ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

基準値のからくり  

基準値のからくり
村上 道夫,永井 孝志,小野 恭子,岸本 充生



原発事故、食品の安全性はもとより、豪雨や土砂災害等の予報など、
最近は基準値を超えた、超えていないという点が報道対象となることが多いように感じている。

そして、
「◯◯の基準値は△です、しかし本件では、それを超えていました」というニュースに接して、
そうか、超えていたのか、それは困ったなあと反応している自分がいる。

ある意味、思考停止である。

その理由は分かっている。
あまりにも専門的な「基準値」が溢れ、その基準値の適正さを理解できない。
(聞いたこともない薬品の基準値が0.1mg/kgと言われても、正しいかどうか判断しようがない。)

だから、発表された基準値は、とりあえず正しいものと受け入れる。
そして、それを超えているか否かの是非だけを、自分で行う(行っているようなつもりになっている)のだ。

本書は、そうした基準値が、どのような思想によって導かれているかを示すもの。

多くの実例があるが、「思想」と書いたとおり、どのような試験を実施し、どの結果を採用し、どう解釈して「基準値」とするか、は、客観的な科学のみによるものではなく、かなり「思想」が介入している、というのが如実にわかる。
いくつか事例を紹介したい。

まず、こんにゃくゼリーである。
喉の詰まらせるとして問題となったが、当時も今も、「餅の方がよっぽど危険だ」という主張は多い。

この点について、本書は明確に、「(客観的な)リスクの大きさと(社会的な)リスクの受容レベルは必ずしも一致しない。」と指摘する。

一億口あたりの窒息事故頻度でいえば、第1位の餅は6.8~7.6人、2位は飴類で1.0~2.7人
対して、こんにゃくゼリーは0.16~0.33人。
客観的な流通禁止基準を定めるなら、餅や飴も禁止である。

しかし、伝統食としての餅、日常的な嗜好品である飴に対する社会の受容レベル(寛容度)と大きく、
新しい食品であるこんにゃくゼリーに対しては低かった。
これが、こんにゃくゼリーに対する厳しい措置に繋がっている。

これをふまえると、いわゆる多くの中高年がこんにゃくゼリーの危険性を主張していた一方、
若年層ほど「餅の方が危険だ」という主張があった(ように僕は感じた)理由が推測できる。

中高年層ほど、餅・飴を食べない若年層は、むしろこんにゃくゼリーの方が日常的であった。
そのため、若年層と中高年では、餅・飴と、こんにゃくゼリーに対するリスクの受容レベルが、ほぼ逆転しているのだろう。


他の事例として、「調べていない」ものに対する基準値設定の問題。

作物残留試験が実施された農薬/作物の組み合わせでは、
残留農薬の基準値が定められている。

例えば、農薬フェンプロパトリンはリンゴ、イチゴ、ブドウに用いられるが、これらでは作物残留試験の結果から基準値は5mg/kgである。
ところが2006年から、作物残留試験が実施されていない場合は、一律、基準値0.01mg/kgが自動的に設定される。

そのため2007年、中国産キクラゲから、0.02mg/kgの残留が発見され、廃棄処分された。

リンゴ等では5mg/kgまで許容されるのに、なぜキクラゲでは0.02mg/kgでアウトなのか?
中国産だから、というジョークにならないジョークも考えられるが、同様の事例は日本産でも発生している。

2006年、河川から取れたシジミから0.12mg/kgのチオベンカルブ(水田農薬)の残留が見つかっとして、出荷規制、操業停止がなされた。
ところがチオベンカルブは毒性が判明している。その毒性から換算した基準値は本来は0.19/kgであり、これを踏まえればシジミは問題がないはずだ。
しかし、0.01mg/kgという基準値がシジミには適用され、それを超えていたことが問題となったのだ。

こうした事例を見ると、報道される基準値そのものに対して思考停止している状況は、やはり危険である。

また、携帯電話によるペースメーカーへの影響。
第2世代までは確かに15cm程度で影響があったが、安全を見越して「22cm」という距離指針が出された。
この「安全すぎる距離指針」に対して、鉄道会社はさらに「安全すぎる対応」を行い、現在の優先座席付近では電源を切るというアナウンスになった。

しかし第3世代方式では2cmを超えれば影響はない。もはや、「安全すぎる距離指針」も、「安全すぎる対応」も不要なのだ。

もちろんマナーの問題はあるとしても、「ペースメーカーに異常を及ぼすのに携帯を使うとは何事だ」と詰問する姿勢は、自身の思考停止を曝け出していることになりかねない。

(ちなみにざっと見ると、 ペースメーカーの装着者自身が携帯電話を用いる指針として、
 15cm離せばOK(フクダ電子)
 22cm離せばOK(ペースメーカーナビ)
 があった。 第2世代までの結果そのものを使うか、国による安全距離を用いるかの違いはあるが、 「電源を切れ」なんて勿論ない。)


最後に、農薬の急性毒性試験。

例えばネオニコチノイド系殺虫剤の一種イミダクロプリドは、3生物種(魚類、節足動物、藻類)の毒性試験から8.5mg/Lと基準値が定められている。

しかし、近年欧米で求められることがあるメソコスム試験(模擬生態系実験:多種類の生物がすむ水槽等での実験、食物連鎖も考慮)では、基準値は0.0006-0.0016mg/Lになるという。

また著者は、より多くの生物種を統計的に解析する「種の感受性分布」という手法により、ほとんどの種(通常95%)を保護できる数値として、イミダクロプリドは0.0043mg/L程度と導いている。

その差は、なぜか。

実は農薬の急性毒性試験で用いられている3種は、ブルーギル、オオミジンコ、緑藻である。

この3種が生態系を代表しているとして良いのか。
そもそも、日本の生態系への影響を調べるのに、外来種のブルーギルって何だ、という疑問が当然わく。



「基準値」は、便利だ。
だが、そのバックグラウンドを理解しなければ、一部の専門家の「思想」によって定められた基準値に対して、一喜一憂することになる。

全てを疑えと言うつもりは毛頭ないが、自分が興味がある分野、自分に影響がある分野の基準値については、きちんと確認しておく方が良い。


【目次】
第1章 消費期限と賞味期限――「おいしさ」の基準値の「おかしさ」
第2章 食文化と基準値――基準値やめますか? 日本人やめますか?
第3章 水道水の基準値――断水すべきか? それが問題だ
第4章 放射性物質の基準値―― 「暫定規制値」とは何だったのか
第5章 古典的な決め方の基準値―― 「リスクとは無関係」な基準値がある
第6章 大気汚染の基準値―― 「PM2・5」をめぐる舞台裏
第7章 原発事故「避難と除染」の基準値―― 「安全側」でさえあればいいのか?
第8章 生態系保全の基準値――人間の都合で決まる「何を守るか」
第9章 危険物からの距離の基準値―― 「電車内の携帯電話」から水素スタンドまで
第10章 交通安全の基準値――「年間4000人」は受け入れられるリスクか
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category: 技術

