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探検と、旅と、本と。「探検家の日々本本 (幻冬舎文庫)」  

探検家の日々本本 (幻冬舎文庫)
角幡唯介


この際だからはっきりと言っておこう。人生をつつがなく平凡に暮らしたいのなら本など読まない方がいい。しかし、本を読んだ方が人生は格段に面白くなる。読書は読み手に取り返しのつかない衝撃を与えることがあり、その衝撃が生き方という船の舳先をわずかにずらし、人生に想定もしなかった新しい展開と方向性をもたらすのだ。p11



本を読む、という行為は、取りも直さず疑似体験なのだろう。
TV等の映像メディアと違うのは、映像・音がないという点だ。
全ては読み手の想像力の範疇であり、暴風雨を知らない者に暴風雨は想像できない。

ところが、優れた書き手は、その見たことも無い風景を眼前に広げてくれる。

居ながらにして世界を旅し、数億年前から未来を見渡し、
量子の世界から深宇宙まで想いを馳せることができる。それが読書である。

読まずにいられようか、ということで、僕も日々本を読む。

著者は「空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む 」(レビューはこちら)において、
文字通り前人未到の大渓谷に挑んだ探検家。
近年は極夜の旅に軸を置いているようだ。
本書はそのツアンポー渓谷の旅を終え、次なる旅を模索している時期に、
著者が読んだ本、影響を受けた本などを紹介するもの。
小説篇とノンフィクション篇に分けられているが、いずれも「探検家」という視点、想いも重なり、
単なる本の紹介に留まらず、探検とは何か、旅とは何かを常に問う感じだ。

類書と違うのはまさにその点であり、
著者が「探検」という現実的な行動、しかも生死を左右するような状況へ飛び込むことを業としていることから、
いきおい、本のチョイスも読み方も、そうした視点が強くなっている。

こうしたブックガイド系は、嵌れば素晴らしく新しい本との出会いをもたらしてくれるが、
僕は9冊、本書で「読みたい」という本に出会うことができた。
(そしてすぐに3冊は入手した。)

これらの本が、どのように僕の人選の舳先をずらすか。

少なくとも、「読んでない人生」と、「読んでしまった人生」には、雲泥の差があり、
後者の方がカラフルな人生であるのは、間違いない。
いざ、読書という探検へ。



レビューはこちら

category: 読書

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書評とは、いかに在るべきか。「人に言えない習慣、罪深い愉しみ―読書中毒者の懺悔」  

人に言えない習慣、罪深い愉しみ―読書中毒者の懺悔
高橋源一郎




世に様々な書評集やブックガイドがあるが、
・どんな本を選んでいるか
・いかなる評者が、どのような書評を書いているか
の2点で楽しめる。評者が我を殺し、きっちりした本の紹介に徹しているものもあれば、
自我の見解や作品に引き寄せて紹介するものもある。
後者の場合、いわば私的な部分が多くて「紹介」としては十分でない場合もあるが、
読書とは本と読者個人個人の出会いにより完結するゆえ、
当然ながら「客観的評価」など本来無いような気もする。

いずれにしても、その評者が独自の視点、見解を持っているほど、
私的書評は興味深いものになるだろう。

本書は、小説家(が本業なのだろうか?)である著者による書評集。
主に週刊朝日への連載を収録したものであり、1冊につき文庫で2p前後とボリューム面では少ないが、
私的なスタンスからの書評には、また異なった味わいがあって良い。

選択されている本も様々で、いわゆる定番の文芸やノンフィクションもあるものの、
何でこんな本を見つけるかなあ、と感じるものも少なくない。

著者の好み、嗜好に合えば、新しい本との出会いがあるだろう。

ちなみに僕は、「これ読みたい」と付箋を付けたものが、珍しく1冊もなかった。
それはこの書評集の質の問題ではなく、単に僕の嗜好の問題である。

なので、本レビューもなかなか綴りにくいものがあるが、
様々な本との出会いを求めている方は、参考にしていただきたい。

なお、私的書評ゆえ、著者の考える「書評」とはいかに等、
高橋源一郎氏の作品や評論を追っている方なら、
また変わった楽しみ方もあると思う。

category: 読書

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なぜその版が、価値があるのか。「作家の値段 (講談社文庫)」  

作家の値段 (講談社文庫)
出久根 達郎



かつて、古本は、町の小さな古本屋のみを通じて流通していた。
そのため、古本屋は目利きであり、
内容や希少価値を踏まえつつ、目の前に在る一冊のコンディションを加味して「評価」していた。
その結果が値段であった筈だ。

