ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

歴史を塗り替えた 日本列島発掘史  

歴史を塗り替えた 日本列島発掘史
大塚 初重



考古学の世界は、日進月歩だ。
その時々を彩る、驚くべき考古学上の発見。
どの考古学的ニュースに胸を躍らせたか、それは世代によって大きく異なるだろう。

例えば僕なら、荒神谷遺跡の大量の銅剣発掘が非常に印象的だ。

ある人のそれは、例えば岩宿遺跡であり、登呂遺跡であり、高松塚であり、ホケノ山古墳だろう。

本書は、そうした日本の古代研究における極めて重要な発掘事例について、
登呂遺跡を始め、多くの古墳発掘に立会い、日本考古学協会も務めた著者が、
客観的に、そして時には発掘当事者の視点をもって紹介する一冊。

岩宿遺跡発見時の興奮、荒神谷遺跡の大量の銅剣発掘、
大量の三角縁神獣鏡発見など、多くの方の印象に残っているだろうニュースについて、
それが考古学上どのような意味を持つのかを整理している。

また、旧石器ねつ造事件、高松塚壁画の劣化事件という、
日本の考古学研究史上の忌むべき二大事件についても、
なぜそれが起こったのか、それが防げなかったのかということを自問する。

特に著者には、「「考古学」最新講義シリーズ 装飾古墳の世界をさぐる」(レビューはこちら)で詳しく述べられているとおり、
未盗掘の装飾古墳である「虎塚古墳」について、内部の空気分析をはじめ、壁画を劣化させないための研究・対策を行った実績がある。その経験から述べられる高松塚古墳の壁画保存問題に対する意見は、日本の考古学界(研究者のみならず行政も)において、今後生かしていく必要があるだろう。



【目次】
第1章 列島の黎明期「旧石器~弥生時代」
 日本列島初の石器時代の遺跡発見―岩宿遺跡への挑戦
 急速に進んだ旧石器時代研究の歩み―岩宿に続く武井遺跡
 誰も足を踏み入れたことのない米軍基地へ―夏島貝塚の発見
 戦後の日本人を力づけた弥生のムラ―よみがえる登呂遺跡
 輪郭を持ちはじめた神話の国・出雲―荒神谷・加茂岩倉遺跡の青銅器
第2章 権力の誕生「古墳時代」
 大量の鏡片と巨大銅鏡はなにを語るのか―平原墳丘墓の鏡
 沸騰する邪馬台国問題の鍵を握る巨大古墳の真実―ホケノ山古墳の年代
 次々に出土する鏡はどこで造られたのか―椿井大塚山古墳の三角縁神獣鏡
 百年に一度の大発見といわれた銘文―稲荷山古墳の鉄剣
 若き被葬者の金銅冠と、押し寄せる開発の波―三昧塚古墳の危機
 巨大な前方後円墳・方墳が示す東国の古墳時代―龍角寺古墳群と大和政権
 石室の扉の向こうに見えた赤い円文―虎塚古墳の壁画

コラム
考古学をめぐる重大事件
1 旧石器ねつ造事件と発掘の歪み
2 高松塚古墳の壁画劣化事件と古墳の保存
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category: 歴史

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イラストで読む 奇想の画家たち   

イラストで読む 奇想の画家たち
杉全 美帆子



イラストで読む レオナルド・ダ・ヴィンチ」(レビューはこちら)と同著者による、手頃かつ気楽な本。
本書では、「奇想の画家」という切り口で、ボス、デューラー、カラヴァッジョ、ゴヤ、ブレイク、ルドン、ルソー取り上げる。個々の作品を詳しく紹介するのではなく、いくつかの作品を手掛かりに、各画家の特徴、そして人生をコミカルなイラストと共に紹介するもの。

