ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

カメのきた道―甲羅に秘められた2億年の生命進化 (NHKブックス)   

カメのきた道―甲羅に秘められた2億年の生命進化 (NHKブックス)
平山 廉



我が家周辺には、ため池と田が散在している。
おかけで夏、夜に雨が降れば、道路にはカエル爆弾が溢れかえって大変である。
だいたいはアマガエル・トノサマガエル程度だが、時折りウシガエルが出現。
そして、トラクターが落とした土塊と思っていたら、いきなり動き出すのがカメである。
そのサイズ感。絶対に轢きたくないシロモノである。

また子供の頃、ため池でうどんを餌にフナを釣っていたら(今から思えば、餌が「うどん」っていうのも香川らしくて素敵である)、よくカメが釣れた。
ひっくり返してたらいつの間にか起き上がり、結構早く逃げたものだ。

しかし、全体としてはやはりカメは鈍くさい。
それなのに、なぜ恐竜が絶滅し、カメが生き残ったのか。不思議でならない。


本書は、そのカメの進化史を紐解く一冊。

まず、現生のカメ類についてすら、自分は全く知らないことに気づかされた。

現生種は大きく二種類に分類されること。
頭を真後ろに引っ込める潜頚類と、頭を横に倒し、甲羅の縁に隠す曲頚類。
映像等では何度も見ていたくせに、分類上の形質と認識していなかった。

また、現生種の特徴として、スッポン科も含めると、現生種約290種のうち1/3に相当する87種で、甲羅の可動性を獲得しているということ。特にスッポン科以外のほとんどの種類は、新第三紀の間に可動性を発達させており、進化の方向性として顕著らしい。

遥か古代のカメについては、もっと知らない。

そもそもカメは、ワニと同様、恐竜よりも早い時代から分化していた爬虫類であり、その祖先種は脚が真っ直ぐ下に伸び、四足で陸上を直立歩行していたらしい。
この体制は、歩くときに体を左右に波打たせない。
そのため体の柔軟性は失うものの、機動性に富んでいたようだ。

そしてこの「体の柔軟性がない」ということが、体に固い装甲を持つことを可能にした。
また筆者の見解では、体に柔軟性が無いからこそ、固い卵の殻を得るようになった。
なるほど体を左右に波打たせるトカゲやヘビでは、卵は軟らかい。
たかが卵の形質だけでも、進化上の意味が蓄積されているのだ。


この他本書では、カメの進化史を辿りながら、興味深い話題が続く。

著者が発見した世界最古のウミガメ類(1億1000万年前に生息)、サンタナケリスの研究から、ウミガメが海に進出する際、最初に起きた大きな変化は塩分濃度の調節のための涙腺の肥大化であり、体サイズや「鰭脚」の増大は二次的なものだったという話。

国立科学博物館にも展示されている巨大な古代カメ、アルケロン(アーケロン)の化石は、北米サウスダコタ州のごく一部の地域の白亜紀終わり(約7000万年前)の地層からしか見つかっていない。
しかも19世紀末に最初の化石が発見されてから、わずか5体しか知られていない(本書時点)ということ。

▼国立科学博物館のアーケロン
アーケロン2

白亜紀には汎世界的な分布を示すウミガメ類が見当たらず、新生代になって、ようやく現生種のように同一種が汎世界的な分布を示すが、その理由はまだ不明であること。

リクガメは遊泳能力は全くないに等しいが、肺の容積が大きいため浮力に優れており、長期の絶食にも耐え、真水の無い環境でも長期間生きられるほど水分を蓄える仕組みも持っている。
このため、長期漂流するという分布拡大の方法が可能になったということ。
絶海の孤島であるガラパゴスに、何でリクガメであるガラパゴスゾウガメがいるのか不思議だったのだが、何とアフリカから大西洋を漂流して南米に達し、更にガラパゴス諸島に漂着した個体の子孫がガラパゴスゾウガメだったのだ。ダイナミックかつ、何となくマヌケな話である。


また、日本に産出する化石カメについても詳しいが、
中でも中生代白亜紀後期(約8500万年~7000万年前)のオサガメ類、メソダーモケリスについて知ることができたのが、個人的に嬉しかった。

本書ては、メソダーモケリスは、アンモナイトも良く産出する北海道のほか、兵庫県淡路島や香川県の和泉層群でも発見されている、と記述されている。

香川県といえば、僕も化石に興味があって過去の文献を見ていたのだが、その中に塩江町のカメ化石の文献があった。

もしかしてと確認したところ、何と本書の著者が、その論文の著者の一人だった。
香川県高松市塩江町の上部白亜系和泉層群より産出したオサガメ科化石

香川県で発見されたのは、Mesodermochelys undulatus
円が閉じた、という感じである。こうした発見というか「納得」は、読書ならではの快感だ。


さて、冒頭の「なぜカメが生き残ったのか?」という疑問について。
本書では、ズバリという回答(仮説)は示されていない。

ただ、白亜紀末の大異変は、恐竜など大型爬虫類は滅ぼしたが、カメ、ワニ、トカゲなどの爬虫類、昆虫などの陸生の変温動物の多様性には影響を及ぼさなかったのではないか、という見方が提示されている。

巨大な隕石落下による気候変動という説は一般化してきているけれど、
まだまだ不明な点だらけである。それが楽しい。


【目次】
第1章 カメの体の驚異的な仕組み
第2章 多様な環境に進出したカメたち
第3章 謎だらけの起源
第4章 恐竜時代のカメたち―世界への大拡散
第5章 海ともう一つの世界へ―最古のウミガメの姿
第6章 甲羅を力に変えて―哺乳類時代のカメたち
第7章 迷惑な保護者
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category: 爬虫類

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年末掃除、南極の石、日本の地上絵  

年末掃除、南極の石、日本の地上絵 LOG 20141222-28

◆年末掃除
 年末です。毎年のことながら、慌てて掃除を開始。ずっと気になっていた場所を掃除したり、片付けしたりですが、着手するとそんなに時間がかかりません。「気にしている」時間の方が圧倒的に長いですね。
 ライフハックのテクニックとしてGTDがありますが、その通り、悩んでいるよりも「書き出して、分解して、とにかく実行する」のが、一番簡単で、早いと実感した次第です。来年はもっと押し進めたいと思います。
* lifehackerのGTD解説 

◆南極の石
 所用のため、丸亀市綾歌町総合文化会館(アイレックス)へ行きました。
 もう何度も訪れているのですが、今回ふと眼に入ったもの。
南極の石
 南極の石? 
 解説によると、1968年(昭和43年)の第9次越冬隊の隊長で、日本人として初めて南極点に到達した村山雅美氏が寄贈?したもののようですが、なぜここに?
 村山雅美氏自身は東京出身ですが、「村山」姓は綾歌・綾川付近に多いようなので、一族の方がいるのでしょうか?

