ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

そばかすの少年  

そばかすの少年
ジーン ストラトン・ポーター


 自分の本名も知らない、片手を失った孤児の少年「そばかす」。
働き口にを探しに辿り着いたグランドラピッズ木材会社で、彼は原生林の「リンバロストの森」の番人として雇われる。
 木材会社の支配人マクリーン氏、そばかすの下宿先のダンカンとサラたちは、
そばかすの誠実さに惹かれ、彼を優しく見守っていく。
 一方、木材泥棒のブラック・ジャックは、リンバロストの森の木を伐採し、密売しようとたくらんでいる。
 そばかすはリンバロストの森を守ることを使命として、忠実に職務をこなしていくが、
その中で様々な生き物の素晴らしさを知る。
 そして、野鳥写真家バードレディと、一緒についてきていた少女エンジェルとの出会い、
孤独な少年だったそばかすは、いつしか尊敬する人、愛する人のために生きるようになっていく。


本書はリンバロストの森を舞台とした、そばかすの冒険と成長、そしてひたむきな愛の物語だ。
僕はこの本を全く知らなかったが、妻は「あの有名な『そばかすの少年』?」と気が付いた。
ジュブナイルとしては、広く知られている名作とのこと。

読後、確かにその評価が正しいと感じた。

この本に描かれた話は、現代からすればおとぎ話のようだ。しかしそのおとぎ話は、
現代に生きる僕らが忘れつつある、しかし決して忘れてはいけない生き方を教えてくれる。

僕は一日2章ずつ読んだが、それくらいのペースがより楽しめるのではないだろうか。
リンバロストの森を想像しながら、じっくり読みたい一冊だ。
なお、この版の解説では結末が紹介されているので、最初から読むことをお勧めする。

ところで結末もさることながら、この本で特に僕が感動したシーンがある。

そばかすは、美しいオオミズアオという蛾(そばかすは名前を知らない)の羽化に出会った時、思わず嘆く。

「これが何なのか、僕は知らない! ああ、知りたいなあ! 知りたくてたまらないよ!
 何か素晴らしいものに違いない!」


またそばかすが別種だと思っていた青い鳥と茶色の鳥が、
じつは同種の雄雌であることに気づき、その名前などを詳しく知りたいと心から思う。

なるほど、これで決まりだ。青い鳥と茶色い鳥はつがいなのだ。
 またしてもそばかすは、「ああ、知りたいなあ」
とつぶやいていた。


そしてカエルの「ミツ・ケロ! ミツ・ケロ!」という鳴き声に促され、
そばかすは生まれて初めて自分のために本-図鑑を買い、自分で名前を調べることを決意する。

「僕はなんてばかだったんだろう! それだよ、僕がやるべきなのは! 教えてくれる人がいなくても、
自分でできるさ! なんのために人間に生まれてきたんだよ?」
「僕は、鳥と樹木と花と蝶のすべてがわかる本を買うぞ! それから…ああ、そうだ、カエルの本も一冊手に入れよう。それですっからかんになってもいいさ」


そしてそばかすは念願の図鑑を手に入れる。初めて図鑑をめくる時には、指が震えてしまうのだ。

この、世界に様々な「知らない」生き物がいるという驚き。
名前を知りたいという欲求。
そして「図鑑」は、それを教えてくれるんだという期待と喜びは、
多くのフィールドワーカー、ナチュラリストが、最初に抱いたことがあると思う。

僕は今野鳥がメインだが、家にはトンボ、クモ、蝶、コケ、貝、樹木と様々な図鑑がある。
どれもこれも、「ああ、知りたいなあ!」と思って、買い集めたものだ。
これらの図鑑が手に入った時のワクワク感は忘れられない。

そして、今でも初めて出会った生き物の名前が分かったときには、
「わかった!!」という感動が溢れてくる。

こうした感動を見事に描いているのは、やはり作者のポーターの実体験があるからだろう。
フィールド描写、生き物との出会いと感動。
本書は、類まれなナチュラリストの物語でもあるのだ。
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category: 冒険小説

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おいで、一緒に行こう―福島原発20キロ圏内のペットレスキュー  

おいで、一緒に行こう―福島原発20キロ圏内のペットレスキュー
森 絵都



もっと早く本書を読むべきだったが、なかなか手が出なかった。
それは、これを読むと、今里親になれない無力さに直面し、情けなくなると分かっていたからだ。

前回の阪神・淡路大震災では、
僕の家では、被災した犬(飼い主が見つからなかった犬)の里親となった。名前はダイとつけた。

里親になる時、散歩に行ってもすぐに疲れるから老犬と言われたが、
後に、フィラリアとわかった。
走ったり吠えると、すぐに倒れこむ。調子が悪い時に手を噛まれたこともある。
それでも、良い一生を過ごせるように飼ったつもりだ。

だがそれでも、心残りはある。

最後までに、元の飼い主に会わせてやりたかったし、元の名前で読んでやりたかった。
たぶんそれが、ダイにとって、一番嬉しいことだった思う。
DAI


東日本大震災においても、どうしようもなく、ペットと離れ離れとなった方は多いと思う。
だが阪神・淡路大震災と、決定的に違う事態もある。

福島原発の周囲20kmの立ち入り禁止区域だ。
その地域の人々は、慌ただしく避難させられたため、多くのペットや家畜が残され、
探しに行くことすらできない地域となった。

たかがペット、という意見もあるかもしれない。
しかし、飼い主にとっては家族の一員である。
少なくとも当事者にとって、その喪失感は偽物ではない。

その地域のペットを、助けるべく活動しているボランティアの方々がいる。
2014年現在も、様々な方・グループが活動しているが、
本書はその中の一人、中山ありこ氏の活動に同行取材した結果をまとめたものである。

