ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

三葉虫の謎―「進化の目撃者」の驚くべき生態  

三葉虫の謎―「進化の目撃者」の驚くべき生態
リチャード フォーティ



太古の時代、普遍的に生息していたのに、現在は絶滅してしまった三葉虫。
現生の節足動物踏まえて想像するものの、数億年という時代差は圧倒的である。
その「数億年」という時間を具体化したのが、化石である。
そこでつい化石を入手してしまうのも、男のロマンとして当然であろう。

僕が持っているのは、今のところ三種類。

Elrathia Kingi (エルラシア・キンギ)。
カンブリア紀、5億年前の三葉虫だ。たくさん産出するらしく、いろんな店で安価に売られている。
Elrathia Kingi エルラシア・キンギ

Peronopsis Interstricia (ペロノプシス・インテルストリクタ)。
1cm弱。これもカンブリア紀中期(約5億年前)、三葉虫らしくない三葉虫。
Peronopsis Interstricia ペロノプシス・インテルストリク

Flexicalymene ouzregui (フレキシカリメネ ウーズレグイ)。
オルドビス紀。10cm程度の個体。体節がくっきりしていていい感じ。
(僕の個体のラベルは「Flexicalymene」だが、最近は「Diacalymene」に分類されている?)
Flexicalymene ouzregui フレキシカリメネ

こうして並べてみると、やはり生物で、生物らしいバリエーションがあるなあ、と思う。

本書は、その「生物としての三葉虫の変遷」について、様々な図版とともに紹介するもの。

原始的な生物と思いがちだが、グループとしては総計で約3億年生き延びたのだから、
当時の環境下においては、やはり大成功した生物である。

その成功の原因を突き詰めるのは難しいが、本書では三葉虫の様々な形態・生態的特徴を紹介しており、
自分なりに類推していく材料が得られる。

例えば本書では、その眼が透明なカルサイト(炭酸カルシウム、方解石)でできているという事実を紹介する。
カルサイト(方解石)というと、現生生物では無脊椎動物の骨に用いられているらしい。
すなわち、他の節足動物は軟らかい眼を発達させたが、三葉虫の眼は固いのだ。

しかも、三葉虫の眼のカルサイトは、その一部がマグネシウムになることで屈折率が変化しており、
その高マグネシウム層が球面収差を修正しているという。
この眼の発達も、当時としては成功要因だったのかもしれない。

さらに、多くの三葉虫は底生だったようだが、海中を遊泳しているものもいたというのだから、
一口に「三葉虫」といっても、やはり奥が深い。


さて、本書はそんなワクワクする話題と図版が含まれているのだが、
やや著者が饒舌に脱線する部分も多い。
三葉虫に関する学術的な解説書としてではなく、三葉虫研究者による三葉虫誌、という趣で、
時間をかけてゆっくり楽しむことをお勧めする。

著者には大英博物館での勤務をつづった「乾燥標本収蔵1号室―大英自然史博物館 迷宮への招待」(本ブログを始める前に読んだためレビューはしていない)もある。

それにしても、新しい三葉虫の化石が欲しくなってしまった。
余力と財力のある方は、実物化石を購入して、実物を見ながら読ことをお勧めする。


【目次】
1章 発見―三葉虫との遭遇
2章 殻―四億年前のタイムカプセル
3章 脚―奇跡の化石が浮かび上らせた実像
4章 結晶の眼―常識をくつがえす高度の視角
5章 爆発する三葉虫―生物の多様性をめぐる大騒動
6章 博物館―化石研究の舞台裏
7章 生死にかかわる問題―断続平衡説と悲劇の古生物学者
8章 ありうべき世界―三葉虫が教える太古の地球
9章 時間―科学における時間の意味
10章 見るための眼―科学者のイメージ


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category: 節足動物

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人類進化700万年の物語 私たちだけがなぜ生き残れたのか  

