大峰山系・行者還岳、弥山
幻覚に翻弄された山中彷徨―大峰山系・釈迦ヶ岳
明暗を分けた分岐点―奥秩父・和名倉山
単独で山中を彷徨した8日間―奥秩父・飛龍山

トムラウシで顕著な問題となった低体温症だけでなく、雪崩、ルートの喪失、幻覚、高体温症等々、
様々なケースが取り上げられている。
基本、まずそのケースが綴られ、後半に「何が問題だったか、対策はどうあるべきか」を論じている。
1章ごとが専門誌に連載されたものであるため、読みやすい。

本書を読んで感じたことのうち、2点だけ綴っておきたい。

まず、山岳遭難は雪山のみではない、ということ。
いくつか本書でも取り上げられているが、有名な山であっても、その人にとっては初(もしくは季節が違う、何年も歩いていない)などの場合、ルート喪失の懸念はある。
その際、どう対応できるか。本書では運よく生還した人の体験談が収録されているが、
残念ながら同時期にルートを間違い、そのまま行方不明になった方もいる。

夏山であっても、また日本アルプスなどでなくても、遭難はあり得るということを、
週末登山者や、高山帯をフィールドとしているナチュラリストが、どれだけ覚悟と準備をしているか。
非常に気になった。

また山岳ガイドについて。
トムラウシのように、かなりビジネス寄りのツアー登山の場合、やはり問題が多いだろう。

だが、それほど大規模でないツアー登山や、スキーツアーはどうなのか。
こうした団体引率型の登山について、「ツアー会社だから危険、個人の山屋だから、地元だから安全」と鵜呑みにしていないだろうか。
本書では、地元ガイドが同行していても(また時には、同行して油断したからこそ)遭難したケースも紹介されている。

本書は、山岳遭難の「事例」ではなく、「教訓」である。
これを活かすかどうかは、山へ向かう個々人の姿勢次第だろう。
コンパクトながら、価値のある一冊である。
夏から秋にかけて、山は良い時期であるが、ぜひご一読いただきたい。
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category: 事件・事故

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オキノタユウの島で 無人島滞在“アホウドリ”調査日誌  

オキノタユウの島で 無人島滞在“アホウドリ”調査日誌
長谷川 博



(近々NHKスペシャルで、アホウドリが取り上げられる。
アホウドリ、大海原にはばたけ ~前代未聞の移住計画 8年間の記録~(仮)
総合2015年7月26日(日)午後9時00分~9時49分
興味がある方は、録画予約を。)


アホウドリ。著者は「オキノタユウ」という和名こそふさわしいと考え、本書はその呼称で統一されている。
その趣旨には賛同するものの、今のところアホウドリという名称が一般的なので、今回はアホウドリと呼称する。長谷川さんごめんなさい。

さて、野生動物の保護は、なかなか成果を出すことは難しい。
だが、本書に示されるアホウドリは、その数少ない成功事例である。

しかもそれが、国家や組織ではなく、ほぼ一人が主体となって成し得た結果と考えれば、アホウドリの回復は、世界的にも稀な物語といえるだろう。

著者の長谷川博氏は、アホウドリ保護と言えばこの人という程、
野鳥保護関係者では知られたキーパーソン。

鳥島での観察から始まり、営巣地の土地改良、デコイによる新コロニーの創設など、個体数回復の各段階において、効果的な策を進めてきた。

もちろん、その道のりは簡単なものではない。
例えば1977年、雛は15羽しか確認できなかったが、草の移植などで8年後の1985年には51羽に回復。
ところが、1987年には土石流が発生し、再び繁殖率が低下している。
そこで「従来のコロニー」を保全するとともに、「新コロニー」を形成しよう、と動き出す。
こうした適時・的確な対策を行うことで、アホウドリは復活していく。

本書は、その過程を振り返るとともに、鳥島に1ヶ月滞在した際の調査日誌を収録したものである。

これを読めば、いかに長谷川氏が先を見ていたか、また調査・保護において、細部の改良に努めてきていたかがよく分かる。
決して、幸運のなせるものではなく、長谷川氏という人がいたからこそ、
ここまで効率的に回復したのだろう。

また、本編や巻末には、調査によって得られた個体数・繁殖個体数・巣立ち成功率などの表や、今は調査がかなわない尖閣諸島のアホウドリの個体数調査結果や鳥島との遺伝的関係など、現時点で把握されてる諸データが満載である。

2013年が大学教員としての最終年度だったとのことであり、
本書は著者の公人としてのアホウドリ調査の集大成と思われる。

「謝辞」では、3年後の2018年5月までを、著者は自身の「責任期間」と考えていることが記載されている。
この言葉は、アホウドリ保護を次世代にバトンタッチするということだ。

長谷川氏が創った「新コロニー」は、当初デコイと音声で誘因をしていたが、
今はもう全て撤去され、代わりに本物のアホウドリ(成鳥・若鳥200羽、雛80羽程度)が暮らているという。

