ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

牡蠣が100倍美味くなる本。「牡蠣礼讃 (文春新書) 」  

牡蠣礼讃 (文春新書)
畠山 重篤



冬の味覚と言えばカキである(以降、本書に敬意を表して牡蠣と書こう)。
僕はカキフライ派だが、それは多分、他に食べる機会が多いのは鍋等で煮た牡蠣―つまり脇役であって、
牡蠣が主役たる、美味い生牡蠣や焼き牡蠣を味わっていないからだろう。

だが、今年は、機会があれば牡蠣を食べている。
なにしろ、昆布の魅力が凝縮された「昆布と日本人 (日経プレミアシリーズ)」(レビューはこちら)以来、日本人と食材関係の本を読んできたが、
ついに久々のヒットに出会ったからだ。

本書は、日本における牡蠣養殖の歴史はおろか、
世界を舞台にした「日本の牡蠣」の物語である。

牡蠣といえば瀬戸内海人は「広島」と思ってしまうが、実は世界の牡蠣種苗の産地は宮城。
そこで生産されるマガキの宮城種こそが、世界中で養殖されている。

なぜ、宮城が牡蠣種苗の一大産地なのか。

本書前半は、その日本における養殖史の発展を遡る旅。
現在の養殖現場の状況を紹介しながら、そうした養殖技術を発展させるに至った先達、
「世界三バカ牡蠣博士」の一人である今井丈夫氏、
明治時代に沖縄からアメリカに渡り、牡蠣養殖の事業を興し、現代に続く垂下式養殖法を開発した宮城新昌氏、
宮城新昌氏の技術を事業化するに尽力した水上助三郎氏の足跡を辿る。

そもそも、牡蠣養殖は明治以前から宮城近辺で盛んだったのではない。
これらの先達が巡り会い、そして効率的な牡蠣養殖に不可欠な杉材と竹、藁が豊富で、
しかも山からの栄養が富む海である三陸だからこそ、
現在の牡蠣養殖の礎を築き得たのである。

そこにあるのは偶然や奇跡だけでなはく、
人々の地道な努力と工夫があった。

そして本書後半では、世界の牡蠣に話が広がる。
といっても、「世界でも様々な牡蠣が食べられています」だけでは終わらない。

牡蠣食が盛んにフランスでは、日本と異なるヨーロッパヒラガキが食されていた。
だが、このヒラガキの生産量が減退したため、ポルトガルの牡蠣(ポルトゲーズオイスター)を導入する。
(このポルトゲーズオイスターは日本と近縁種で、実は江戸時代に日本から伝わったのではないかという話もある。詳細が知りたいところだ。)
ところがヒラガキ・ポルトゲーズオイスター共に病気が発生し、1970年代にはフランスの牡蠣養殖は壊滅状態になってしまった。

そこに導入されたのが、アメリカにも既に輸出され、評価の高かった宮城種である。
様々な問題はあったものの、宮城種は成育が良く病気もないことから、以降フランスへ本格輸出されることになった。

またアメリカでは、、マガキより小さいオリンピアオイスターが好まれている。
この牡蠣は、日本の牡蠣養殖の先達である宮城氏が修業した種だ。
著者はその養殖地を訪れ、先達たちの歩みに思いを馳せる。

かと思えば海外で、宮城種と異なるマガキ―「クマモト」と呼ばれる牡蠣に目をつける。
この牡蠣はアメリカ西海岸で日本からの輸入された子孫が育っているが、
日本の原産地・有明海では、マガキ(宮城種)と雑種化して絶滅した、とされているものだ。
だが本当にそうなのか。
著者は持ち前のフットワークで有明海を訪れ、実際はマガキと棲み分けて現存していることを確認する。

他にも干し牡蠣の原産地を求め、中国へ。
タスマニアデビルオイスターを味わうため、タスマニアへ。
さらに、日本画でも用いられる白色顔料・胡粉の材料であるイタボガキ。
これも絶滅が危惧されている種だが、
その復活に努力している水産試験場がある岡山・香川へと、
著者の牡蠣をめぐる旅は終わりが見えない。