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シーラカンスの謎: 陸上生物の遺伝子を持つ魚  

シーラカンスの謎: 陸上生物の遺伝子を持つ魚
安部 義孝



シーラカンスは、1938年、南アフリカで変わった魚が捕れた、という漁師の一報から発見された。
子どもの頃、シーラカンスの発見物語を漫画で読んだ記憶があるが、
これほどシーラカンスが知られている国は、むしろ珍しいという(生きた化石シーラカンス、ご存じですよね?)。

なぜ日本人は、シーラカンスに興味を持つのか。

本書は、「スズメの謎―身近な野鳥が減っている!?」(レビューはこちら)、
コウモリの謎: 哺乳類が空を飛んだ理由」(レビューはこちら)、
と同様に、一人の研究者が、その研究対象生物の概略、そして自身の研究状況を説明するもの。
コンパクトにまとまっていて有り難いが、このシリーズに「シーラカンス」が入ること自体、日本的なセレクションなのだろう。

さて、シーラカンスと言えばコモロ諸島と思っていたが、
1997年、インドネシアでも発見されている。と言っても、この年は市場に売られていく個体を見ただけで、研究者が入手したのは1998年。
このインドネシア・シーラカンスは、学名はLatimeria menadoensisであり、コモロ諸島のシーラカンスLatimeria chalumnaeとは別種である。

研究の結果、約2000~3000万年前に分岐したらしいが、遺伝子の差異は0.18%程度と、とても小さい。
600万年前に分岐したヒトとチンパンジーの遺伝子差は1.4%程度とのことであり、
いかにシーラカンスの進化速度が遅いかが分かる。
これは逆に、シーラカンスの生息する環境(自然環境のみならず、餌資源や(あるとすれば)天敵などの外部環境全て)の変異が少ないことを示しているのだろう。

さて、本書では、生物としてのシーラカンスについて詳しい。

・マグロの切り身を見た時に白い筋が見えるが、この筋(筋膜)がシーラカンスでは非常にしっかりした膜になっていて、がっしりした体つきになっている。

・シーラカンスの鱗の表面には堅いエナメロイドの層があり、このような特徴は初期の硬骨魚類に見られる特徴。

・シーラカンスには背骨が無く、脊柱という管状のしっかりした組織に液体が詰まっている。肋骨もない。
よって化石でも、脊柱の部分は空洞になっている。

・シーラカンスの浮き袋には空気ではなくワックスエステルという油が詰まっている。このワックスエステルはバラムツやアブラソコムツ、アブラボウズなどにもあるが、人間には消化できないため、大量に摂ると下痢をしてしまう。


こうした特徴を知ることができるのは、やはり化石ではなく、生きた生物として現存してくれていることが大きい。
自然の偶然のなせるところだが、現在の僕らはその幸運に感謝しなければならないだろう。

また一方、僕らの次の世代には、現在生息する生物や環境を、僕ら同様に知り、楽しむ権利がある。
だから、僕らには現存する環境を、そのまま保全していく義務がある。

ところが、このシーラカンスでさえ、胃の中からポテトチップスの袋などが発見されている。
その個体は大きさに比して痩せており、おそらくビニール袋等が障害となったらしい。


4億年前に栄え、約6500万年前に絶滅したと思われていたが、
ごく一部がそのまま残っていた太古の魚類。

それを、発見からわずか100年以内に、人工物によって減少方向に動かしてしまっている。

それは、未来の世代に対する裏切りである。
その恐ろしさに、もっと目を向けなければならない。

【目次】
1章 シーラカンスはどんな生き物?
2章 不思議な体のヒミツ
3章 進化の謎
4章 シーラカンスを探せ!
5章 シーラカンス研究はどこに向かう?




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category: 魚類

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変化朝顔図鑑: アサガオとは思えない珍花奇葉の世界  

変化朝顔図鑑: アサガオとは思えない珍花奇葉の世界
仁田坂 英二



夏になるとグリーンカーテンに挑む。
残念ながら僕はグリーンフィンガーを持っていないので、毎年どこがカーテンという体たらくである。
今年も失敗。カーテンにはならなかった。

さて、グリーンカーテンの定番は、アサガオとゴーヤ。
そして、朝顔には様々な園芸品種がある。
そこまでは知っていたので、その「珍花奇葉」ぶりを見ようかと本書を手に取ったが、良い意味で期待を裏切られた。

本書は、二つの面を持つ。
一つは、変化朝顔の品種を楽しむガイドブック。
そしてもう一つは、そうした変化朝顔が生じるメカニズムと実践テクニック。まさか本書で遺伝子のホモ接合・ヘテロ接合はおろかトランスポゾンによる変異等に出くわすとは思わなかった。
変化朝顔は、日本における「メンデルのエンドウ」なのだ。

さて、アサガオIpomoea nilは、英名を「Japanese morning-glory」という(僕は知らなかった)とおり、
日本を代表する園芸植物である。

だが、日本原産ではなく、アジアの熱帯やヒマラヤあたりが原産(本書では中南米原産としているが、はて?)。日本へは、1200年ほど前の奈良時代に中国から渡ってきたらしい。
他の一年草と同様、種子で増やすことしかできないため、栽培・品種改良には高度な栽培技術が必要だが、日本人は爆発的に品種改良を行い、今や原種アサガオとは似ても似つかぬ品種まで生み出している。
世界的に見ても、原種の姿を想像できないほど変化した園芸植物はアサガオだけとのことだが、
ぜひ本書でその「珍花奇葉」ぶりを見ていただきたい。
(もしくは、「変化朝顔」でGoogleの画像検索されたい。)

この変化朝顔、まず品種維持により大きく分けられる。
「正木」(まさき)が、種子を結ぶ品種。
「出物」(でもの)が、不稔性の1代雑種である。

変化朝顔の作出は、まず江戸時代の文化・文政期に第1次ブーム。ここで様々な変種が発見され、
文政~嘉永期の第2次ブームで「珍花奇葉」な不稔性の変化朝顔を維持する栽培技術を確立。
明治中頃から昭和初期にかけての第3次ブームで、人工交配による品種作出がなされた。

