ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

フィールドワークの醍醐味を伝える。「鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。」  

鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。
川上 和人




最も親しいスズメにしても、詳しい生態を知り、他種との違いの意味を読み取り、
なぜ「今」目の前にいるのか、なぜ「スズメ」という種が日本にいるのかを説明できる人は、ほとんどいないだろう。
それを読み解くことが、生物を相手にした趣味の醍醐味であり、それを仕事にしたのが生物学者である。

本書は鳥類学者である著者が、これまでの様々な研究テーマのトピックスを織り交ぜながら、
実際のフィールドワークについて紹介するもの。

前著、「鳥類学者 無謀にも恐竜を語る (生物ミステリー) 」、「そもそも島に進化あり (生物ミステリー)」(レビューはこちら )のように1テーマを追及した本と異なり、本書は著者自身の日常を記録したものだ。
そのため統一されたテーマは無いものの、随所に散りばめられている鳥類学的知見については、多くの方が驚くのではないだろうか。
また、そこそこ鳥関係の本を読んでいる層であっても、近年話題となったテーマの舞台裏が取り上げられていて、興味深い。

例えば、絶滅したと思われていた小型ミズナギドリ「ブライアンズ・シアウォーター」を、2012年に小笠原で再発見し、
「オガサワラヒメミズナギドリ」という和名を付けた件。

報道では、
「アメリカで記録されていた小型ミズナギドリ「ブライアンズ・シアウォーター」が、小笠原で生きていたのを再発見した」
というニュアンスであり、そう理解していた。
だが、同種は実は長くヒメミズナギドリに紛れていて、誰も存在に気づいていなかった。
剥製標本から「ブライアンズ・シアウォーター」たる新種と認められたのが、2011年8月。
すなわち、「昔から知られていた種」ではなく、近年の再調査によって発見された種だったのである。

一方、実は、著者は2006年12月には既に小笠原産の本種の標本をDNA分析し、
新種かもしれないという感は抱いていたという。
もし、その時に詳細に調べていれば、「日本から、ヤンバルクイナ以来の新種鳥類発見!!」なんて報道になっていた可能性もあったのである。
この件に関する著者の弁は、ぜひ実際に本書を読んでいただきたいが、逃がした魚(というか鳥)は大きい。

また他にも本書では、話題となった新島・西ノ島での調査記、
絶海の孤島である南硫黄島での上陸調査などなど、現代の「鳥類学者」のフィールドワークを垣間見れる。
ノーベル賞をもらうような物理学者の世界とは全く異なるが、
生き物を相手にした調査って面白いということを実感できる一冊である。
 
本書と「[カラー版]昆虫こわい (幻冬舎新書)」(レビューはこちら)は、フィールドワーク好きなら絶対に読んで楽しい本である。
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category: 野鳥

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見たくないけど、見てみたい!「世界の奇虫図鑑: キモカワイイ虫たちに出会える」  

世界の奇虫図鑑: キモカワイイ虫たちに出会える
田邊 拓哉



生物多様性と進化の妙を一目見て実感できる生物と言えば、
やはり昆虫だろう。
ヒトは視覚による情報収集する生きものだから、非常に高精度な眼を持っている。
一方、多くの哺乳類は夜行性のため、さほど見た目に変化が無い。齧歯類なんて見た目では別種かわからない。
視覚によるコミュニケーションを行うのは鳥類であり、よって見た目も多様だが、
かなり大形の生きもののため、種数が限定される。全世界で約1万種程度だ。

その点、昆虫はコミュニケーションの視覚依存度は低いものの、
鳥類という眼で探す捕食圧に晒されていることもあるだろうが、
昆虫の華やかさというと、抜群である。

本書は、「奇虫」というカテゴライズにより、
世界中の奇妙な虫をセレクトしたもの。

全長10cmのオブロンゴナータヒッシングコックローチ(日本のGの巨大なやつ)、
これも30cmのダイオウサソリ
最大60cmのガラパゴスオオムカデという巨大派もあれば、

生きた化石といわれるガロアムシ、
土中に住みながら泳げ、飛ぶことも可能なケラ、
オオゲジ(「キング・オブ・不快生物」なんてキャッチコピーあり)、
トリノフンダマシというとった日本の不快生物も掲載。

かと思えば、身近の畑や草地に生息しながら、発見後数十年も再発見されなかったため、
命名者によって「二度と忘れないように」と名付けられたワスレナグモ、
「David Bowie」の名が付いたアシダカグモの近縁種、
マレーシアオレンジハンツマンHeteropoda davidbowieなど、
様々な観点からセレクトされている。

