ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

クラゲの不思議: 全身が脳になる? 謎の浮遊生命体  

クラゲの不思議: 全身が脳になる? 謎の浮遊生命体
三宅 裕志



海へビーチコーミングに行くと、クラゲを見ることしはしばである。
結局は軽くつつくだけだが(もっと識別しろよ自分)、
見れば見るほど不思議な生物である。一度ギュッとしてみたい。

そのクラゲについて、基本的な生殖の仕組みから人との関わりまで、
ギュッと圧縮した入門書である。マイナーな生物について、こうした丁寧な本があると嬉しい。

さて、クラゲといえば、エチゼンクラゲの大繁殖がニュースになる。
だが本書では、2008年頃から、北海道の太平洋沿岸に来るキタミズクラゲも問題となっていることが紹介される。こちらのクラゲは、春と秋のサケ漁の稼ぎ時に到来するそうだ。

なぜ、クラゲは大発生するのだろう?

エチゼンクラゲについては、温暖化や、中国の経済発展による護岸の増加(クラゲのポリプが付着する場所の増加)などが言われているが、それを理解する前提として、本書で詳しく紹介されているクラゲの繁殖方法が役立つ。

まず、クラゲの繁殖方法。
例えばミズクラゲでは、クラゲ世代では有性生殖、ポリプ世代は無性生殖、ポリプが変態するストロビレーションなど、各時期それぞれに増殖方法がある。

そして、環境への対応。
塩分濃度が他所上下した程度だとクラゲは適応できる。
極端に薄くなると(例えば塩分濃度1%)、移動能力が高いミズクラゲは逃げる。
しかし移動能力が低いサカサクラゲは約半日は生き延びる。半日耐えれば、潮汐によって塩分濃度が回復する可能性があるからだ。

また、繁殖地について。
クラゲのポリプは、自然物よりもPETボトルやプラスチックなどの人工物に付着することが多い。
海底に蓄積したゴミが、クラゲ類を増加させている可能性がある。

実際、身近なミズクラゲのポリプすら、どこに付着しているのか不明だったが、筆者らがミズクラゲのエフィラ(ポリプから分離したもの)が多い場所を探索すると、浮桟橋の裏に大量に付着していた。

このように、クラゲ自身の環境対応能力と繁殖力の高さ-それは食物連鎖の底辺付近にいるゆえだが-が、人間の経済効力により加速された結果と考えられる。

その増加したクラゲを食する生物がいれば、捕食圧によってバランスも取れるだろうが、
現在の単純化した生態系では、そのような高次の捕食生物は激減している。

まさに、「歪み」としか言いようがない。

著者は本書で、熱帯魚を飼育する時に用いる岩(ライブロック)に、
クラゲのポリプが付着している例が多いこと、
そしてクラゲの繁殖力の高さから、このライブロック経由で外来種が移入される可能性がある、と指摘している。

海に打ち上げられたクラゲは、脆く、全く頼りない生物にしか見えない。
しかし、そこには驚くべき強靭な生命力が潜んでいる。
ヒトの経済活動が、その生命力を暴走させないよう、もっと注意深く見ていきたい。

なお、本書著者には、「最新 クラゲ図鑑: 110種のクラゲの不思議な生態」(レビューはこちら)もある。
見てて楽しい。

【目次】
第1章 クラゲのほんとうの姿
第2章 ミズクラゲの生活
第3章 ミズクラゲの研究
第4章 クラゲ大発生の謎


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サンゴの生物学  

サンゴの生物学
山里 清



あるサンゴの識別方法について知る必要があり、専門の方に教えを乞う。
その際、生物としてのサンゴの基礎知識を学ぶのなら、として推薦していただいたのが本書である。

宝石サンゴ、サンゴ礁という漠然としたイメージしか無かったが、おかげで生物としてサンゴを知ることができた。
いくつか、メモしておきたい。

まず、サンゴの種別について。
第一に、サンゴの成長速度は、光合成を行う褐虫藻が、サンゴの組織に共生しているかにより左右される。
サンゴはプランクトンも捕食するが、褐虫藻による光合成産物も成長に利用している。
そのため、褐虫藻が共生する方が成長が早い。

また、褐虫藻が共生するのが造礁サンゴだが、造礁サンゴか否かはそういう生態学的な相違であって、系統分類学的な相違ではない。

褐虫藻が共生するサンゴにとって、当然ながら褐虫藻があるかどうかは、文字通り死活問題だ。
しかし、近年よく聞く「白化減少」は、この褐虫藻が高水温によってなくなってしまう現象である。

著者の調査によれば、サンゴの種類により相違はあるものの、30℃、31℃では徐々に、32℃では急速に褐虫藻を失うとのこと。

サンゴにとって、水温が1℃異なることは重要な意味を持つのだ。

その温度差が、長い歴史時間で影響した結果が、サンゴの分布にも現れている。

太平洋において、サンゴの分布は西高東低であり、西部に多種多様なサンゴが分布する。
その主要因は、太平洋において、赤道以北の海流が時計回りであるため、西部は赤道で温められた海流が流れ込み、また浅海域であるため種分化が促進。そこから暖流となって北上するが、徐々に海水温が下がるため、種数も減少する。

本書によれば、西太平洋全体の造礁サンゴは73属、八重山諸島以北は66属、沖縄以北は59属、九州以北は43属と減少し、新たに加わる属はないという。

そしてベーリング海峡を経て、北極海の冷たい水と混り、北米大陸西岸では北から寒流として南下。
その低い海水温がサンゴの生息の制約となり、太平洋東部の種数が少ない原因となっているという。