しかし、ブックオフ等の大規模古本店による一律的な価格設定。
また、これらの店ではISBNやJANコードによる商品管理を行うため、
それらが記載されていない古本は、「商品管理できないから」買い取りできない、という面があるのに、
「価値が無いから」と一般人は感じてしまっていること。
さらに、Amazonやネットオークション等による個人による売買が可能となり、
従来の古本屋の共通認識が全く反映されない価格設定が行われていること。

これらの点から、現在は古本の価格設定というのは、
なかなか難しいところにあるのではないかと思っている。

だが、古本、古書というのは、
やはりそれぞれの版の持つ意味を踏まえて評価されるべきものと思う。

本書は24人の近現代の作家について、
その主な著書を、古本屋的視点から書誌解説し、売価を紹介していく異色の本だ。
現役の古本屋の知見が活かされているため、
帯の有無、カバーの付け替え、
また初版だけでなく特定の版の価値、刊行部数等々、
一般人だと分からないポイントが紹介されている。

これを読んだからといって、例えばBOOKOFFで役立つわけでもないし、
やはりそれなりの愛好家でないと実益はないだろう。

だが、古本屋に在る本が、なぜそのような値段であるのか、
そこには十分な理由があるということは、本書で理解できるだろう。

そして同時に、ブックオフのような一律(一定基準)買取・販売方式は、
確かに商売としてはやりやすく、また消費者としても楽ではあるものの、
これらの古書の売買にはなじまないシステムであることも理解できると思う。

本は不思議なもので、その版にしかない味がある。
そして良い本は、装丁や活字の味わいなども相まって、
作品とモノとしての魅力が相乗効果を発揮するものだ。

だから、単に読むためだけならBOOKOFFも有り得るが、
古本屋で買うという行為も重要であり、
古本・古書の流通組織として、古本屋は生き残ってもらう必要がある。
(もちろん、そもそも新刊で買わないと著者や出版社の利益にならない、ということもある。)

まだ新刊書店とBOOKOFF以外のリアル書店で本を買ったことがないならば、
ぜひ本書を読み、古本屋で何か1冊買うことをお勧めする。
新しい世界が開けることは、間違いない。


【目次】
1 司馬遼太郎
2 三島由紀夫
3 山本周五郎
4 川端康成
5 太宰 治
6 寺山修司
7 宮澤賢治
8 永井荷風
9 江戸川乱歩
10 樋口一葉
11 夏目漱石
12 直木三十五
13 野村胡堂
14 泉 鏡花
15 横溝正史
16 石川啄木
17 深沢七郎
18 坂口安吾
19 火野葦平
20 立原道造
21 森 鴎外
22 吉屋信子
23 吉川英治
24 梶井基次郎
あとがき
文庫版あとがき

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ノンフィクションの可能性と、珠玉の成果。「石井光太責任編集 ノンフィクション新世紀 ---世界を変える、現実を書く。」  

石井光太責任編集 ノンフィクション新世紀 ---世界を変える、現実を書く。


ノンフィクションとは何かと訊かれたら、それは世界の見え方を変えてくれるものだと答えたい。我々の目に見えているものは世界のごく一部である。世界には目に見えない様々な層が存在する。それは過去の歴史であったり、過去の因果のつらなりであったりする。世界を知るというのは、そうした様々な含意を知ってゆくことである。ひとつ含意を知るたびごとに、世界の見え方は変わってくるだろう。それがノンフィクションの力である。(p126、柳下毅一郎)


世界は広く、深い。
それを客観的検証可能な事実により見渡すのが科学だ。
だが、科学だけでは掘り下げられないものがある。ヒトの営みだ。
あまりにも個人的なそれは、多くの場合、科学的検証の題材にすらならない。
だが我々がヒトである以上、そしてヒトが、理性と感情という厄介なバランスの上に立つ以上、
それぞれの個人的な体験を識ることは、
ヒトを識ることにもつながる。

それを同時社会的に見ることも可能だし、時系列的に見ることも可能だ。
それを、歴史というのだろう。

本書は、自身もノンフィクション作家である石井光太氏が編集責任となり、
日本のノンフィクショを見渡すガイドブックを成立させたもの。
ノンフィクションのガイドブックとなると、類書も多いが、
それらとは圧倒的な違いがある。
紹介する選者が、ノンフィクション作家であるということだ。