そして全てを繋ぐのは、
牡蠣が育つ豊かな海は、豊かな森があるからだ、という理念。
それをふまえた「森は海の恋人」運動は、いまや全国各地に広がっている。

冬の旬を告げる食材の一つとしてしか牡蠣を見ていなかったが、
それが養殖されるまでの歴史、
そして世界の牡蠣養殖との関係、環境問題との関係と、
まさに牡蠣を巡る大冒険であり、
著者が牡蠣によせる愛情が溢れ出た、素晴らしい一冊である。

様々なレシピや薀蓄もあり、本書を読めば牡蠣が食べたくなること間違いなし。
なので、牡蠣のシーズン真っただ中に紹介した次第。ぜひ牡蠣を食べていただきたい。
(僕は夏に読んでしまい、長らく苦しい思いをした。)

ところで三陸と言えば、東日本大震災。
それを経た物語が、続編「牡蠣とトランク」で綴られているという。
こちらもぜひ、読みたい。

【目次】
第1章 Rのつかない月の牡蠣を食べよう!?
 牡蠣の旬はいつか?
 水山養殖場の四季―宮城県・舞根湾
第2章 おいしい牡蠣ができるまで
 宮城種の故郷
 牡蠣に憑かれた男―宮城新昌と水上助三郎
第3章 世界の牡蠣を食べる
 日本一の生産地から学ぶ―広島県・広島湾
 日本の牡蠣がフランスを救った―フランス・ラングドック
 魅惑の味・オリンピアオイスター―アメリカ・シアトル
 顰めっ面をした牡蠣―熊本県・有明海
 干し牡蠣は万能薬―中国・沙井
 タスマニアデビルオイスター―オーストラリア・タスマニア
第4章 知られざる「カキ殻」パワー
 カキ殻が地球を救う
 日本の白を彩る胡粉
おわりに 牡蠣がつなぐ世界
 二十年ぶりの南仏ラングドック
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カタツムリの謎: 日本になんと800種! コンクリートをかじって栄養補給!?  

カタツムリの謎: 日本になんと800種! コンクリートをかじって栄養補給!?
野島 智司



庭で草抜きや畑仕事をしていると、カタツムリを見ることがある。
おそらくウスカワマイマイだ。
本書によると、ウスカワマイマイは比較的乾燥に強く、植物の苗に付着して全国に分布しているという。
我が家の敷地は元々、草の1本もない空き地だったから、
僕が購入した何かの苗に付着していたのだろう。

一方、通常はカタツムリは移動能力が低いため、全国各地で優先種が異なる。
四国と中国地方・九州の瀬戸内側はセトウチマイマイだが、
九州と愛媛県の佐田岬はツクシマイマイ。中国地方はイズモマイマイ、
近畿、徳間南部はギュリッツマイマイ。
東日本も様々だから、
このブログをご覧になっている皆さんのイメージするカタツムリは、僕が思い浮かべるものとは異なる可能性が高い。

そのカタツムリについて、様々な研究成果や話題を元に、多角的に紹介するのが本書。

例えばカタツムリの動き方だけでも、
後ろ側から前に向かった「足波」が伝わることで進むが、
時々、足跡のように点状に残ることがあり、これは通常の足波の伝わり方では説明できず、
まだ動き方が解明されていないということが紹介されている。
身近なカタツムリでも、わからないことがあるのだ。

また、カタツムリといえば殻、カルシウムだが、
それが卵を産む野鳥にとっては重要なカルシウム源であること。
そのため、土獣中のカルシウムが少ないとカタツムリが少なく、野鳥の卵殻も薄いという因果関係があるという点も、
野鳥を中心に自然を見ている自分としては、なるほどと感じる話だった。

