ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

色って、何?「光と色彩の科学―発色の原理から色の見える仕組みまで (ブルーバックス)」  

光と色彩の科学―発色の原理から色の見える仕組みまで (ブルーバックス)
斎藤勝裕



色って、何だ。
世界は色彩に溢れている。
だか、色とは実は何か、どのようなメカニズムで発色している(ように見える)のか等、
ごくごく基本的なことを、知らないままに生きている。

だが、「眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く」(レビューはこちら )に詳しいように、
現在の動物は、基本的に全て「見る」というトリガーによって進化してきた。
何を見るのかといえば、「色」だ。
もちろん形の認識もあるのだが、カモフラージュの例をみるまでもなく、
色を把握できなければ、フォルムの把握は困難である。

それほど動物にとって重要な「色」について、

その研究史、光のプリズム分解、マンセルの色立体や色度・色相環などの「色」を表す努力、
また眼や視神経の構造、電灯や蛍光灯、生物発光などのメカニズム、
構造色、そして色彩心理学等々、

とにかく色と光に関する基本的事項を、
僅か200ページ弱の一冊に、力技で網羅的に纏め上げたのが、本書である。

刊行は2010年であり、さほど内容も古くなっていない。
もちろんこれほどコンパクトに纏めたために、光子を中心として物理学的な解説はややおろそかになっているものの、
とにかく「色」の本質について知るために、最初に読むのには最適の一冊。
ブルーバックスの面目躍如といった本である。

この本を読んだうえで、構造色や生物進化、生物発光等の様々なテーマへ波及するのが、
色や光、視覚に関して知るためには、最も容易なコースだろう。

あくまで入門書に徹し、かつ、高いレベルに誘導する。そうしたスタンスとして、良書である。


【目次】
第1章 色彩学の基礎
第2章 色彩の生理学
第3章 光の科学
第4章 色彩の化学
第5章 構造色の科学
第6章 色彩の心理学
第7章 未来の光技術
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ナノスケールに潜む、生物の技術。「ヤモリの指―生きもののスゴい能力から生まれたテクノロジー」  

ヤモリの指―生きもののスゴい能力から生まれたテクノロジー
ピーター フォーブズ


本書では、広範にわたるさまざまな技術を扱ったが、それらのすべてに共通する重要なメッセージがある。
それは、形、形、形である。p352



人間の技術発展速度は凄まじいが、その射程は、その時点の技術により可能な範囲に留まるという制限がある。
望遠鏡抜きでの天文学、レントゲン撮影抜きの医学。
それなりの進歩は遂げるだろうが、それは人類の知の限界ではない。

ただ、レンズ無しで望遠鏡はできないし、X線の発見無くレントゲン撮影は不可能である。
すべからく、知には段階がある。

しかし、自然は人類の知の蓄積とは無関係に、「進化」という形で知と技術を蓄積している。

そこで、自然―特に生物の性質や構造を研究することで、未だ人類が獲得できていない技術を掴み取るのが、
昨今流行りのバイオミミクリー、いわゆる生物模倣技術である。

本書は、ハスの超撥水性、クモの糸、ヤモリの指、昆虫の羽根等々、様々な事例を引きながら、
自然界の驚異と、ヒトの技術応用を紹介するものだ。
ただ、本書はバイオミミクリーやバイオミメティクスという「模倣」という概念で括らず、
バイオ・インスピレーションという言葉でその行為を定義している。
というのも、自然界をそのまま模倣できることなど少なく、
ほとんどが自然界のメカニズムを理解し、それを人間が可能な技術で置き換えることになるからだ。
そういう意味からすれば、確かにバイオ・インスピレーションという言葉は正しい。

では、自然の何を模倣するのかといえば、冒頭の引用のとおり、「形」である。
構造、と言い換えても良い。

もちろん自然界の物質そのものが驚異的性能が秘められている場合もあるが、
その多くはナノスケールの構造にこそ、秘密があるという。

例えばよく引用され、本書でも1章を割かれているヤモリの指だ。
ヤモリは、壁面であろうと天井であろうと、そしてその表面が極めて滑らであっても、
その面に密着することが可能である。