人類進化700万年の物語 私たちだけがなぜ生き残れたのか
チップ・ウォルター



進化の歴史には興味があるが、現生人類、すなわちホモ・サピエンスに至るまでの人類進化史は、他の動植物とは異なる面白さがある。

単純化すると、まず、なぜここまで知能面に特化して進化したのか(できたのか)ということ。
もう一つは、他の初期人類との関係である。

恐竜や三葉虫に比較すれば、ごく最近の出来事でありながら、
初期人類の化石が極めて少ないことから、まだまだ不明な点が多い。

その上で、現時点の最新知見を盛り込み、人類の進化史を形態のみならず、社会性や知能の発達という面でも整理したものが本書である。
いくつか、興味深く読んだ点を記録しておく。

まず形態的なポイントとしては、例えばネオテニー。

人類がネオテニーであるということは良く言われているが、
脚の親指が、まっすぐ前を向いていることもネオテニーだという。
人間と違い、妊娠初期のゴリラ、チンパンジー、ボノボの胎児は、足の親指が人類と同じように前向きであり、発生が進むにつれて、他の四本と離れて手の親指のようになるらしい。
親指がまっすぐなまま生まれるネオテニーは、森林では不利である。
しかしサバンナでは、この親指によって直立した二足歩行が可能となり、逆に有利になったのだ。


次に、他の初期人類との関係。

頑丈型(アウストラロピテクス)と華奢型(ホモ・エルガステル)の初期人類が数十万年間は共存し、
最終的に華奢型が生き延びたという視点も、興味深い。
頑丈型と華奢型には、食性の違い、耐寒性など様々な差があるが、
少なくとも数十万年間は共存していたということは、
我々に繋がる華奢型が一方的に優勢だったわけではない、という事実を示している。

さらに、現生人類にもネアンデルタール人やデニソワ人などの遺伝子が混入しているということも踏まえて考えれば、初期人類から我々ホモ・サピエンスまでの道のりが、単純な道のりではなかったことを示している。

p144には、我らがホモ・フロレシエンシスも紹介されており、
ホモ・フロレシエンシス〈上〉―1万2000年前に消えた人類 (NHKブックス)」(レビューはこちら)を読んでいると、より深く理解できるだろう。

また、初期人類の化石発掘史としては、「ネアンデルタール人 奇跡の再発見 (朝日選書)」(レビューはこちら)が面白いので、興味がある方にはお勧めしたい。

最後に、本書のp227には、
「好奇心に関するある説によると、我々は生まれながらの「情報食動物」であり、食物のように、新しい知識や経験を求める」ということが紹介されている。

なるほどと思う一方、情報が溢れかえっている日本では、逆にヒトの「情報食動物」としての感度は、かなり差が激しくなってるように感じる。
それは、ヒト社会の発展と維持に対して、おそらくネガティブな影響を与えているのではないかと思う。
その是非を論じる気はないが、
少なくとも自分自身は、死ぬまで「情報食動物」でありたいと願う。


【目次】
第1章 存続を賭けた戦い
第2章 幼少期という発明(または、なぜ出産で痛い思いをするのか)
第3章 学習機械
第4章 絡み合った網―道徳的な類人猿
第5章 そこかしこにいる類人猿
第6章 いとこたち
第7章 野獣の中の美女たち
第8章 頭の中の声
終章 次の人類







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category: 進化論

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鉱物ハンティングガイド 知れば知るほど奥深い! 鉱物採集の世界   

鉱物ハンティングガイド 知れば知るほど奥深い! 鉱物採集の世界
松原 聰



「石ころ」については、「日本の石ころ標本箱: 川原・海辺・山の石ころ採集ポイント」」(レビューはこちら)や「海辺の石ころ図鑑」(レビューはこちら)があるが、これらはあくまで「自然の石」を楽しむもの。

一方本書は、鉱物-すなわち、特定の化学的組成による結晶を採集しようとするもの。
石ころが様々な結晶の混合物であることに対して、純粋な結晶を求めようというのだから、こちらの方がハードルが高いことは容易に想像できる。