また、松本仁一、森達也、高木徹、藤原新也、
さらに田原総一朗、猪瀬直樹に対するインタビューなどもあり、
ノンフィクションとは何ぞや、いかなる意義があるのかと、徹底的に掘り下げている。

また、ノンフィクションベスト30というコーナーでも、
柳田邦男、角田光代、高野秀行、角幡唯介など、16名の錚々たるノンフィクション作家・ルポライター等が、
それぞれが選ぶベスト30を示していく。
いずれも、日本のノンフィクション史に残るような作品を著した人々であり、
このコーナーだけでも極めて優れたブックガイドとなっている。

さらには後半、ノンフィクション年表として、1980年から2011年までの約30年、
1年ごとに見開きページにおいて、社会の出来事、年間ベストセラー、主なノンフィクション賞の受賞作リスト、
さらにその年を代表するノンフィクション3冊と、
それ以外にも読むべき本が20冊示されている。
時代の変遷を追いつつ、何を読むか、読むべきかを検討できる見事なガイドとなっている。

優れたノンフィクションは、何年経とうが、読むべき価値を持つ。
まだ見ぬ世界を識るために、ぜひ本書を手元に持っておきたい。

ちなみに僕は、約15冊程度、読みたい本が見つかった。


【目次】
ノンフィクション連続講座
雑誌編集者の軌跡―ノンフィクションが生まれる現場で働く
ノンフィクションベスト30
書店員座談会 ノンフィクションは、売れる。
スペシャル・インタビュー(田原総一朗―「常識を疑うことそのものがノンフィクションである」
猪瀬直樹―「ノンフィクションが「新製品」であり続けるために」)
若手訳者競作!海外ノンフィクション新潮流
完全保存版ノンフィクション年表1980‐2011

category: 読書

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時を貫く、科学の力。「サイエンス・ブック・トラベル: 世界を見晴らす100冊」  

サイエンス・ブック・トラベル: 世界を見晴らす100冊
山本貴光



いうなれば、森羅万象に応じて研究領域がありうるわけです。それだけに、一口に科学といっても、簡単に見晴らせないのは当然です。言い換えれば、森羅万象をいかに見晴らせるかという問題でもあるからです。(p5)


「科学は進歩している」という言葉は、現在や1年前、それぞころか数十年前から、
何度となく繰り返されてきた。
だが、その進歩の度合いはいわば指数関数的であり、例えば、
55年前から50年前までの5年間の人類の科学的進展と、
2015年から2020年までのそれを比べれば、圧倒的に後者が質・量ともに多い。

さらに、その科学は細分化・先鋭化され、もはや一般人の多くは、
発見から数年~数十年後に「実用化された科学」のみを享受することで、満足しているように思える。

だが、我々が住む世界が広がったのではなく、
冒頭に引用したとおり、
我々が得た新たな知見や方法によって、より世界を細かく見渡せるようになったのだ。

であればこそ、現在のリアルタイムな科学の進展を知ることは、
現時点で可能な限り、詳しく世界を識ることに他ならない。

本書は、世界中の科学者やサイエンスライターが著した数多のサイエンス・ブックから、
23人の選者が、それぞれの専門分野等を踏まえ乍ら、
1つのテーマにつき(例えば、「動物はどうなふうに働いているのか?」)、
これはという1冊をベースに、その問いへの回答を綴り、
あわせて2冊を短く紹介するもの。

なにより本書の特色は、紹介者が凄いことだ。
チェンジング・ブルー 気候変動の謎に迫る」の大河内直彦、「フェルマーの最終定理」(レビューはこちら)等サイエンスものの訳者である青木薫、「ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学」の本川達雄、「フィールドの生物学14 裏山の奇人 野にたゆたう博物学」(レビューはいずれ)の小松貴など。

こうした面々が、前述のようなテーマについて2頁くらい考えを述べ、
その上で「自分が読むべきと思うのは、この本」と3冊を薦めてくれる。

考えてみれば、各章それぞれが1冊を成しても良いようなものであり、
極めて贅沢な本である。

「科学」が日進月歩であるゆえ、当然ながら、
本書刊行当時に得られていない知見もある。

だが優れた科学書は、いついかなる時代であっても、
先を見通す力をもっているもの。

本書を手掛かりにも広大な科学書の世界を旅していただきたい。

【目次】
1 宇宙を探り、世界を知る
2 生命のふしぎ、心の謎
3 未来を映す

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