つまり、「正木」「出物」の別を知り、不稔性の1代雑種を維持する方法は江戸期には既に確立しており、
これはメンデルの遺伝法則を経験知として持っていた、ということである。
日本人のマニア性は恐るべきものである。

さて、そこで変化朝顔鑑賞の第一歩。
変化朝顔の名前は、ややこしい。
例えば、本書で名前の読み取り方紹介で取り上げられている例は次のとおり。

青斑入縮緬立田葉石化紫覆輪筒白総鳥甲車咲牡丹

さっぱりわからない。呪文である。
しかし、変化朝顔の名前が、

葉色+葉模様+葉質+葉形+「葉」
+つるの形質+濃淡・花色+花模様+花筒の色+均一性+花弁の形+均一性+咲き方+花形+「咲」
+花弁の重ね+花の大きさ

という構造になっていると知れば、なんとなく分かる。
もちろん、花弁の形や花形に独特の言い方(花弁の形…風鈴・鳥甲等、花形…浅切・多曜・獅子等)があったり、独特の省略もあるにせよ、前掲の朝顔は、

青斑入 縮緬 立田「葉」 石化 紫 覆輪 筒白 総 鳥甲 車「咲」 牡丹

と分解して理解すればよいのだ、と分かる。
そして本書では、この葉型・色・花形等のバリエーションがカタログ化されているので、
手元にあれば、「立田」という葉がどんなものか分かる。入門書としては最適である。

一方、後半は変化朝顔が生じる、遺伝的に仕組みについて。
詳細は本書をお読みいただくとして、単なる優性・劣性遺伝だけでなく、
二性雑種、連鎖、複対立遺伝子等、様々な遺伝の組み合わせによって変化朝顔が作出されていること、
また変異を生じるのはトランスポゾン遺伝子がどう動き、離脱するか(タンパク質をつくるエキソン部分に入るか、無意味なイントロンに入るか)等が絡むこと、
また変化朝顔の作出には、植物の体の座標軸を保つ遺伝子の損傷も絡んでいることなど、
遺伝学の基礎を学ぶものとしても十分に楽しめる。

たかが変化朝顔、と軽々しく手に取ったことをお詫びしたくなるほど、充実した一冊であった。
遺伝学に興味がある方は、ぜひお読みいただきたい。

それにしても、たかが「変化朝顔」の入門書だろうに、この深さは何故なのかと思っていたら、
著者は九州大学の講師で、アサガオの系統保存、形態形成遺伝子、トランスポゾン研究がテーマとのこと。
そして出版は、「(株)化学同人」。

単なる園芸家の園芸書ではなく、むしろ遺伝学入門である。やられた。

【目次】
■第一部 入門編 さまざまに変化した朝顔
 変化朝顔の名前の付け方
 基本形(野生型)と部分の名称
 さまざなな変異
  1.葉の色と模様
  2.葉質
3.葉の形
4.つるの性質
5.花の色
6.花の模様
7.花筒の色
8.花弁の形
9.花形
10.花弁の重ね
11.花の大きさ
変異の一覧と本書で用いるアイコン
〔コラム〕子葉の形
■第二部 写真集編
珠玉の変化朝顔たち
獅子咲牡丹
車咲牡丹
采咲牡丹
その他の変化朝顔
■第三部 基礎知識編
変化朝顔のしくみ
アサガオの歴史
遺伝の基本と「正木」「出物」
遺伝の組み合わせ
変異が生まれるしくみ
変化朝顔の栽培・採種
「出物」と「親木」の仕訳
新しいアサガオをつくる
栽培に必要な資材
変化朝顔を見る・入手する
■アサガオ用語集・参考文献
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category: 植物

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野鳥観察会でキビタキ、自宅でジョウビタキ。  

たぶん今年最後のキビタキとの出会い、自宅ではジョウビタキ初認

先週末は、土器川生物公園で野鳥観察会を開催しました。
この時期は、南へ去る夏鳥と、南下してきた冬鳥、そして一年中いる留鳥が混ざって、
とても賑やかなシーズンです。

観察会でも、夏鳥のメボソムシクイ、キビタキ、冬鳥のアリスイなどが観察できました。

今回は、夏鳥であるキビタキ雄の写真を掲載しておきます。まだまだ夏!って感じですね。
201410キビタキ

また、オオタカがゴイサギ幼鳥を食べた食痕(散乱した羽根)も観察しました。
その写真は、こちらのブログに掲載していますので、よろしければご覧ください。

羽根から野鳥の種類を見分けるというのはやや難しいのですが、
慣れてしまえば、推理が楽めます。
食痕、巣、フン等の痕跡から野鳥を探るBIRD TRACKING、
もっと盛んになっても良いと思いますが、マニアックな趣味の中のマニアックな分野です。
野鳥に迷惑をかけないよう、楽しみをお伝えできればと思っています。


さて、10月18日、自宅で冬鳥のジョウビタキ雌を見ました。今年初認です。
昨年は10月31日でしたので、やや早い訪れですね。

皆さんのお近くには、もう渡来したでしょうか。
「ヒッヒッ」というかん高くて鋭い鳴き声が、庭や公園で聞こえたら、ぜひ探してみてください。
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category: 雑記:日々のこと

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コメットハンティング 新彗星発見に挑む  

コメットハンティング 新彗星発見に挑む
えびな みつる



小学校から中学校にかけて、星を見ようとしていた時期がある。
手元にあったのは、藤井旭氏の「星雲・星団ガイドブック」、
野尻抱影氏の「新星座巡礼 (中公文庫BIBLIO)」、
山川静氏の「ギリシャ神話」。
ラインナップから分かる通り、星座のロマンに惹かれての星空だった。
また、自宅が本屋だったこともあり、雑誌「天文ガイド」を読むこともできて、有り難いことに反射望遠鏡を買ってくれたこともあって、しばらく夜空を見ていた。

ただ、残念ながら小・中学生の独学。
メジャーな星座は何とか覚えたものの、望遠鏡では月を見るだけ。
意味もわからず星を見ても、小さな光の点が見えるだけで、いつしか星空から遠ざかった。
今思えば、僕は星よりも星座に惹かれていたのだろう。

だが、星の世界への興味を失ったわけではない。
むしろ、「楽しむことすらできなかった」という悔しさが残っている。

たから、インターネット上で美しい星空や、日食を見せてもらうと、子供の頃の憧れが叶えられたようで、とても嬉しい。
(主に星空は「星と写真の部屋」、例えば「星」カテゴリ、日食は「M氏の幸福研究室 ~a Scientist's Life in the Voynich lab.~」、例えば「取り敢えずの日食画像集@2013.11.03、於アカンヨ小学校校庭・ネビ・ウガンダ」で楽しませてもらっている。)