とりあえず、手元にある分かりやすい鉱物標本はこちらの、いわゆる「砂漠のバラ」。
砂漠のバラ
造形の妙、とはこういうものをだろう。

また子どものころの坂出駅の貨物列車の待避所付近では、
銀色の石を拾うことができた。
大人になって話をしても誰も信じてくれなかったのだが、
幸い1個だけ手元に残っていた。
赤鉄鉱
おそらく、赤鉄鉱。坂出市番の洲町の製鉄所に運んでいたものだろう。

こうして見れば、金や水晶まで行かなくても、特定の結晶の美しさは、やはり単なる「石」とは異なるものがある。
機会があれば、探してみたいものだ。

さて、本書は「ハンティングガイド」とあるが、
正直なところ、本書だけで鉱物ハンティングができるようになる内容ではない。

しかし、鉱物採集とはいかなるものか、まずそれを知っておく入門書として、本書は価値がある。

本書読了後、僕は「香川県にはどんな鉱物があるのか」と気になった。
残念ながら他地域に比べれば、鉱物産地としての魅力は薄いようだ。

しかし、お住いの地域によっては、新しい発見、楽しみを得ることができるかもしれない。


【目次】
INTRO 鉱物の魅力とお宝発見の喜び
Part1 これだけソロエテ! 鉱物ハンティングの下準備
Part2 山で河原で海岸で、探し方の秘訣がこれだ!
Part3 鉱物採集のじょうずなハウツー
Part4 あなただけの世界一のコレクション
Part5 汚くても割ってわかるお宝のスゴミ
Part6 空から飛んでくる石のプレゼント
Part7 ながめても楽しい石の数々の利用法
Part8 トラブルや危険を前もって知っておく!
[コラム]
1.鉱物で生計を立てるプロがいる
2.世界の隕石ハンター
3.鉱物・鉱石オークションのおもしろさ
4.今でも鉱物の新種が世界から次々と発見
5.鉱物・鉱石はこんなところで役立っている
6.びっくり! アフリカの石けり石が、ダイヤモンドだった?
7.白金とプラチナは同じ?
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category: 地学

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世界が驚いた科学捜査事件簿  

世界が驚いた科学捜査事件簿
ナイジェル マクレリー



いわゆるミステリ、ホームズはもちろんとして、島田荘司から始まる新本格や海外ミステリも昔よく楽しんだ。
ただ、こうした一般的なミステリは、細かな手掛かりがあるにしても、基本は人間の洞察力が主体である。実際、一人の超人的な名探偵がいても、その推理だけで社会的に有罪を立証することは難しいだろう。

現実の社会では、犯罪捜査は個人の能力に頼るものから、指紋からDNA分析に至るまで、物証をどこまで客観的に追及できるかという方向に発達した。

もちろん、発達途上の技術を誤解・誤用し、冤罪をうむこともある(足利事件など。その問題点は、「殺人犯はそこにいる: 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件」に詳しい(レビューはこちら))。

ただ、こうした科学捜査がない時代に比較すれば、何と有り難い時代なのかと実感する。

ところで、本書はタイトルがいけない。
安易に、「世界が驚いた◯◯」というキャッチーなタイトルを決定したのは誰なのだろうか。

この本は、にある身元調査(身体特徴・指紋)や弾道学、血液などの様々な科学捜査が、誰に、どのように開発され、どのような事件で用いられたのか、という科学捜査の黎明期を紐解くものである。

これらの技術が初めて用いられたという点では世界が「驚いた」かもしれないが、テーマはそこにはない。

原書タイトルの「SILENT WITNESSES A History of Forensic Science」、少なくとも「科学捜査史」という視点を生かしてほしかった。

こうした問題を除けば、指紋や血液、微細証拠や検視などが、どのように開発され、発展したかを知ることができる。
著者がTVプロデューサーとのことで、参考文献等を望む人には物足りないが、
「科学捜査史」のドキュメンタリー番組を見ていると思えば、ちょうどよいだろう。