一方、今もアホウドリの雛から、ビニールやテグスなどの異物が吐き出されることがある。
餌と間違って給餌されたものだ。

長谷川氏が生涯を賭けたアホウドリ。
回復しつつあるが、それが永続的なものであるという保証はない。
まして、キーパーソンである長谷川氏に、いつまでも責を負ってもらうこともできない。
日本という国に生息するこの素晴らしい生き物を守り続けることができるかどうか。
行政・個人も含めて、日本全てが試される課題である。

また、本書では「壊滅的な結果になる可能性は少ない」とされながらも、
近年の火山活動の活発化は懸念されるところである。
特に鳥島は、日本で13ある活動度がAランクの火山の一つ。
今後の動向にも注意しておきたい。

ところで、冒頭にも掲載したが、
タイムリーなことにNHKスペシャルで、アホウドリが取り上げられる。
ぜひ、ご覧いただきたい。

アホウドリ、大海原にはばたけ ~前代未聞の移住計画 8年間の記録~(仮)
総合2015年7月26日(日)午後9時00分~9時49分

また、著者には、「50羽から5000羽へ―アホウドリの完全復活をめざして」など、アホウドリに関する著作が多数ある。
興味がある方は、Amazon等でチェックしていただきたい。

最後に、本書でもクマネズミによる捕食のため、オーストンウミツバメが激減していることなどが紹介されている。
アホウドリもさることながら、他の外洋性・島嶼繁殖の海鳥についても、積極的な保護策を講じる必要があるだろう。
ネズミによる被害については、「ねずみに支配された島」(レビューはこちら)に詳しい。

【目次】
プロローグ アホウドリからオキノタユウへ
第1章 鳥島での保護、長い道のり
第2章 鳥島滞在調査日誌
第3章 オキノタユウの未来
エピローグ オキノタユウよ、永遠に



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category: 野鳥

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国立科学博物館 特別展「生命大躍進-脊椎動物のたどった道-」   

国立科学博物館 特別展「生命大躍進-脊椎動物のたどった道-」
2015.7.10

先日東京出張があったため、金曜日の夕方、国立科学博物館に行ってきました。
金曜日だけ夜8時まで開館しているのを利用。

今回は、特別展「生命大躍進-脊椎動物のたどった道-」が目当て。
ネット上の紹介だと、恐竜以前、カンブリア紀等の生きものがメインのように感じますが、
行ってみたら生命発生から人類まで、長い進化史を辿るもの。
様々な人類種の比較や、余り見る機会が少ない哺乳類の化石も多く、とても興味深いものでした。

ただ、展示ボリュームが大きく、
カンブリア紀(バージェス頁岩が有名)から三畳紀(三葉虫)あたりまでで時間もお腹もいっぱい。
後半の哺乳類を見る時間も気力も少なくなってしまいました。
見に行く方は、ざっと全体をチェックしてから、最初に戻ってじっくり見ることをお勧めします。
(第二会場に行くと戻れないので、第一会場の中で戻りましょう。)

さて、では少しご紹介を。
今回の目玉の一つ、アノマロカリスの化石です。
20150710 アノマロカリス.jpg

復元模型もいくつか有りました。こんなのが生きていた、やはり衝撃です。
20150710 アノマロカリス復元.jpg

発見当時は上下逆に復元され、最近になって前後も逆だったというハルキゲニア。
小さい生きものだったんだなあ。
20150710 ハルキゲニア.jpg

約4億6千万年前から約2億年前まで、2億年以上も君臨していた巨大な節足動物、
ウミサソリの化石も展示。でっかい!
20150710 ウミサソリ.jpg

三葉虫も、クオリティの高い化石をたくさん展示。
写真はクセナサフス。一個体だけの化石もいいですが、こうしてたくさんいる状態を見ると、「生きもの」という実感が湧きます。
20150710 クセナサフス.jpg

また、科博の常設展でも展示されていた板皮類のダンクルオステウスも展示。
ウミサソリを襲うシーンの復元模型もありました。
化石もいいですが、こうした復元模型もイメージを具体化するのに役立ちますね。迫力!
20150710 ダンクルオステウス復元.jpg

僕のアイドル、ホモ・フロレシエンシスも展示。やっぱり小さい。
ホモ・フロレシエンシスは約1万2千年前まで生きていた可能性がありますが、
縄文時代に現生人類とは別種が生きていたなんて、すごいですね。
20150710 フロレシエンシス.jpg

95%の骨格と胃の内容物まで残る「奇跡の化石」と言われるイーダも。
近くで見ましたが、確かに保存状態が素晴らしい。
20150710 イーダ

で、この展示はNHKスペシャルの「生命大躍進」とタイアップ。
番組でも使われた「生命の樹」が展示されていました。
20150710 生命の樹.jpg

さて、お土産です。特別展の第二会場ではグッズも販売していました。
息子に化石を約束していましたので、アンモナイトをチョイス。1300円程度でした。
20150710 アンモナイト.jpg
いくつか見ましたが、かなり肋もしっかり残っていて、いい状態です。
同じサイズのが常設展ミュージアムショップにもありますが、そちらはプラスチックのハードケース入り。
1600円程度だったと思います。

ちなみに、常設展→特別展→常設展という回り方はできますが、
特別展は2回入れません。
常設展のミュージアムショップでも一部特別展のグッズを販売していますが、
やはり差があります。
ですから、常設展のミュージアムショップを先にチェックしてから、特別展をチェックしましょう。