そして本書の特徴は、著者が爬虫類・両生類専門店の社員であり、
かつ爬虫類・両生類・奇虫の飼育愛好家であるために、
生態をはじめ、多くの虫に国内流通状況や飼育ポイントが細かく書かれているのが特色。

一方的に「気持ち悪さ」を煽るのではなく、
実際にその虫を知り、存在を肯定している著者がきちんと書いた本であり、
よくあるテーマ専攻の、編集者の思いつき本ではない。

特に巻末に収録されたタランチュラ、ムカデ、ヤスデの飼育方法は極めて詳細で、
その筋の人には重宝されるのではないだろうか。

タイトル、レイアウトやキャッチコピーは良くある煽り系の雰囲気だが、
内容は丁寧なもの。
「世界の◯◯な◯◯」をパラパラ捲るよりは、
本書を開く方が、僕は楽しい。
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category: 昆虫

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野鳥観察、始めてみない? 「カラス屋の双眼鏡 (ハルキ文庫)」  

カラス屋の双眼鏡 (ハルキ文庫)
松原 始



野鳥は、日常的に見ることが可能な数少ない野生動物である。

だからこそ、本当は毎日、「野生動物の脅威の生態!」というテレビ番組で流れるような出来事を、
自身の眼で見いだすことも可能なはずだ。

だが野鳥観察(撮影)が趣味だという人間であっても、
識別(及び識別に役立つ生態)には詳しくても、
繁殖や子育て、縄張り等といった「野鳥の生き様」に興味を持ち、見ようとする人は少ない。

種の「識別」が野鳥観察の始まりでありゴールのように思っている方も多いが、本当は入口に過ぎない。
例えば身近なスズメであっても、その生態を知れば、「今そこにいる理由」が見えてくる。
それどころか、野鳥がいなくても、アオキの実一つでヒヨドリを(そこから果実食、種子散布、ヒヨドリ科の分布北限を)、ツバキの花一輪だけでもメジロを(そして花粉媒介、鳥媒花の構造を)語ることが可能だ。

僕も野鳥観察会で案内する場合は、できるだけ識別だけではない野鳥の魅力をお伝えしようと心掛けているが、
その都度、自分自身が「見ていない」「知らない」ことばかりと感じている。

さて、本書は、カラス研究者である著者によるもの。
もちろん本職のカラスの話題も多いが、カラスだけでなくオオヨシキリやコチドリの巣探索、
アカアシチョウゲンボウとの出会い、サル調査での遭難など、
様々な野鳥や動物観察(研究)の日々と、その苦労・工夫・面白さが記されている。

野鳥観察を含むフィールド体験が少ない人なら、あたかも自分が一緒に観察しているような楽しさを得られるし、
野鳥観察(撮影)趣味人であれば、生態調査の良き事例として参考になるだろう。

「自分で見て、自分で知る」事ほど面白いコトはないが、本書はその一歩を踏み出す契機となる一冊だ。
(香川県で野鳥観察を初めてみたい方は、ぜひ香川の野鳥を守る会へ。)

ところで、本種中盤に掲載されている「非科学的な経験」で、
フィールワーク中の「あるできごと」について記されている。

科学者らしく冷静に分析しているが、だからこそ、いやはや恐い体験談である。
僕も調査でたまに夜間・夜明け前に山中やアシ原の中に入ることがあるが、
ああもう、今度からこのエピソード思い出してしまうだろうな。

【目次】
第1章 やっぱりカラスが好き
第2章 鳥屋のお仕事
第3章 カラス屋の日常
第4章 じつはこんなものも好き
第5章 カラス屋の週末




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category: 野鳥

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DNAが示す進化の道筋。「シーラカンスは語る 化石とDNAから探る生命の進化」  

シーラカンスは語る 化石とDNAから探る生命の進化
大石 道夫



太古の生物が今も生きている。これほど魅力的な話があるだろうか。
実際のところは、生物としてのデザインが恐竜の時代やそれ時代から変化していない種は多い。
ただそれらとシーラカンスが異なっているのは、やはり「遥かな過去に絶滅した」と認識されていたためだろう。
(植物で同じ立ち位置にあるのが、メタセコイアである。)

時を飛び越えてきたかのような生物。それがシーラカンスだ。

さて、生物としてのシーラカンスについては、実は「シーラカンスの謎: 陸上生物の遺伝子を持つ魚 」(レビューはこちら)の方が詳しい。
なので、生物としてのシーラカンスに興味がある方は、そちらを読んでいただきたい。