【目次】
第1章 身元
第2章 弾道学
第3章 血液
第4章 微細証拠物件
第5章 死体
第6章 毒物
第7章 DNA


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category: 法医学

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海辺の石ころ図鑑  

海辺の石ころ図鑑
渡辺 一夫



日本の石ころ標本箱: 川原・海辺・山の石ころ採集ポイント」(レビューはこちら)では、基本的に河川・河口での石ころ採集だった。

本書は、「海辺」とあるとおり、日本各地の海岸での石ころ採集を紹介するもの。
砂浜の砂写真もあり、同じ「砂浜」が二つとない事実に、今更ながら気づかされる。

スタイルとしては、各海岸で採集した石ころの写真を10点前後掲載している。
同じチャートでも、石の色等のバリエーションを掲載しているので、実物と比較するのにも役立つだろう。

香川県では、津田の松原のみ掲載。ちょっと寂しいのだが、
むしろ石を拾えるような自然海岸が激減している事実の裏返しでもあるだろう。

一方、愛媛県の蕪崎海岸や関川河口では、かなり興味深い変成岩が得られるらしい。
ぜひ機会があれば、探してみたいところ。

そう、本書や「日本の石ころ標本箱: 川原・海辺・山の石ころ採集ポイント」があれば、歴史や生物だけでない楽しみを、各地への旅行の際に持つことができる。
人生を楽しむ方法として、こうした観点を持っておくことも良いと思う。

【目次】
北海道地方
東北地方
関東地方
中部地方
近畿地方
中国地方
四国地方
九州地方
沖縄地方



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category: 地学

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0.1ミリのタイムマシン―地球の過去と未来が化石から見えてくる  

0.1ミリのタイムマシン―地球の過去と未来が化石から見えてくる
須藤 斎



今夏に入手。国立科学博物館に行く前に読みたかった。
科博でケイソウの拡大模型があったが、その面白さを理解できず、スルーしていた。
本書を読んでいれば、少なくともキートケロス属の「つぶつぶ」を見て楽しめたろうに!!

過去には、企画展もあったらしい。「微小藻の世界」

さて、珪藻(ケイソウ)である。
これは、どこにでも分布している植物プランクトン。
約1mm~0.01mm程度の大きさで、ガラスというか、珪酸質の殻で覆われていて、その殻には微小な穴が開いている。

珪藻化石では、その殻の空隙が調質効果を発揮するため、珪藻土(珪藻の化石の塊)として、調質効果に優れた壁土材としても利用されている。
また知らなかったのだが、七輪も珪藻土製という。空隙による保温効果が良いらしい。

さて、生物としての珪藻は、最も古いものは1億8500万年前(ジュラ紀)。
現生で2万~10万種ともいわれ、この珪藻が作り出す酸素は、地球上の約25%とも言われる。
身近な生物ながら、地球の生命環境に多大な影響を与えていることが窺える。

そして、過去の生命進化にも多大な影響を与えたらしいことが、本書のテーマでもある。
遥かな古代、渦鞭毛藻や円石藻が多かったが、
約3400万年前にこれらは減少し、ケイソウ(特にキートケロス属)の数・種類が急増したらしい。

それはなぜか?
そして、それは生命進化史にどのような役割を果たしているのか?

これを研究するため、著者が取り組んだ第一歩が「ケイソウ化石の分類」だ。

より詳しく言えば、「ケイソウ化石」のうち、キートケロス属の「休眠胞子」。

キートケロス属は栄養が少なくなると、殻の中に「休眠胞子」を作る。
(休眠胞子そのものが、分厚く穴が開いていない殻で覆われる)
これは数年から長くて20年休眠するが、その構造上壊れにくく、化石として残りやすい。

ところが、このキートケロス属の休眠胞子の分類は、長らく誰もなしえていなかった。

ケイソウの特徴は、必ず大きな殻と小さな殻によるセット(弁当箱のような構造)であるのだが、
化石ではこれらが分離し、どれが蓋で底なのか、またどうセットになるのかが分からなかったのだ。

筆者は大学・大学院時代にこの分類に取り組み、
・光学顕微鏡では 縁につふつぶの列が見える ものが、
・電子顕微鏡では 縁につふつぶの列が見えない という事実に気づく。

ここから、光学顕微鏡では「透けて見えている」わけだから、内側につぶつぶの列があると理解し、
キートケロス属の休眠胞子では、「下の器の外側につぶつぶの列が一列ある」ことが特徴であるという突破口を発見する。