◆日本の地上絵 銭形
 夜、観音寺付近にいたので、雨天でしたが日本の地上絵・観音寺の銭形砂絵を見に行きました。子供たちは初めて。
銭形
 ライトアップされていましたが、携帯しか持っておらず、また雨天のため上手く撮影できませんでした。申し訳ありません。
 それにしても、これだけ巨大な建造物(wikiによると縦122m×横90m、周囲345m)-しかも江戸自体に造られたというのに、その由来が定かでないらしいというのが面白いところです。
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category: 雑記:日々のこと

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化石図鑑―地球の歴史をかたる古生物たち (示準化石ビジュアルガイドブック)  

化石図鑑―地球の歴史をかたる古生物たち (示準化石ビジュアルガイドブック)
中島 礼,利光 誠一



「示準化石」とは、特定の地質年代を示す化石種のことだ。
その示準化石のガイドブックというと、一般人には全く役に立ちそうもないが、
ちょっと化石に興味がある方にもお勧めしたい。
この本は、一見訳が分からない化石の年代的な前後関係を、ビジュアルで示す便利な本である。

基本、1種1ページ。大判の写真と復元イラスト、簡単な解説を付している。

三葉虫の謎―「進化の目撃者」の驚くべき生態」(レビューはこちら)でも紹介した、僕の手持ちの三葉虫も掲載されており、その年代差がよく理解できた。

Elrathia Kingi(エルラシア・キンギ)
Elrathia Kingi エルラシア・キンギ

Peronopsis Interstricia(ペロノプシス・インテルストリクタ)
Peronopsis Interstricia ペロノプシス・インテルストリク

Flexicalymene ouzregui(フレキシカリメネ ウーズレグイ)
Flexicalymene ouzregui フレキシカリメネ

三葉虫の進化による複雑化には驚くばかりである。

手元には他にアンモナイト等はあるが、残念ながらこちらはラベルの記載不足のため、詳しく理解できていない。
アンモナイト

最近は化石の購入も簡単になっているが、ぜひ本書等を読み、
生物として理解できる化石を入手されたい。そうした実物資料は、必ず次世代への良い導きになる。

ところで最近、僕も少し化石らしきものを採集したのだが、さっぱり分からない。
精進が必要である。
いつか香川県内でアンモナイトを採集したいものである。

甲殻類?
化石 甲殻類化石?

ウニ類? (化石ですらないかもしれない。)
化石 ウニ類?


【目次】
もくじ
はじめに
本書を読む前に
地球の歴史
化石とは
化石の種類(保存)
地質図を使って化石を探す
微化石による年代決定

先カンブリア時代
古生代 カンブリア紀
コラム「三葉虫」
古生代 オルドビス紀
古生代 シルル紀
古生代 デボン紀
古生代 石炭紀
コラム「アンモノイド」
古生代 ペルム紀
中生代 三畳紀
中生代 ジュラ紀
中生代 白亜紀
新生代 古第三紀
新生代 新第三紀
コラム「新生代の貝化石群集変遷」
コラム「中新世の植物化石群」
新生代 第四紀
コラム「第四紀の長鼻類の進化」
生物分類と学名について
地質調査と化石採集の道具、化石クリーニング
化石採集の体験をするには
化石レプリカの作り方
化石を勉強するには
国内で化石が展示されている代表的な博物館
地質標本館の紹介
索引
参考文献
あとがき
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category: 恐竜

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ぼくが宇宙人をさがす理由  

ぼくが宇宙人をさがす理由
鳴沢真也



Search for extraterrestrial intelligence。略称、SETI。
電波望遠鏡等で地球外知的生命体からのシグナルを探査しようとするプロジェクトである。
荒唐無稽という印象を持つ人もいるだろうが、僕はこのプロジェクトには賛成である。

地球上での出来事等と異なり、宇宙人がコンタクトして来ない限り、地球外における知的生命体の有無は、人類がSETIによって探査しなければ、その有無すら分からない。

そしてもし、知的生命体がいる、という証拠が得られれば、それは人類にとって経験したことのないパラダイム・シフトとなるだろう。

何より純粋に、「地球外知的生命がいる」ことが「事実」ならば、「知りたい」。
それが正直なところである。

さて、そのSETI。
海外で盛んというイメージがあったのだが、日本もそのパートナーとして、重要な位置にある。
むしろ、世界的に組織化されたSETIプロジェクトについては、日本の一人の研究者がキーパーソンだった。

それが本書の著者、鳴沢真也氏である。

鳴沢氏は兵庫の西はりま天文台においてSETIに取り組む中、
「もし発見されたら、全国の天文台が連携して探査する必要がある。その体制づくりのために、実際に合同SETIをすべきではないか?」と考える。

それが実行されたのが、2009年11月。「さざんか計画」と呼ばれたそれは、全国8箇所の電波観測施設、24箇所の天文台が協力した。

こうした合同SETIはそれまで実施されたことがなく、アメリカの研究者が注目し、
宇宙生物学会のSETI分科会で発表することになる。

そこで鳴沢氏は、いつか実施される世界合同SETIのために、まず日本とアメリカで合同SETIをしてみたい、と考える。

ところが、その構想は様々な研究者の賛同を得て、いつしか世界各国の天文台が協力する合同SETI、「ドロシー計画」(2010年実施)となり、鳴沢氏はプロジェクト・リーダーとなった。

こうして書けば、鳴沢氏の研究者人生は順風満帆という感じだ。

だが、本書で前半で描かれた鳴沢氏の半生は、全く違う。

宇宙に憧れた少年時代。
クラスで一番算数ができなかった小学生時代。
トップクラスから脱落し、不登校になった中学生時代。
ひきこもり生活の中で、天文学者への夢を諦めきれず、大学入試に向けて模索した時代。
一度は不合格。大学入学。教師として就職するも、諦めきれない天文学研究。
そして、西はりま天文台への転職。

