ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

泥酔しながら北極、南極。「菌世界紀行――誰も知らないきのこを追って (岩波科学ライブラリー)」  

菌世界紀行――誰も知らないきのこを追って (岩波科学ライブラリー)
星野 保



雪の下なんて、気にしたことがない。
冷たい世界で植物は枯れ、じっと根だけが春を待っているイメージだ。
だが実は、雪の下で頑張っている植物に感染し、じわじわと植物を枯らす菌類、
「雪腐病菌」がいるという。

正直なところ、雪が殆ど積もらない香川県では、全く縁が無く、
一言でいえば「どうでもいい」世界である。

だが、そこに生き物在れば、それを研究する者は必ず現れる。
筆者も紆余曲折を経て(本書第1章に詳しい)、そのマイナーな菌類を研究することとなった。

冬小麦や牧草を褐色に枯らす「褐色雪腐病」を起こすピシウム・イワヤマイ。
菌類の中で最も寒さに強いロチニア・ボレアリス。
そして小麦や牧草に病気を起こし、
小さな棍棒のような子実体を伸ばす「ガマノホタケ」という和名を持つイシカリエンシスの仲間。

これらの菌類の世界的分布を明らかにするため、
筆者はノルウェー、グリーンランド、シベリア、そして南極と、
世界各地の寒冷圏を巡る。本書はその道中記だ。
タイトルが「紀行」となっているとおり、実は本書では、菌類の研究結果が主なテーマとはなっていない。
メインは「旅」そして旅のお供が菌類と、ロシア圏では愛すべきオヤジ、オレグ・トカチェンコ博士である。

本書紹介を転記しよう。

北極、南極、そしてシベリア。大の男が這いつくばって、世界中の寒冷地にきのこを探す。大型動物との遭遇、酔っぱらいとの遭遇、泥酔、泥酔、そして拘束。幾多の歎難辛苦の果てに、菌たちとの感動の対面はかなうのか…!?雪や氷の下でしたたかに生きる菌たちの生態とともに綴る、爆笑・苦笑・失笑必至のとっておき“菌道中”。



もう酔っぱらってばかりである。
よもやそこまでではあるまい、と読み進めたが、やっぱり酔っぱらいの珍道中であった。

もちろん「雪腐病菌」の生態や世界的分布を解明していく楽しさはあるが、
なんだかその記述は物足りなくて、生物としての「雪腐病菌」の面白さを知るには、
あと一歩欲しい感じ。

だがそれでも良いのである。
本書は「菌世界紀行」。
随所に、著者による味わいあるイラストも挿入されており、紀行本としては滅法楽しめる一冊である。

それにしても、もちろん「雪腐病菌」研究というテーマはあるにしても、
この内容を「岩波科学ライブラリー」として刊行するとは、
その懐の広さを賞賛したい。
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発酵なくして和食なし。「発酵はマジックだ」  

発酵はマジックだ
小泉 武夫



和食とうま味のミステリー:国産麴菌オリゼがつむぐ千年の物語 (河出ブックス)」(レビューはこちら)、漫画「もやしもん」と読むと、やはり発酵に興味が湧く。ということで読了。
著者は東京農大の名誉教授。実際は違うらしいが、「もやしもん」 の舞台モデルでは、と言われた大学の醸造科学科で教鞭をとられていた方である。

発酵に関する話題としては、酒・麹と、もちろん「和食とうま味のミステリー:国産麴菌オリゼがつむぐ千年の物語 (河出ブックス)」と重複する話題も多い。
だがこれは、結局は麹菌オリゼーの素晴らしい能力、そしてそれを最大限に引き出して発展させた日本人の先人の知恵によるところが大きく、その素晴らしさに再度感動するところである。

また本書では、鰹節、納豆、漬物、酒や肉の発酵にまで視野が広がっている点が楽しい。
そういう視点で改めて日本食を見ると、伝統的な食品は発酵食品だらけである。

ところが現在、同じ発酵食品でも、日本的な発酵食品は避けられ、
チーズなど西洋的な発酵食品が日本人の食生活に普及している。
時代の流れといってしまえばそれまでだが、
長い日本人の知恵と工夫の歴史を知れば、日本の発酵食品を避ける食生活が、いかに勿体ないものかが実感できるだろう。