当初は立ち入り許可すら出されなかったため、禁止されている地域にひっそり潜入している。
その活動方法には、賛否両論あるだろう。
ボランティアだから認めるべきだ、という人もいるだろうし、
犬猫を救出するためとはいえ、住民がいない家屋に、第三者が侵入することを警戒する人もいると思う。

だが、一方的にその行為を責めるのには、どこか違和感がある。

それはやはり、行政が「ペットを残してとにかく避難しろ」と指示したのであれば、
その後、速やかに、ペットを救出する策を明確にするべきなのに、そうしなかったことにある。

もし行政がボランティアと連携し、速やかにペット保護システムを構築すれば、
個人のボランティアが潜入するように事態にはならなかっただろう。

これは、自発的ボランティアに頼るようなレベルの話ではない。

今回の震災をふまえ、今後同様な事態が(決して起きてほしくはないが)発生したとき、
人間の次でもいいが、ペット・家畜も救うシステムも、行政が構築する必要がある。

震災がないときから、ペットロス、アニマルセラピーという言葉は存在している。
災害下における飼い主とペットの関係、その問題の重要さを認識するためにも、
本書はもっと読まれる必要がある。


最後に、関連するホームページを紹介したい。
多くの団体では、Amazonで支援物資の注文や、寄付(ギフト券)が可能である。

なお、ざっと検索しただけなので、その活動内容については、それぞれご判断いただきたい。


ねこさま王国
 本書の中心人物、中山ありこ氏のホームページ

にゃんこはうす
 中山ありこ氏が設立した猫のシェルター。

福島被災動物レスキュー RAI

東北地震犬猫レスキュー.com 


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category: 災害

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アルビノを生きる  

アルビノを生きる
川名 紀美


野鳥と一緒にするのは何だが、許してほしい。
色素欠乏症の個体は野鳥ではわりと出現しやすく、香川県でも白いカラス、スズメなんかは数年に1度見つかる。
その割合の感じからすれば、おそらく日本人にもアルビノの方はいるはずだ。
ところが僕は、アルビノ(白皮症)の方に出会ったことがない。
なぜだろう、と疑問に感じた時もあったが、
人間にはほとんど出現しないのか、または出現してもほとんど成長できないのかと漠然と考えていた。

しかしある時、
アフリカのタンザニアで、アルビノの人間の体が薬になるという風評がたち、
そのせいでアルビノの方が殺されたり、腕などを切断されている、という報道を見た。
アルビノという外見的特徴を持っているだけで、これほど恐ろしい状況におかれる人がいるとは、
想像もしていなかった。

アルビノの方は、いるのだ。
しかし今の日本で、どのような状況にあるのか、全く見えてこない。
アフリカほど恐ろしい話はさすがに無いだろうが、いったいどのような状況にあるのか。

そんな疑問が心の中に溜まったとき、本書を見つけた。
Amazonで検索しても本書のみがヒットする。
おそらく日本で唯一、アルビノの方の生き方を真正面から紹介した本である。

本書では、男女問わず、様々な世代のアルビノの方の人生が語られる。
アルビノという外見的特徴によって、小学校、結婚、就職など、様々なステージで、
理不尽な苦労を強いられる。

僕が出会わなかったのは、たまたま周囲にいなかっただけかもしれない。
しかし、社会に出て来れず、出会う機会さえなかった、という可能性もあるのだ。

アルビノの方に対する差別的な対応は、アルビノでない人間の無知に起因するものである。
・色素欠乏のために弱視になること。
・紫外線に弱いこと。
・アルビノは遺伝によるものだが、その遺伝子を持つ保因率は50~70人に一人とかなりありあれたものであり、父母ともに保因者でアルビノとして誕生する確率は1~2万人に一人程度と、誰にでもありうること。

僕は正直、まったく知らなかった。
特に、これほど「誰にでもありうる」こととは。しかし一方で、野鳥の状況をふまえる、なるほどそんな感じだな、とも思う。
やはり、具体的に、現実を知らなければいけない。

本書を読むと、アルビノの方にはやはり苦労が多いが、
インターネットによってかなり相互の連絡・情報共有がしやすくなっていると感じる。それが、救いでもある。

しかし一方で、インターネットで調べるということを思いつかず、
いまだにアルビノに悩み、苦しんでいる方も多いと思う。
逆に、アルビノに対する無知から、偏見と差別を行っているケースもあるだろう。

また、「誰にでもある」ことだから、
誰でもある日、アルビノの父母や祖父母、親戚になる可能性もある。

アルビノの方に対して、理不尽な対応をしないために、
より多くの人が、アルビノの現実を知っておく必要がある。

本書では、様々なケースを紹介するとともに、
アメリカなどに比べて、いかに日本において、アルビノの社会への受容が遅れているかを
明確に示す。
これを見ると、自分を含めて、いかにアルビノに対して無関心さであるか、痛いほど思い知らされる。

アルビノの方々は、インターネット等を活用して、新たなステージに入っている。
アルビノでない人々も、僕らの世代において、やはり新しいステージ進むべく努力しなければならない。
その一歩として、本書はより多くの方に読まれるべき一冊である。

また、参考までに、関連ホームページを紹介したい。
興味本位ではいけないが、無関心はもっといけない。

白い旅人
 本書でも中心的役割を果たしている、アルビノ石井更幸さんのホームページ。

アルビノのページ
 アルビノの方が、ネットで情報を知る第一歩となったホームページ。

アルビノ ドーナツの会
 アルビノの方の交流、情報交換。主に関西。

日本アルビニズムネットワーク《JAN》
 アルビノの方や家族の支援。主に関東。

「見た目問題」解決NPO法人マイフェイス・マイスタイル
 アルビノだけでなく、「見た目」による差別、偏見に対するアクション。
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category: 医学

thread: 読んだ本の紹介 - janre: 本・雑誌

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御茶請け フランス菓子工房 ラ・ファミーユの「いちごチョココーティングバウムクーヘン」  