これにより、修士・博士課程の5年間で分類した85種のケイソウ化石を分類し、うち69種が新種であった。
そしてこれにより、キートケロス属の化石分類が可能となったのである。

こうして、誰もなしえなかった「キートケロス属の化石分類」という武器を手にした著者は、
北極で深海底コアを採取するボーリング調査にも参加することになる。

本書は、こうした著者の研究人生を、簡潔な文章と、様々な図、写真で紹介するもの。
小学生向けだろうが、テーマ、内容ともに、
大人が読んでも十分楽しめる。

特に、キートケロス属が増加した約3400万年前が、
始新世(約5580万年前~約3390万年前)と漸新世(約3390万年前~約2300万年前)の境であり、
この時代は、海流ができたり、
歯を持つ原始クジラからひげクジラへ急激に進化であることを併せて考えれば、

ケイソウ増加→オキアミの仲間が増加→原始クジラからひげクジラへの進化?

というシナリオは、とても興味深い。

約1mm未満の生物の歴史を丁寧にたどることで、
地球環境と生物進化の一端が理解できるのだ。
生物進化を研究する醍醐味と言える。

本書の全ページ左上には、ケイソウ化石の著者スケッチが挿入されている。
使い古された言葉だが、その造形の妙には驚かされるばかりだ。

【目次】
はじめに 大昔の生きものの姿を伝える「化石」
第1章 ケイソウとは、いったいなにもの?
第2章 お休みケイソウに名前をつける
第3章 ついに完成した分類
第4章 「地球の時間のものさし」を使う
第5章 北極からのレポート
第6章 北極についての新発見
第7章 研究者たちとの一か月
おわりに 地球の過去と未来をのぞくタイムマシン
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category: 植物

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ミツバチの世界 個を超えた驚きの行動を解く  

ミツバチの世界 個を超えた驚きの行動を解く
Juergen Tautz



ミツバチが突然消滅するCCD(蜂群崩壊症候群Colony Collapse Disorder)。
ハチはなぜ大量死したのか (文春文庫)」(レビューはこちら)が2009年刊行だから、本書が話題となってからも、もう5年以上が経過している。
CCDについては、ネオニコチノイド系農薬が原因だとの主張も多いものの、諸々の報道を見ても、今のところ確固たる話ではないようだ。
むしろ、CCDと呼ばれる現象はあるものの、その中には別々の原因によるもの、また複合要因によるハチの消滅があり、それを総括して、少なくとも一般人は「CCDと把握している」のではないかと思う。

いずれにしても、CCDの発生原因については、より精緻な検証が必要だし、わかりやすい原因に飛びついて、短絡的な解決策を「取った気になる」のも問題だろう。

ところで、ではそのハチについて、僕は何を知っているのか。
とりあえずニホンミツバチとセイヨウミツバチの識別は実際に行ったし(我が家のニホンミツバチ)、それなりの概要は読んだことがあるが、正直言って知らないことだらけだ。

そこで、本書。ミツバチ(セイヨウミツバチ)について、現在の研究によって得られている知見-特に生態学知見について、網羅的に整理した一冊だ。

本書では、ミツバチを理解する手段として、
本書ではアメリカの生物学者ウィーラー(W.M.Wheeler)が提案した、「スーパーオーガニズム(超個体)」という概念を用いる。

超個体とは、簡単に言えば、アリのように社会性昆虫のコロニー全体が、1個の生きもの(有機的統一体)としてみなせる型の生物のことだ。

生命が、単細胞→組織化による多細胞となったことと同様に、単一個体→組織化による多個体という有機的な統一もありうるのではないか、という観点は面白い。

確かに、ミツバチのように女王バチと雄バチ、働きバチと個体が分化していることは、細胞が生殖細胞と体細胞に分化していることに対応可能だ。
また、その巣も、構造・材質的に高度に統一化・制御化されており、あたかも巣がミツバチという超個体の「体」のように働いている。

