ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

「言葉」を巡る、伝説の冒険。「全国アホ・バカ分布考―はるかなる言葉の旅路」  

全国アホ・バカ分布考―はるかなる言葉の旅路
松本 修



全国各地津々浦々、今日もアホ、バカ、それを意味する様々な言葉が使われている。
香川土着民の僕はアホもバカも使うが、ホッコという言葉も理解・使用語彙の範疇だ。
これらの言葉はあまりに日常的過ぎるが、今から遡ること20年以上前、
「探偵!ナイトスクープ」http://www.asahi.co.jp/knight-scoop/という番組に、ある依頼が寄せられた。
「大阪生まれの自分はアホと言い、東京生まれの妻はバカという。この言葉の使い分けの境界はどこだろうか?」

「複雑に入り組んだ現代社会に鋭いメスを入れ、さまざまな謎や疑問を徹底的に究明する」事をモットーとする高尚な番組(やや嘘)は、早速北野誠探偵を派遣する。
紆余曲折の結果、「アホ」と「タワケ」の境界らしきエリアを見いだして取材は終わるが、
では、バカとタワケの境界は? そして、西日本は全てアホなのか? と、次々と疑問が呈される。
これを解明することが宿題となり、
同番組では、全国のアホ・バカを意味する方言の悉皆調査に発展していった。

本書はその最初の依頼から、まさにこの本書を刊行するまでの、
同番組の取り込みをドキュメンタリーとして綴りながら、得られた成果を誰にでも分かるように丁寧にまとめあげた一冊である。

全国のアホ・バカを意味する言葉の分布については、もはや本番組の成果が定説となった感があるが、
なんと20系統もの単語に分かれ、それが京都を中心に同心円状に分布している。
これこそが柳田國男が提唱しつながらも、確証までは得られなかった「方言周圏論」の証拠である。
方言周圏論とは、京都のような文化的中心地から言語(単語だけでなく発音も)が周囲に拡がる一方、
次々と文化的中心地で新しい言葉が誕生した結果、同心円状に単語が分布するという見解だ。
この場合、遠い方がより古い言葉、中心ほど新しい言葉となる。
柳田國男は「蝸牛考」において「カタツムリ」という名詞からこの論を提唱したが、それ以外に新しい傍証が得られていなかった。

だがこの「探偵!ナイトスクープ」では、アホ・バカという言葉が、
明確に「方言周圏論」で説明できることを証明したのだ。
さらに本書では、他にもリコウという意味の言葉、かわいそうという意味の言葉など、
人々の生活に密着した数々の言葉が、アホ・バカと同様、「方言周圏論」で理解できることも示している。

当時は一地方番組でありながら、
日本の言葉、しかも時に蔑まれる「方言」について、その歴史的出自を明らかにしたという、
稀有のプロジェクトとなったのである。

全国の言葉が収録されているので、必ず貴方が慣れ親しんだ言葉も載っている。
それがどの程度の広がりがあるのか。そして、遠く離れたどの地域に、同様の言葉を用いる人々がいるのか。
現在は文庫にもなっている(「全国アホ・バカ分布考―はるかなる言葉の旅路 (新潮文庫)」未読。もしかしたら新しい知見が入っているかもしれない。)ので、ぜひ一人でも多くの方にお読みいただきたい。

なお、本書を読みながら思い出したことが二つ。
大学時代、国語の教官の部屋に本書が在った。
「これ面白いよ」とお薦めいただいのに、当時は堀辰雄で頭が一杯で読めなかった。
(堀辰雄に出会っていなかったら国語学がやりたかったのではあるが。)
20年以上経って宿題を果たしたことになる。
S先生、申し訳ありませんでした。

もう一つ。何かは忘れたのだが、「たがみよしひさ」のコミックのどこかに、
主人公が誰かを「コケ!」と罵倒するセリフがあった。
当時は「バカコケ」の「コケ」を意識的に短縮して使っているのかなと思っていのだか、
本書によると信州は「コケ」使用圏であった。
すなわち、僕が「ホッコ」と言うのと同じレベルの日常的言葉として「コケ」というセリフを用いたのだろう。
もう一度そのシーンを見つけたいところだが、難しいなあ。

【目次】
「フリムン」は琉球の愛の言葉
「ホンジナシ」は、本地忘れず
「アヤカリ」たいほどの果報者
「ハンカクサイ」は船に乗った
言葉遊びの玉手箱
分布図が語る「話し言葉」の変遷史
「バカ」は「バカ」のみにて「バカ」にあらず
新村出と柳田国男の「ヲコ」語源論争
周圏分布の成立
学会で発表する
「アホンダラ」と近世上方
江戸っ子の「バカ」と「ベラボウ」
「アホウ」と「バカ」の一騎打ち
君見ずや「バカ」の宅
「アハウ」の謎
「阿呆」と「馬家」の来た道
方言と民俗の行方

▼文庫はこちら。

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ちいさなカタコト*イタリア語ノート―フォトエッセイとイラストで楽しむ  

ちいさなカタコト*イタリア語ノート―フォトエッセイとイラストで楽しむ
高坂 千秋



本書は文法を省略し、空港、ホテル、バールなど、
各シチュエーションごとに、ごく基本的な挨拶・受け答えを紹介する。
単語や活用なども省略されているため、本書だけで会話するのは難しそうだ。
でも一方で、「まずどう言うか」、イタリアではどうはなしながら振る舞うべきか、という点について具体的に紹介されているため、旅行の際には参考になるだろう(と言いながら、僕はイタリア旅行をしたこともないが)。

また本書の特色として、公共交通機関のチケットの使い方、
イタリアからの郵便物の発送方法、
著者の失敗談などもあり、イタリア旅行の手引きとしても楽しめる。

いつかイタリアと思ってイタリア語を勉強している方も多いと思うが、
実際にイタリアに行くことをイメージでき、
モチベーションを高めるのに良い一冊と感じた。ああ、イタリア行きたい。

ちなみに本書、フランス語や英語、ドイツ語など多言語もある。

【目次】
序章 ちいさなイタリア語文法
第1章 カタコト*イタリア語基本編―イタリア通になるための大きな一歩
第2章 カタコト*イタリア語実践編―旅行中、この時、ここで、こういう場合
第3章 カタコト*イタリア語でBuon Viaggio!ローマからの旅‐ナポリ・ポンペイへショートトリップ!―悠久の歴史を感じる旅
第4章 憧れのイタリア通になるためのイタリア基礎知識
イラストマップで巡るローマ*ハイライトツアー:ちいさなイタリアおみやげ案内
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