ところでその頃、「天文ガイド」には「反射望遠鏡の作り方」が載っていた記憶がある。
こんなものが作れるんだ、という驚き。
そして、自作の反射望遠鏡で、何を見ているんだろうと疑問に思った。

その中の何人かは、彗星を探していたのだ。

「池谷・関彗星」という名前は何となく見た覚えがある。
また、「百武彗星」も話題になった。
これら彗星の名前は、発見者の名前である。
すなわち、これらの彗星を発見したのは日本人ということだ。
本書によれば、彗星に名前が付いた日本人は50人程もいて、これほど多くの人々が彗星を発見している国は、実はとても珍しいという。

その発見は、偶然ではない。

自作の反射望遠鏡や、様々な工夫を凝らした屈折望遠鏡。
アマチュアだから、探すのは仕事が終わって以降。
探索に適した夜、自宅で、あるいは観察に適した場所まで出かけて、夜空を探す。
眼視探索を行う人。
冷却CCDを用いて、パソコン上で彗星を探す人。

彼らに共通してるのは、「見つけよう」という欲ではなく、「探すことを楽しむ」ことだ。
そうした、彗星を探す人々を、コメットハンターと呼ぶ。
とても素敵な言葉だ。

本書は、その日本が世界に誇るべき、コメットハンター列伝である。
登場するのは、20人(19人のインタビューと、故百武氏)。
実績が示す通り、その手法は極めて高度で、それぞれ独創的だ。
だが、その多くはアマチュアであり、限られた時間を工夫しながら(もしくは情熱によって)探索に充てている。

全国のコメットハンターは、いつもはライバルだ。
時には、ほんの数分差で発見することもある。
(例えば1975年10月に発見された鈴木・三枝・森彗星(1975k)。
最初の発見者、鈴木氏から、五人目の発見者古山氏(彗星には最初の3人までの名前が付いている)まで、何と30分の間の出来事だったという。)

だが、一度発見すれば、ライバルは仲間に変わる。
発見した一の情報がハブのような役割の組織・人に伝えられると、全国の熱心な観測者に伝えられ、各地で確認観測が行われる。確認されると、スミソニアン天文台の天文電報中央局へ報告される。

1961年からの10年間、発見された44個の彗星のうち、何と4割以上の19個が日本人が発見したもの。
世界では、「日本の夜空に彗星が現れたら、間違いなく発見される」と評判になったという。

切磋琢磨するライバル、そして仲間がいたからこそ、日本はコメットハンターの国となった。

現在、大規模な組織が、高度にシステム化・自動化された観測機器を用いて、「全天サーベイ」と呼ばれる探索を行っている。かつてのように、アマチュアが活躍できる場は無くなっていきつつあるようにも見える。

だが、2008年に板垣氏が再発見したジャコビニ彗星は、数多の全天サーベイの、わずかな隙間で発見された。
日本のコメットハンターの夢は、まだ絶たれていない。

実際、本書の末尾では、今後の彗星探索の手引きが詳しく説明されている。
全天サーベイの時代にあって、どのような探索が有効か。コメットハンターたちは、次の時代を楽しんでいる。

東洋の島国でありながら、そして幾多の混乱の時代を経ながらも、日本は「コメットハンターの国」として世界に認められている。
物質のみでない豊かさが、そこにはあるように感じる。

本書によって、もしかしたら新しいコメットハンターが生まれ、そして新しい彗星を発見するかもしれない。
本書を読めば、次の、日本人による彗星発見の報が、もっと楽しく、嬉しく感じることだろう。

ところで、本書には「香川県のベテランコメットハンター藤川繁久氏」という記述もあり(p244)、
2002年に工藤哲生氏に1日遅れで彗星を発見し、そのC/2002 X5には工藤・藤川彗星という名がついている(藤川氏の彗星発見は、このC/2002 X5で9個めらしい)。

我が家は藤川氏の在住していると思われる地域とは全く別だが、近くに自宅に天文台を設置している家が2軒ある。
もしかしたら、そこの方もコメットハンターなのだろうか。そう思いながら通り過ぎるのも、楽しい。

藤井旭氏の「星雲・星団ガイドブック」は、「星空が好き、猫も好き」で紹介されている。





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category: 地学

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サルの小指はなぜヒトより長いのか: 運命を左右する遺伝子のたくらみ  

サルの小指はなぜヒトより長いのか: 運命を左右する遺伝子のたくらみ
石浦 章一



タイトルに惹かれて読んだが、正直なところタイトル(副題も含めて)は内容を表していない。
文庫化される前のタイトルは「生命に仕組まれた遺伝子のいたずら」だそうだが、これもちょっと違う。

本書は、遺伝子の仕組みと、それが人間にどのように発現するか、という枠組みについて、実際の東大の講義を整理したの。ここでいう「発現」は、著者( 東京大学大学院理学系研究科・理学部教授)の研究を踏まえて、主に病気としての発現を取り上げる。すなわち、遺伝病や先天性の色覚異常(著者は「カラー・ブラインドネス」という言葉を用いている)などだ。

講義を踏襲していることもあり、遺伝子とは何で、実際の遺伝病でどのような遺伝子異常が影響しているか、というベーシックな話題。
後半は優性遺伝と劣性遺伝の話から始まり、遺伝子の不等交叉、欠損など、遺伝子異常が起こる仕組みを紹介しつつ、これらが実際の遺伝子病や先天性異常にどのように発現しているのかを説明する。

読みやすく、かつ類書ではない観点・細かさの話が多いため、遺伝子・遺伝病・進化に興味がある方なら、楽しく読むことができるだろう。

特に興味を抱いたエピソードをいくつか取り上げておく。

ヒトの肝臓には、CYP酵素が57種類あり、それぞれで働きが異なる。
CYP1 ダイオキシンを分解 塩素が付いた毒物を代謝
CYP2 植物由来を排泄する
CYP3 毒物を水溶性にする

ところが、このうちCYP3はグレープフルーツジュースで働きが阻害されるため、薬をグレープフルーツジュースで飲むと、CYP3が働かず、薬が分解・排泄されずに濃度がどんどん高くなってしまうとのこと。
(ミカンジュースだとOK、他にブンタン、ダイダイなどは×)
薬は水で飲まなくてはいけないとはよく言われるが、具体的にグレープルーツジュースでダメな理由が分かったのは面白い。