鳴沢氏がSETIを行い、世界中の研究者と連携できるようになったのは、決して鳴沢氏が恵まれていたからではない。

カール・セーガンの「COSMOS 上 (朝日選書)」によって見いだした、天文学研究がしたいという夢。

それを決して諦めなかったからだ。

鳴沢氏の人生を辿りながら本書を読めば、「ドロシー計画」が始まるカウントダウンが、心に沁みてくる。
本書はSETIがテーマではあるものの、テーマは夢と、本だ。

これから夢を見つける子供たち。
漠然とした夢を抱いている中高生。
そして、夢を諦めたものの、モヤモヤしている大人たちに、ぜひ読んでいただきたい一冊である。


【目次】
宇宙ってどんなところ?
知的生命はどうやって誕生したか?
「地球外知的生命」は存在するか
知的生命を電波で探す 「SETI」
宇宙少年になるまで
宇宙への夢、そして挫折
もう一度だけ、チャンスをください
完璧をめざす必要はない
あこがれの宇宙の仕事に
全国同時にSETIを―「さざんか計画」
本場アメリカからの招待
なかなか決まらない日程
日米合同から世界合同SETIへ
七つの観測ターゲット
観測日がついに決まる
カウントダウンがはじまった
そして、静かに数字はゼロに
思いがけないプレゼント
ありがとう、世界の仲間たち
いつか、月の裏側でSETIを
なぜ、SETIをするのか


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category: 地学

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ビューティフル・マインド、雨とキジバト LOG 20141215-1221  

ビューティフル・マインド、雨とキジバト LOG 20141215-1221

◆ビューティフル・マインド
 映画「ビューティフル・マインド」を観ました。実話を元にしたもので、数学者フレデリック・F・ナッシュ。
 彼が若い頃に研究し、成果を上げたゲーム理論は、経済学・政治学・生物学等々様々な分野で活用されています。僕が読んできた本の中でも取り上げられており、今後の動物の生態や生存戦略の研究では、欠くことはできない視点でしょう。
 (例えば「生き物をめぐる4つの「なぜ」 (集英社新書)」では、雌雄どちらが子の世話をするか、という問題に関するゲーム理論からの研究が紹介されています(この本はいつか紹介したいなあ)。ゲーム理論についての概要は「もっとも美しい数学 ゲーム理論 (文春文庫)」がお勧めです。)
 ナッシュはその幅広い影響力から1994年にノーベル経済学賞を受賞しています。また、リーマン多様体への埋め込み問題に関する仕事(こっちは僕はさっぱり分からない)でも大きな業績をなしています。

 ところが、実はこれらの業績は、ナッシュが30歳になるまでに成したもの。
 その後彼は統合失調症を発症し、闘病・治療を繰り返します。
 ようやく、1980年代後半に快復し、そして1994年のノーベル賞に至りました。

 映画は、その人生を描いたもの。
 現実のナッシュの人生とはちょっと違うし、端折ったりしているところはありますが、彼の厳しい人生を追体験するのには十分でした。
 そう、追体験。この映画は、統合失調症のナッシュがどのように世界を認識しているかを(実際とは異なるにせよ)、映像として見ることが可能です。映像の力を存分に発揮した作品として、お勧めします。

 2001年作品。アカデミー賞では作品賞、監督賞、助演女優賞、脚色賞を受賞。確かに、主役のラッセル・クロウも良かったですが、何より妻のアリシア役のジェニファー・コネリーが素敵でした。









◆雨とキジバト
 12月20日は、雨。
 雨が降ると、電線で雨浴をするキジバトを良く見かけます。綺麗好きというか、横着というか。

◆野鳥観察会
 12月21日、土器川生物公園で野鳥観察会。
 カワセミを見るのが大変でした。ジョウビタキはいつ見ても可愛い。
 僕としては、ツグミ・シロハラ・アオジをもっとたくさん見たいところ。
 (観察会の報告はこちらのブログにて。)

◆Buon Natale! イタリアのPOPS
YOU TUBEのWarner Music Italyで、クリスマス・ソングの特集があります。
その中から、ご紹介。

まず、Irene Grandi の「Bianco Natale」。お馴染みのクリスマスソングです。
途中でさらっと英語が入ったりして、頭が混乱しますが。


そして、Idina Menzel & Michael Bublé の「Baby It's Cold Outside」。
Warner Music Italyのくせに英語の曲です。
ちびっこが演じるミュージック・ビデオ。とてもチャーミングで楽しい作品ですので、ぜひご覧ください。




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category: 雑記:日々のこと

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宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議 (講談社現代新書)   

宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議 (講談社現代新書)
吉田 たかよし



「宇宙生物学」という言葉は、まだ殆ど市民権を得ていないだろう。
どうも、宇宙全体の成り立ちや構造をふまえて、生命の起源や仕組みを考える分野のようだ。

なるほど本書を読めば、確かに宇宙的なレベルでの出来事が、地球生命に多くの影響を与えていることが分かる。

ただ、この「宇宙生物学」という言葉のために、読まない人も多いんじゃないかと思う。
なかなか面白い本なので、ぜひ手に取っていただきたい。

端的に言うと、本書は「なぜ地球生命に◯◯という物質が多いのか(必要なのか)」という疑問について、地球生成史のレベルから解読するものだ。

例えば、ナトリウム。
人体にとっては必須だが、地球上にナトリウムが多いことから、地球生命はナトリウムを大量に利用するスタイルをとっている。ここまでは、まあそうかという感じである。
ところが、「地球上にナトリウムが多い」のは、実は45億年前には月は現在の1/12の距離にあり、その恐るべき潮汐力(地球が6時間で1回転する間に、干潮と満潮が2回発生する!)によって、陸の岩塊が削られ続けたためらしい。
そのダイナミックな動きが、地球に生命が誕生する基礎を作った。

また、化合物は分子構成によって鏡像関係が生じ、それぞれ右手型・左手型がある(光学的な活性から右旋性物質(dextrorotatory、d体)と左旋性物質(levorotatory、ℓ体)という)。
例えば目薬や虫刺されの薬に入っている「ℓ-メントール」は、ℓ体の化合物のみ、ということだ。

化合物としてはd体とℓ体は分子的には同一なので、様々な物質にはd体とℓ体が混在するのが普通だ。

ところが地球生命は、なぜかℓ体のみを利用する。
これに対する理解がまだ不十分な時代に発生したのが、サリドマイド事件である。
サリドマイドと呼ばれる化合物では、ℓ体は生命の利用する型のため薬効が有った。
しかしd体は、胎児に対する催奇性があったのだ。

なぜ、地球生命は、ℓ体の化合物を利用するのか。
厳密には、ℓ体の化合物が適合する、ℓ体のアミノ酸で構築されているのか。

本書では、これに対しても宇宙レベルでの仮説を紹介する。

まず、電磁波の中には、波が伝わる際に振動する向きが円を描くように回転する特殊なタイプがある
(円偏光)。波が回転する向きが右向きだと「右円偏光」、逆は「左円偏光」だ。
そして、右円偏光の紫外線があたれば、右型(d体)アミノ酸が破壊される。

さて、宇宙においてアミノ酸が生成されたとき、d体もℓ体も同量生成された。

ところが太陽系が形成された時、宇宙のこの領域では右円偏光の紫外線が多く放射され、これにより右型(d体)アミノ酸が選択的に破壊された。
そのため、生命はより多いℓ体(左型)アミノ酸を利用したのではないか、という。
もちろん、まだ仮説の域だろうが、なかなか魅力的だし、説得力のある仮説だと思う。