さて、この特別展スペシャルのカプセル・フィギュアのガチャ(400円)もあります。
ダンクルオステウスのフィギュアは前売り券とセットで入手。
20150710 ダンクルオステウス.jpg

でも、アノマロカリスも欲しかったので、一度だけガチャ。
出てきたのはイクチオステガ。まあ、良しとしましょう。
20150710 イクチオステガ

一方、僕のお土産は三葉虫の化石。
ちょっと小さいですが、いいんです。だって600円程度だもの。
何より、念願の防御姿勢の三葉虫です!
20150710 三葉虫.jpg

くるっと巻いているのが分かります。
20150710 三葉虫横.jpg

「生きもの」らしくていいですね!
20150710 三葉虫アップ.jpg

わずか1cm程度の化石ですが、拡大したら、眼の複眼模様が分かりました。
20150710 三葉虫 眼.jpg

国立科学博物館の常設展示のリニューアルも、7月14日に完了。
特別展「生命大躍進-脊椎動物のたどった道-」は、10月4日まで開催。
行ける方は、ぜひ!

また、化石を触れるコーナーがありますが、
せっかく常設展・特別展で実物化石を販売しいるのですから、
お子さんと一緒に行く方は、ぜひ実物化石を買ってあげることをお勧めします。
「自分の化石がある」というのは、やはり化石好きの子供にとっては夢のような話ですから。
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category: 雑記:日々のこと

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化石の分子生物学――生命進化の謎を解く (講談社現代新書)  

化石の分子生物学――生命進化の謎を解く (講談社現代新書)
更科 功



DNAの二重らせん構造が明らかにされたのが1953年。
キャリー・マリスによってPCR法が発表されたのが1987年。
人類がDNAを効率よく読み解くようになってまだ50年も経っていないが、その技術進歩と応用は凄まじい。

その一端、DNA分析を過去の生物に応用していこう、という試みを紹介するのが本書。


第1章、ネアンデルタール人と人類の混血については、
人類進化700万年の物語 私たちだけがなぜ生き残れたのか」(レビューはこちら)や「ネアンデルタール人 奇跡の再発見 (朝日選書)」(レビューはこちら)でも触れられており、DNA分析という手法がもたらした一大発見である。最近では「ネアンデルタール人は私たちと交配した」が話題だ。

ただ本書ではその舞台裏、化石のDNA分析におけるコンタミネーション(試料汚染)の問題が紹介される。
化石から採取したDNAの信頼性をどこまで担保するか、という点は大きな問題であり、
混在するDNAとしては、化石化の過程で侵入する微生物のDNA、
そして分析の過程で混入するヒトDNAだ。
これらをどこまで除外し、うまく化石DNAを増幅するかというのが「化石の分子生物学」のポイントであり、
以降、これを念頭に置いて読み進めることをお勧めする。

第2章以降、ルイ17世、ミイラ、縄文人と、やや近い年代の化石DNA。
これらの章を通して、DNA分析の技術発展、DNAの保存性の問題などの基礎知識が得られる。

例えば、アミノ酸には鏡像関係にあるd体とℓ体があるが、生物はℓ体のみを選択的に利用する。
しかし死によって生化学反応が停止すると、ℓ体がd体に変化し、最終的には半々になる(ラセミ化)。
ラセミ化が進んでいるとDNAが破壊されている可能性も高くなるため、このラセミ化の程度(D/L比)によって、
残存している化石DNAがどれだけ保存されているか、という見当もつく。
(ラセミ化が進んでいるのに長い化石DNAが抽出された場合は、コンタミの可能性が高い、など。)

※鏡像やアミノ酸のD体、L体については、「生命世界の非対称性―自然はなぜアンバランスが好きか (中公新書)」(レビューはこちら)や「右?左?のふしぎ」(レビューはこちら)などが詳しい。

そして第5章以降。化石DNAと言えばジュラシックパークである。
取り上げられる話題は昆虫入り琥珀だけでなく、数年前にニュートン誌でも紹介されていた、
恐竜の骨を適切に処理すると、内部に赤血球のような構造が残っていた、というものも取り上げる。

実際のところ、著者は上記のコンタミの問題と再現性の問題から、
現時点では恐竜化石からのDNA抽出「実績」には否定的である。
だがその視点は全く冷静な科学的見地に立つものであって、
むしろ無邪気にジュラシックパーク的技術を期待し、現実世界にもそれを求め、トンデモ研究を鵜呑みにする方が問題であろう。

いずれにしても、人類のDNA研究は始まったばかり。今後の発展に期待である。


【目次】
第1章 ネアンデルタール人は現生人類と交配したか
第2章 ルイ十七世は生きていた?
第3章 剥製やミイラのDNAを探る
第4章 縄文人の起源
第5章 ジュラシック・パークの夢
第6章 分子の進化
第7章 カンブリア紀の爆発
第8章 化石タンパク質への挑戦

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category: 進化論

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トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか (ヤマケイ文庫)   

トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか (ヤマケイ文庫)
羽根田治,飯田肇,金田正樹



 6年前の今日。
 2009年7月16日。北海道のトムラウシ山において、ツアー登山を行っていた18人のうち、8人が死亡するという遭難事故が起きた。
 報道に接した、「なぜこの時代に、国内の夏山で、それほど多人数の遭難が発生するのか」と驚いたことを覚えている。

 まず「この時代」。道具は高機能化され、過去の多くの登山記録もあり、よっぽどでなければ想定外など発生しないのではないか。
 次に、「国内の夏山で」。冬は確かに国内の山でもハードだが、夏はそれほどでもないのではないか?
 そして、「それほど多人数」。不幸にして遭難が発生するのは有るとしても、18人のツアーの半分近くが死亡するなんて壊滅的な事態が有り得るのか?
 