また、この肝臓のCYP2酵素は植物由来の成分を分解するが、人によって非常に強い人と弱い人がいる。
日本人は非常に強いスーパーメタボライザーをはじめ、エクステンシブメタボライザー、インターメディエイトメタボライザー、プアメタボライザーの4種類に分けられる。

そして何と、スーパーはプアの100倍効率が良いらしい。
人口割合でいえば、スーパー10%程度、プア10%程度、大多数はインターメディエイトらしいが、
日本人の10%はものすごく薬や植物由来成分の分解が良く、10%は極めて悪いのだ。

ただ、この分解効率が100倍というのは、むしろ薬剤成分を早く分解して排泄するため、
大量の薬が必要になるとのこと。メリットだけではないのだ。
(CYP酵素については、「迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか」(レビューはこちら)でも取り上げられている。)

もう一つは、色覚について。
ヒトの目には光を感じる色素としてロドプシン、色を感じる色素として青オプシン、赤オプシン、緑オプシンがあるが、ロドプシンと青オプシンは348個のアミノ酸、赤オプシンと緑オプシンは364個のアミノ酸で形成されている。

ここから、まず明暗を感じるロドプシンができ、次に7億年くらい前にロドプシンから青オプシンが、そして3億年前に赤オプシンか緑オプシン、3000万年前くらいに赤オプシンか緑オプシンの残りができたらしいという。こうした色覚の発生過程というのも面白い。

そして同じ赤オプシンでも、180番目のアミノ酸がセリンの人とアラニンの人がいて、
その割合は日本人では78%と22%。そして実際には、赤の見える範囲(最大吸収波長)が60ナノメートル違うという。
これは、同じ赤でもその微妙な差異を見分けられる人がいる、ということらしい。

生物における色覚については、なぜか興味があるところなのだが、
ヒトの見ている世界 蝶の見ている世界 (青春新書インテリジェンス)」(レビューはこちら)でも、このヒトの色覚について紹介されている。

この中で、最近、女性の中には色覚に必要な物質が通常の3種類ではなく、4種類ある人がいることがわかっている(X染色体が2つあるために、一方に異常があると逆に色覚のバリエーションが増える)こと、
その場合、この赤オプシンが増え、もしこれが色覚に反映されれば4色覚になるが、実際にそのような人がいるかは未確認である、ということが紹介されている。

僕らは暗黙のうちに、カラー・ブラインドネスの人を除き、皆同じ色を同じように感知していると思っている。
しかし赤オプシンの違いによって、同じ赤での微妙な差異を見分けられる人がいる。
さらに、4色覚を持つ人もいるかもしれない。
さらに鳥や昆虫は紫外線を見ることができるのだ。

自身がいわゆる健常者であっても、自分が見ている世界がそのままの世界ではないし、
皆が見ている世界でもない、という事実は、もっと認識すべきだろう。

【目次】
第1講義 相手の心を読む遺伝子
第2講義 遺伝子に残る進化の歴史
第3講義 病気や体質とタンパク質
第4講義 病気じゃない遺伝子の変化
第5講義 異母兄弟は結婚できるか
第6講義 男と女で違うこと
第7講義 生物が初めて見た色
第8講義 寿命を延ばす遺伝子
第9講義 脳と意識のからくり


目、色覚、構造色。進化や生物を考える中で、このテーマはとても面白い。

「眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く」(レビューはこちら)


「ヒトの見ている世界 蝶の見ている世界」(レビューはこちら)


「鳥たちの驚異的な感覚世界」(レビューはこちら)


「モンシロチョウ -キャベツ畑の動物行動学」(レビューはこちら)


「モルフォチョウの碧い輝き―光と色の不思議に迫る」(レビューはこちら)
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category: 医学

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迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか  

迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか
シャロン モアレム,ジョナサン プリンス



病気というのは、健康を損ねている状態であり、生存にはデメリットでしかない。
一方、ものすごく単純に言えば、進化とは、より環境に適応した個体が生存し、それが主流になっていく仕組みだ。
そうすると、生存に不利益な病気を、生まれながらに持っている遺伝病の個体は、長い時の中で淘汰されるはずである。

しかし、現在のヒトを見ても、遺伝病は多い。
その中には、かなり特定地域のヒト集団の大部分が、遺伝病を引き起こす遺伝子異常を持っているというケースもある。

遺伝子病とは、デメリットだけではないのか?

こうした問いから様々な事例を紐解いていくのが、本書の目論見である。

例えばヘモクロマトーシス。鉄を吸収・蓄積し続ける鉄代謝異常の遺伝病で、1996年に病原遺伝子が特定された。
ところがその結果、西ヨーロッパの3~4人に1人は、遺伝子の少なくとも一つを保有していることが判明した(ただし発症するのは、病原遺伝子を持つ200人に1人程度。)

ヘモクロマトーシスは明らかに生存にはデメリットなのだが、なぜこれほどヨーロッパに潜在的に蔓延しているのか。

実は、普通は人体に病原菌が侵入すれば、鉄分に富むマクロファージ(白血球の一種)が取り囲み、この病原菌を倒す。しかし結核やペストはこのマクロファージの鉄分を利用して増殖するという。

一方、ヘモクロマトーシスの人は、マクロファージ(白血球の一種)でも鉄分が少ないため、細菌に鉄を与えない。結果、通常なら増殖するペスト菌を倒すのだ。

14世紀の腺ペストをはじめ、ヨーロッパではペストが蔓延したが、その都度この潜在的なヘモクロマトーシスが生存に有利に働き、その人口割合が増えていったとも考えられるという。


また、日本人でも多い下戸の問題。
ヒトは体内で、アルコール→アセトアルデヒド→酢酸塩→脂肪+二酸化炭素+水 と分解していくが、アセトアルデヒド→酢酸塩の過程では、アセトアルデヒド脱水酵素が働いている。

しかしアジア人の多くは、アセトアルデヒド脱水酵素の能力が弱い遺伝子ALDH2-2を持っている。

これについて、山野の水をアルコールを混ぜることで消毒する習慣が普及したヨーロッパ圏では、アルコールを分解する能力の高いヒトが生存に適していたが(ALDH2-2変異型になると、一口で泥酔したようになってしまう)、煮沸消毒が普及したアジアでは、ヨーロッパほどアルコール分解能力が求められず、ALDH2-2遺伝子を持つ人がそのまま増加した、としている。

これは文化との関係にも立ち入るため、更なる検証が必要だと思うが、
こうしたヒトを取り巻く文化・歴史・環境によって、特定の遺伝子集団が増加しているというシナリオは、現在のヒトへの進化を見ていくうえで非常に面白い。