【目次】
第1章 発酵とは何か
第2章 発酵の主役・微生物
第3章 麹と酒と日本人
第4章 発酵がつくる調味料
第5章 納豆、鰹節、種麹に見る日本人の知恵
第6章 漬け物大国日本
第7章 魚と肉の発酵食品
第8章 発酵食は健康食
第9章 北極から南極まで世界の発酵食
第10章 地球と人類を救う発酵革命


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国菌・麹菌。その凄さを実感する。「和食とうま味のミステリー:国産麴菌オリゼがつむぐ千年の物語」  

和食とうま味のミステリー:国産麴菌オリゼがつむぐ千年の物語
北本勝ひこ



それぞれの国・土地・町には、それぞれの郷土料理がある。
その郷土料理は、それぞれの土地柄と歴史にあわせ、そこに定着している人々が選別・発展・確立してきたものだ。

僕は「食」に対しては、食材の流通史と郷土料理の歴史に特に興味があるのだが、
この郷土料理の成り立ち、何かに似ているなと思えば、僕が興味を持っている生物地理学そのものであった。

特定の地域において、その風土に適合したモノが発展・分化していく。
いわば個々の郷土料理は、その地域の固有種なのである。

だとすれば、その固有種の生物相を調べ、歴史を遡ることにより、
生物地理学同様に、その地域の特異性を明らかにすることもできるだろう。

本書は、日本の郷土料理-和食-について、
その根本的な要素を「うま味」と看破し、うま味の歴史を辿ることによって、
日本が世界的にも妙な食文化を確立するに至った必然性を明らかにするもの。
いや、面白そうである。

さて、本書ではまず「日本酒」を取り上げる。
広い範囲の和食だが、料理じゃないよなという気がするが、
実のところ日本の和食-うま味確立を知る上では、実は日本酒こそが重要のようだ。
というのは、味噌、醤油といったかなり加工度が高い調味料よりも、
自然発酵で得られる酒のほうが歴史的に古く、そしてその製法等が以降の食文化にも方向性を与えるためである。
なるほど果実酒やサル酒という伝説もあるし、
世界各地で葡萄からワイン、麦からビール、そして米から日本酒が生じている。
そしてそれらの原料は、その地域の考古学的時代において生産しやすい素材である。

さて日本酒だが、本書では日本における酒の製法について、古文献等を元に紐解いていく。
日本において果実酒が発展しなかった理由、
ごく初期の酒の製法である「口噛み酒」、その低効率性。
そこで、発酵過程の効率化のために生じた「麹菌」の利用と「家畜化」。
和食における日本酒の最も重要な意味は、この「麹菌」の取得だった。

そして本書は、日本酒と「麹菌」から導きだされた醤油、味噌の歴史を辿り、
これらによる「うま味」に対して相乗効果を働かせる昆布、鰹節の利用に展開していく。

こうして辿ると、なぜ日本人が発酵食品と「うま味」に執着するのかが明瞭に理解できる。

逆に、日本の風土から腐敗しやすい食文化は発展し難かったこと(果実酒は発酵する前に腐敗してしまう、貯蔵に回すほどの果実を生産しない)、食肉用の家畜を持たないことから、酪農も、乳製品の利用も生じなかった理由も浮き彫りになってくる。

また、麹の作り方についても、日本の特異性がある。
麦や米以外の穀物を多く生産し、それらを材料とする地域では、
麦等の皮を分離するのが難しいため、まず粉状に挽き、それを水で練り上げて発酵させる。
だが日本では、米を蒸しあげ、粒状のまま発酵させる。
日本にいるとあまり意識しないが、こうした麹菌の生産方法の違いは、以降の食文化の発展に大きく影響を与える。

このほか、本書では酒造りの時期(江戸時代以前は、日本では秋からの冬の寒造りが主流だった)、
また麹造りの場所(暗所)による日本独特の麹菌の発展(というか家畜化による育種)、
「火入れ」と呼ばれる低温殺菌法の早期導入など、日本酒づくりの過程に得られた技術の高さも紹介されている。