 マスコミ・一般的にも概ねこうした疑問に沿って報道され、最終的には①ツアー登山が危険、②ガイドの力不足、③中高年登山者の力不足に収束されたように思う。
 
 ところが、マスコミ報道で分かったようなつもりになっていものの、
 実際には何もわかっていない。
  
①は、最終的には、今回の旅行会社であるアミューズトラベルが特にずさんだった、となった。
 どうも日本では、「加害者は◯◯の点で一般とは異なっている。その◯◯が原因である。(だから我々善き一般人は問題ない。安心しよう。)」という論に陥る場合が多い(と僕は感じている)。
 本来マスコミとは、そうした漠然とした「思い込み」を排する役割だったと思うのだが、最近のマスコミは、それを代行している(と僕は思う)。

 今回、最初は登山ツアーを問題としていたが、最終的にはアミューズという会社が特に悪かった、となった。事実アミューズがずさんだったとしても、登山ツアーそのものの問題が解決されたわけではないが、いつしか放置されている。

②のガイドの問題は、一般的には「アミューズが悪い」という点に収束されてしまった。少なくとも社会全体を巻き込んで、日本における山岳ガイドの在り方の議論まで展開していない。

③についても、一般論で終わってしまった。何が準備不足だったのか。現地でどう行動すべきだっのか。本当に問題なのは、そこだろう。

本書は、事故報告書や生存者への聴取を踏まえて、この事件を教訓としようとするものである。

 前半は、実際に現場はどのような状況だったのかを、時系列で綴る。今は「なぜこんな行動をしたのか」と言えるが、現地では判断できる状況だったかのか。

 後半では、この事件を元に、ツアー登山の何が問題なのか、死因となった「低体温症」とはどのような症状を経て死に至るのか、旅行会社・ガイド・参加者はどう在るべきなのか、等を論じている。
 各登山行で必要なカロリーの算出方法などの例示もあり、少なくとも百名山に入っている山を登る方は必読だろうと感じた。

 しかし正直なところ、様々な分野において、根拠なく自分が正しい、間違いないと思っている方は、世の中に存在する。
 (そしてそういう人は、自分の「正しさ」を補強する情報しか得ようとしない。)
 また、細かな判断(山であれば行動食を食う・食わない、服を着る・着ない等)を、「金を払っている自分の仕事ではない」と他人(ガイド)に丸投げする人も、存在する。
 そんな方が「ツアー登山の安全は会社が確保するもの」と思って参加し、想定外の悪天候に遭遇した場合、ガイドはそれらの方に独占される。
 その時、残された人々は、自分自身で身を守らなければならない。

 その時に、言葉は悪いが巻き添えにならないように。そして(善き)同行者がいれば、彼らを少しでも手助けができるように、本書をぜひ読んでおいてほしい。
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category: 事件・事故

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ヒト、動物に会う: コバヤシ教授の動物行動学 (新潮新書)   

ヒト、動物に会う: コバヤシ教授の動物行動学 (新潮新書)
小林 朋道



先生、シマリスがヘビの頭をかじっています! 「鳥取環境大学」の森の人間動物行動学」(レビューはこちら)などでお馴染みとなってしまった著者の本。

本人自身の、フィールドにおけるオリジナルな知見・経験に基づいており、
生き物好きにとっては、おそらくどの本を読んでもそれなりに楽しさが保障されている安心感がある。

本書は、主に大学での出来事を中心とした上記のシリーズとは異なり、
著者の子供の頃から成長するまでのエピソード。
カラス、ヒミズ、コウモリ、ドバト、アカネズミ、トビなど、様々な動物が取り上げられている。
ただ、「研究」にまで踏み込んでいないものも多く、いわゆる「ほのぼのエピソード系」も多い。
その点、もしかしたら上記シリーズよりは物足らないかもしれない。

さて、内容については特に良いのだが、気になった点を少し。
受け取り手の問題だが、本書著者は研究のため、保護のため、様々な動物を飼育している。
それに対して、本書をはじめ、著者の各シリーズでは、法的・獣医学的な配慮までは詳しく語られていない。
よって、安易に同じことをしようと思って捕獲・飼育を試みないよう注意することが必要である。

「鳥を飼うのって面白そうだなあ」とハシブトガラスを捕まえると密猟である。
また、傷病鳥を保護しても、安易に飼い続けていると違法飼育となりかねない。善意なら良いだろう、子どもの情操教育のためにはいいだろうと言う方もいるが、世の中にはそれを口実として密猟・違法飼養する大人もいる。
そういう輩と誤解されないよう、注意してほしい。
(前にも書いたが、このレビューで初見の方もいると思うので。)

また、カエルツボカビ病への配慮、外来種法、遺伝子レベルでの地域差の保護等のため、
安易に採取し、飼育し、放獣(流)することはできない種も多い。

子供の行為にまでとやかく言う気はないが、
本書等を読むような大人であれば、自己の行為が法的・環境的にどのようなインパクトを生じるのかは十分理解できるはずである。

それさえ分かっていれば、楽しい一冊。
ただ、トビだけ「トンビ」って正式な和名でないのは、なぜ?