我々は地球生命を考える時、隕石による大量絶滅はあるにせよ、そうした宇宙レベルの要因は稀なケースであって、どうしても地球上の環境圧による淘汰だけを考えてしまう。

しかし、地球上の生命体という次元で考える場合、やはり宇宙レベルの要因は無視できない。
本書は、そうした新たな視点を提供してくれる面白さに満ちている。

実際、これまで本ブログで紹介してきた様々なテーマが、本書では「宇宙生物学」という視点で統合されている。

例えば上記の化合物のd体・ℓ体の話は、「生命世界の非対称性―自然はなぜアンバランスが好きか (中公新書)」(レビューはこちら)や「右?左?のふしぎ」(レビューはこちら)に詳しい。

また、本書では人体に鉄が必要な理由と、それと病気(病原菌)との関係が語られているが、
同様の視点では「迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか」(レビューはこちら)がある。

様々な事実が、ある特定の視点から統合されていく。
そんな興奮を、本書では味わえるだろう。







【目次】
第1章 人間は月とナトリウムの奇跡で誕生した
第2章 炭素以外で生命を作ることはできるのか?
第3章 宇宙生物学最大の謎 アミノ酸の起源を追う
第4章 地球外生命がいるかどうかは、リン次第
第5章 毒ガス「酸素」なしには生きられない 生物のジレンマ
第6章 癌細胞 vs.正常細胞 「酸素」をめぐる攻防
第7章 鉄をめぐる人体と病原菌との壮絶な闘い
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category: 進化論

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MAKINO―牧野富太郎生誕150年記念出版   

MAKINO―牧野富太郎生誕150年記念出版
高知新聞社



どの分野にも偉大な先人、伝説として語られる先人がいる。
野鳥の世界だと日本野鳥の会創始者の中西悟堂だろうが、
一般の認知度としては、残念ながら牧野富太郎の比ではないだろう。

僕はさして植物に執着してはいないが、それでも「植物と言えば牧野富太郎」、いつの間にかそう刷り込まれていた。

しかし、牧野については、植物学の先駆者というイメージしかない。
いったい、牧野富太郎とはいかなる人物で、何を成したのかという興味は、ずっと燻っている。

本書は、牧野の出身地である高知の新聞社による記念出版。
たぶん牧野の悪い面は書いていないだろうけれど、入門としては良いかと思って手に取った。

結論から言うと、面白かった
牧野の、特に社会人として傍若無人さも面白いが、
それをフォローする著者の記述の苦労が、何といっても面白い。

さて、牧野とはどのような人物だったのか。

植物学者としては、圧倒的、伝説的だ。
高校や大学といった専門教育を受けてはいない。
しかし、誰にも真似できない植物への情熱と、調査や執筆における行動力。

今に続く「植物学雑誌」の創刊。
日本で初の植物図鑑とも言える「日本植物志図篇」の自費出版。
当時は海外雑誌へ投稿することが主流だった記載論文(新種の報告)を、初めて日本国内の雑誌に発表。
当時世界的に希少だった「ムジナモ」の国内での発見。

調査し、学術論文を書き、植物図も描き、図鑑としてまとめる。
いわば、一人だけで植物学を完結できるのだ。

卓越した体力・才能の全てを、植物に捧げた人物。それが牧野である。

一方、牧野の面白さ(と言うのも何だが)も、「全てを植物に捧げたこと」にある。

裕福な実家の財産を、自身の植物研究と生活に湯水のごとく費やし、ついに没落。
それでも生活を顧みないため、多大な借金を負う。
実家には結婚していた妻がおり、彼女が家業を任せていたが、何の手助けもしないまま、別に出会った女性と結婚。
借金を支援してくれた(数億円の支援だった)人や、自身を引き立ててくれた教授との確執。

社会的にはとんでもない人物だったようだ。

だが、それでも牧野は植物学の父として尊敬され、世間の人々に愛され続けている。

それは彼が、純粋に日本の植物研究のみに邁進したからだろう。

日本に産する植物の全てを研究すること。
多くの人々ができなかった、しかし日本にとっては絶対に必要な途方もない事業を、
牧野は、その生涯の全てを捧げて成した。

江戸時代末期に生まれ、昭和32年に没するまで、近代日本の成立・発展史において、植物分野を担った人物。
日本にこんな人物がいたことは、もっと語り継がれるべきだろう。

【目次】
プロローグ
利尻
屋久島
東京
神戸
仙台
晩年の東京
佐川、そして今

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category: 植物

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イタリア語、続インフルエンザ、綿  

イタリア語、続インフルエンザ、綿 LOG 20141208-1214

◎イタリア語
 10月から、ふとイタリア語が学びたくなって、ラジオ講座とTV講座を視聴中。きっかけは、イタリアのポップスの意味が知りたかったから。Lorenzo Jovanotti、Modà、negramaroなどがお気に入り。Lorenzo Jovanottiは、今のNHKのイタリア語講座でも、最初と最後のBGMに流れていますね。
 イタリア旅行の予定もなく、イタリア人の知人もいませんので、たぶん一生、会話として使うことは無いでしょうが、日本語と英語だけだった世界が拡がる感覚です。
 そういえば、大学生の頃はヒエログリフを覚えよう!と自習してました。20年くらい経つのに進歩がありません。ヒエログリフを学んでわかったことは、古代エジプトの書記(ヒエログリフで記録していた人)はすげぇ、という事と、これを解読したシャンポリオンもすげぇ、という事でした。
 あと、当然ながら絵文字ですので、書くのがすごく大変でした。
 ちなみに、ヒエログリフの独学に使っていたテキストは「ヒエログリフ入門―古代エジプト文字への招待」。巻末に辞書があって便利でした。

◎続インフルエンザ
 先週は息子のインフルエンザでした。
 今度は娘が発症。病院で聞くところでは、期間的に、息子のが感染したのではないようですが、それにしてもやっぱり蔓延しているのでしょう。
 なお、高熱は1日で治まり、息子同様暇を持て余している様子。 

◎綿
 今夏、ワタを栽培しました。実は収穫してほっといたのですが、たまたま時間が空きましたので、木綿と種を分離しました。また来年、種を蒔いて、収穫増に努めましょう。
 問題は、収穫した木綿の使い道が全く無いことです。自分、何のために栽培している?