「100種類のバウムクーヘンを食べる」計画進行中。9種類目です。

今回は、 フランス菓子工房 ラ・ファミーユの「いちごチョココーティングバウムクーヘン」。
季節限定の、フリーズドライのイチゴ、イチゴチョコ、シュガーコーティングと甘さ溢れるバウムクーヘンです。
よろしければ、ご覧下さい。

「100種類のバウムクーヘンを食べよう!」
#009 2014年3月31日 フランス菓子工房 ラ・ファミーユの「いちごチョココーティングバウムクーヘン」
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category: 雑記:日々のこと

thread: スイーツ - janre: グルメ

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2014年4月 県立満濃池森林公園 野鳥観察会  

香川の野鳥は、繁殖シーズンです。

本日は、県立満濃池森林公園で野鳥観察会を開催。
曇天で時折小粒の雨が落ちましたが、何とか時間内は持ちました。

メジロ、スズメなどの留鳥は、餌集めをしているものも多く、もう育雛中のようです。
ヤマガラも、イモムシを集めていました。
201404ヤマガラ

園内で多かったのがヒヨドリ。
いつもなら声はすれども姿は見えずですが、本日は時々見やすい場所にでてくれました。
2014ヒヨドリ
個体数が多かったので、もしかしたら渡り途中の群だったかもしれません。

ここの入口の看板には、いくつか穴が開いています。
満濃池看板
これは、アオゲラというキツツキの仲間があけたもの。
中は中空ですので、巣穴ではなく、ねぐら用のようです。今利用しているかどうかは不明です。

ツグミ、シロハラ、ビンズイ、アオジといった冬鳥にも出会いましたが、
もうすぐ彼らとはお別れです。
無事に繁殖地につくことを祈ります。

一方、キビタキ、クロツグミといった夏鳥も、もう渡来していました。
夏鳥と冬鳥が交替する渡りの時期ならではの観察会でした。
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category: 雑記:日々のこと

thread: 趣味と日記 - janre: 趣味・実用

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「衝動買い」が止まらない!  

「衝動買い」が止まらない!
金子 哲雄,「商業界」編集部



僕は甘いモノが好きだ。疲れを感じた時は、ついチョコ菓子を買ってしまう。
また、DVDとかを観る時には、炭酸系飲料(ノンカフェイン)とポテトチップスは欠かせない。
これらを買いに近くのイオンへ行くが、つい余計なモノまで欲しくなる。

また、嫁さんと買い物に行くと、「あれ無かった?」「これ良さそうだね」と、
予定外のモノを買ってしまう。

自分では以前ほど散在していないつもりだし、
衝動買いなんてしないと思っているが、現実はそうではない。

いったい、どうして「衝動買いがとまらないんだろう?」と、
まさにタイトルそのものの疑問を抱き、本書を手にした。

本書は、風のように現れ、風のように去ったような印象がある、
流通ジャーナリスト・故金子哲雄氏の原稿を、雑誌「商業界」編集部がまとめたもの。

媒体がビジネス系なので、本書は、

いかなる「衝動買い」があり、
それを引き起こすにはどのような工夫が必要か

という、衝動買いを起こさせる立場から書かれている。

だがそれだけに、僕ら購買者からすれば、
手品のタネを見るようなもの。
店舗のどのような工夫で僕らが衝動買いしているか、くっきりと分かってくる。

また、例えば小売店のセール時に見かける
邪魔陳列やジャンブル陳列、段ボール陳列。
これが、その陳列そのものが「安さ感」を煽っていると意識するかどうかで、
衝動買いのリスクは変わってくると思う。

4月から消費税も増税となるし、
いれまで以上に、衝動買いに気をつけなければならない。

また、自分の子供たちにも、衝動買いを避けるよう教えなければならない。
そのテクニックとして、本書は極めて有用だろう。

なお、残念ながらネットショッピングにおける衝動買いについては書かれていない。
2012年に死去してしまった金子氏が、現在やこれからのショッピングをどう分析するか、
見てみたかったと思う。

なお、金子氏の自身の死に対する誠実な向き合い方は、とても貴重なもの。
先入観を排除して、ぜひ読んでみていただきたい。
(レビューはこちら)

【目次】
はじめに―「需要創造」こそが不況脱出の鍵となる
序章 現代の買物は7割が衝動買い
・需要創造のキーワード
・現代は衝動買いの時代
・必要に迫られた商品購入などほとんどない
第1章 衝動買いする顧客を科学する
・ライフスタイル連想要因の衝動買い
・利便要因の衝動買い
・価格要因の衝動買い
・機会損失回避要因の衝動買い
・生理的要因の衝動買い
・トライアル要因の衝動買い
・リラックス要因の衝動買い
・顔見要因の衝動買い
・デザイン要因の衝動買い
第2章 需要を創造する売場をつくる
・需要を創造する仕組みは構築できる?
・「インストアプロモーション」のマジック
・衝動買いを誘発するフロアレイアウトの秘密
・需要を創造する陳列のマジック
・需要を創造するPOPのマジック
・需要を創造するデジタルサイネージ、店内放送のマジック
・衝動買いを誘発するディスプレーのマジック
・情報化社会における「口コミ」の在り方
・情報化社会における顧客の囲い込み
・広く浅い特典→深く狭い特典
・広く浅い特典→より広く、浅い特典へ
・囲い込まないことが「囲い込み」につながる
第3章 衝動買いマネジメントの上級店に学ぶ
・「ドン・キホーテ」から学ぶ衝動買いのマジック
・ドン・キホーテ、その急成長の歴史
・衝動買いを引き起こす2大鉄則
・「激安超特価商店街」に学ぶ衝動買いのマジック
・圧倒的な「価格優位型」衝動買い喚起
・不定期なリアルタイム更新で集客
・“お得度"が分かる消費者目線のレイアウト・記事
・衝動買いを引き起こす街
・東京が世界に向けて発信する5つの商店街
・単品強化型商店街ブランドイメージをつくる
・好きな者同士が集まる“趣味嗜好型商店街"が生き残る
・街全体でジャングル陳列、量感陳列しているようなもの
・世界に向けて発信する商店街になれ
第4章 需要創造マネジメントCASE STUDY
・「需要創造型ビジネス」の実例
・「婚活福袋」
・自動車会社視点に学ぶ
・共働き家庭が家事代行サービスを頼まない理由
・「ufufu girls」など「世代別の集客」
・埋もれている需要を発掘する
編集部あとがき―金子哲雄氏からのメッセージ―