一方、本書の特色は、2つ。
一つは、著者自身のコレクションによる多数のシーラカンスの仲間の化石写真も掲載しながら、
シーラカンスの進化と、魚類が陸上へ進出する道筋との関係を説明していること。

そしてもう一つは、こうしたシーラカンスの進化について、
生態的な観点よりも、特にDNA分析の結果を踏まえた進化史を考察している点だ。

木村資生氏のDNAの中立進化説を踏まえた進化の分岐時期推定はもちろん、
ホックス遺伝子群の転用によるマクロ進化(四肢など大規模な器官の進化)、
魚類としては突出して大きいゲノムDNA(約27億)の意味など、
様々な観点からシーラカンスの特徴が語られる。

ただ、陸上動物の進化史としては、肺魚からティクターリクへ進化したらしいとされているとおり、
シーラカンスは四肢動物のミッシングリンクにはなり得ない。

だがむしろ、様々な進化の選択肢が試されてきた中で、
シーラカンスという魚類→陸上動物という流れにおける全く別の到達点が、
今なお目にできるというのは、素晴らしいことだ。

しかし残念ながら、環境の激変を潜り抜けてきたシーラカンスも、
他の動植物と同様に、今は絶滅の危機に瀕している。

本書を通じて進化とDNAの妙を知れば知るほど、
現在が生命史上稀にみる大絶滅期となりつつある事実に驚愕する。
シーラカンスを初めとして、累々と続けられてきた進化の歴史を振り返れば、
やはりここ数百年の人間による環境改変は、「仕方がない」と見做し得るものではないだろう。

【目次】
第1章 生ける化石シーラカンス
プロローグ:生ける化石シーラカンスが見つかった
解けてきたシーラカンスの謎
生ける化石はシーラカンスだけか
化石からDNAが取り出せたら

第2章 生命の誕生
DNAからみた生命活動と進化
原初の生命体
生命の起源
三つの候補者
我々の祖先はただ一人
生物進化のゆりかご期――先カンブリア時代――に起こった出来事
コラム:生物の進化とゲノムの大きさ

第3章 生物の多様化とシーラカンスの出現
突然無数の生物が現れる――カンブリア紀の爆発――
生物の多様化がますます進むオルドヴィス紀とシルル紀
魚の時代、デヴォン期――シーラカンスが現れる――
ついに陸に上がった魚――移行動物チクターリクの発見――
生き残ったシーラカンスたち
シーラカンスのゲノムが解読された
コラム:遺伝的多様性と生物の絶滅

第4章 DNAから進化の謎を解く
進化の分子時計とはなにか
遺伝子は変わる
新しい遺伝子を獲得する
マクロ進化とは
ほかの生物のDNAを取り込む
コラム:遺伝子に起こった変化とその影響

第5章 恐竜滅亡後の世界
白亜紀末の生物の大絶滅
哺乳類の天下が訪れた
ヒトはどのようにして進化してきたのか
生物社会と進化論
コラム:第6の生物の大絶滅
エピローグ
あとがき
参考文献 註 釈




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category: 魚類

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牡蠣が100倍美味くなる本。「牡蠣礼讃 (文春新書) 」  

牡蠣礼讃 (文春新書)
畠山 重篤



冬の味覚と言えばカキである(以降、本書に敬意を表して牡蠣と書こう)。
僕はカキフライ派だが、それは多分、他に食べる機会が多いのは鍋等で煮た牡蠣―つまり脇役であって、
牡蠣が主役たる、美味い生牡蠣や焼き牡蠣を味わっていないからだろう。

だが、今年は、機会があれば牡蠣を食べている。
なにしろ、昆布の魅力が凝縮された「昆布と日本人 (日経プレミアシリーズ)」(レビューはこちら)以来、日本人と食材関係の本を読んできたが、
ついに久々のヒットに出会ったからだ。

本書は、日本における牡蠣養殖の歴史はおろか、
世界を舞台にした「日本の牡蠣」の物語である。

牡蠣といえば瀬戸内海人は「広島」と思ってしまうが、実は世界の牡蠣種苗の産地は宮城。
そこで生産されるマガキの宮城種こそが、世界中で養殖されている。

なぜ、宮城が牡蠣種苗の一大産地なのか。

本書前半は、その日本における養殖史の発展を遡る旅。
現在の養殖現場の状況を紹介しながら、そうした養殖技術を発展させるに至った先達、
「世界三バカ牡蠣博士」の一人である今井丈夫氏、
明治時代に沖縄からアメリカに渡り、牡蠣養殖の事業を興し、現代に続く垂下式養殖法を開発した宮城新昌氏、
宮城新昌氏の技術を事業化するに尽力した水上助三郎氏の足跡を辿る。