その秘密は、ヤモリの指先にある。
といっても、指先の皮膚が特殊な粘液を出しているとか、極めて細かな凹凸を捉えているという訳ではない。
ヤモリの片足の指先には、実は50万本近い毛が生え、その先端は100~1000本に枝分かれしている。
しかもその先端は、直径200ナノメーターの平べったいスプーンのようなスパチュラ構造をしており、
これが壁面の分子と最長2ナノメートル以内の距離に近づくことで、
分子間で働く引力、ファンデルワース力が働くという(ただ本書では断言しているが、有力な仮説というところか)。

このナノメートルという単位がポイントである。

超撥水性にしても構造色にしても、そこにはナノメートル単位の形、構造があることで機能している。
実はバイオ・インスピレーションとは、このナノメートル単位の世界を理解することなのである。

本書冒頭で、著者は新しい材料が示す性質が驚異的なのではなく、
その効果をもたらすメカニズムのほとんどは、1~1000ナノメートルの範囲の大きさの物理構造から成っていることほ指摘している。
それは原子よりは大きく、顕微鏡では見ることが出来ないくらい小さい世界。
長らく人間が知覚できなかった「見えない領域」(ブラインドゾーン)に潜んでいる形こそが、
自然の秘密を解く鍵なのだ。

本書は2007年刊行とやや古いものの、
宇宙構造物にも応用されるミウラ折り、
缶コーヒーのダイヤカット缶にも用いられている「PCCPシェル」構造なども解説されており、
バイオ・インスピレーションに対する根本的な理解を深めるうえで欠かせない一冊である。

【目次】
第1章 日の下に新しきものあり
第2章 身づくろいする聖なる大ハス
第3章 自然のナイロン
第4章 天井の歩き方
第5章 自然の瞳に映る小さな輝き
第6章 自己組織化する分子
第7章 昆虫は飛べない
第8章 エンジニアのための折り紙
第9章 圧縮力と張力の建築システム
第10章 未来を(自然に倣って)設計する
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我々は、月へ行くことを選ぶ。「人類、月に立つ〈下〉」  

人類、月に立つ〈下〉
アンドルー チェイキン



We choose to go to the moon. We choose to go to the moon in this decade and do the other things, not because they are easy, but because they are hard,…」
我々は月へ行くことを選ぶ。他の事を行いながら、この10年間に月へ行くことを選ぶ。
容易だからではなく、困難だからだ。ケネディ,1962年9月12日


(ケネディの演説VIDEOはここで見られる(JOHN F. KENNEDY PRESIDENTIAL LIBRARY AND MUSEUM)。
YOUTUBEにもある(例えば「We Choose to go to the Moon」https://youtu.be/g25G1M4EXrQ※省略版)、ぜひフルで見ていただきたい。)

月へ向かうアポロ計画は、もちろんアメリカという一国のプロジェクトだったが、
その演説でも語っている通り、他の国々(当時はソ連)も勝ち取ろうとしている目標だった。
いわば、人類史における一大プロジェクトである。

本書、「人類、月に立つ」は、そのアポロ計画の全貌を記録したもの。

上巻は、アポロ1号から、初の月面着陸であるアポロ11号を経て、アポロ12号まで。
この下巻では「栄光ある失敗」の13号から、最後の17号までを綴る。

アポロ13号についてはより詳細で単独の記録、
アポロ13号 奇跡の生還 (新潮文庫)」(レビューはこちら)があるが、本書でもかなり詳細に記録されている。

そう、本シリーズの特徴は、膨大なバックデータを踏まえて、
宇宙飛行士の一挙一足、言動・思考が極めて詳細に再現されているところにある。

何しろ、月である。
宇宙飛行士ら以外に目撃者はいない。
NASAでの録音・録画等もあるだろうが、
例えば月面にいるそれぞれの宇宙飛行士が抱いた思い、ミッション過程で感じた疲労、興奮などは、
その口から語られなければ知ることは不可能だ。

その点、本書は膨大な資料にあたるだけでなく、
執筆当時に存命だったアポロの宇宙飛行士全てにインタビューを果たした(中には6年がかりで口説いた人もいたという)、
まさに「アポロ正史」である。