【メモ】
p30
関連陳列…ビールの隣にポテトチップスのように、顧客利便性と衝動買いを狙った陳列

p36
潜在的に欲しかったものが、自分の考える相場より安いときに購入してしまう
→価格要因による衝動買い

p42
このチャンスを逃すといつ買えるかわからない
→機会損失回避要因による衝動買い

p47
五感が刺激される(匂いなど)
→生理的要因による衝動買い

p80
「衝動買いを計画的に引き起こす」
→買い物における衝動買い比率が大きいことに30年ほど前に気づき、
 15年ほど前から店頭マーケティングとして体系づけられだした

p95
邪魔陳列・突き出し陳列
→顧客と商品のコンタクトポイントを増やす。
ジャンブル陳列・段ボール陳列
→陳列に余計なコストをかけず、また安さをイメージさせる

量感陳列
→大量に並べ、安さ、売れ筋をアピール

エンド陳列/裏エンド陳列
→スーパーなどの商品ゴンドラの端。壁に面した側がエンド、
内側の向かい合うゴンドラの端が裏エンド。

p103
「ザイオンス効果」
→「人は、接触した回数が多いほど、仲良くなれる」
商品でも何回も接触することで、購買意欲が増す

p156
「何かお探しですか」と百貨店的に接触するよりも、
野放し接客の方が衝動買いしやすいことは、アメリカでの実験で明確になっている。
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category: 技術

thread: 読んだ本の紹介 - janre: 本・雑誌

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江戸の天文学 渋川春海と江戸時代の科学者たち  

江戸の天文学 渋川春海と江戸時代の科学者たち
中村 士



中学の頃は、星とギリシャ神話が好きだった。
読んでいたのは野尻抱影氏と藤井旭氏の本、それと小山田いくの漫画。
野尻抱影氏のはこの本だったと思う。浪漫溢れる文体に浸った記憶がある。


さて、天文学というと星と思ってしまうが、現在のような天文学に至る前、
星の運行、そして太陽・月の運行を調べることは、暦の作成と密接な関係にあった。
むしろ、太陽暦を用いるまでは、暦を作成するためにこそ、天文学があったといえる。

本書は、映画「天地明察」で有名となった渋川春海を皮切りに、
江戸期における天文学、数学、また天体観測技術・機器などについて、詳しく紹介する。

例えば、徳川吉宗が天文学に造詣が深く、改暦に強い関心があったとか、
一般的な歴史書では語られない、地方の天文学者も紹介されており、興味深い。

僕としては、出身地である坂出市の学者・久米通賢が紹介されており、
やはり誇らしい気分になった。ありがたい。

また天文学は、地上の位置を明らかにするという面もあることから、
地図作りにも関係する。
この点、地図をつくった男たち: 明治の地図の物語(レビューはこちら)の前史ともいえ、併せて読むのも良いと思う。

暦の作成がどのように難しく、
それに挑んだ江戸期の学者が、どれほど高レベルであったかを実感できる、良書である。

【目次】
第1章 江戸天文ブームの先駆け、渋川春海
第2章 江戸天文学のパトロン、天文将軍・徳川吉宗
第3章 なにわの天文学者、麻田剛立とその弟子たち
第4章 地方で活躍した技術者・研究者
第5章 幕末に活躍した天文学者たち

【メモ】
p17
古代中国「観象授時(かんしょうじゅじ)」
=「天の意思は天文現象に現れる」という考え
→天の意思の表れである暦の作成は、為政者の権力の証でもあった。

p25
日食は不吉なものとされ、明治までは日食時は御殿のまわりに簾をおろして日光を避け、
中では読経をし、朝廷の業務は全て休みとした。
そのため、予報された日食が起こらなければめでたいことだったが、
暦に記されていない日食が起こることは一大事だった。

p80
徳川吉宗は、当時の貞享暦の誤りを調べるため、
1732-1738までの6年間、自ら太陽の観測を行ったり、
自ら観測機器の改良をしていた。
天体望遠鏡のファインダーの中の十字線を考案したのは吉宗。





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category: 地学

thread: 読んだ本の紹介 - janre: 本・雑誌

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右?左?のふしぎ  

右?左?のふしぎ
Henri Brunner



自然界における対称性・非対称性というのは、以前から気になっていたテーマ。
一見、動植物は全て対称な雰囲気があるが、実はそうではない。

それを紐解くためには、まず「対称性」とは何か、という点から考える必要があるが、
これが僕には、なかなか難しい。
長らく「生命世界の非対称性―自然はなぜアンバランスが好きか (中公新書)」を読み返しているが、今のところ、正直まだぴったりと理解できていない。

本書も非対称性の本かなと思いながら手にしたが、
自然界に限定せず、文化的な右・左にも着目したものであり、通読する分には楽しい。
カラー写真・図版も多く、
一度読んでおいて損はない、興味深い一冊である。

特に、右巻き・左巻きという問題には多くの事例が割かれており、
自然界の事例はもとより、
古代建築における円柱、神社の注連縄などなど、
話題としても興味深いテーマが取り上げられている。

ただ、「なぜそうなのか」という点には深く立ち入っていないので、
本書を手掛かりに、より様々な分野に進むことになるだろう。
(ただあまり類書はないようだが。)

それにしても、例えば薬ひとつにしても、
その分子レベルでの非対称性によってサリドマイドのような事件が発生したことを考えると、
自然界には恐ろしく複雑な仕組みが存在しているのだと驚かされる。