気楽な本、と最初に書いた通り、各作品について細かく突っ込んではいない。
それどころか、図版が小さくてムムム、という事も多々ある。

本書のような本を読むシチュエーションとしては、例えば出張時に時間つぶしに読む、
入院した方の見舞いに持っていく、というものか。

もしくは、画家や美術に興味を持たせるため、中高生に与える、というのもあるかもしれない。

割り切って読めば、楽しい本である。


【目次】
第1章 西洋美術史に見る「奇想絵画の系譜」
第2章 奇想の画家たち―作品と人生
ボス
デューラー
カラヴァッジョ
ゴヤ
ブレイク
ルドン
ルソー

レビューはこちら

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category: 美術

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感染症の世界史 人類と病気の果てしない戦  

感染症の世界史 人類と病気の果てしない戦い
石 弘之




インフルエンザ、エボラ、デング熱と、近年は感染症の話題がない年はない。
私感だが、以前は「国内での流行」がニュースのほとんどだった。
だが、近年は「海外での流行」がニュースになり、それが日本に上陸するか否か、また上陸してしまった、というニュースが多い。交通網と物流が複雑に絡む現在、感染症は世界レベルで考える必要がある時代となっている。

本書は、インフルエンザやエボラといった近年メジャーな感染症だけでなく、
トキソプラズマやピロリ菌など、身近な感染症についても、その流行と対策史を紹介するもの。

類書と異なるのは、最新の各ウイルスの遺伝子分析結果をもとに、
それぞれのウイルスの出現時期や、歴史時代における伝播経路を紹介している点である。

例えばヒト単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)は、
 1 欧米型
 2 東アジア型
 3~6 アフリカ中部
の6タイプに分けられ、人類とともにアフリカ起源であり、人類の移動とともに広がっている。
(ヘルペスウイルスが出現したのは2億2000万~1億8000万年前。哺乳動物が登場する遥か以前。)

またピロリ菌は現在7系統に分けられるが、
 ①ヨーロッパ型(ヨーロッパ、中東、インドなど)
 ②北東アフリカ型
 ③アフリカ1型(西アフリカなど)
 ④アフリカ2型(南部アフリカ)
 ⑤アジア型(北部インド、バングラデシュ、タイ、マレーシアの一部など)
 ⑥サフル型(オーストラリア先住民、パプアニューギニア)
 ⑦東アジア型(日本、中国、韓国、台湾先住民、南太平洋、米国先住民など)
これも58000年前頃、アフリカから広がった系統分化を追うと、人類の移動史に一致するという。


一方、新しいウイルスもある。例えばエイズウイルス(HIV)。
まずアフリカ産霊長類で調査された45種には、それぞれ固有のセイズ(SIV、霊長類のエイズ)があり、
これがHIVに突然変異したというのが、定説である。
本書ではさらに、SIVは西アフリカのカメルーン沖のビオコ島で3万1000年前に出現したことをはじめ、
エイズのうちHIV-1型は、1910~1950年にツェゴチンパンジーのSIVが突然変異したもの、
HIV-2型は1940年前後にスーティマンガベイというオナガザルの仲間のSIVが突然変異したものらしいことを示す。
エイズそのものが、極めて新しいウイルスなのである。

またデングウイルスは4つの血清型に分類される(1、2、3、4型)。
各型に感染すると、その型に対する免疫を終生獲得する。
遺伝子の変異から見て、4つの血清型に分化したのは約1000年前。
1970年代、4つともあったのは東南アジアのみだったが、現在は世界中に分散している。

これらの系統分化が地図上に図示されており、まさに「感染症の世界史」である。


また、人類と感染症の歴史という点で、エイズウイルスに体制のある人間の存在も紹介している。
詳しくは省略するが、エイズウイルスへの耐性は、ある遺伝子欠損が原因となっている。
この遺伝子欠損は、実はペストや天然痘にも有利に働くもの。
その結果、これらの病気の大流行を経験しているヨーロッパでは、この遺伝子欠損を持つ人間が有意に多いという。

ヒトと感染症は、それこそ人類出現以来の長い歴史があり、
この「戦い」には恐らく終わりがない。

ただし、個別の感染症との闘いには、適切なワクチン使用等での対処も可能であることを、本書は示している。

問題は、「適切な」という点だ。
日本では、予防接種に非積極的であるとともに、
家畜への抗生物質使用や、タミフルの大量消費など、様々な課題がある。

例えば多剤耐性菌を防止するため、WHOは1997年に抗生物質の飼料添加の禁止を勧告、2000年には家畜用の抗生物質を全て使用禁止するよう勧告を出している。
EUはこれを受けて禁止したが、日本、アメリカ、中国などは依然として継続しており、日本では23種の抗生物質と6種の合成抗菌剤の飼料添加物が許可されている(本書刊行時点(2014.12.))。