また、月面着陸を果たした後のアポロは、
月面の地質調査という点でその価値を発揮していた。
そのために、地質学者が宇宙飛行士にフィールドワークを学ばせるのだが、
生粋の「パイロット」である各宇宙飛行士には、それぞれの思いがある。
その葛藤がありながらも、
だが皆、地質学的調査という「ミッション」の達成に向けて進んでいく姿。

本書では、次のように綴られている。

1961年、歴史はまれに見るかたちでその力を一点に集中していた。ソ連がアメリカの威信を脅かすかに見えたとき、ジョン・F・ケネディというダイナミックな指導者が登場し、経済的な繁栄が、アメリカの底力を見せつけるための巨大事業への着手を可能にした。月は理想的な目標だった。月は手が届く距離にあった。そして、それを目標にすることは、想像力をかき立てるに十分な大胆さを備えていた。



だが同時に、宇宙飛行士のケン・マッティングリーは言う。

「いまなら月には行けなかっただろう、ってね。いまのこの国には、あんなことはできない」


技術的な進歩は、今も続いている。
だが「人類のチャレンジ」は、アポロ計画がピークだったのではないか。

ケネディの演説では、「We choose to go to the moon.」を2度繰り返している。
その言葉から、熱い決意が伝わってくる。

その熱い時代を、余すことなく伝える本書。
上下2巻の大部な本だが、宇宙好きには堪えられないドラマが凝縮されている。
スペースシャトルについても、こんな本があるのだろうか。

【目次】上巻(レビューはこちら)
第1章 「火事だ!」
第2章 宇宙飛行士室
第3章 初の月周回飛行―アポロ8号
第4章 「1960年代が終わるまでに」
第5章 初の月面着陸―アポロ11号
第6章 嵐の大洋をゆく船乗りたち―アポロ12号

【目次】下巻
第7章 ある宇宙飛行士の栄冠―アポロ13号
第8章 真の勇者になるために―アポロ14号
第9章 科学者
第10章 ともされるべき炎
第11章 月の山脈へ―アポロ15号
第12章 思いがけない月の素顔―アポロ16号
第13章 月に降りた最後の男たち―アポロ17号
エピローグ 月の観客たち





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全力を傾けることの素晴らしさ。「世界出張料理人」  

世界出張料理人
狐野 扶実子



プロの料理は、店で味わうものというのは、先入観だった。

自宅でのプライベートなパーティが習慣化しているヨーロッパ圏では、
自宅に料理人を招き、料理を提供してもらうという方法もあるという。
日本だと店から配送してもらうことになるのだろうが、
なるほど、料理人に来てもらう方が、
出来立ての、より美味い料理を味わえるという言うもの。
ただこうした習慣は、自宅のキッチンにプロの料理人を招くと言うことであり、
日常的に多数のゲストを招くという習慣が無い日本ではハードルが高いだろう。

本書の著者は、フランスのレストランで修行した後、
ふとした切っ掛けから「出張料理人」を生業とするに至った女性だ。

今ではこうしたビジネスは行っていないようだが、
本書では出張料理人となったいきさつから、
様々なエピソードにより「出張料理」ならではの苦労と喜びを教えてくれる。
その顧客やシチュエーションは幅広く、
なんとルーブル美術館でのパーティや、
某国の大統領夫人が出席するパーティなどもある。

こうした、想像することも難しい状況の中、一人の日本人女性が、
いかにプロの出張料理人としてベストを尽くしてきたのか。
もちろん中には失敗もあるけれど、
「誰かのために料理すること」への真摯な想いは、どの編を読んでも伝わってくるだろう。
本書の素晴らしさは、こうした異世界を垣間見せてくれるだけでなく、
その中で悩み、苦しみ、時には失敗もする姿を、
ありのままに見せてくれることだ。
「料理人」「女性」というキーワードは確かに重要だが、
一人の人の真摯な姿を見せてくれるという点で、
日常に苦しむ人々の励みになるのではないだろうか。

ところで、五感は、人それぞれ鋭敏さに差がある。

ただ、視覚については「見えないもの」が見えるということはないし、
聴覚についても超音波が聞こえるという話は聞いたことがない。
嗅覚については、少数の人が極めて鋭敏な感覚を有するイメージだ。