文化にしても、生物にしても、
ついついその左右の違いや対称性・非対称性の問題は、軽く見過ごしがちだ。
しかし、やはり全ての在り方には理由があるという観点でいなければ、
おそらく正しく理解することはできないだろう。



【目次】
I.手のひら対称性(掌性)とは
01 手足に見る原像と鏡像
02 アルファベットにみる原像と鏡像
03 手のひら対称性(掌性)をもつモノの世界ともたないモノの世界
04 鏡文字
05 原像と鏡像の現象の意味
06 原像と鏡像――右と左
07 燃える家
08 日常生活,政治および言語における右と左
09 右と左は対等なものか否か?
10 螺旋の右巻き・左巻きはどうのように定義されるか?
11 捻れた円柱――鏡像対称性が保持されている場合
12 捻れた円柱――鏡像対称性が欠けている場合
13 円柱――コンピュータで処理すると
14 上に向かって開いた祭壇
15 カタツムリの殻はどれも右巻き?
16 エスカルゴ――右巻きと左巻きの比は20,000:1
17 カタツムリの殻は――たいがいは右巻きで,まれに左巻き
18 ヒンズー教のヴィシュヌ神
19 工業技術における手のひら対称性(掌性)
20 つる植物
21 原像と鏡像は対等なものか否か?
22 眠っている犬,象のキッス,豚の尻尾
23 サボテンと樹木にみる手のひら対称性(掌性)
24 花々に見る対称性と手のひら対称性(掌性)
25 ドゥーダーシュタットからモニュメント・ヴァレーへ
26 ほとんどすべてが反時計回り
27 階段の間と螺旋階段
28 高気圧と低気圧,浴槽の渦
29 イッカクと一角獣
30 タコノキ属の木――パンダヌス・スピラリス
II.手のひら対称性(掌性)が現れるのはなぜか?
31 自然界に見る手のひら対称性(掌性)の起源
32 ゲーテと螺旋化傾向
33 原子・分子レベルにおける右と左
34 四つの相異なる頂点要素をもつ正四面体構造
35 アミノ酸――生命の文字
36 アミノ酸の手のひら対称性(掌性)
37 右でも左でもない――画一性こそ重要
38 砂糖は右旋性
39 左旋性ステーキと右旋性ステーキ
40 物質代謝――右旋性・左旋性の原因
41 遺伝によってきまる右巻き・左巻き
42 右巻き・左巻きは遺伝によるとも限らない
43 葉序
44 カロフィシーン――4億年前から今日まで
45 歴史的ハイライト
46 右旋性/左旋性現象に関する自然科学的進展
47 パスツールの発見のビオによる審査
48 ファント・ホフとル・ベル
49 左手に左の手袋,右の手袋
50 コンテルガンの悲劇
51 サリドマイドの復帰
52 制御されていない化学合成――1:1の混合物
53 制御下での化学合成――右旋性か左旋性かどちらかその一方
54 酵素と化学触媒
55 回復期の患者のためのアミノ酸カクテル
56 医薬品における右旋性と左旋性
57 “ラセミ移行"――右旋性・左旋性混合物からの移行
58 殺虫剤,殺真菌剤,化学除草剤
59 添加物による飼料の改良
60 食品添加物
61 芳香剤
62 生命の起源と右旋性・左旋性問題
III.手のひら対称性(掌性)の例をさらに探せば
63 手のひら対称性(掌性)の例をさらに探す
64 蛇状書法と左右交互書法
65 鏡の国のアリス
66 対をなす原像と鏡像
67 綱とヘソの緒――手のひら対称性(掌性)の中の手のひら対称性(掌性)
68 螺旋と二重螺旋
69 右向きの水晶と左向きの水晶
70 バネ,冷却管,弦
71 チョコレートのカタツムリやナッツ入りカタツムリ
72 手のひら対称性(掌性)のさまざま
73 工業技術におけるプロペラ
74 音楽における転回
75 古い文化や秘儀にみる渦巻き
76 お釈迦様の巻き毛は左巻き
77 甲殻類と鰈類
78 昆虫と繊毛虫
79 カタツムリをさらに詳しく見れば
80 右利きと左利き
81 利き目の右・左
82 右側と左側
83 逆位
84 “ボディーランゲージ"にみる掌性
85 縞模様のネクタイ
86 書物の背表紙
87 手のひら対称性(掌性)という視点
IV.付録――対称性と手のひら対称性(掌性)
88 対称要素
89 非対称
90 クラスaの手のひら対称性(掌性)とクラスbの手のひら対称性(掌性)


【メモ】
p31
エスカルゴ 右巻き:左巻き=20,000:1

シャンク貝:
自然界では大多数が右巻き、
左巻きは世界中の博物館で20~30個程度。
しかしヒンズー教のヴィシュヌ神が持っているシャンク貝は左巻き。

p98
1956年、サリドマイドを含む医薬品コンテルガン、グリューネンヴァルト社
サリドマイド分子のうち、右旋性と左旋性が1:1で混在(コンテルガン)。

人間のタンパク質は、左旋性のアミノ酸のみで選択的に構成されている。
このため、左旋性のサリドマイドは分子レベルで不適合を起こし、奇形を発症した。

p110-111
近年では、目的通りに作用する分子ユートマーとその鏡像体ディストマーの概念が確定し、
正しい分子のみを作成している。
そのため、過去に原像と鏡像が1:1で認可された薬品については、
FDAでは、原像のみに成分を変更する「ラセミ移行」という認可の短縮手続きが設けられている。

p130
出雲系神社の注連縄は右旋性、伊勢系のは左旋性。

p153
仏像の巻き毛(螺髪)は左巻き

p168
ネクタイをしている人から見て左から右に下がる→ヨーロッパ式
右から左に下がる→ヨーロッパ式



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category: 動物

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ホモ・フロレシエンシス―1万2000年前に消えた人類  

ホモ・フロレシエンシス―1万2000年前に消えた人類
マイク モーウッド,ペニー・ヴァン オオステルチィ



2012年に国立科学博物館へ行った時、ある人類の模型が目についた。
ホモ・フロレシエンシス
小さい。
「こんな人類がいたっけ」と解説を読むと、何か最近発見されたらしかった。
知らなかった。
何だか横のゾウも小さい(正確にはゾウではなく、ゾウの仲間ステゴドン)。
しかも後ろの巨鳥がいかつくて、この小さな人類、大変そうだなあと感じた記憶がある。