また、2009年のインフルエンザ流行時、下水処理場で分析したところ、処理後の下水や河川でタミフルの代謝物が検出された。従来の下水処理技術ではタミフルは完全除去できず、このタミフルを含む水域でカモ類が生息することで、カモ類の体内でタミフル耐性のあるインフルエンザウイルスへの突然変異も懸念されるという。

さらに、ペットとして大量に輸入される鳥類。本書では触れられていないが、小動物・昆虫類の輸入も多く、人畜共通感染症まで輸入する危険性は極めて高いと思われる。

ぜひ、第1部・第2部の「世界史」を読んだうえで、「問題提起」の第3部をじっくり読み、
世界的レベルでの感染症対策と、日本の違いを実感していただきたい。


【目次】
序章 エボラ出血熱とデング熱―突発的流行の衝撃
 1 最強の感染症=エボラ出血熱との新たな戦い
 2 都心から流行がはじまったデング熱
第1部 二〇万年の地球環境史と感染症
 第1章 人類と病気の果てしない軍拡競争史
 第2章 環境変化が招いた感染症
 第3章 人類の移動と病気の拡散
第2部 人類と共存するウイルスと細菌
 第4章 ピロリ菌は敵か味方か―胃ガンの原因をめぐって
 第5章 寄生虫が人を操る?―猫とトキソプラズマ原虫
 第6章 性交渉とウイルスの関係―セックスがガンの原因になる?
 第7章 八種類あるヘルペスウイルス―感染者は世界で一億人
 第8章 世界で増殖するインフルエンザ―過密社会に適応したウイルス
 第9章 エイズ感染は一〇〇年前から―増えつづける日本での患者数
第3部 日本列島史と感染症の現状
 第10章 ハシカを侮る後進国・日本
 第11章 風疹の流行を止められない日本
 第12章 縄文人が持ち込んだ成人T細胞白血病
 第13章 弥生人が持ち込んだ結核
 終章  今後、感染症との激戦が予想される地域は?
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category: 感染症

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世界 伝説と不思議の物語  

世界 伝説と不思議の物語



こんな一瞬があるのか、と思うほど「絵にかいたように」美しいノイシュヴァンシュタイン城が表紙である。

世界各地の美しい風景・建築物は、近年テレビや書籍など様々な媒体で紹介されており、
多くの方の「人生の100のリスト」を見ていると、行きたい場所として良くウユニ塩湖が多い。
これも、メディアで良く流れるからだろう。

本書もその流れの一つ。ただ「不思議と驚き、逸話がつづる」と副題にあるものの、メッカやイースター島、モアイ像など歴史的にも有名な地も含んでおり、エピソード面ではそれほど新しい驚きはない。

しかし、収録された各地の美しい写真は、疲れた日々に、眼と心を休めるのに最適である。

本書に収録された地を、自分がいつか行くべき場所として「人生の100のリスト」に追加するのもいいと思う。


【目次】
第1章 遺跡と歴史の名所
第2章 伝説と逸話の名所
第3章 不思議と驚きの名所

▼「人生の100のリスト」っ何? という方は、この本を。レビューはこちら

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category: 旅行

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日本の国宝、最初はこんな色だった (光文社新書)   

日本の国宝、最初はこんな色だった (光文社新書)
小林泰三



分かっているようでわかっていないのが、歴史を経たモノである。
その形、色は、時の経過と共に劣化している。
現在は保存技術が進んでいるため、一部を除けば、僕らの生きている間に甚だしい劣化はない。

このため、つい教科書等に掲載されている姿をもって、製作当時の姿と勘違いし、
そこに「侘び」とか「寂び」を感じたり、論じてしまう。

だが、もちろん最初から色褪せていた筈はない。

そこで本書の著者は、一部が失われたり、彩色が褪色した絵画を、デジタル上で復元する。
同じ作者による同様のモチーフからの複写、色の変更など、デジタルならではの利点がある。