ミツバチが、巣を「体」とした超個体である、という観点は、ミツバチを理解するのに良い出発点となる。

そう考えると、ミツバチの多様性についても理解ができる。
全世界で、でミツバチ属(Apis)はたった9種のみ。
うち8種はアジアに生息しており、セイヨウミツバチ(Apis melifera)だけがヨーロッパとアフリカの二大陸に生息し、各地で亜種に分化している。

この極端な多様性の少なさは、ミツバチという種の進化の行き詰まりを示すのではなく、
むしろ顕花植物の花粉媒介者として、同属他種の競争を排除するほど成功した結果と考えられる。

実際、ミツバチにより授粉される顕花植物は約17万種、うちミツバチに完全に依存している顕花植物は約4万種という。ヨーロッパとアフリカでは、たった1種のヨーロッパミツバチが授粉していることを考えれば、現在の顕花植物の世界は、まさにミツバチという超個体あってこそと考えられる。

CCDを解明し、対応しなければ恐ろしい事態となる。
現在、「ハチはなぜ大量死したのか (文春文庫)」刊行時とは異なり、ミツバチの消滅が世界的問題と報道されることは滅多にない。
まさに喉元過ぎれば何とやらだが、問題は「現実には、喉元を過ぎていない」ことにある。
ミツバチを取り巻く情勢について、もっと敏感になる必要があるだろう。

さて、最後に本書で興味を惹かれた事柄を記録しておく。

◇巣について
p137
蓋で覆われた巣板のうち、働きバチの巣房は平板な蓋。雄バチの巣房はドーム状。
→巣板の写真を見ていたら凸凹があったのだが、理由が判明。

p176
ミツバチの巣房が正確に六角形なのは、蜜蝋の化学的な性質のため。
ミツバチは円筒形の巣房を作るが、巣房内でミツバチが発熱し、37-40℃に上がった時点(ミツバチは体温を43℃以上に上げられる)で蜜蝋が柔らかくなり、隣接する巣房と引っ張られることで側面が滑らかな平面となり、厚さ0.07mm、角度は120℃となる。

p183
巣房が多目的に使用できるのは全てのハチの中でミツバチのみ。
他のハチは、巣房を単独の目的にのみ使用する。

p234
巣板の建設中、ミツバチは互いに連結して「脚の巣板」あるいは「生きている鎖」を作るが、その意味はまったく分かっていない。


・以下の2点は、巣が情報伝達の媒介であることは、巣が「超個体の体」である、とみなすと理解しやすい。
p192
ミツバチの情報伝達には、振動が巣材を伝達する必要がある。
しかし養蜂による巣板(木材の枠)では、伝達できない。
そのため、ダンスが行われ場所の巣板と木枠の間に隙間を設け、情報伝達が可能になるようにしている。

p99
ミツバチは、餌場の方向を尻振りダンスで伝えるが、その方向を尻振りダンスに暗号化(翻訳)するには暗い巣でも方向を示せる基準が必要。巣の中では巣板が垂直にかかるため、重力と反対方向を太陽の方向として基準化している。
 巣に垂直な平面の無いマルハナバチ、スズメバチ、熱帯のハリナシミツバチには情報交換の手段がない。

◇化学物質関係
p90
若い収穫バチが巣を見つけやすいように、時々年老いたハチが腹部の末端にあるナサノフ腺を開き、ゲラニオールというゼラニウムの匂いのする化学物質を分泌しながら巣の入口に止まり、羽ばたきして拡散している。

p183
哺乳類を差し、残った針の器官からは、警報フェロモンを噴出し続ける。
主成分はイソペンチルアセテート、熟れたバナナの匂いの成分。
→ミツバチの近くでバナナを食べるのはやめよう。

◇毒針関係
p183
サカトゲは、他のハチを刺した時は問題なく抜き取れる。
哺乳類の皮膚ではサカトゲが引き抜けず、毒腺、神経、筋肉まで引きちぎられる。
しかしこれで命を失うミツバチは少なかったため、サカトゲのない針への進化は進まなかった。
→「犠牲を出してでも毒腺を残す」方向に進化したものと思っていたが、逆だったのか。