あの人類が何か気になっていたのだが、先日、本書を発見して氷解した。

この人類(原人)は、「ホモ・フロレシエンシス」。
2003年にインドネシアのフローレス島のリアン・ブア洞窟で発見され、2004年に新種として発表された。

異論もあるが、この原人が興味深いのは、大きく四つ。

・ものすごく小さい。身長1m程度。
・「原人」というだけあって、ネアンデルタールよりも古い。北京原人やジャワ原人と同じ。
・しかし、火を使う。石器も作る。たぶん狩りをしていた。
・堆積物の滋養教から、約10万年前から存在し、1万年前まで生きていた。
 1万年前というと、縄文時代。
 すなわち、現生人類と同時代まで生きていた。

これはすごい。
小さいだけでもすごいのに、比例して脳が小さいのに火も石器も使う。
しかも、地質年代的に言えば、「つい最近まで」生きていた。
この小さな人類が消えるのは、どうやらフローレス島に現生人類が到着した頃らしい。

人類の進化を考えるうえで、また脳の能力を考えるうえでも、驚くべき発見である。

しかし、なぜネアンデルタール人とかのように、まだメジャーになっていないのか?
教科書が書き換えられるには時間が必要だけども、
以前と違ってマスメディアもネットも発達した現在、
新しい発見が、一般の人に浸透するのも早いはずだ。

その理由は、その「驚くべき発見であること」にある。
「これは新種の人類ではない。単なる遺伝子疾患の現生人類グループだ」という反論も多く、
まだ結論が定まっていないことにある、ようだ。

本書は、この「ホモ・フロレシエンシス」を発見した人物が、発掘に至るまでの経緯をはじめ、
発掘方法、発見状況、資料の取り扱い、そして様々な事例比較により、
「ホモ・フロレシエンシス」が新種の原人であることを解説したものだ。
非常に細かく、丁寧に記載されているが、それはこの書が「ホモ・フロレシエンシス」を「単なる遺伝子疾患の現生人類」とみなす人々への反論の書でもあるためだろう。

僕には学術的な知識は全くないが、少なくともフェアな研究姿勢は、著者らにある。
そこから導かれた結論(新種の原人)というのには、かなりの説得力がある。

一方で、「単なる遺伝子疾患の現生人類」とみなす人々は、その論理もさておき、
研究上のフェアさが感じられない。否定のための否定のように感じられる。
特に、そうした見方から、貴重な頭骨を軽率に扱い破損した人物に至っては、呆れてしまう。

新種の原人か、遺伝子疾患の現生人類か。

それを明らかにすることは、人類にとって極めて重要な研究テーマだ。

それがつまらない意地や見栄によって、研究とは違う次元で損なわれていくのは、
納得できない。

アジアにおける中立的な立場を意識して、国立科学博物館の馬場氏も研究に参加し、
氏らは「新種の原人」と判断しているという。
(だから、国立科学博物館に復元模型が展示されている。)

この研究が、純粋に学問上の問題として、今後も研究されることを望む。
これほどインパクトのある発見は、そうあるものではない。
今後も追いかけていきたいテーマである。



ところで、、フローレス島の伝説では、19世紀まで「小さい人」がいたらしい。
雪男とかビッグフットとかのUMAの話になってしまいそうだが、
こうした観点も調査してほしいものだ。

何しろ、1万年前まで、こんな小さな人類(しかも原人)が生き残っていたなんて、
誰も想像していなかった。

とすれば、さすがに19世紀は無理としても、
数百年前まで生き残っていた可能性に夢を持っても良さそうだ。




【目次】
〈上〉
プロローグ
第1章 フローレス島―足跡をたどって
第2章 聖なる洞窟の発掘物語
第3章 人類、アジアへ
第4章 姿をあらわした謎の骨
第5章 ホモ・フロレシエンシスの正体に迫る
解説 人類の進化と拡散
〈下〉
第6章 よみがえる初期人類たちの姿
第7章 「島の法則」という進化の不思議
第8章 世界はホビットに息をのむ
第9章 奪われた人骨と論争の行方
エピローグ
解説 ホモ・フロレシエンシス調査研究のドラマ

【メモ】
〈上〉
p172
少なくとも12個体に属する骨を発見。
これらは9万5千年~1万2千年の間の堆積物から発見された。

〈下〉
p60
地元では「エブ・ゴゴ」という小さい人に関する伝説がある。
「エブ・ゴゴ」は背が1m、髪は長く太鼓腹、耳は少し突き出し、ぎこちない足取り、長めの腕と指。
何でも食べる(時に人間の赤ん坊も襲う)。
畑を荒らすのは大目に見られるが、人間の赤ん坊を襲ったときはその地域からエブ・ゴゴを一掃する計画が立てられ、洞窟に追い込み、焼き殺す。
その時に一部のエブ・ゴゴが逃げ出すことがある。最後に見たのは19世紀にオランダ人がフローレスに移住してくる少し前という。

p62
島での矮小化は早く進むことがある。
フランス沿岸から25kmのジャージー島のアカシカは、およそ12万年前の最期の間氷期の頃、6000年もしないうちに体重が1/6に減少。