【目次】
1 自転車にからまっていたカラスの話
2 庭で暮らすカナヘビを追いかけ回した話
3 街の迷い犬を田舎に送った話
4 プレーリードッグと一緒に住んでみた話
5 小さなヒミズに畏敬の念を持った話
6 土の中の魅惑的な生き物たちの話
7 「コウモリを連れたタクシー運転手」の話
8 ドバトは人間をどう認識しているか考えてみた話
9 アカネズミが食べるドングリ、貯めるドングリの話
10 トンビのため“狩り”に明け暮れた夏の話
11 口の中で子を育て雌から雄に性転換した魚の話
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category: 動物

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ナショナル ジオグラフィック日本版 2015年6月号  

ナショナル ジオグラフィック日本版 2015年6月号



「ナショナル・ジオグラフック」。
あのナショジオが日本語で読める、と当時話題になった。
僕も喜び勇んで創刊号から数年間は定期購読したのだが、断念した。

将来の保存にも耐えうる確固たる装丁(糸綴じや糊付けではなく、針金製本だ)、
クオリティの高い写真を生かす紙質、インク。
それだけに、数十冊集まった時の重さは半端ではない。

また、様々な分野を取り上げるため、自分の未知なる分野を知ることができる反面、
どうしてもその時点では興味が湧かない分野(例えばアメリカのある都市の生活とか)もあって、
積読が増えてしまう。

物理的に重く、資料性が高く、内容も濃い雑誌(そのくせ、わりとリアルタイムに読まないと意味がない)が、
どんどん積みあがっていくのは、精神的に宜しくない。
そのため断念したのだが、もちろん問題は僕に在って、ナショナル・ジオグラフィックには無い。

以後、定期購読を挫けた後ろめたさを感じながら、時々本屋や図書館で見るのだが、
何年たっても相変わらずのクォリティで嬉しい限りである。
でも、創刊号の頃よりは薄くなった気がする。
ぜひ、僕が死んだ後も紙ベースで刊行してほしいものだ

さて、今号の特集は「マリファナ(大麻)」。
日本では禁止されたているが、
洋画やドラマでは時折り見受ける存在だ。
本特集では、依存性薬物としての側面もあるが、
医薬品としての価値、研究を取り上げる。

世界各国において、大麻小児てんかん、痙攣、緑内障、多発性硬化症など、様々な病気に用いられている。
全ての患者に等しく効くわけでないだろうが、
マリファナが劇的に効く患者もいるようだ。
そうした人々にとって、医薬用マリファナが禁じられることは、厳しい。

マリファナを「依存性薬物」としてみるか、
有用植物として見るか。難しい問題だが、「さわらぬ神に祟りなし」という姿勢は、少なくとも科学ではない。

なお、本誌では当然触れられていないが、
車の芳香剤でよく使われている切れ込みの深い葉のモチーフ、あれは大麻の葉である。
マリファナなんて縁はない、と多くの日本人は思っているが、
イメージ商品としては既に定着している。
冷静な視点を持たなければ、
イメージに引きずられて依存するか、
頭から拒否して医薬品としての道を閉ざすことになるだろう。

他に動植物の記事として、
鳥取県のオオサンショウウオ、北米でのアメリカマツノキクイムシの拡大がある。
特に、北米でのアメリカマツノキクイムシ問題が、これほど大規模なものとは知らなかった。
多数収録されている立ち枯れた森林写真は、その凄まじさを突きつける。
ナショナル・ジオグラフィックならではだ。

また、「ネパールの生きた女神 クマリ」では、
その「生き神」としての生活の難しさ、
「アラル海からの警鐘」では、僕らが子供の頃は地図に大きく記載されていたアラル海が、
ほぼ消滅してしまった事実を、多くの写真で示す。
特にアラル海の現状は、知らなかった、ではすまない問題だろう。

最後に、養老孟司氏による、コスタリカの探検昆虫学者・西田賢司氏の活動紹介記事がある(これは日本版だけかな)。
西田賢司氏は、最近NHKでも見たし、現在ナショナル・ジオグラフィックのホームページでも連載がある。

Webナショジオ
西田賢司 コスタリカ 昆虫中心生活

著書に、「わっ! ヘンな虫~探検昆虫学者の珍虫ファイル」(レビューはこちら)がある。読んで見て楽しい一冊。お勧め。
また、西田氏のホームページはこちら。コスタリカ等の美しい動植物や自然の写真の数々が美しい。