また、「クマムシ博士の「最強生物」学講座: 私が愛した生きものたち」(レビューはこちら)でも少し触れられていたが、
ノミガイという体長2~2.5mmのカタツムリの話も面白い。
ノミガイは、本州南部、四国、九州、沖縄など、広い範囲に分布しているが、
実は野鳥がノミガイを食べ、生きたまま排出される場合があり(実験では、メジロ・ヒヨドリに食われた個体のうち約15%が生きたまま排泄されたという)、こうした野鳥によって分布しているという。

身近なカタツムリだが、その動き、分布、様々な面において、やはり生態系の一員として興味深い面が多々ある。
そうした魅力を手軽に読める一冊として、本書は有り難い。

ところで、以前「ゲッチョ先生のナメクジ探検記」(レビューはこちら)で、イボイボのあるナメクジ、その名も「イボイボナメクジ」がいることを知ったことを紹介した。

ところが「香川生物 第37号」(香川県の生物関係の研究誌)を読んでいたところ、関連する文献があり、
その内容に驚かされました。

その文献は、「イボイボナメクジ Granulilimax fuscicornisMinato,1989の分類・生態的特徴」多田昭・矢野重文。

まず、イボイボナメクジは新属新種として,湊(1989)によって記載されたとのこと。そんなに新しい発見だったとは知らなかった。
しかも、イボイボナメクジの最初の発見場所は香川県仲多度郡仲南町(現,まんのう町)多治川。
そして完模式標本の産地は香川県綾歌郡綾歌町富熊大原とのこと。

※記載論文(湊,1989)では完模式標本は香川県綾歌町で採集された個体だが、
 その標本産地は徳島県高越山となっている。
 これは、標記の論文で明らかにされているが、
 実は最初に徳島県高越山で採集した個体を完模式標本としようとしていたところ、
 最後に香川県個体に変更したが、模式産地を修正し忘れたとのことである。


まさに香川県はイボイボナメクジ発祥の地であったのだ。

確かに、全国のレッドデータブックでみると、イボイボナメクジは情報不足の県が多いのだが、
香川県だけ絶滅危惧I類に区分されていて不思議だった。
つまり香川県だけ減少しているというより、香川県だけカテゴライズできる程度に情報があったということなのだ。

それにしても、これだけ香川県とイボイボナメクジの縁が深いのなら、やはり、いつかをこの目で見たいものである。
なお、イボイボナメクジは、なんと肉食性(他の陸貝を喰う)とのこと。これも驚きだった。
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ゲッチョ先生のナメクジ探検記  

ゲッチョ先生のナメクジ探検記
盛口 満



久しぶりのナメクジ本である。苦手な方ごめんなさい。
でも過去のナメクジ本もかなり検索されてました。みんな気になるようである。

「ナメクジの言い分」(レビューはこちら)


「ナメクジ―おもしろ生態とかしこい防ぎ方」(レビューはこちら)


著者は独自の視点で変わった生き物を追いかける(または普通の生き物を変わった視点で追いかける)盛口満氏。現在は沖縄在住なので、本書でも沖縄のナメクジがメインテーマになっている。
特に、イボイボナメクジに詳しい。
また、そもそも「ナメクジ」ってどんな生き物なんだろう、という根源的な質問にも答えてくれる。
たかがナメクジと思っているが、進化の観点からみるとかなり面白い形態と進化結果であることがわかる。

また、他書ではなかなか無いのが、ナメクジを生物として研究する際の難しさ。
あのナメクジの種分類を研究するには、解剖して生殖器をチェックしなければならないが、
ホルマリンで固定すると正確な比較ができない。
そのため、生体を研究者が手に入れる必要があるが、それはなかなか難しい。
ナメクジを研究する人は少ないだろうとは思っていたが、こうした制限があるということは初めて知った。

そのため実はナメクジの種分類の研究は進んでいないという。
しかし本書で示されるように、イボイボナメクジだけでも、沖縄の各島々で様々な個体が分布している。
生物地理学の観点からは、研究すべきテーマが山ほどあるような印象を受ける。