日本における昆布の利用・流通については「昆布と日本人 (日経プレミアシリーズ)」(レビューはこちら、この本は日本人なら読んでおきたい一冊である)、
また鰹節については「かつお節と日本人 (岩波新書)」(レビューはこちら)がある。
これらと併せて読めば、和食の特異性、そして和食がまさにガラパゴス的発展をした日本固有種であることが実感できるだろう。

なお、本書に描かれた麹菌・オリゼーや「口噛み酒」、これらは漫画「もやしもん」において見事にネタとして昇華されている。
Amazonや楽天に全巻セットも販売しており、お手頃価格である。ぜひ。
(僕も先日購入した。)

【目次】
第一章 なぜ日本人はうま味を求めるのか
第二章 美酒の追求が和食を高める
第三章 種麴屋と国産麴菌オリゼの誕生
第四章 オリゼがつむぐ調味料と和食
終章 うまみが広げる和食の世界






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微生物ハンター、深海を行く  

微生物ハンター、深海を行く
高井研



近年、科学界のインディ・ジョーンズこと長沼毅氏によって、
深海や南極・北極、砂漠という極限環境の生物がクローズアップされている。
特に深海生物、チューブワームとかシロウリガイとか好熱菌とか、
これまで語られることがなかった生物までTVで聞くこともある。

そこに、ダイオウイカである。
この巨大生物のおかげで、一挙に深海ブームとなったらしい。

この流れに乗って、深海探査の立役者、
「しんかい6500」を有する独立行政法人海洋研究開発機(JAMSTEC) がらみの書籍も刊行が続いている。

本書もその一環だなあ、と思い軽く手に取ったのだか、
予想を裏切られた。

長沼氏に劣らず強烈なキャラクター、
天才(だってご本人のツイッターがそうだから)であり、
スタンドはスター・プラチナである(「ジョジョの奇妙な冒険」をご存じでない方はごめんなさい)。
高井研氏の登場である。
何で深海関係ってこんなに濃い人が多いのかなあ。

本書は高井研氏が研究を志し、現在に至るまでの試行錯誤・研究遍歴をあからさまに綴ったもの。
その文体は独特であり、ジャンプとか漫画ファンなら楽しめるが、
人によってはかなり拒絶するかもしれない。

でも、一人の最先端研究者の人生という、希有な読み物である。これを読まない手はない。

また高井氏も書いている通り、そもそもこの本は研究を志そうかなあという若い方こそ、
読んでおくべきだろう。

研究者になるにはどのような苦労があるか、ということも綴られている一方、
どんなにワクワクする出来事があるか。

努力と工夫次第で、道が拓けるかもしれない可能性は、誰にでもある。
もし研究者になりたいという夢があるなら、とにかく若いうちはそれを追いかけてもいいんじゃないだろうか。そんな気にさせてくれる、応援歌のような本でもある。

僕はもちろん高井氏のターゲットである読者層ではないけれども、
調査研究したいなあという昂ぶってきたし、
とても楽しく読ませていただいた。

本当に、高校生と大学生には、強くお勧めする。






【目次】
第1話 実録! 有人潜水艇による深海熱水調査の真実
第2話 JAMSTECへの道 前編
第3話 JAMSTECへの道 後編
第4話 JAMSTEC新人ポスドクびんびん物語
第5話 地球微生物学よこんにちは
第6話 JAMSTECの拳―天帝編―
最終話 新たな「愛と青春の旅だち」へ

特別番外編
特別番外編1 「しんかい6500」、震源域に潜る
特別番外編2 地震とH2ガスと私
特別番外編3 極限環境微生物はなぜクマムシを殺さなかったのか
特別番外編4 25歳のボクの経験した米国ジョージア州アセンスでのでんじゃらすなあばんちゅーる外伝
特別番外編5 有人潜水艇にまつわる2つのニュース