ちなみに、「すてきな地球の果て(レビューはこちら)」で美しい写真と感性と自然観察力と伝達力を示してくれた田邊優貴子氏も、同コーナーで

Webナショジオ
田邊優貴子 南極の凍った湖に潜って 原始地球の生態系を追う
という連載をしている。こちらもお勧め。

なお、田邊氏のホームページはこちら


【主な目次】
ちょっと前の「日本の百年」
EXPLORE 探求のトビラ サイエンス「世界をつなぐ海底ケーブル」
地球「スモッグを浄化するビル」
ワイルドライフ「木に抱きついて涼むコアラ」
写真は語る 伝統が息づく極限高地アンデスに生きる
 
生命をつなぐ キツネザルはかかあ天下
マリファナの科学
ネパールの生きた女神 クマリ
消える北米の森
素顔のオオサンショウウオ
アラル海からの警鐘
未知なる虫を追いかけて




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category: 情報誌

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世界遺産 姫路城を鉄骨でつつむ。 よみがえる白鷺城のすべて   

世界遺産 姫路城を鉄骨でつつむ。 よみがえる白鷺城のすべて
文藝春秋



姫路城の解体修理が完成した時、
「白すぎる!」という声があったことを覚えている。
報道などで、確かに白いなあと感じた記憶がある。

僕はあまり城には興味がないため、後になって「工事していたの」と思った程度なのだが、
本書を読んで、その背後に多大な工夫・努力があったことを知った。
数十年に一度の大事業を、もっとリアルタイムで味わっておくのだったと反省した次第である。

昭和の大修理の時には、木柱によって作業足場等が設置された。

今回は、鉄骨によるもの。
城を鉄骨で囲むだけでも相当な作業だが、世界遺産なだけに、何と地面に杭を打てないという。
また、建造当時とどうようの素材・技法で復元するという制約。

多くの難題に、現代の知識・技術が挑んだ記録が、本書である。
二度とみられないアングルでの、数々の写真。
大修理に携わった、職人・技術者の想い。

テーマが唯一無二なだけに、この一冊に籠められた記録も、唯一無二のものである。
僕のように、リアルタイムで楽しめなかった方にこそ、ぜひお勧めしたい。
同時代に、こんな大事業があったのだ。ああ、もったいないことをした。

【目次】
国宝をつつむ
素屋根の中で
素屋根の解体
ギャラリー 生まれ変わった白鷺城―秘蔵・リモコンヘリからの空撮写真
大天守保存修理 職人列伝
姫路城大修理の舞台裏 白鷺の譜(山本兼一)
歴史と人物―姫路城の奇跡、それを支えた人々
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category: 技術

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センダイウイルス物語―日本発の知と技  

センダイウイルス物語―日本発の知と技
永井 美之



感染症、ウイルス関連は興味深い分野だが、書店で本書を見つけた時は全く内容が想像できなかった。
センダイウイルスって何だ?
「日本発の知と技」って何だ?


まず、センダイウイルス。
このウイルスは、1952年(昭和27年)、東北大学附属病院で1新生児肺炎が流行し、7人のうち11人が死亡する事件が発生。
その原因ウイルスを特定する中で発見されたのが、このセンダイウイルス(HVJ)である。
センダイウイルスはパラミクソウイルス科であり、麻疹ウイルス、おたふく風邪ウイルス、ニワトリのニューカッスル病ウイルス(NDV)、イヌのジステンパーウイルス、ニパウイルスなどが仲間である。

ところがその後の研究で、このウイルス(HVJ)は、当時の実験用マウスにひろく潜伏していて、鼻に生理的食塩水を一滴たらすなどのわずかな刺激で目覚め、肺炎を引き起こすもの判明。
しかし一方で、新生児肺炎の原因かどうかは、結局不明のまま終わった。

このためセンダイウイルス自体は、特に大きな病原ということもなく、インフルエンザウイルスなどに比して圧倒的に知名度は低い。

ところが、1957年、日本の研究者により、センダイウイルスには細胞融合能力があり、多核巨細胞を出現させることが発見された。この細胞融合能力は、異種間の細胞でも融合させるため、以降の人工細胞融合の発展の礎となっている。


一方、その細胞融合能力や、センダイウイルスの溶血脳力、感染力などは、
卵で生育すると全ての能力を維持するが、
マウスのL細胞で増殖させると能力を失う、という事実も発見される。

すなわち、これらの能力の有無は、センダイウイルスの株ごとの遺伝子レベルでの差ではなく、
宿主(生息環境)依存性修飾であることが判明した。
ちなみにセンダイウイルスの場合、トリプシンの有無が活性化の鍵(活性酵素)となっているという。


こうした宿主依存性修飾という考え方は、インフルエンザウイルスなどの毒性研究にも寄与する。

通常、強毒株(全臓器を標的とする)と弱毒株(一部臓器を標的とする)の差は、
その臓器にウイルスのレセプター(受容体)があるかどうかで異なる、
言い換えれば、ウイルスのレセプターが違うと考えられている。
(なお、「強毒」という言葉よりも「高病原性」が正しいという話もあるが、とりあえず「強毒」・「弱毒」という言葉で続ける。)