◎イタリアのPOPS
 普通に生きていると聴く機会がないですね。でも、イタリア語は「歌うための言葉」と言われる程。聴かずにいるのは、もったいないです。
 今回は、Modà の「Tappeto di fragole」。苺のカーペットって意味のよう。
 Modàの曲は途中から盛り上がるので、僕は勝手に「Modà節」と呼んでいます。歌の雰囲気は、嫁さん曰く「イタイタしている」タイプ。
 ボーカルのKekko Silvestreは、他のミュージックビデオでも色んな女の人といちゃいちゃして、イタリアっぽくて大好きです。でもこのミュージックビデオが一番いちゃいちゃしている。

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category: 雑記:日々のこと

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スノーボール・アース: 生命大進化をもたらした全地球凍結 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)  

スノーボール・アース: 生命大進化をもたらした全地球凍結 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
ガブリエル ウォーカー



エポック・メーキングな知識が発見される時代に生きるのは、嬉しくもあり、怖くもある。
それが科学技術上のものならば、僕らの生活に直に影響するし、
過去の時代や遠い宇宙に関する知識であれば、それは「知識の変革」となる。

もちろん、何をエポック・メーキングな知識と捉えるか、それは人それぞれだろう。
ただ、例えば近年進行している「恐竜には羽毛があった」というのは、僕が若いころには想像もしていなかった世界だ。
今後、恐竜の復元図が、僕らの子供の頃のような姿に戻ることは無いだろう。

また、「眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く」(レビューはこちら)で示された、「眼」の誕生が、カンブリア紀に爆発的な進化を促したという説も、生物進化の研究史の中ではエポック・メーキングと言ってよいと思う。

そして、本書で示されているスノーボール・アース。
約7億3000万年前~約6億3500万年前に、全地球が凍結していたという仮説だ。

スノーボール・アースは複数回あったとされるが、いずれにしても、
「赤道あたりまで地球が凍結したことがある」という仮説は、圧倒的なインパクトを持つ。
もしそれが事実なら、その影響は地球の気候史だけでなく、生物進化史にも多大な影響を与えた筈だからだ。

本書は、そのスノーボール・アース仮説を1998年に発表したハーバード大学のポール・ホフマン教授を軸に、その仮説の構築に至るまでの先駆者の研究史から、発表後の反対論者との論争までを綴っている。

著者は中立的な立場で(ただスノーボール・アース仮説の方が妥当だろうというスタンスは窺える)、推進・反対論者双方にインタビューし、研究に同行し、それぞれの主張を紹介していく。
その対立は、学術論争というにはあまりに人間臭い。しかし、そうした人間臭さを知ることができるのも、スノーボール・アース仮説の構築が現在進行形だからだろう。

また、本書の原書は2003年に刊行されているが、訳者が2004年に翻訳した時点での論争の状況を「解説」で、
文庫化にあたり、2011年での状況を整理している。
これらによって、スノーボール・アース仮説がどのように検証されつつあるかも分かり、有り難い。

なお注意したいのは、本書はスノーボール・アース仮説の理論や証拠を学術的に整理した本ではなく(もちろん必要な情報は記載されているが)、研究者を軸として、その仮説と論争を紹介しているもの、ということだ。

そういう本だということを前提に読めば、非常に楽しめる一冊である。


【目次】
第1章 最初の生命らしきもの―生命四〇億年の歴史と氷の地球
第2章 北極―異端児ポール・ホフマンの出発
第3章 始まり―先駆者たちの業績
第4章 滋場は語る―仮説が誕生したとき
第5章 ユーリカ!―才能ある研究者たちの共同作業
第6章 伝道―論戦は始まった
第7章 地球の裏側―オーストラリアで見えてきたもの
第8章 凍結論争―過熱する議論を超えて
第9章 天地創造―カンブリア紀の大爆発へ
第10章 やがてまた
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category: 地学

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世界はなぜ月をめざすのか (ブルーバックス)   

世界はなぜ月をめざすのか (ブルーバックス)
佐伯 和人



僕が生まれた年、アポロ計画は終了した。
物心ついた時には人類は月に行っており、「次に人類が月を歩くのはいつだろう」と楽しみにしていた。
特に、PC(初めて買ったのはX1Gだったなあ)を初めとした技術発展を見ると、
人類が宇宙に進出する時代はもう目の前のように感じたものだ。

だが、人類が再び月を歩る姿を見ることは、未だできない。

冷戦、不況、テロ、感染症など、様々な問題。
また、火星や小惑星への新たなミッション。

そうした「大人の事情」は理解できるものの、やはり月は特別だ。

その月探査が、近年活発化してきているという。

さて、まず本書で驚いたのが、
僕が感じていた「大人の事情」が、実はNASAによる印象操作の結果であることだ。

p19
「今さら月に行っても」という雰囲気があるが、アメリカは他国の月探査の価値を小さく見せ、月におけるアメリカの優位が揺るぎないものと印象付ける広報を行っている。

確かに、暗黙のうちに「月探査といえばアメリカ」と思っていた。

しかも一方で、NASAは「月面史跡保護ガイドライン」を定め、
人類最初の月面着陸を行ったアポロ11号では半径75m以内を立ち入り禁止、
最後の月面着陸を行った17号については半径225m以内を立ち入り禁止とした。
しかも、半径2kmの上空は飛行禁止、という。

これは法的拘束力はないとしているが、2012年には民間の月面探査コンテストをしている「X賞財団」と合意している。
これは遺跡保護としては妥当であり、おそらく各国が反対する筋もないのだが、
特定の国が月面を実効支配できる道を開いたことになる。
アルリカは、月の資源を支配することを現実化しつつあるのだ。

月は特定の国のものではないだろう、と思っていたが、
この印象は、1979年に国際連合総会が定めた「月協定」のことらしい。

「月の表面や地下、天然資源は、いかなる国家・機関・団体・個人にも所有されない(抜粋)」

ところがこの協定は、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、チリ、カザフスタン、メキシコ、モロッコ、パキスタン、ペルー、フィリピン、ウルグアイ、レバノンの13国しか批准していない。

アメリカ、中国はもちろん、我らが日本も、実はこの協定には批准していない。

そこまでして、月の「資源」は重要なのだろうか。

その点についても本書が詳しい。

まず宇宙空間ならではの資源が、月にはある。
それは、特定の「場所」だ。

120℃の昼と、-170℃の夜が、それぞれ15日続く世界。
ます、温度差が少ない場所の確保が、人間・機械にとって非常に重要となる。

また、太陽光発電が最も重要なエネルギー源になることを考えれば、
長時間の日照が得られる場所も重要だ。

そして、地球と隔絶された世界にあっては、
地球と常に通信できる場所も重要となる。

ところが、日本の「かぐや」が精査した結果によると、
日照期間が80%以上の場所はたった5個所。それぞれ数百m四方しかない。
しかもこのうち、地球と電波交信できる表側に位置するのは、たった2か所だ。