ところが味覚については、個人差がなり激しく、
極めて微量の差異でも感知できる人も多い。
他の感覚よりも、各自が感知できる幅にかなり差がある―というか、
むしろ、味覚は、人によって全く感知幅は異なるのではないかと言う気がする。

その味覚を刺激するものが、料理だ。
だからこそ料理は文化足り得るのだろう。

そうすると、人によって様々な鋭敏な味覚を、
共通してして満足させられる料理というは極めて難しく、
それをコンスタントに創れる者が、一流の料理人といえる。

そうした視点から考えると、
著者が、自分のキッチンではなく、
常に他者のキッチンを用いて、一流の出張料理人たりえたという事実には、驚きしかない。

本書がなければ、こうしたビジネスが存在することも、
そのビジネスで日本人女性が活躍していたという事実も知らなかった。
多くの方に読んでいただきたい一冊である。
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今こそ、アポロの情熱を。「人類、月に立つ〈上〉」  

人類、月に立つ〈上〉
アンドルー チェイキン



人類が月に立った。1969年7月20日、なんと今から約50年前のことだ。
50年も経ったのに、月探査が日常的になっていないことに驚くか、
1961年5月25日、ケネディ大統領がアポロ計画の支援演説を行ってから本当に10年以内に月に行ったことに驚くか。
人それぞれだろうが、いずれにしてもアポロ計画といえば、
宇宙飛行士ニール・アームストロングとバズ・オルドリン月面に着陸したアポロ11号と、
トム・ハンクス主演の映画化により知られた、爆発事故を起こしたアポロ13号くらいしか、
記憶にないのではないだろうか。

だが、もちろんアポロ計画は、それだけではない。
アポロ計画は1961年から1972年にかけ、アポロ1号からアポロ17号まで実施され、
全6回の有人月面着陸に成功した。
その中に、11号の「偉大なる成功」と、13号の「栄光ある失敗」があり、
その前後にも様々なドラマがある。

本書はアポロ計画の開始から終焉までを、徹底したリサーチによって2冊にまとめあげたのが、本書だ。
それぞれのミッションについて、細部まで再現するだけでなく、
宇宙飛行士たちの生き様、ミッションに選ばれる/選ばれないことの葛藤、
そして、その家族の想い。
これらが濃密な文章で綴られており、読み進めるのに時間を要するものの、
まるで同時代に見ているような錯覚を抱くほどの、読み甲斐のある本である。

上巻は、アポロ1号から、初の月面着陸であるアポロ11号を経て、アポロ12号まで。
下巻では「栄光ある失敗」の13号から、最後の17号までを綴る。

なにしろ、アポロ1号では発射の予行演習中に司令船で火災が発生し、
3名の宇宙飛行士が犠牲になったという事実すら、知らなかった。
こんな状況から11号に至る道である。
「羹に懲りてあえ物を吹く」感の強い日本であれば、早々に断念しただろう。
それを乗り越えるのがアメリカであり、だからこそ13号のトラブルにも立ち向かえたのだろう。

最近、再び月探査が賑やかになっている。「はやぶさ」の話題もあったが、
やはり人類が地球外の天体に立つというのは、全く違う感動があるのだろう。
人類は1972年の17号以来、40年以上にわたって、リアルタイムでは「人類、月に立つ」ことを体験していない。
本書を読みながら、いつか来るだろう時を楽しみにしたい。

なお下巻については、また改めてレビュー予定。

【目次】上巻
第1章 「火事だ!」
第2章 宇宙飛行士室
第3章 初の月周回飛行―アポロ8号
第4章 「1960年代が終わるまでに」
第5章 初の月面着陸―アポロ11号
第6章 嵐の大洋をゆく船乗りたち―アポロ12号

【目次】下巻
第7章 ある宇宙飛行士の栄冠―アポロ13号
第8章 真の勇者になるために―アポロ14号
第9章 科学者
第10章 ともされるべき炎
第11章 月の山脈へ―アポロ15号
第12章 思いがけない月の素顔―アポロ16号
第13章 月に降りた最後の男たち―アポロ17号
エピローグ 月の観客たち


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