しかし、センダイウイルスが示した宿主依存性修飾によれば、活性酵素(蛋白質分解酵素、プロテアーゼ)の有無によって、その臓器に対する毒性が活性化される。

実際、インフルエンザや鳥インフルエンザ弱毒株のプロテアーゼは、ニワトリの血液凝固第10因子だか、
第10因子はヒトの気道表面にも多く分布しており、そのためここでインフルエンザウイルスが活性化される。

一方強毒株は、その活性因子が体内の様々な臓器にあるプロテアーゼで活性化されるため、全身性=強毒なのだ。


また、麻疹ウイルスでも、宿主依存性修飾の考えは劇的な事実を明らかにした。
麻疹ウイルスは従来、エドモンストン株をベロ細胞で培養したもので研究されていた。
しかし実は、ベロ細胞で培養すると、麻疹本来の毒性が失われてしまい、そのウイルスはもう感染能力を失ってしまう。
すなわち、宿主依存性修飾により、毒性を失ってしまった株なのだ。
そしてその株では、CD46蛋白質をレセプターとして感染する。

一方、日本の研究者が発見したB95aと呼ばれる株は、本来の毒性を失っていない。
こちらの株はCD46蛋白質には結合せず、リンパ細胞のCD150という蛋白質をレセプターとする。

つまり、宿主依存性修飾により、ウイルスが感染する要となるレセプターも変わっていたのだ。
もしこのまま突き進んでいれば、全く異なる方向に研究が発展していた。


これらの細胞融合能力や宿主依存性修飾などは、現在のいわゆるウイルス学・ウイルス工学では基礎となるもののようだが、それが「センダイウイルス」なるものによって導かれたものとは、全く知らなかった。
そして、これらの研究は、おおむね日本人によるものなのである。
それが、「日本発の知と技」というサブタイトルに繋がっている。

内容はかなり専門的な部分もあるが、それでも理解できないような話ではない。
(むしろ、センダイウイルスの研究によって、ウイルスの毒性理解が格段に簡単に説明されるようになった。)

インフルエンザウイルス関係の本は多くある。
一方、センダイウイルスというなじみの薄いウイルスに関する本書は、残念ながら目立つ扱いは受けていない。
たが、読むべき価値が高い一冊である。

【目次】
1 細胞融合の発見―センダイウイルス表舞台へ
2 “からくり”を解き感染の普遍的原理へ
3 他にも続出、日本人の貢献
4 細胞から個体へ―ウイルス病原性のNDVパラダイム
5 ゲノム解読も日本が先導
6 ポストゲノムは逆遺伝学―リバースジェネティクス
7 麻疹(はしか)ウイルス学のパラダイムシフト
8 センダイウイルス工学の創出と事業化
9 もう一つの技術―センダイウイルスのエンベロープ工学
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category: 感染症

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ご先祖様はどちら様  

ご先祖様はどちら様
高橋 秀実



うちの先祖は◯◯だった、という話題。
積極的に第三者に語ることはないが、家族内では、やはりルーツを伝えるという意識もあってか、
人生に数度は、話題にのぼった記憶がある。僕も父母から聞いた記憶があるし、
その漠然として記憶を、子どもたちに伝えたこともある。

ただ、そのルーツに関する情報は、前述のとおり「漠然」としている。

本書は、ふとした話題から自らのルーツを意識した著者が、父方・母方双方の先祖について、
戸籍や檀家寺の過去帳などから手繰っていくもの。

軽妙な文体、そして探索の過程で出会う様々な方(その中には不可思議に縁で先祖にたどり着いた方もいる)。

何かに似ているなあと思っていたのだが、上手くいった時の「探偵ナイトスクープ」みたいな感じなのだ。

誰にでもご先祖様は存在する。
詳しく語り継がれている方もあれば、何も伝えられていない方もいると思う。
いずれにしても、「自分でルーツを探索する」という行為は、それ自体に意味があると思う。
戸籍の保存期間もあるし、父母や係累の人からの話も、いつまでも聞けるというものでもない。

僕のように、30代後半になって、自分の母方の祖父が、実の祖父ではないという事を知ることも有り得る。
(祖母も既に亡くなり、母もかなり幼い頃だったので、記憶にないようだ(もしかしたら覚えていても隠しているのかもしれないが。)。 戸籍なども調べたが、今となっては祖母や祖父(実の祖父と、これまで実の祖父だと思っていた祖父)にどんな話があったのか、どんな人物だったのかは、知るすべがない。)

ルーツを探るという行為は、あまり普遍的ではないけれども、やって損はないと思う。
少なくとも普通、あなたのルーツに興味があり、調べようという人は、あなた(とその子孫)しかこの世に存在しないのだから。

【目次】
俺たち縄文人
ご近所の古代
爆発する家系図
もやもやする神様
ご先祖様はどちら様?
多すぎる「高橋」
たぎる血潮
家紋のお導き
とても遠い親戚
天皇家への道
またね、元気でね
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category: ノンフィクション