また、温度差や宇宙放射線が緩和される地下への縦穴構造も発見されているが、
この「自然の地下トンネル」として相当の規模があるのは、たった3か所だ。

また、物理的な資源として、チタンやウラン、トリウムが考えられるが、
これらも特定の場所に濃集している可能性があるらしい。

現在アメリカを初めとする各国は、この月資源の重要性に気づき、
月探査を活発化している。
中国やインドは、決して学術的に月を探査しているのではない。

実際は、月の資源を支配する方法を探査し、
実効支配する既成事実を作ろうとしているのだ。

こうした中で、日本はどのような立場であるべきか。
もちろん国益も考える必要がある。
ただ、日本は「はやぶさ」で示したとおり、
良くも悪くも学術的興味のみに、純粋に盛り上がれる国でもある。

日本も月へ行くこと。
世界にとって(特に独力では月に行けない国々にとって)、それは必要なことだと思う。

【目次】
月探査のブーム、ふたたび到来!
人類の次のフロンティアは月である
今夜の月が違って見えるはなし
月がわかる「8つの地形」を見にいこう
これだけは知っておきたい「月科学の基礎知識」
「かぐや」があげた画期的な成果
月の「資源」をどう利用するか
「月以前」「月以後」のフロンティア
今後の月科学の大発見を予想する
宇宙開発における日本の役割とは
月と地球と人類の未来
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category: 地学

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救命救急フライトドクター 攻めの医療で命を救え!  

救命救急フライトドクター 攻めの医療で命を救え!
岩貞 るみこ



以前、海外TVドラマのERを見ていた時のだが、時々ドクターがヘリに乗って移動するシーンがあった。
海の向こうではヘリまで使うのか、ダイナミックだなあと思っていたのだが、
そこから日本の状況までは思い至らなかった。
結局、絵空事として見ていたにすぎない。

だが、本書の中心人物・益子邦洋氏は、そのドクターヘリの必要性を痛感し、日本に定着させた。

そのきっかけは、阪神淡路大震災。
1995年1月17日の発生当時、上空を報道ヘリが飛び交っていたが、まだ日本に救命ヘリというシステムはなかった。
そのため、地震発生当日にヘリで運んだ負傷者は1人。翌日6日。3日目10人。
3日間で、計17人しか運べなかった。

しかし、海外では状況が異なっていた。
1998年6月3日のドイツにおける高速鉄道の脱線・橋脚への衝突事故の際には、
ドイツ全国に配備されている51機のドクターヘリのうち、その半数以上の39機のドクターヘリが集まり、
2時間以内に、専門的な治療が必要な負傷者87人を全て搬送したという。
しかも、現場にはドイツ陸軍の指揮命令担当ヘリが空中で待機し、飛行禁止区域を設け、ドクターヘリの誘導や報道ヘリの規制空域の侵入を監視していた。

どこまで機能的なシステムが構築できるか、また緊急時にそのシステムが機能するかというのは、
社会の成熟度の目安と思っているが、
まさにドイツはその先進事例であった。


さて、そもそもドクターヘリがなぜ有効であり、必要なのか。
全ては、時間の短縮にある。

近年、学校や公共施設にAEDが整備されつつあるように、脳や心臓の病気による心停止はAEDで回復させることが可能だ。

しかし、外傷による心停止は、回復させることは難しい。
そのため、外傷の場合、心停止させないことが非常に重要となる。

しかし救急車の場合、どうしても道路の整備・混雑等によって時間を要してしまう。

そこでドクターが搭乗するドクターヘリがあれば、フライトドクターが現場へ行き、点滴等を行えば、心停止を防げることになる。また信号も混雑もない空中であれば、移動時間も大幅に短縮できる。

重傷外傷の患者を死なせない。

それが、ドクターヘリの最も大きなメリットである。

海外事例や阪神・淡路大震災の教訓を経て、日本においても、少しずつドクターヘリの導入が始まった。

本書は、岡山、神奈川に次いで3番目にドクターヘリを導入した千葉・北総病院において、
その導入者である益子氏や、益子氏と共にドクターヘリのシステムを練り上げた松本尚氏らをはじめとする、北総ドクターヘリの開始から、全国でトップとされる回数・システムを創り上げるまでの記録である。

平易な文章に漢字はルビ付きと、スタイルは小学生向けだが、
日本におけるドクターヘリの黎明期の記録、またそれに関わる人々の努力、
救急現場のドクターやヘリ運用者の苦労と熱意など、
「ドクターヘリに助けられる可能性のある側」として、ぜひ読んでおきたい一冊である。

益子氏らの活躍により、2011年3月11日に発生した東日本大震災では、
全国26機のドクターヘリのうち、16機が集中。
北総ドクターヘリだけで、四日間で30名を超える負傷者を移送したという。

このように、ドクターヘリの評価が定着し、導入が全国で相次ぐが、松本尚氏は満足しない。

「数の増加は、質の低下になりかねない。/使いこなさなければ、ドクターヘリの評価は、逆に下がりかねないのだ。/全体の質を上げるためには、頂点にいる自分たちが、ひっぱり上げる必要があった。ならば自分たちも、もっと高い場所に行かないといけないのではないか。」

本書は、16年程度で、ここまでドクターヘリのシステムを構築してくれたことに、感謝したい。

だが、それでも松本氏らは満足していない。
ドクターヘリの導入が全国で相次ぐが、それに対して次のような考えを抱いている。

「数の増加は、質の低下になりかねない。/使いこなさなければ、ドクターヘリの評価は、逆に下がりかねないのだ。/全体の質を上げるためには、頂点にいる自分たちが、ひっぱり上げる必要があった。ならば自分たちも、もっと高い場所に行かないといけないのではないか。」

例えばイギリスでは、真っ赤なドクターヘリが自分の上空でホバリングすると、人々は自主的に場所を空けるため、交差点でもどこでも着陸可能という。
また、警察もドクターヘリを見つけるとサイレンを鳴らして追跡し、着陸場所の交通規制を行う。

こうした機動性の確保が課題とのことだが、
おそらくそれを達成するには、我々一般人がドクターヘリというシステムを理解し、
救急車と同様に「当たり前」のものと認識できなければならない。

ただ現実的には、日本ではまだそれ以前の問題がある。

我が香川を含めて、ドクターヘリが未配備の県がまだ11もあるのだ。
現在の各都道府県におけるドクターヘリの配備状況は、認定NPO法人救急ヘリ病院ネットワークの「全国のドクターヘリの配備状況」で確認できる。
香川県の場合、一応県防災ヘリコプターを活用し、患者搬送なども行っているため、ドクターヘリの機能の一部は満たされているものの、やはり専用のドクターヘリの導入を期待したい。