収録された復元事例は4件。
復元された製作当初の色や配置を見ると、全く現在とは異なっていることに驚かされる。

ただ、せっかくの成果なのだから、もっと大きな判で見たかった。

また、復元の過程で強調される、「参加する視点」というのは新しい視点である。
いわゆる日本の古美術は、どうしても現存している色・形の印象が強い。
しかし、当時の状況は全く異なる。

本書では、障壁画を立体的な壁面に復元したり、
屏風を描かれた人物の大きさを元に配置したりして、当時の目的に沿った鑑賞が可能となる。

洛中洛外図屏風の2双を対面させて配置し、その一端に座れば、
屏風の東西が矛盾なく成立し、しかもそれが「天下人の視点」であるなど、驚きである。

教科書で見慣れた作品について、様々な歴史と意図があることを示す、楽しい一冊としてお勧めする。

【目次】
デジタル復元の基本
第1章 大仏殿は最新モード―東大寺大仏殿
第2章 鮮やかな闇―地獄草紙
第3章 無常観にズーム・イン―平治物語絵巻
第4章 飛び出す襖絵―桧図屏風
第5章 醍醐の花見にお邪魔します―花下遊楽図屏風

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category: 美術

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美しいプランクトンの世界: 生命の起源と進化をめぐる  

美しいプランクトンの世界: 生命の起源と進化をめぐる
リスティアン サルデ,広海 十朗




知覚できないものは、無いに等しい。

残念だが、実際の世界と、ヒトが知覚している世界は一致していない。
ヒトには紫外線が見えないというレベルもそうだが、
単純に、人の眼の解像度を超えた「非常に小さいモノ」も、ヒトは知覚できない。
また、水中の様子を、ヒトが日常的に見ることもできない。

それらの、日常的な知覚外の世界については、個々の研究や書物で知ることができるのだが、
やはり「百聞は一見に如かず」というのも真実である。

本書は、そうした知覚外の生物である「水中」の「非常に小さいモノ」、プランクトンのビジュアル・ガイドである。

プランクトンというと、つい「ミジンコ」という育っても小さいモノをイメージしがちだが、そもそも「プランクトン」とは、水域を浮遊して生活する生物全ての総称である。

そのため、本書でも示されているとおり、単細胞生物から刺胞動物と有櫛動物、軟体動物と甲殻類、毛顎動物、環形動物、尾索動物と、そこに含まれる生物分類群は多様である。
そのそれぞれについて、本書は極めて美しい写真で紹介している。

甲冑のような殻を持つ渦鞭毛藻。
光によって「指」を伸ばすツノモ。
まるで宇宙を覗き見ているかのような放散虫。
「造形の妙」という言葉そのままの珪藻。

透明感溢れるクラゲ類も、A4を超える大きな版に1写真と、その美しさを存分に堪能できる掲載である。
収録された種数が極めて多いという訳ではないが、「プランクトン」の多様性、それぞれの分類群の持つ美しさは、
十分に楽しめるだろう。

「美しい◯◯」というビジュアルブックは近年乱発されているが、本書はその名に違わぬ一冊である。
こうしたマイナーな生物を、これほどのクオリティで楽しめる時代にあることを、素直に喜びたい。

なお、本書は世界のプランクトンを調査したタラ号海洋プロジェクトの成果であり、その多くは

プランクトン・クロニクルズ 

というホームページで見ることができる。しかも動画で。

トップページはインタラクティブに作りになっていて、上部のクリックすることで新たな分類群に出会うことができる。
ぜひ一度、お楽しみいただきたい。


【目次】
はじめに プランクトン、浮遊する世界
世界のプランクトン
単細胞生物―生命の起源
刺胞動物と有櫛動物―祖先の形
軟体動物と甲殻類―多様性の王者
毛顎動物、環形動物、尾索動物―矢とチューブと網

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category: 動物

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人類大移動 アフリカからイースター島へ (朝日選書)  

人類大移動 アフリカからイースター島へ (朝日選書)
印東 道子ほか



2015年1月下旬、台湾の海底から、新たな原人の化石が見つかったことが報じられた。
これまでアジアでは、ジャワ原人、北京原人、そしてホモ・フローレシエンシスの3種の原人が発見されていた。
これに続く第4の原人の発見は、間違いなく新たな人類史の展開に繋がるだろう。楽しみである。

さて、本書はその人類史を概観するもの。2012年刊行であり、ホモ・フローレシエンシスも視野に入っている。
ホモ・フロレシエンシス
▲国立科学博物館のホモ・フローレシエンシス。小さい!