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ムジカヴィータ・イタリア  

ムジカヴィータ・イタリア 8号



昨年10月にイタリア語の勉強を思い立ったのだが、思いのほか継続している。
といっても、ラジオ番組を聴き続けるほか、少しいろいろな教本を読んでいる程度だが。

なぜイタリア語かというと、遙か昔にNHKのイタリア語会話を見たからだ。
当時は、ジローラモ・パンツェッタと板谷由夏のコンビ。
イタリア語を教える体で、板谷由香を口説き続けるジローラモが楽しかった。
(調べてみたら1996年。もう20年くらい前だ!!)
その番組で、時々イタリアのポップスが紹介されていた。

紹介されていた中で、最も多かった印象があるのが、
Lorenzo Jovanotti ジョバノッティ。
当時紹介された曲では、イタリア語のラップSerenata Rap、ミュージックビデオが楽しいTanto Tanto Tanto、
アフリカンなイメージのL'obelico del mondoなどがあった。

▼Tanto Tanto Tanto。


不思議と、頭の中に残っていて、ふと思い立って探してみたら、
昨年、YOUTUBEでそれらの曲を再発見。
併せて新曲や、他のアーティストも聴いてみたら、楽しい。

そして、何度も聴いていると、英語的な単語、また英語そのままの単語が時折り混じる。
「もしかしたら、分かるようになるんじゃないか?」と思ったのが、イタリア語学習の始まりである。単純。

イタリア語力はまだまだ蝸牛の歩みだが、
イタリア語がわかるかもしれない、というワクワク感のおかげで、
いつしかイタリアン・ポップスばかり聴くようになった。

▼ジョバのESTATE(夏)。最近よく聴いている。

だが、いかんせん日本では情報が少ない。
他にどんなアーティストがいるのかも、YOUTUBEのレコメンド任せだ。

そんな時、見つけてしまったのが本書。なんと、イタリアン・ポップス専門の雑誌である。

早速入手した8号では、YOUTUBE上の曲に時々クレジットされている
サン・レモ音楽祭の歴史、2015年の参加アーティスト・曲なども載っていた。
日本にイタリアン・ポップスのファンが何人いるか分からないが、
素晴らしい媒体である。
(「ムジカヴィータ・イタリア」の公式ページはこちら)

さらに探していると
~イタリアン・ポップスを簡単に聴ける環境を日本に作りたい~
Piccola RADIO-ITALIA

というサイトまであるではないか。

しかも、来る7月11日には、東京のべリタリア イタリア語・文化教室で、
イタリアン・ポップスを歌うイベントまであるという。
(告知はこちら)

素晴らしい!! 行きたい!!
でも香川からは遠い…。
でも、ちょうどその日、東京にいる!!
いや、午前の便で帰る予定・・・(;_;)。

ということで、お近くの方は、僕の分まで楽しんでいただきたい。

イタリアン・ポップス、英語どころかイタリア語なんて、と敷居を高く感じるかもしれないが、
個人的には英語より聴き取りやすく、楽しみやすいと思う(理解できるわけではない)。

何より、「歌うための言葉」と言われるイタリア語のポップスである。
ぜひお試しいただきたい。

それにしても、ジョバノッティ。
このMVでもそうだが、時々見られるJovanottiのファンクなファッションとダンスは、
狙っているにしても、相当である。

▼L'ESTATE ADDOSSO。これも夏ぴったり。


【主な目次】
巻頭特集「小さな村の物語 イタリア」
特集1:オルネラ・ヴァノーニ
特集2:エロス・ラマゾッティ
2014年 年間チャート
第65回サンレモ音楽祭 2015年
第8回サンレモ音楽祭 1958年
新着ディスク・レビュー
最新ニュース(Novita)
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category: 趣味

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大人のための「恐竜学」(祥伝社新書)   

大人のための「恐竜学」(祥伝社新書)
土屋健 (著), 小林快次 (監修)



著者は、「そして恐竜は鳥になった: 最新研究で迫る進化の謎」の著者。

この本でも監修し、本書でも監修している小林快次は、ジュニア向けなのに極めてマニアックな「日本恐竜探検隊 (岩波ジュニア新書)」(レビューはこちら)、
またおそらく入手できる古代ワニの本としては唯一にして無比の「ワニと恐竜の共存: 巨大ワニと恐竜の世界(レビューはこちら)の著者である。現代日本の第一線の恐竜研究者と思って良いだろう。

この2人により、現代の大人電話相談室よろしく、恐竜に関する最新知見を1テーマ2~3ページで解説していくのが本書である。恐竜好きにとっては既に周知の新知見があったりするが、短い時間で楽しむには十分。

また、巻末には参考文献リストが掲載されており、和書、雑誌記事、洋書、学術論文等、
やる気のある人には嬉しい情報が満載であり、ここから展開していく楽しみもあるだろう。

近年の恐竜研究は日進月歩である。
子供の頃に恐竜好きだった方は、その知識をアップデートする必要がある。
その入門書としてお勧めしたい。









【目次】
第1章 そもそも恐竜って何?――知っていると役立つ! 基本知識
第2章 恐竜はどのように進化してきたのか?――その祖先と未来
第3章 恐竜のカラダはどうなっている?――そのしくみと能力
第4章 恐竜のライフスタイル――食事から子育てまで ここまでわかった!
第5章 もっと知りたい! 恐竜豆知識――最強・最大の恐竜からヘンな恐竜まで

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category: 恐竜

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