また、こうしてドクターヘリの価値や必要性を的確に知るために、
ドクターヘリが未配備の11県において、本書はもっと読まれる必要があるだろう。


【目次】
第1部 救命救急センター
 北総病院医局夜明け前 
 動きはじめた、千葉県ドクターヘリ
 運航開始
第2部 出動
 フライトドクターに求められるもの
 教育
 緊急オペ
 小児救急
 連携
第3部 一番への挑戦
 進化
 大震災
 「一番」になること
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category: 医学

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ポメラ、インフルエンザ、トイレ  

ポメラ、インフルエンザ、トイレ LOG 20141130-1207

◎POMERA DM100
 長年欲しく思っていたポメラ DM100、ついに買いました。
  (ポメラは2011年発売。テキスト入力だけに特化した機械です。乾電池で駆動、早くて手軽なのが売り。)

 一時期はネットブック(Eee PC 1000HE)を使っていましたが、長年の酷使で動きがモッサリ。また通勤時には何冊かの本とやや分厚いシステム手帳も持っているので、軽い入力機器が欲しかったところ。
 ポメラを買ってまでアウトプットするかなと悩んでいたのですが、このブログも2年以上続いていますし、きっと役立つでしょう。おかげで駄文が増すと思いますが、ご容赦ください。
 ただ、これほど様々な情報を簡単にデジタル化できる時代です。自分の感想や記憶は、やはりデジタルベースで「外部記憶」にしておく方が、楽しいと思います。デジカメで何でも撮影するのと同じですね。
 一緒に逆輸入のFlash Air(16GB)も購入して、EVERNOTEに保存できるようにしました。USBで直結してデータやりとりもできますが、PCを立ち上げずにいつでも保存できるので、お勧めです。
 
 1週間くらい使用していますが、いつでも持ち歩けて、すぐに入力できる安心感は、期待以上のものでした。
 「思いつき」を外部記憶にするハードルが随分下がったと思います。

◎インフルエンザ
 今週、息子はインフルエンザで沈没。ただ熱は2日程度で治まったため、自宅で漫画・TV三昧。「聖☆おにいさん」と「とりぱん」を全巻再読した模様です。
 皆様もご自愛ください。

◎トイレ
 とあるイベント会場でトイレ(個室)を使用していたところ、たぶん小学生だと思いますが、
 外から切実な呼びかけが。

 「トイレがしたいです! 出て下さい! 名前を言って下さい!

 な、名前を言うの?


 




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category: 雑記:日々のこと

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コスモスの謎: 色も香りもチョコそっくり!? チョコレートコスモス大研究   

コスモスの謎: 色も香りもチョコそっくり!? チョコレートコスモス大研究
奥 隆善



誠文堂新光社 の「謎」シリーズは、新刊が楽しみである。
今回は、「コスモス」。ただしよくあるコスモスではなく、チョコレートコスモスだ。

チョコレート色で、香りもチョコレート(!)というこの花、園芸関係の雑誌で時折見かける。「趣味の園芸」でも取り上げていたような気がする(調べてみたら、著者が専門家として紹介されていた)。

ただ、園芸品種としてみれば「きれいですね」で終わりだが、生物として見れば、なかなか興味深い。

チョコレートコスモス、原産地はメキシコらしいが、現地では既に絶滅しているらしい。

そして現在、世界中で園芸植物して販売されているチョコレートコスモスは、なんと、たった1株を株分け・挿し芽等によって増やしたものなのだ。(チョコレートコスモスは「自家不和合性」が強いため、1株では種子ができない。)

見た目はたくさんあるものの、実は1個体しか残っていない植物。
恐ろしい現実である。

なぜ、そしていつメキシコで絶滅したのかという話も知りたいところだが、その点は情報が無いようだ(このあたり、園芸屋さんは興味がないのだろうか)。

著者は、大学時代にふとしたきっかけから、このチョコレートコスモスを増やしてみようと考える。
その時点では、この種がたった1個体しか残っていないとは知らなかったのだから、面白いものである。

当初は「ダリアと近縁」という話を聞き、ダリアとの交雑を試みるが、幾度繰り返しても失敗。
その後、これまた偶然、隣にキバナコスモスの白花種を植えたところ、不完全ながら授粉に至る。

そこで枯死しかけた胚珠を取り出し、培養して苗に育て、ついには雑種の花を咲かせるのに至った。

こうして書くと短いものだが、その裏には、丁寧な植物の世話、そして少しの変化も見逃さない継続した観察、人工培養の知識・技術、研究室の指導陣の理解、そしていくつかの偶然が、見事に連携している。

まさに、天は自ら助くる者を助く(Heaven helps those who help themselves.)である。

園芸界以外では耳にしたことがないが、世界で初めてチョコレートコスモスの雑種を作り出した人。
その研究の経緯や考え方を、軽易な文章で読める本書は有り難い。
中学生から楽しめるし、ぜひ早く読んでおいて損はない。

それにしても、園芸植物も来歴を探ると、生物として興味深いものが多々ある。
栽培・園芸植物の来歴に興味がある方は、次のような本が楽しいだろう。

(レビューはこちら)


(レビューはこちら)
文明を変えた植物たち―コロンブスが遺した種子 (NHKブックス No.1183)文明を変えた植物たち―コロンブスが遺した種子 (NHKブックス No.1183)
(2011/08/26)
酒井 伸雄

商品詳細を見る


【目次】
1章 コスモスとわたし
2章 新しい植物を作り出すこと
3章 少年時代
ダリアの歴史
今までに品種改良に取り組んだ植物
マメグンバイナズナと学名
チョコレートコスモスと近縁種交雑の歴史
植物のことをもっと知りたいキミに!

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category: 植物

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異常気象が変えた人類の歴史 (日経プレミアシリーズ)   

異常気象が変えた人類の歴史 (日経プレミアシリーズ)
田家 康



大規模な気候変動は、淘汰圧として極めて大きい環境要因となる。
また有史以降の人類の歴史においても、気候変動はターニングポイントとなる。

一から十まで気候変動で説明できるとは思えないし、またすべきとも思わないが、
気候変動を視野に入れず、過去の歴史を探ることは意味がないだろう。

本書は、人類史の的を絞り、その時々の気候変動による影響を、短い章立てで紹介するもの。
各章は短いものの、それだけで一書を成すべき内容もあるため、本書は入門書として読んでおきたい。

取り上げるのは、現生人類の台頭から現代まで。
また話題も、日本・西洋、戦争・楽器と幅広い。

僕としては、やはり第Ⅰ章の先史時代が、ホモ・サピエンスの進化史という側面も併せ持っていることから、生物学的にも興味深かった。
本章が楽しめた方は、ぜひ「人類進化700万年の物語 私たちだけがなぜ生き残れたのか」(レビューはこちら)をお読みいただきたい。