このように、ダイナミックな海流によって種分布が左右されているというのは、生物地理学の面からとても興味深かった。

なお、本書で、脊椎動物の骨はリン酸カルシウムのヒドロキシアパタイトだが、
無脊椎動物の骨は主に炭酸カルシウム化合物であること、
その炭酸カルシウムを成分とする鉱物には方解石(calciteカルサイト)、あられ石(aragoniteアラゴナイト)、バテライト(vaterite)という3種があるが、動物のグループによりどの鉱物が骨となっているかは異なる、という。

( 大部分の無脊椎動物の骨は方解石。イシサンゴの骨格はあられ石。
 同じサンゴでも、ヤギ類の石灰石は方解石。貝殻には両方が混在することがある。
 バテライトはホヤ類の骨片などわずかの場合に限られる。)

動物の骨とサンゴ、貝の手触り等が違うのが、そのままこの成分差を反映しているのかどうかは知らないが、そもそも違う物質なのだ、というのは納得できる話だった。

【目次】
1 サンゴという動物
2 サンゴの生物地理学
3 サンゴを支える褐虫藻
4 サンゴの成長と環境
5 サンゴの生殖
6 海底の静かな果し合い
7 サンゴ群集の生態


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サンゴとサンゴ礁のビジュアル・サイエンス: 美しい海に生きるサンゴの不思議な生態を探る  

サンゴとサンゴ礁のビジュアル・サイエンス: 美しい海に生きるサンゴの不思議な生態を探る
中村 庸夫




人生何がどう進むかわからないもので、
ちょっとサンゴの識別について勉強する必要が発生してしまった。
その縁で、本書を手に取る。

全ページがカラーで、とても美しい写真とともに、
サンゴの生態、そしてサンゴに生息する生物との関係が説明されている。

海中という環境の中で、サンゴ礁がもたらす「生息環境」の多様性は、計り知れない。
それを、多くの写真で実感させてくれる本である。

ただ、基本的な話を紹介するにとどまっており、
例えば取り上げているのは、いわゆる造礁性のサンゴ(沖縄とか南国のイメージ写真に多いアレ)ばかりである。
非造礁性のサンゴは「宝石サンゴ」として取り上げられている程度。

こういう点からも、「沖縄のサンゴ礁って素敵」と感じた人が、
ちょっと詳しく知りたいな、という時に適した入門書と思われる。


【目次】
第1章 サンゴとサンゴ礁
第2章 サンゴ礁の生態
第3章 サンゴ礁の生物たち
第4章 サンゴと環境
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最新 クラゲ図鑑: 110種のクラゲの不思議な生態  

最新 クラゲ図鑑: 110種のクラゲの不思議な生態
三宅 裕志,Dhugal J. Lindsay



またまた変な生き物シリーズである。クラゲ。
海に行くと波間に浮かんでいたり、
砂浜に打ち上げられていて、
毒があるのか無いのか分からず、
でも触りたいような気もして葛藤するヤツである。

本書は「最新」としているが、内容を確認すると分類が最新の知見を踏まえたもののようである。
「かつては○○の仲間だったが、現在は△△の仲間に分類されていて…」と、
一般人には全く有用ではないが、分類好きには「へーっ」、「ほーっ」と意味も分からず興味深い記述が満載である。嬉しい。

写真は全てカラー。110種が多いか少ないかは分からないが、
海岸でみたことがあるヤツは結構掲載されている。たぶん1冊持っておくには十分だろう。
アカクラゲとヒクラゲは、今後も出会う確率大であり、
海へ行く楽しみが増すというものだ。

それにしても、
移動可能な世代と固着世代があり、
環境が悪化するとシストになり休眠する、という生活サイクルは、どこかで見たなあと思ったら
粘菌である。
(レビューはこちら)

両者が同一などという無茶な論理を展開するつもりはないが、
同じような生活サイクルが成立するということは、やはりこういう「生き方」は地球上ではスタンダードの一つなのではないか。
粘菌とのサイズ・移動能力の差は、水中か陸上かで、重力の制約の有無が大きいのだろう。

そう考えると、今後の出会いが更に待ち遠しくなる。


【目次】
刺胞動物門
 鉢虫綱
 十文字クラゲ綱
 箱虫綱
 ヒドロ虫綱
有櫛動物門
 有触手綱
 無触手綱
クラゲの採集と飼育

【メモ】
p16
クラゲは雌雄がある有性生殖世代。ポリプは無性生殖時代。
ポリプは生活環境が悪化すると、シスト(休眠芽)になる。

p24
アカクラゲ
日本各地で見られる。春先。
傘には16本の赤縞。
→沙弥島で見た。

p47
深海のクラゲはなぜ赤い?
赤色光は深海には届かないが、青色光は水深1000mくらいまで届く。
よって深海は暗く青い世界。赤い色を認識する能力が低い(その必要がない)ため、
赤色は保護色となる。

p57
ヒクラゲ
アンドンクラゲと似るが、大型で出現時期が異なる。主に瀬戸内海で見られる。
逆に瀬戸内海では、アンドンクラゲはほとんど見られないと言われる。

p85
マミズクラゲ
熱帯から温帯の湖沼や人工池等に出現。ひとつの場所にオスかメスのいずれかしか出現しないと言われる。
休眠状態のシストが40年後にポリプに再生したという報告もある。
ポリプやシストは水鳥の脚などに付着して運ばれる。
マミズクラゲがどのようにして遺伝子の交配をしているのかは謎。

p104
クラゲは水分が90%以上あるため、アルコール標本には不向き。
おもに3-5%kのホルマリン固定。
しかしクシクラゲの仲間はどうしても標本が崩れ、模式標本が残らない。


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