◇視覚関係
p90
ミツバチは太陽の位置、または空の偏光パターンにより定位している。
偏光パターンは、波長が短いほど安定しており、ミツバチが見える最も短い波長は紫外線。
ミツバチが紫外線を見る能力を進化させたことで、
植物もまた、ミツバチの誘導に紫外線を用いる方向に進化した

p102
・距離の測定は、巣から餌場への往路で計測される。復路では計測されない。
・壁に模様が描かれた人工的なトンネルを通過すると、視覚による距離計測が乱される。

・ミツバチの複眼は紫外線、青、緑を敏感に感じる視細胞がある。
 距離測定に使用されるのは緑の受容体。自然の植物相では緑が最も頻度が高いため、効率的と考えられる。

→ミツバチの視覚が「紫外線、青、緑」というのは「ヒトの見ている世界 蝶の見ている世界 (青春新書インテリジェンス)」でも触れていて知っていたが、距離測定には主に緑を用いる、というのは初めて知った。
定位と花蜜の発見には紫外線、距離測定には緑と、ミツバチの視覚の機能性は面白い。
青は何かなと思ったのだが、空だろうか。

【目次】
プロローグ.ミツバチのコロニーはまるで一匹の動物
スーパーオーガニスム(超個体)であるミツバチのコロニーと哺乳動物の
優れた性質には共通点がある

人類最小の家畜、ミツバチの横顔-フォトスケッチ


1. ミツバチ発生の偶然と必然
 ミツバチの生活形態は進化の過程において、
 絶妙なタイミングで発生したに違いない

2. ミツバチのコロニーは不死
 ミツバチは、最高品質の娘コロニーをつくるために
 周囲から物質とエネルギーを吸収するよう仕組まれている。
 ミツバチの驚くべき能力を理解するためには、
 この活動を中心に考察することが重要である

3. ミツバチは一つの成功例
 ミツバチの種類数は少ないが、
 生態系の形成と維持に果たす役割はきわめて大きい

4. ミツバチが見ている世界
 ミツバチの視覚、嗅覚、方向感覚、情報交換の世界は、
 顕花植物との関係を中心に回っている。

5. 新女王の誕生と、花嫁の付き添い人
 ミツバチの性は秘密に包まれている。
 私たちが知っていることより、推測していることのほうが多い

6. ロイヤルゼリーは自家製ミルク
 ミツバチの幼虫は働きバチの分泌物で養育される。
 これは哺乳動物の母乳にあたる

7. 巣板は育児器官、貯蔵器官、そして通信機関
 巣板は超個体の構成要素として必須であり、社会生理学的にも重要である 

8. 身を燃やして賢い子育て
 育児巣の温度はミツバチ自身が作る環境因子で、
 将来の姉妹バチの性質に影響を与える

9. ミツバチコロニーの血縁関係
 コロニー内の密接な血縁関係は国家形成の原因ではなく結果である

10.環は閉じる ミツバチのコロニーには、
 一匹のミツバチにはみられない性質がある。
 コロニー全体の性質は個々のミ ツバチの性質に影響を与える

エピローグ. ミツバチと人類の未来




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category: 昆虫

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海藻―日本で見られる388種の生態写真+おしば標本   

海藻―日本で見られる388種の生態写真+おしば標本 (ネイチャーウォッチングガイドブック)
野田 三千代,阿部 秀樹



90年代後半に貝殻を集めていたが、その時嫌でも目につくのが海藻であった。
砂浜には、様々な色や形の海藻が流れ着いている。
種名は、アマモくらいしか分からない。

目の前に未知の生物がいるのに、何も知らないのが悔しかったが、
磯臭い海藻を持って帰って識別するのもつらい。

そう躊躇していた頃、「海藻押し葉」という手法を知った。

海藻を持ち帰り、真水で塩抜きし、形を整えて押し葉にする。
ここの手間さえかければ、種名を調べることもできるのではないか、とチャレンジした。

その結果は、次のようなものだ。

海藻2

海藻3

海藻4

これらは全て、作成から20年近く経過したもの。
10年目くらいまで台紙こどサランラップでくるんで保存していた。
その後ラミネートしたが、何とか色は保持できているようだ。