そもそも、牡蠣養殖は明治以前から宮城近辺で盛んだったのではない。
これらの先達が巡り会い、そして効率的な牡蠣養殖に不可欠な杉材と竹、藁が豊富で、
しかも山からの栄養が富む海である三陸だからこそ、
現在の牡蠣養殖の礎を築き得たのである。

そこにあるのは偶然や奇跡だけでなはく、
人々の地道な努力と工夫があった。

そして本書後半では、世界の牡蠣に話が広がる。
といっても、「世界でも様々な牡蠣が食べられています」だけでは終わらない。

牡蠣食が盛んにフランスでは、日本と異なるヨーロッパヒラガキが食されていた。
だが、このヒラガキの生産量が減退したため、ポルトガルの牡蠣(ポルトゲーズオイスター)を導入する。
(このポルトゲーズオイスターは日本と近縁種で、実は江戸時代に日本から伝わったのではないかという話もある。詳細が知りたいところだ。)
ところがヒラガキ・ポルトゲーズオイスター共に病気が発生し、1970年代にはフランスの牡蠣養殖は壊滅状態になってしまった。

そこに導入されたのが、アメリカにも既に輸出され、評価の高かった宮城種である。
様々な問題はあったものの、宮城種は成育が良く病気もないことから、以降フランスへ本格輸出されることになった。

またアメリカでは、、マガキより小さいオリンピアオイスターが好まれている。
この牡蠣は、日本の牡蠣養殖の先達である宮城氏が修業した種だ。
著者はその養殖地を訪れ、先達たちの歩みに思いを馳せる。

かと思えば海外で、宮城種と異なるマガキ―「クマモト」と呼ばれる牡蠣に目をつける。
この牡蠣はアメリカ西海岸で日本からの輸入された子孫が育っているが、
日本の原産地・有明海では、マガキ(宮城種)と雑種化して絶滅した、とされているものだ。
だが本当にそうなのか。
著者は持ち前のフットワークで有明海を訪れ、実際はマガキと棲み分けて現存していることを確認する。

他にも干し牡蠣の原産地を求め、中国へ。
タスマニアデビルオイスターを味わうため、タスマニアへ。
さらに、日本画でも用いられる白色顔料・胡粉の材料であるイタボガキ。
これも絶滅が危惧されている種だが、
その復活に努力している水産試験場がある岡山・香川へと、
著者の牡蠣をめぐる旅は終わりが見えない。

そして全てを繋ぐのは、
牡蠣が育つ豊かな海は、豊かな森があるからだ、という理念。
それをふまえた「森は海の恋人」運動は、いまや全国各地に広がっている。

冬の旬を告げる食材の一つとしてしか牡蠣を見ていなかったが、
それが養殖されるまでの歴史、
そして世界の牡蠣養殖との関係、環境問題との関係と、
まさに牡蠣を巡る大冒険であり、
著者が牡蠣によせる愛情が溢れ出た、素晴らしい一冊である。

様々なレシピや薀蓄もあり、本書を読めば牡蠣が食べたくなること間違いなし。
なので、牡蠣のシーズン真っただ中に紹介した次第。ぜひ牡蠣を食べていただきたい。
(僕は夏に読んでしまい、長らく苦しい思いをした。)

ところで三陸と言えば、東日本大震災。
それを経た物語が、続編「牡蠣とトランク」で綴られているという。
こちらもぜひ、読みたい。

【目次】
第1章 Rのつかない月の牡蠣を食べよう!?
 牡蠣の旬はいつか?
 水山養殖場の四季―宮城県・舞根湾
第2章 おいしい牡蠣ができるまで
 宮城種の故郷
 牡蠣に憑かれた男―宮城新昌と水上助三郎
第3章 世界の牡蠣を食べる
 日本一の生産地から学ぶ―広島県・広島湾
 日本の牡蠣がフランスを救った―フランス・ラングドック
 魅惑の味・オリンピアオイスター―アメリカ・シアトル
 顰めっ面をした牡蠣―熊本県・有明海
 干し牡蠣は万能薬―中国・沙井
 タスマニアデビルオイスター―オーストラリア・タスマニア
第4章 知られざる「カキ殻」パワー
 カキ殻が地球を救う
 日本の白を彩る胡粉
おわりに 牡蠣がつなぐ世界
 二十年ぶりの南仏ラングドック
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category: 軟体動物

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