タイトルに「大移動」とあるように、本書の特筆は移動時期・移動経路を詳しく見ていることだろう。

アジア圏では、特にオセアニアでの人類の展開に詳しい。アウト・オブ・アフリカを果たした人類が、
どのように海域に進出し、どのように島々へ展開していったか。ラピタ土器や、人類と共に移入された動物(クスクスやニワトリなど)の化石のDNA分析から、島々をめぐるコース・時期を特定していく視点は、非常に興味深い。
南米・チリで出土したニワトリの骨(1304-1459年頃)のDNAが、西ポリネシアのトンガ、サモアから出土した骨(2000-1500年前)と完全一致したことなどは、DNAという武器を持つ現代ならではの研究結果である。

なお本書では移入動物としてのネズミには詳しく触れていないが、「ねずみに支配された島」(レビューはこちら)では、
ポリネシア人が船旅や移住先での食料としてナンヨウネズミを持込んでいたこと、
そしてそれが島の生態系を破壊してきたこと(近年の研究ではハワイの固有種を消滅させたらしい)が紹介されている。

また、アメリカ大陸への人類侵入についても、2万7000年前頃から1万1000年前頃まで維持されていたベーリング陸橋を渡ったのだ、という程度は知っていたが、
陸橋ができた当時は、北アメリカの北部には大氷河(ローレンタイド氷床)が広がっており、簡単には人類が南下できなかったこと、
そして1万2000年前、氷河の一部に南下できる無氷回廊が開きはじめたため、ここを南下したとの解釈もあるものの、
実際にはもっと古い時代の遺跡も氷河以南で発見されていることから、無氷回廊以外の沿岸部を南下した可能性もあるなど、より細かな移動の説が紹介されている。

この他、ネアンデルタール人とクロマニョン人の環境適応の違いとして、
ネアンデルタール人は蓄積する技術や知識を継承する脳力=社会学習力を活かしていた一方、
クロマニョン人は新たな知識やが技術を創出する脳力=個体学習能力を活かしており、
これが環境激変期において、両者の存亡に影響を与えたという視点の紹介や、

さらに、アフリカで初期人類が発達した契機として、類人猿とオナガザル科の食性や社会性に着目して論じている最終章は、生物的観点からとても興味深い。

全体として、オセアニア地域の話が多い印象があるが、
今後さらに大きな視野で続編を刊行することを望む。

【目次】
1章 ホモ・モビリタス700万年の歩み―ホモ・モビリタスの歩み
2章 アジアへの人類移動―人類のアジア進出
3章 最初のアメリカ人の探究―最初のアメリカ人
4章 海を越えてオセアニアへ―人類のオセアニア進出
5章 DNAに刻まれたヒトの大移動史―遺伝学から何をさぐるか
6章 新人に見る移動と現代的行動―本格的な移動はどうやってはじまったか
7章 移動と出会い―異なる文化段階の集団はどんな出会いをしたのか
8章 ヒトはどのようにしてアフリカ大陸を出たのか?―ヒト科生態進化のルビコン



▼人類の進化に着目したものとしては、本書がある。レビューはこちら


▼ホモ・フローレシエンシスについては、やはり本書である。レビューはこちら




▼ネアンデルタール人が発見された場所は、消滅していた! レビューはこちら
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category: 進化論

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注目すべき125通の手紙:その時代に生きた人々の記憶  

注目すべき125通の手紙:その時代に生きた人々の記憶
ショーン・アッシャー



振り返ると、最後に「手紙」を書いた時を、覚えてもいない。
10年? いや20年?