本書前半は、これらの様々なトピックが紹介されており、とても興味深い。

一方、前半の遺伝子集団に対して、後半は遺伝子そのものに踏み込んでおり、最近はやりのエピジェネティクスが取り挙げられているが、この部分については、やや散漫な印象がある。
エピジェネティクスは、現在の進化・遺伝子学のメイントピックなので、他書で、より新しい知見を追う方が良いだろう。


【目次】
第1章 血中の鉄分は多いほうがいい?
第2章 糖尿病は氷河期の生き残り?
第3章 コレステロールは日光浴で減る?
第4章 ソラマメ中毒はなぜ起きる?
第5章 僕たちはウイルスにあやつられている?
第6章 僕たちは日々少しずつ進化している?
第7章 親がジャンクフード好きだと子どもが太る?
第8章 あなたとiPodは壊れるようにできている
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category: 進化論

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眠れない一族―食人の痕跡と殺人タンパクの謎  

眠れない一族―食人の痕跡と殺人タンパクの謎
ダニエル T.マックス



1990年代後半から2000年代にかけては、新しい人畜感染症の時代の幕開けだったように感じる。

今年エボラが再流行しているが、1995年にザイールで起こった流行と、類似の感染症を描いた「アウトブレイク」(1995)という映画が、この病気の「爆発的な拡大」を想像させたものだ。

SARS(重症急性呼吸器症候群)。2002年に中国で発生し、確認されるまでの短期間に世界中に罹患者が移動したことから、空路で繋がった時代の危険性を実感させた。

そして、BSE。狂牛病とも呼ばれる牛海綿状脳症は、食の安全性を考えさせる契機ともなったし、
草食動物である牛に、牛の肉骨粉を食わせるという、経済優先の人間の営みを露見させた。
さらにBSEは、おそらくヒトにも感染する。
変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)と呼ばれるものだ。

だが、BSEや変異型クロイツフェルト・ヤコブ病は、エボラやSARSとは決定的に異なる点がある。
それは、いわゆる感染源となる病原体が、「プリオン」というタンパク質であることだ。

プリオンはウイルスや病原菌とは異なり、生命体(もしくはその境界線上の存在)ではない。
単なるアミノ酸が結合した高分子化合物である。

本書の舞台の一つは、アフリカのギアナ。
ここに住むフォレ族の間で蔓延していたクールー病は、無関係な人が突然発症し、痴呆症状と不随意運動を示し、やがて死に至る。
おそらく20世紀の初頭に村で発生したらしいが、50年後には村の半数が死に至るほど蔓延していた。
このクールー病の解明を通して、プリオン病という概念が見出され、理解されたのかというのが、本書の軸の一つである。


そして、「眠れない病」。
イタリアのある一族は、まるで呪われているかのように、50代頃を超えると眠れなくなる。
その症状を契機として、幻覚や頻脈、痴呆や全身の不随意運動などの症状を示し、
ついには死に至る。

誰もその病気の正体が分からなかたのだが、プリオンに対する理解が進む中で、
この症状が遺伝性のプリオン病であることが判明する。
その名は、FFI(致死性家族性不眠症)。

この一族がの「眠れない病」がプリオン病であると判明するまでの、
常に死と隣り合わせにあった一族の歴史が、本書のもう一つの軸である。

この二つの軸を中心として、プリオンとは何か、
そして狂牛病に対する初期のイギリスの対応の問題点などが、本書で明らかにされる。

ただ、プリオンやプリオン病は、不明なことばかりである。

例えば狂牛病(BSE)や、それがヒトに感染したといわれる変異型クロイツフェルト・ヤコブ病だけでも、

なぜイギリスでBSEが発生したのか。
なぜ同じように肉牛を食って、感染する人としない人がいるのか。
なぜ若者が多く観戦するのか。
なぜBSEはイギリス南部に多いのに、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病は北部に多いのか。
なぜイギリスだけ継続して発生するのか。

など、多くの問題がある。

プリオン病が基本的に不治の病であることが相俟って、人類とプリオン病との闘いは、
始まったばかりと言えるだろう。

なお本書では、クールー病がおそらく(死者を弔う行為としての)食人によって蔓延したこと、
またプリオン病に罹りにくいプリオン遺伝子の組み合わせ(ヘテロ接合)が人類に有意に多いことから、
かつてまだ初期人類が少ない頃、食人の習慣によって一度プリオン病が蔓延し、
その結果、現在の人類では、罹りにくい遺伝子タイプが大多数を占めた、という仮説を提唱する。

この仮説はシンプルだが説得力があって、おそらくそうだったかもしれないと感じた。

ただ、なぜか日本人では、逆にプリオン病に罹りやすい遺伝子タイプ(ホモ接合)が多いという。
だとすれば、狂牛病対策をヒステリックなまでに徹底して行う現体制は、あながち不当なものではない。
この事実(日本人のプリオン病感染リスク)をもっと紹介しなければ、世界の趨勢に流されてしまい、
日本人のリスクが高まるだけだろう。


【目次】
第一部 闇の中の孤独
第1章 医師たちの孤独 1765年、ヴェネツィア
第2章 メリノ熱 1772年、ヴェネツィア
第3章 ピエトロ 1943年、ヴェネト州
第二部 闇を跳ね返す
第4章 強力な呪術 1943年、パプアニューギニア
第5章 ドクタ・アメリカ 1957年、パプアニューギニア
第6章 動物実験 1965年、メリーランド州べセスダ
第7章 「ボウ(お手上げだ)!」 1973年、ヴェネト州
第8章 化学者にとってうってつけの問題 1970年代後半~80年代前半、サンフランシスコ
第9章 収束 1983年、ヴェネト州
第三部 自然の反撃
第10章 地獄の黙牛録 1986年、イギリス
第11章 おいしい食品製品「オインキー」 1996年、イギリス
第12章 プリオンで説明できる世界 70年代から今日まで、全世界
第13章 ヒトはヒトを食べていたか 紀元前80万年、全世界
第14章 ついにアメリカにも? 現在、アメリカ
第四部 目覚めのときは来るのか?
第15章 致死性家族性不眠症の犠牲者たちのために 現在、ヴェネト州

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category: 医学

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2014年9月の沙弥島、カニと貝。今日のツバメ。  

ヒライソガニ、キヌガサガイ、ツバメ。

先日、息子と坂出市沙弥島へ行きました。
磯場を歩いたところ、カニの脱皮殻を発見。
久しぶりに持ち帰り、標本にしてみました。
ヒライソガニ2
作り方は、抜け殻をウエットテイッシュで包んで持ち帰り、一度水洗い。
丸めたティッシュや針などで形を整え(針は支えに使います)、乾燥させただけです。