大きな哺乳類の捕食者がいないと、資源の不足と小型個体の繁殖速度の速さにより、小型化が進む。
その際、エネルギーを消費する脳が縮小することはしばしば起こり、骨の融合と四肢の短縮化から、太い骨をもつどっしりとした足ができる。
また硬い植物を噛んだり消化する方法が進化する。

p78
東南アジアの大洋島を通じて動物は拡散するが、南に行くほど移住に成功する動物の種類は減少。
スラウェシからフローレス、チモールへの移住は困難。(海流も障害)

p87
コモドドラゴンが大型の理由
もともと大型の個体が移住してきたらしい(島で大型化したのではない)。
同じ大きさの哺乳類のカロリーの1%しか消費しない。

p128
ホモ・フロレシエンシスが小頭症の現生人類の集団だったという反論
→現生人類が9万5千年前までにフローレス島に到着し、かつその集団が異常個体の集団だったことになる。さらに、それらの遺伝子疾患が9万5千年前から1万2千年前の間持続することになる。その方が現実的ではない。
※また形質学的にも現生人類とは異なる(単なる現生人類の縮小版ではない)。


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category: 哺乳類

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「考古学」最新講義シリーズ 装飾古墳の世界をさぐる  

「考古学」最新講義シリーズ 装飾古墳の世界をさぐる
大塚 初重



「装飾古墳」と言えば、本書カバーにもあるが高松塚古墳を思い出す。
そして高松塚古墳と言えば、カビによる汚染と古墳解体が思い出されるが、
あの報道が続いていた頃、二つの疑問を抱いていた。

①なぜこれほど「価値がある」とされるのか。
②なぜ保存できなかったのか。

もちろんあの極彩色の絵は素晴らしい。
しかし、それが日本古代史でどのような意味があり、価値があるのかとなると、
正直、僕は何も知らなかった。
例えば、ああいう人物画のある古墳が他にあるのか、
また、どんな装飾古墳が日本で代表的なのか。そういう基礎知識が、全くない。

それを補って余りあるのが、本書。
「装飾古墳」について、実際に16回実施された講義をまとめたもののため、
そのため、やや専門的用語が説明なく出たり(後で詳しく話されたりする)、
同じ話題・感想が反復されたりする。
しかしそれをふまえても、かなり珍しい分野に関する入門書であり、貴重である。

本書によって、まず①について、
日本における装飾古墳の分布、地域的な特性、また発見・研究経緯を知ることが可能となる。

彩色古墳は九州となぜか東日本太平洋沿岸であること、
その彩色古墳も抽象的図像が多いこと、
近畿・瀬戸内などでは線刻画が多いことなどを知ると、
高松塚古墳の採色壁画(むしろ絵画だ)のずば抜けた完成度が、
時代的に後期であることをふまえても、極めて突出していることがわかる。

そして②について。
本書によって研究史を知れば、装飾古墳はほぼ全て偶然の発見であること、
それも過去に発見されたものが多いことなどがわかる。

すなわち、高松塚古墳発見当時、世界的にも未盗掘古墳の壁画を保存するノウハウ-経験知は存在しなかった。
だから、最初から適切に保存するということは不可能だったのだ。
(ただし問題発生後の対処が後手後手になったのは、別問題である。)

だからこそ、高松塚の反省を生かし、筆者が出会った未盗掘の装飾古墳・「虎塚古墳(茨城)」では、
内部の空気分析をはじめ、壁画を劣化させないための研究・対策を行った。
これが高松塚の経験知を、正しく活かした結果なのである。

ところが気になるのは、こうした装飾古墳の発掘・保存ノウハウが、
以降蓄積されているようには感じられないことである。

例えば現在の考古学界には、高松塚古墳のトラウマもあり、
「未盗掘古墳は発掘しない」というコンセンサスがあるという。

その点について、詳しく問題提起したのが「未盗掘古墳と天皇陵古墳」(レビューはこちらhttp://birdbookreading.blog.fc2.com/blog-entry-223.html)。
こちらの本でも、天皇陵や未発掘古墳など、学術的に高度な知識・経験が必要される発掘はなされておらず、その結果、こうした古墳に対応するノウハウは蓄積されなくなっている状況を問題視している。

今後、もし偶発的に装飾古墳を発掘せざるをえなくなったとき、
それを適切に保存できるのか否か。
正直なところ、不安を感じざるをえない。


【目次】
はじめに
序―「装飾古墳」を学ぶ前に
第一講 線刻壁画を考える
第二講 古墳壁画の王者「王塚古墳(福岡)」の歴史的意義
第三講 古墳集中地域にある「珍敷塚古墳(福岡)」の壁画世界
第四講 「チブサン古墳(熊本)」石室内壁画に見る世界観
第五講 「竹原古墳(福岡)」ストーリーのある傑作壁画の解釈
第六講 「日ノ岡・重定古墳(福岡)」の壁画世界
第七講 「高松塚古墳(奈良)」の壁画と被葬者を考える
第八講 「虎塚古墳(茨城)」の壁画発見と保存


p10
考古学で、江戸から現在までの学史、研究史を知ることで、何が課題か、何が問題かが見えてくる。

p70
日本の装飾古墳の中で、壁画に色を付けている彩色古墳壁画は九州が中心で、九州以外には鳥取県の鮭を描いた絵しかない。近畿、瀬戸内、四国・関東・東海は線刻壁画。
しかし茨城・福島・宮城という東日本の太平洋沿岸地域に、また彩色壁画が存在する。

p94
「須恵器」
日本書記:「陶器」と書いてスエノウツワモノ、「土師器」と書いてハジノウツワモノ。
帝室博物館の高橋健自と後藤守一が、「陶器」は既に使用例があるので、
「須恵器」という呼び方を提唱した。
(他にも京大系の「祝部土器」いわいべどき・はふりべどき、「陶質土器」などもあった。)

p194
三角文:
装飾古墳にも弥生時代の銅鐸にもある。
古代の日本社会で、忌み嫌う、除魔、辟邪、鎮魂などの意味があったと思われる。
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category: 歴史