そういえば、中学校の頃から文通をしていた(「文通」って死語だな、たぶん)。高校卒業頃までは続いていた。
最後に送ったのは、いつだろう。北海道のあの人は、今も元気だろうかと、時折思う。

やはり手紙は、メールとは違う。

僕の子供たちも、丁寧に手紙を書いたり、返事を楽しみに待つ経験をしてほしいと思う。

さて、本書はそんな「手紙」をピックアップしたもの。
日本でも有名な手紙も収録されている。
かなり大判な本なのだが、特色は手紙の原本写真が多数収録されていること。

たとえばリンカーンに髭をのばすよう勧めた少女グレイス・ベデルの手紙。
そして、それに対するリンカーンの返事。
いずれも実物写真が収録されている。

他にも、「エレファントマン」として有名なメリックを収容したロンドン病院の病院長が、
彼の半生と境遇を救う助けを求めてタイムズに出した手紙(タイムズ 1886.12.4号)、
そしてその結果、彼が様々な人の援助を得て、幸せな最期を迎えたことを報告する手紙(タイムズ 1890.4.16号)。

第二次大戦中、アメリカ軍の同じ戦艦に乗船していた5人の息子が全て戦死した、という噂を聞いた母が、
海軍に事実を問い合わせた手紙と、それに対する大統領からの返事。
(この結果アメリカ軍は、家族の誰かが従軍中に死亡した場合は、残りの兄弟姉妹は兵役を免除されるという
「ソウル・サバイバー・ポリシー」(Sole Suvivor Policy)を定めた。)

など、見聞きしたことがある情報のベースとなる手紙もある。

さらに、ヒトラーの甥(母はアイルランド人)が第二次大戦中にアメリカに渡り、アメリカ軍に志願したが入隊が認められなかったことについて、大統領に直訴したとか、
ガンジーがヒトラーに戦争を止めるよう忠告した手紙など、そんな事実があったのか、と驚くものもある。

南極で悲劇の最期を迎えたスコットが最後に妻に宛てた手紙など、
実物写真を見ながら、その人の想いを辿れる良書である。


中でも、僕が感銘を受けたものを2点、メモしておく。


まず、1976年、
アフリカ系アメリカ人の少女4人が死んだテロ事件の再捜査を命じたアラバマ州検事総長が、
白人至上主義者であるエドワード・R・フィールズから受け取った、再捜査を非難する脅迫状に対する返事。

Dear "DR."Fields:
My response to your letter of February 19,1976 is ・・kiss my ass.



そして、1973年、E.B.ホワイトが、「人類の未来は暗いと思われるが意見を聞きたい」という人に宛てた手紙。

背筋を伸ばした男性がひとりでもいる限り、
心の優しい女性がひとりでもいる限り、たとえ暗雲のたれこめた風景であってわびしさは感じられません。
希望は苦しいときには失われやすいものです。私は日曜の朝は必ず起きて時計のねじを巻くようにしています。秩序と不動の心を保つための儀式のようなものです。
(略)
 帽子をしっかりかぶり、希望を手放さず、時計のねじをきちんと巻くことです。明日という日があるのですから。



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category: 歴史

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アオサギとカエル、幸せなドッキリ  

アオサギとカエル、幸せなドッキリ


アオサギとカエル
5月3日、香川県観音寺市の姫浜で、野鳥観察会を開催しました。
僕の大好きなキョウジョシギの群にも出会えて、個人的に嬉しい観察会となりました。
キョウジョシギ20150503.jpg

コチドリのペアもいました。今年も無事繁殖できることを祈ります。
コチドリ20150503.jpg
観察会の状況は、こちらでも報告しています

一方、カエルを食すアオサギにも遭遇。
なかなか大きな獲物です。
アオサギ get カエル20150503.jpg

そういえば、もう15年以上前ですが、北九州でエイを捕まえたアオサギにも出会ったことがあります。
アオサギとエイ.jpg
30分くらい見ていましたが、さすがに飲み込むことはできませんでした。欲張りすぎ~。


幸せなドッキリ
最近はイタリアのPOPSばかり聴いていますが、思いがけず出会ったMusic Video。
昨今、TVでも人を貶めるドッキリが多いようですが、
僕はこういう幸せなドッキリの方が好きです。

Maroon 5の「Sugar」です。楽しい一曲。


ついでに、イタリアのも紹介。
Il Volo、少年3人が、まるで熟練のテノール歌手のような歌唱力で朗々と歌うことで人気のトリオです。
が、今はかっこいい青年に(しかも太っちょの子供が一番背が高くなっている!)。
その彼らが歌う「Grande Amore」。Music Videoは、ゴーストなど映画をモチーフとしています。
イタリア語の歌らしさが溢れる一曲。
何より、2分15秒からのカットでの、怖ろしいほど魅力的なウインク。
イタリア人男性には絶対に勝てないと思うほどの破壊力。
男の僕でもメロメロです。