今回拾ったのは、たぶん全てヒライソガニと思います。
ヒライソガニ4
残念ながら小さい種ですが、手元でじっくり見られるというのは、面白いものです。

また、砂浜で貝も探しました。
90年代には様々な貝が拾え、息子にもその楽しさを体験させてやりたいのですが、
養浜のために砂が入れられて以降、貝は激減。
1cm弱の貝がちらほらある程度で、
以前はいくらでも見られたシドロガイやイタヤガイは、今は全く見られません。
貝

2つの貝が癒着したものもありました。
貝癒着

面白いものとしては、キヌガサガイがありました。
上から見ると貝だか何だかわかりません。
キヌガサガイ2

しかし、ひっくり返すと「貝」ってわかりますね。
キヌガサガイ1

ビーチコーミングや貝拾い、
生きものに注目すると、思いがけない出会いもあるものです。
また機会を見つけて、行ってみたいものです。


ところで本日、ツバメ幼鳥が庭にいました。
20141005ツバメ
我が家近く生まれのツバメは、もう去っていたはずですが、まだいたとは驚きです。
それとも、より北からの通過個体でしょうか。
いずれにしても、台風も近づいていますし、無事南下できるよう祈るばかりです。
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category: 雑記:日々のこと

thread: 趣味と日記 - janre: 趣味・実用

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生命世界の非対称性―自然はなぜアンバランスが好きか  

生命世界の非対称性―自然はなぜアンバランスが好きか
黒田 玲子



目薬とか、虫刺されの薬を見てほしい。
「ℓ-メントール」が入っていることが多い。
この「ℓ-」って何だろう、と思ったことはないだろうか。



生物は、見左右対称と思いがちだが、実は違う。
例えば右手と左手。左右対称と言いそうだが、厳密には鏡像関係にある。

日常的にはほとんど意識していないが、
実は物質の分子構成において、この右手型・左手型の違いは極めて大きな意味を持つ。

最も悲劇的な例の一つが、サリドマイドである。
この成分の分子構成も右手型・左手型があり、この一方のみが胎児に対する催奇性がある。

かつての製薬では、この分子の右手型・左手型を意識していなかった(ラセミ混合物)が、近年はこれを区別する方向に進んでいる。
実際、気管支拡張薬のイソプロビル・ノルアドレナリンは、一方がその鏡像体よりも800倍も薬効が高く、
他にも右手型・左手型で、格段に薬効が違う物質は多い。

こうした違いは、なぜ生じるのか。またそもそも、分子レベルでの鏡像体とは何なのか。
それを紐解くのが本書である。

正直なところ、完全文系の僕にはなかなか読み進めるのが難しいのだが、
生物を理解するうえで、この鏡像体の話は頭に入れておいて損は無い。

例えば、ある化合物の右手型・左手型を表現する場合、
光学的な活性から右旋性物質(dextrorotatory、d体)と左旋性物質(levorotatory、ℓ体)という。

分子的には同一で、ただ構成が違うだけなので、様々な物質にはd体とl体が混在するのが普通である(ラセミ混合物)。
だからこそ、サリドマイドのような悲劇が発生したのだ。

ところが地球上の生物は、全てℓ体のアミノ酸(L-アミノ酸)からタンパク質を形成している。
生物は、根本的に非対称なのである。

なぜℓ体のアミノ酸しか生命は利用しないのか。
その起源・意味はまだ未解明のようだが、地球生命を知るうえでは欠かせない情報である。
(だからD-アミノ酸で構成された生物が要れば、それは宇宙生命だ。)


さて、これによって、
冒頭の身近な薬剤に含まれているℓ-メントールのℓ、ℓ-アスパラギン酸のℓが、
地球生命に合致する左旋性物質(ℓ体)を選択的に生成したもの、と理解できる。

現在の人類は、同じ物質の分子レベルの違い(d体とℓ体)を知り、理解し、それを活用するに至った。
その事実だけでも、驚愕を覚える。

生命の左・右に関する類書と言えば、今のところ「右?左?のふしぎ」(レビューはこちら)くらいしか知らないが、同書が文化的な範疇にまで手を伸ばしている一方、本書はより分子レベルに突き詰めている。
なかなか読みごたえがある一冊だが、興味がある方はぜひお読みいただきたい。

【目次】
第1章 右の世界、左の世界
第2章 対称とは、非対称とは―靴と靴下の原理
第3章 対称な生物界―マクロの世界
第4章 分子の世界
第5章 非対称な生物界―ミクロの世界
第6章 キラルな医薬品の開発
第7章 生物界はどのようにして完全に左右非対称になったのか―素粒子の世界、宇宙の非対称、そして生命の起源



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category: 動物

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ねずみに支配された島  

ねずみに支配された島
ウィリアム ソウルゼンバーグ




生態系とは、例えれば凸凹の地面に、不定形のブロックを積み上げていくようなものと思う。

凸凹の地面が、外的な要因。この制約を受けて、一段目に置くことができるブロック(各生物種)の形が決まる。
上に積み上げるブロックは、下段のブロックの形の制約を受ける。
こうして、環境や他の生物種との関わりによって、次々と生物種が積み上げられていく。

類似した環境(凸凹の地面)なら、同種のブロックが流用できる。
真四角とか、流用性の高いブロックは、様々な地面・段に応用可能だ。
こうした汎用的なブロックは、分布域の広い生物種に相当する。

一方、特殊な環境(凸凹の地面)なら、そこ用の特殊な形のブロックが形成される。
これが固有種だ。

どんなブロックを形成し、どのように積み上げるか。
それを決定するのが、歴史的な時間だ。

こうして出来上がったピラミッドは、それぞれ固有の価値を持つ。
これが各地域の生態系。

一見似ているし、出来上がったものだけを見れば簡単だが、
一度崩すと、二度と同じものを作るのはできない。

こうして組み上げられたピラミッド(地域の生態系)
は、そのブロックの形や積み上げ方を丁寧に解読すれば、
地域の歴史や環境(凸凹の地面)といった、「必然性」が見えてくる。

これを理解するのが、生物地理学だろう。

人間が外来種を持ち込むということは、このブロックを無理に押し込めるようなものだ。

汎用性の高いブロックなら、入るかもしれない。
また環境(凸凹の地面)が似ていれば、より入りやすいだろう。
しかし、どこか見えないところで、必ず歪みが生じる。
そしてそのピラミッドは、必然性のあるピラミッドではない。