【メモ】
p39
「科学の原動力は感動であることを再認識した。」玉木賢

p57
超好熱菌 80℃以上の高温で一番活発、中には100℃を超えないと動かいない細菌もいる
これらの菌のタンパク質は100℃以下ではカチカチに凍ったような状態
20種類のアミノ酸の組み合わせで、その繋ぎ方が違うだけで一方は100℃で機能を失った変性タンパク質になり、一方は活発に機能する。

PCR法は、好熱菌や超好熱菌が持っている、高温で壊れずに働くDNAポリメラーゼというタンパク質がキモ。


<近縁としてお勧め>










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カビの科学 (おもしろサイエンス)  

カビの科学 (おもしろサイエンス)
李 憲俊



人類とカビの歴史 闘いと共生と」(レビューはこちら)に続き、またまたカビの本である。

副題で感じられるように、本書の方が親しみやすい。
トピックごとに数ページにまとめられており、隙間時間に読み進めることができる。
取り上げているトピックも充実しており、「人類とカビの歴史 闘いと共生と」とほぼ同トピックを網羅する。あちらは研究現場を踏まえた記述であり、本書は第三者的なまとめ方である。
好みにもよるが、おそらく本書を読めば、多くの方は知りたい情報が得られると思う。

それにしても、カビの爆発的な成長力には驚かされる。
これだけの成長力だからこそ、極めて小さな存在にもかかわらず、分解者として役割が果たせるのだろう。

また、チーズ、酒、カツオブシ等々、食生活にも有用である。

住居ではどうしても厄介者だが、カビという存在もまた、長い歴史によって育まれた生命なのだと感じた。

ところで、本書ならではのトピックとして気になったのは、温暖化の影響だ。

一つは、熱帯性のカビが北上してくる危険性。
もう一つは、温帯性のカビの生態が変化する危険性。

まだ具体的な話はなく、可能性の範疇ではあるものの、いつ具体化してもおかしくない。
引き続き、注目しておきたいテーマである。



【目次】
第1章 地球に生きる生物としてのカビ―カビとはどういう生き物なのか
第2章 カビの生理と生態―生きるためのシステムと発育条件
第3章 カビによる健康被害―カビは怖い生物なのか
第4章 生活の中のカビ対策―こうしてカビは防ぐ
第5章 カビと生きる―カビと人間の深い関係
第6章 住環境にみる主要カビ―身近なカビたちの素顔と生活
第7章 カビの調べ方―カビの検査の手法あれこれ

【メモ】
p4
カビ、キノコ、酵母の共通点
・細胞核が膜を持つ(真核生物)
・葉緑体がない(光合成しない)
・キチンを細胞壁の骨格とする
・単細胞(酵母型)または菌糸形を基本とする
・細胞外で栄養を分解して吸収する
・無性生殖または有性生殖をする

p12
細菌の増加の仕方
1個が2つに分裂する(二分裂法)
分裂のスピードは温度・湿度や栄養で異なる。
大腸菌の場合、最適環境では1回/20分可能と言われている

ex)洗った雑巾に200個の細菌が残っている
→1回/30分で分裂した場合、10時間後には1億個になっている。
もし1回/20分だと1000億個を超える。
これの排泄物が臭う。

p34
クロコウジカビ:5ミクロン程度
1週間で6cmの円形の集落に成長する。

1000倍サイズにすると、
クロコウジカビの分生子5mmから、直径60mの群落に育つことになる。

カビの培養:「巨大培養」(ジャイアントカルチャー)

p50
浴室の天井のクロカビ:
少しずつ成長するため、黒く見えない

p58
温暖化の影響

1)暖かい地域のカビの拡大
ex)アスペルギス・パラジティカスはカビ毒の一種(アフラトキシン)を出す
暖かい地域の土に住んでいる
これが日本全土に広がれば、国産の作物がアフラトキシンに汚染される機会が増加する

2)温帯地域のカビの変化
温帯地域のカビは30℃を超えると活発に増加できないが、
より高音域に適応する可能性がある
もし36-37℃で増殖できるようになれば、人間の体内を住みかとする道が開け、新たな脅威となりうる




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