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お線香の考現学―暮らしに根付くお線香の香り (香り選書)  

お線香の考現学―暮らしに根付くお線香の香り (香り選書)
鳥毛 逸平



我が家には今のところ、仏壇がない。
だからお線香には馴染みが浅く、
正直、うっすらとした「敬して遠ざける」といったところである。
たぶんその使われるシーンから、何とはなしにケガレを感じているのだと思うが、
もちろん「お線香」という品に、ケガレも何もない。

むしろ、自分がお線香について何も知らないから、そうした感覚を招くのだと思う。
無知こそ危険である。

本書は、そのお線香について、その種類、成り立ち、工法、製造法、使用方法など、
様々な観点から紐解くもの。

日常的に使うものではないにせよ、
日本の生活では必ずどこかで遭遇する身近なモノなのに、
これまで、自分が全く何も知らなかったことに驚いた。

特に、世界では竹を軸とした竹線香が一般的であるという。
(確かに香港などを舞台にした映画だと、そういうモノがよく映っていた。)
僕らが日常的に使っているお線香は、世界ではマイナーな部類。
そのお線香は、製造にかなりの熟練的技術を要し、
完全な工業生産はできないらしい。

それなのに、現在の効率化中心の日本において、
天然素材を吟味し、技術を伝承しつつ、
なお新しい工夫を凝らし、多種多様に発達させている職人、製造者の方々に、
感謝したい。
この方々があってこそ、様々な折々に、
僕らはお線香を変わらず使い続けられるのだ。

さて、最近はお線香だけでなく、お香(インセンス)も流行っている。
我が家も以前購入していたが、長らく放置していた。
だが、本書で紹介されていたある言葉に出会い、
もっと積極的にお香(お線香)に向き合おうと思った。

「お線香に火を着けようと思った時点で、
 その人の気持ちは鎮静の方向に向かっている。」


慌ただしい毎日だが、これからはこの言葉を思い出しながら、
お香(お線香)を日常に取り入れたいと思う。

【目次】
1 香について
2 お線香について
3 お線香の種類
4 お線香の原料
5 お線香の製造
6 お線香の特徴
7 お線香の雑知識

【メモ】
p55
竹芯を使用した竹線香は、日本では長崎以外では殆ど使われないが、世界ではむしろ一般的。
お線香は中国の北部と南部の一部、チベット、韓国、インドの一部、パキスタンくらい。
その他の中国、東南アジア、インド、中東、南アジアでは竹線香。
英語では日本の線香は「ジャパニーズ・インセンス」または「ジョス・スティックス」

p59
原料の種類、硬軟、粉砕方法、粒径、粒度分布などで線香は変わる。
表面が滑らかなものは燃えづらくなったり香りが出にくいため、技術を要する。
ザラザラしているのも折れやすくなる可能性がある。

p72-73
お線香の基材=椨(タブ)の木の樹皮から作った糊。
本来は樹皮が多く混ぜられるので色は茶色。現在の鮮やかな緑色は、高級感を出すための付加価値。

p76
お線香の熱カロリーは低く、よほどの可燃性素材でないと燃え広がらない。
畳を焦がして消える程度。
ただし助燃材を入れたものは危険性が増す。
2005年に大阪消防局では助燃材を使用禁止。

p94
沈香(フトモモ目ジンチョウゲ科アクイラリア属・ゴニュステュルス属・ギリノプス属の基原植物)
蟻や風などで樹皮が傷つくと樹脂化し、そこが香る。
稀にその樹脂化が進むものがあり、それは比重が重く水に沈むため、
「沈香」「沈水香木」「沈水香」「沈」などと呼ばれる。
樹脂化の進行は樹によって異なり、水に沈むほど良質なものは殆どない。

p96
伽羅 =沈香の最高級品(ただし違うものという説もある)。
沈香は常温では香りが薄いが、伽羅は常温でも香る。
伽羅の産地や最終方法は古来から隠されて不明。また最近は唯一採集できた場所から取れなくなり、
品質が変わったと言われる。

p98
白檀
ビャクダン科の常緑樹の幹・根の心材。ある程度香りがするようになるには30年以上、
よい香りになるのは60年以上の心材。

p106
お線香は不安定な天然材料を多く使用し、製造中も曲がったり、くっついたり、反ったり、折れやすいもの。
そのため完全な機械化は困難。

p114
糊分を多く入れれば折れにくいが、香りにくくなる。
高級品ほど香りを優先するため糊剤を減らすので、製造過程で折れやすい。職人の技術を要す。

p126
「上匂い」火をつける前に、お線香から発する香り
「焚き匂い」火をつけた時に発する香り
常温で発する香りと、燃焼時に発する香りを同じにするのは難しい。

p127
天然の香りはまだ成分が明確にされていないものも多い。
また成分ごとに、香りが気化する独自の沸点(発香温度)がある。
様々な発香温度の成分を組み合わせてお線香の香りを作っている。

p135
香十徳(黄庭堅という北宋の詩人(11世紀)が作り、日本へは一休宗純によって伝えられたという。)

感格鬼神 感は鬼神に格(いた)る - 感覚が鬼や神のように研ぎ澄まされる
清淨心身 心身を清浄にす
能除汚穢 よく汚穢(おわい)を除く - 穢れをのぞく
能覺睡眠 よく睡眠を覚ます - 眠気を覚ます
静中成友 静中に友と成る - 孤独感を拭う
塵裏偸閑 塵裏に閑(ひま)をぬすむ - 忙しいときも和ませる
多而不厭 多くして厭(いと)わず - 多くあっても邪魔にならない
寡而為足 少なくて足れりと為す - 少なくても十分香りを放つ
久蔵不朽 久しく蔵(たくわ)えて朽ちず - 長い間保存しても朽ちない
常用無障 常に用いて障(さわり)無し - 常用しても無害

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