ただ、ヒトに寄生するシラミについての解釈だが、
本書では、
・人類に寄生するシラミは、アタマシラミ、コロモシラミ、ケジラミの3種であり、まずケジラミとヒトシラミ(アタマシラミ・コロモシラミ)が1150万年前に分岐し、アタマシラミとコロモシラミは、7万2000年前に分岐した。
・アタマシラミとコロモシラミは、7万2000年前に分岐したが、これは7万4000年前(±4000年)、インドネシア・スマトラのトバ火山噴火により、火山の冬が到来し、衣服を着だしたことが遠因であろう。
・アタマシラミには、7万2000年前に分岐したもの以外に、もう1系統(アメリカやホンジュラスといった新大陸の先住民が持っていたもの)があるが、これは118万年前に分岐した。
 ネアンデルタール人とヒトの共通の祖先は約60万年前、アタマシラミの分化と年代があわないため、
よって、元々は118万年前に分化したホモ・エレクトスが持っていたもので、現生人類とどこかで接触したのではないか。

いう説を出している。つまり、こういうことになるのだろうか(アタマシラミA、Bは僕が便宜上付けたもの)。

1150万年前
 ケジラミ / ヒトシラミ(アタマシラミ・コロモシラミ) が分岐
118万年前
 ヒトシラミのうち、アタマシラミA(ホモ・エレクトスに寄生?)が分岐 
60万年前
 ネアンデルタール人が分岐
いつかの時点
 ホモ・サピエンスとホモ・エレクトスが接触し、
 アタマシラミAがホモ・サピエンスにも寄生
7万4000年前(±4000年)
 インドネシア・スマトラのトバ火山噴火、火山の冬、衣服着用を開始
7万2000年前
 ヒトシラミのうち、アタマシラミB/コロモシラミ が分岐

しかし、「人類進化700万年の物語 私たちだけがなぜ生き残れたのか」では、2系統のアタマシラミのうち一方はネアンデルタール人由来で、2万5000~3万年前のアジアで、ネアンデルタール人からヒトに移った、としている。

この点、全く話が違うのだが、本当のところどうなのか。
シラミ(特にその進化史)に関する本が刊行されることを望むところだが、ニーズが全く無いだろうな。
(ちなみに、野鳥にも種ごとに別種のハジラミが付くことがある。そのため、ハジラミを調べることで、野鳥の種分岐を探る手掛かりに成りうる。)

また、人類進化史の面では、
哺乳類が青・緑の2色覚だが、先に女性がXX染色体変異により赤色色覚を再獲得したこと、

そのため、初期人類では3色覚で赤を識別できる女性の方が、森林中での果実探しや、有毒生物の警戒色の識別に有利であり、一方、明け方や夕方に大地が赤く染まるのを認識しない2色覚の男性の方が、狩りには有利だったという説が紹介されている。
現代の男性・女性の役割分担を云々するつもりは毛頭ないが、そもそもの生物学的差異が、役割分担に影響していたかもしれないという観点は、とても興味深い。

この他、本書でよく出てくるテーマとして、13世紀後半に火山噴火が頻発(「1300年イベント」)したことによる影響というのも、歴史を読み解くバックデータとして有用だろう。

ところで、これらの本を読みながら最近思うのは、様々な本に記載された生物進化上の歴史的イベントを網羅した年表を作らないと横断的な理解はできないだろうな、ということだ。

全てが地球上で起こっている出来事である以上、火山噴火もサンゴもケイソウも三葉虫も有象無象も全て連携して、現在を形成している。
その意識を忘れないでおきたい。

【目次】
はじめに
第I章 現世人類の最初の試練―先史時代
第1話 氷期(氷河期)は4回ではなかった
第2話 現世人類最初の試練
第3話 ひとつ前の間氷期の気候―海面水位はどこまで上昇したか?
第4話 人類はいつ頃から衣服を身につけたのか?―シラミとトバ火山
第5話 ネアンデルタール人と現世人類の生存競争
第6話 狩猟採集生活における男女の役割
第7話 突然訪れた急激な寒冷化へのサバイバル術―農耕の開始
第8話 縄文人の食生活

第II章 海風を待ったテミストクレス―BC3500年~AD600年
第9話 サハラの砂漠化とエジプト文明の誕生
第10話 紀元前2200年前の干ばつと『旧約聖書』の中のユダヤ人の流浪
第11話 巨大火山噴火による大津波に襲われたミノア文明
第12話 海風を待ったテミストクレス―サラミスの海戦
第13話 ハンニバルが越えたアルプスの峠―第2次ポエニ戦争
第14話 フランスのブドウの先祖は耐寒品種
第15話 倭国内乱と聖徳太子の願い
第16話 皇帝ユスティニアヌスの夢を挫いた新大陸の巨大火山噴火

第III章 京都東山のアカマツ林の過去・現在・未来―700年~1500年
第17話 日本と中国での漢字の違いはいつ頃生まれたのか
第18話 京都東山のアカマツ林の過去・現在・未来
第19話 中尊寺落慶供養願文にみる奥州藤原氏の繁栄
第20話 火山噴火が多発した13世紀後半
第21話 進行時期を逸したクビライの遠征軍――弘安の役
第22話 怪鳥モアを絶滅に追い込んだ森林放火
第23話 寒冷期の訪れが芸術のテーマに「死の勝利」を選んだ
第24話 コンスタンティノープル市民を絶望に陥れた月食

第IV章 ストラディバリウスはなぜ美しい音色を奏でるのか――1550年~1850年
第25話 民衆を魔女狩りに駆り立てた悪天候
第26話 オレンジ公ウィリアムを運んだ「プロテスタントの風」――名誉革命
第27話 ストラディバリウスはなぜ美しい音色を奏でるのか
第28話 宝永噴火の火山灰は江戸町中に降り注いだ
第29話 フランス革命の扉を開いた異常気象
第30話 ナポレオンの進撃を阻んだ温帯低気圧―ワーテルローの戦い
第31話 フレデリック・ショパンとジョルジュ・サンドの愛の旅路
第32話 アイルランドのジャガイモ飢饉を起こした湿潤な天候

第V章 破局的な自然災害をもたらすもの―1900年~未来
第33話 タイタニック号沈没の背景
第34話 大寒波で頓挫したヒトラーの野望
第35話 「氷河期が来る! 」と叫ばれた1960年代
第36話 食料安全保障を生んだ世界食料危機
第37話 桜の開花日からみた京都の春の気温
第38話 人為的温暖化の危機とは何か
第39話 次の氷期はいつ来るか?
第40話 破局的な自然災害をもたらすもの
おわりに


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