また、特殊な形のブロックを、他の環境に押し込めることはできない。
固有種を、その環境から断絶したところで維持することはできないのだ。

しかし、ブラックバス(魚類)、セイタカアワダチソウ(植物)、ドバト(鳥類)、ウシガエル(両生類)、アメリカシロヒトリ(昆虫)、チャコウラナメクジ(軟体動物)…。
僕らの周囲は、外来種だらけだ。

これらが生態系に影響を及ぼしていないはずがない。
単に僕らが見えない、気づかないだけだ。

だが、外部から隔絶された環境に、外来種が侵入すればどうなるか。
その環境の在来の生態系は、破壊的な影響を受けるだろう。


身近な例として、ため池へのブラックバスの侵入がある。
バスが放流されると、在来種はよくて激減、通常は消滅してしまう。

これは閉鎖された水域だが、
「閉鎖された陸域」-すなわち「島」においては、何が破滅的な外来種となるのか。

その恐ろしい実例と、対策の歴史が本書である。

陸域での破滅的な外来種は、ネズミ、ネコ、ヤギなど。

特にネズミは駆除が難しいこと、
また地面に営巣する海鳥の卵、ヒナ、そして抱卵中の親鳥までも襲う、獰猛な生物である。

本書では、ニュージーランドの飛べないオウム、カカポと、
ベーリング海に浮かぶキスカ島の海鳥を中心に、
ネズミ等によって激減する生物と、それを保護しようとする人間の努力が語られる。
その苦難の歴史は、ぜひ本書でお読みいただきたい。

ただ結局のところ、一つの島でネズミを駆逐するためには、
殺鼠剤を圧倒的な量でばらまくしかないようだ。
(ただしその安全性の確認や、他の動物の配慮等は当然あり得る。)

その費用、危険性を問題にする人も多い。
だが、それだけのリスクを負わねばならないような状況(ネズミ等の外来種の侵入)を作り出したのも、
人間である。

この点については、人によって見解は異なる。
「人間の活動も自然の一環」というものだ。

確かに、本書において示されているように、
例えば過去、ポリネシア人が進出する際、船旅や移住先での食料として
ナンヨウネズミを持込んでいたようだ。
ナンヨウネズミの骨は、ポリネシア人の進出の痕跡となっているほどという。

しかしその結果、近年の研究ではハワイの固有種を消滅させたらしいことが分かっている。

外来種の影響や、生態系の価値を知らなかった時代の所業と、
こうした負の歴史を知っている現在の人間を同列にするのは、やはり甘すぎるだろう。


最後に、本書で初めて知ったことは多いが、ぜひ紹介しておきたいエピソードがある。

スティーブンイワサザイという孤島の鳥が、1匹の猫によって絶滅されたという話は、
野鳥好きにはかなり有名だ。
ネコがいかに恐るべき外来種かという例として語られることが多い。

しかし実際は、1894年、灯台守の助手デヴィット・ライオールが、
ネコが取ってきた鳥を見て、ニュージーランドの鳥類学者のウォルター・ブラーに剥製を送付。
それが新種とわかり、ブラーがより多くの標本を要求。
動物商のヘンリー・トラヴァースが仲買となり、
ブラーや鳥類収集家のウォルター・ロスチャイルドに売りつけた。

これにより、ネコ(1匹ではなかった)とデヴィット・ライオールが捕獲し続けた。

そしてついに、ライオールは「もうすぐ絶滅するだろう」と報告したが、
その結果、剥製の売値があげられた。
そこで捕獲を続け、絶滅するに至った。

ネコが主犯ではなく、欲の皮が突っ張った人間が主犯だったのである。

だが、僕らはこのデヴィット・ライオールを笑えるだろうか。

剥製を「資源」と置き換えれば、
結局同じ過ちを続けているだけのような気がする。

外来種がいかに問題か、
それを駆逐するのがどれほど大変か、
それでもなお、それに取り組む人々が、特に海外でどれほどいるのか。

そうした実態を、ぜひ知っていただきたい。


【目次】
太平洋の墓場
無人島の番人
ベーリング海のキツネ
楽園の破局
地球でもっとも弱い動物
ネズミを出血させる薬
バハ・カリフォルニアのネコ
ネズミも痛みを感じている
集まったラット・バスターズ
シリウス岬の殺戮
イースター島はなぜ滅亡したのか
消えたネズミ


さらに最後にもう一つ。
別件だが、本書において、
1949年、ニュージーランド野生生物局は外来種のヘラジカ調査のためフィヨルドランドを探検し、
2羽のカカポに遭遇。
その後野生生物局は調査員を投入し続け、9年に及ぶ調査で1羽も発見できず。
そして1958年、探索隊が食痕や糞など痕跡を発見し、ついに生きたカカポを捕獲したというエピソードが述べられている。

ここで思ったのが、我が日本。
ニホンオオカミは、人里で殺された個体をもって、絶滅した最後の個体とされている。
政府によるきちんとした生息調査は、行われていない。

しかし、未だ目撃情報は続いている。地道に探し続けている方もいる。
ニホンオオカミを探す会の井戸端会議

これを幻と笑うことは簡単だが、
「幻」と断言する根拠となる調査が、実は存在しないことを、多くの人は知らない。

ニホンオオカミは、ツチノコや、ヒバゴンなどのUMAではない。
かつて確実に日本に生息していた動物なのだ。

なぜしっかりと探さずに、「いる筈がない」と言えるのか、不思議でならない。

それどころか、「生態系回復のために」大陸から別亜種を導入すべきだという論すらある。

上で述べた各地域の生態系の価値、様々な外来種問題、
そしてこのニホンオオカミの生存確認問題など、考慮すべき課題を全く無視して、
残念だが僕には、ニホンオオカミはいない、生態系は捕食者-日捕食者という関係性が大事で、地域固有の生物種は関係ない、という、あまりにも無邪気な論としか思えない。

ニホンオオカミは生きている」(レビューはこちら)は、現時点で、最も客観的かつフェアにニホンオオカミの生存可能性を整理している。

この本のニホンオオカミの特徴を頭に入れて、国立科学博物館の剥製を見ると、とても良く特徴が分かって面白い。
逆に、この特徴を知らない人は、山でニホンオオカミに出会っても「イヌ」と思うだろう。
ニホンオオカミに出会う可能性がある秩父山系、大分の祖母山系をフィールドにしている方には、ぜひ読んでおいていただきたい。


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