こうして「海藻押し葉」を作ったものの、手元の図鑑(「標準原色図鑑全集 15 海藻・海浜植物」)の印刷色が悪くて、
結局識別する気力でず、挫折した。

本書は、そんな挫折者にも、再チャレンジしようかと思わせる一冊。

一般的な375種類、それらの近似種13種類を加えた計388種類を押し葉標本で図示し、簡潔明瞭な識別解説を付す。さすがに最新刊だけあって写真のクオリティが高く、波打ち際での絵合わせも苦にならないと思われる。

ちなみに、僕が押し葉にした海藻は、おそらく全てホソユカリPlocamium cartilagineumのようだ。
本書のおかげで20年近くの宿題が解決である。


また、時折挟まれているコラムも良い。

例えば、外来種問題。

イワヅタの仲間のイチイヅタは、本来は熱帯、亜熱帯に分布、枝の長さが25cm程度。
ところがヨーロッパで確認されている変異型は水温10度に耐え、枝の長さも最大60cm。
強い有毒物質を含むため天敵も無く、繁殖力も強く大きな群落を形成。
これが繁茂すると他の海藻や魚がいなくなるため、キラー海藻と呼ばれている。
まだ日本には未侵入らしいが、警戒しておくべきだろう。

かと思えば、日本のワカメが近年オーストラリアのタスマニア島、ニュージーランドに移入種として侵入しているという。


また、以前アメフラシの卵嚢(通称ウミゾウメン)を食うとTVで紹介されていて驚いた覚えがあるが、
実は「ウミゾウメン」という食用の海藻があり、それと混同されて報道されているらしいこと。

さらに、アマノリ類の多糖類ポルフィランや寒天の多糖類アガロースの分解酵素は、
海洋細菌以外では日本人及び日系人の腸内細菌のみにあるという事実。
海藻食民族の面目躍如である。

これから冬に向け、砂浜を清掃されることも少なくなり、
ビーチコーミングには良い時期となる。

海の事故には気をつけつつ、興味のある方は海藻にも目を向けていただきたい。

【目次】
海藻とは?
命を育む藻場
海藻と日本人の関わり
海藻図鑑
 緑藻
 褐藻
 紅藻
 海草
海藻おしばを楽しもう!


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ファーブル昆虫記の旅  

ファーブル昆虫記の旅
奥本 大三郎、今森 光彦



7月、NHKの「100分de名著」で、「ファーブル昆虫記」が取り上げられた
僕は、ファーブル昆虫記をじっくり読んだことがないので、「さわりだけでも」と、この番組を見ていた。
そうして「ファーブル目」になっていたところ、、見つけたのが本書である。
取り上げられているエピソードは、このNHK番組で取り上げられた程度なので、内容的に密度が高い本ではない。

むしろ本書は、ファーブルが暮らしたフランスやコルシカの風景を、美しい写真で楽しむことを目的とすべきだろう。
今森氏の写真は、相変わらず優しい眼差しであり、気持ち良い。

ファーブル自身の人生は苦難に満ちていたとしても、この風景の中で昆虫を追い続け、
そして死後、こうして評価される人生というのは、やはり幸せだったのではないだろうか。

なお、本書後半は、奥本大三郎氏による本書撮影旅行時の紀行文である。
特にファーブル的に深いものではないが、
フランス等の郊外を旅する雰囲気が楽しく、読み物として楽しめる。

なお、ファーブル的な観察を読書で追体験するならば、
例えば「ファーブルが観た夢 地球生命の不思議な迷宮」をお勧めする(レビューはこちら)。

【目次】
南仏「昆虫記」の故郷
ファーブル博物館
「昆虫記」あれこれ
奥本大三郎、ファーブルの居た場所へ
南仏で出会った虫たち
今森光彦、南仏の風に誘われて
イヴ・ドゥランジュさんとファーブルを語る
虫の詩人の館ファーブル昆虫館



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