ところでイタリアのPOPSって、二人の歌手がコラボすることが多いようです。
スペシャルな時しかコラボしない日本とは異なり、気軽な感じで良いですね。
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category: 雑記:日々のこと

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いまだ下山せず! (宝島SUGOI文庫)  

いまだ下山せず! (宝島SUGOI文庫)
泉 康子



1986年12月28日。「のらくろ岳友会」の3人は、以前から岳友会での登頂に失敗していた槍に登るため、中房温泉から合戦尾根に入る。この後、大天井岳を登り、途中の山荘・幕営泊を経て、12月31日は槍ヶ岳の山頂に立つ予定になっていた。

しかし、下山予定日の1月2日、そして予備日の1月4日を超えても、3人は下山しない。

3人が遭難したらしいとの一報が入り、「のらくろ岳友会」の有志は3人を救助するため、現地に向かう。

だが、現地は悪影響のため捜索は難航。時間は過ぎていき、3人が生きて下山できる日も、そして捜索隊が3人を生きたまま救助できるリミットも無情に過ぎてしまう。

捜索隊は、彼らの「遺体捜索」にシフトせざるを得なくなっていく…。

3人は、どこで遭難したのか。

この年末年始、「のらくろ岳友会」だけでなく、いくつかのパーティも近辺を登っていた。
しかし槍ヶ岳近辺は例年になく天気が変わりやすく、30日夜から元旦の朝まで激しい吹雪が襲っていた。
槍ヶ岳に向かう尾根筋の、どこで吹雪に遭遇したのかが、明暗を分ける。
タイミング良く槍ヶ岳に登頂成功したパーティもいくつかある。
また、登頂を断念し、下山したパーティも多い。

その中で、なぜ「のらくろ岳友会」の3人が消えたのか。

「のらくろ岳友会」の捜索チームは、遺体捜索ポイントを絞るため、
当時登山していた全国各地のパーティに聴き取り調査を行い、彼らの足取りを追っていく。

その結果、3人は最も危険な「冬の沢」を降り、雪崩に巻き込まれたと考えざるを得なくなっていく。


本書は、1987年に発生した槍ヶ岳での遭難について、
彼らの捜索にもメインで携わった岳友会のメンバーである著者が、遭難発生の一報からを辿ったドキュメントだ。

一般的なドキュメントと違うのは、本書は捜索隊という、直接関与した「当事者」の目線で綴られたものであること。
そこには山屋としての仲間意識、責任感もあれば、それでも山を愉しんでしまう性まで、正直に綴られている。

なお、結論から言えば、3人は一ノ沢を降ったことが明らかになるのだが、
冬の沢を降ることは、山屋としては非常識の範疇に入る行動だそうだ。

本書で綴られる仲間たちも、そして本書を読んだ方からも様々な意見・批判がある。

ただ、本書を、「彼らが軽率だったからだ」などと、安易に彼らに責を負わせることはできない要因があったことも見えてくる。

当時、吹雪を避けて一ノ沢を降ったのは、「のらくろ岳友会」だけでなく、他にも2パーティいた。
彼ら全員に共通していたのは、山行直前に出た専門誌を読んでいたこと。
そこには、冬山の「モデルコース」として、一ノ沢を降るルートが紹介されていた。

あるグループは、この記事と知人のアドバイスを踏まえて、
一ノ沢を降るコースをエスケープルートに設定している。そして実際、悪天候のために降っていた。

もちろん雑誌に「モデルコース」と掲載されていたからと言って、それを鵜呑みして良いというものでもない(それこそ軽率である)。
だが、悪天候の冬山という状況下で、選択肢の一つとする根拠にはなったのではないか。

いずれにしても、3人の死が死が無駄にならないことを願う。

【目次】
第1章 消えた三人
第2章 難解なパズル
第3章 槍への道
第4章 北アルプス証言地図
第5章 赤いヤッケが笑った
第6章 男たちの残像
第7章 常念入山
第8章 一ノ沢遡行
第9章 沢動く
第10章 雪溪の下に
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category: 事件・事故

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