本書で盛口氏がフィールドワーカーとして研究者に協力しているように、
僕ら素人でも、外見(色・大きさ)、分布など、まだまだ関われる余地はありそうだ。

「生物」としてのナメクジに興味がある方は、ぜひ一読されたい。というか、必読であろう。
また、生物地理学、南西諸島の生物学としても面白い。

【目次】
1 ナメクジ娘の襲来
2 ナメクジ熱の発症
3 琉球列島ナメクジ探検
4 ナメクジの謎
5 ナメクジは貝である
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ダイオウイカ、奇跡の遭遇  

ダイオウイカ、奇跡の遭遇
窪寺 恒己



ダイオウイカはもうおなかいっぱい、という気もするが、
よく考えると、窪寺博士自身が書いた最新の本はなかった。
(「新鮮イカ学レビューはこちらで、途中までは触れられている。)
その待望の書であるもの、読まないわけにはいかぬ。
ということで、読んだのである。

本書では、博士がダイオウイカ研究に着手し、
姿を撮影し、触腕を引っかけ、ダイオウイカを釣り上げ、そしてついに深海で生体に出会うまでが、
博士自身の言葉で丁寧に辿られている。
一緒にダイオウイカ探索のワクワク・ドキドキを体験しているかのようで、
楽しい一冊であった。

本書を読むと、タイトルは「奇跡の邂逅」だが、
その奇跡はやはり窪寺博士の長年の研究と工夫によるものであって、
その点、実は奇跡ではないことが実感される。
それにしても、ダイオウイカを自分で見られる結果に至るとは、
研究者としては本当に幸せな展開ではないだろうか。

その他第4章では、これまであまり語られていなかった、博士が研究の道に入るまでの経歴が、
第5章ではダイオウイカの分類や、海外での共同研究の状況などが綴られていて、興味深かった。

【目次】
第1章 ダイオウイカへの挑戦、二〇〇二‐〇六
第2章 トワイライトゾーンへ
第3章 深海の闇に躍るダイオウイカ
第4章 山に迷い、海に溺れる
第5章 ダイオウイカとは何か

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新鮮イカ学  

新鮮イカ学
奥谷 喬司
【全いかっていう組織は知らなかった度】★★★★



先日、NHKで国立化学博物館の窪寺恒己博士が、世界で初めて生きているダイオウイカを、
その生息域で撮影したニュースがあった。

生きているダイオウイカを見て撮影できるというのは、そこまで行ける技術と
コンパクトな撮影機材が必要であり、現在の技術に進歩することで、て初めてできたことだろう。
しかし、その技術を開拓し、実際に行動に移すのはやはり人間の情熱である。
その点で、やはり窪寺博士の成し遂げたこと偉業であり、
人類の深海探検史のうえでも特筆すべき出来事だろう。

さて、そのニュースに触れたので手に取ったのが本書である。
様々なイカ研究者が、その研究テーマに沿って各章を執筆している。
漁業資源としての研究も多いため、純粋に生態的興味がある者からすると、
ちょっと物足りないかもしれない。
その中では、やはり窪寺博士の研究、本書は2010年発行のため釣り上げるところまでだが、
その記事が最も面白かった。

イカに興味がある方は(そんなにいるとは思えないが)、
現在の研究の方向性を知る入門書として最適だろう。


【目次】

1章 新鮮イカ学Q&A
2章 “湖”の中のスルメイカ―日本海とスルメイカの関係って?
3章 寒波はスルメイカを減らす?暖かいとなぜ増える?
4章 小さな石の秘密―イカの平衡石はCD‐ROM
5章 世界最大の食用イカの不思議―アメアカの過去・現在・未来
6章 イカDNAの威力―親子の認知から製品鑑定まで
7章 青い眼のイカ漁りまくりの日々―海外イカの開拓史と幕引き
8章 イカはどうして光に集まるのか?―漁灯技術と研究の今昔
9章 ソデイカの袋小路―日本海のソデイカ漁業とその資源
10章 巨大イカ暗黒に舞う―カメラがとらえた深海性大型イカ類
11章 地球温暖化でアオリイカは繁栄するか?衰退するか?
12章 小さなイカに魅せられて―ヒメイカの奇妙な生態
13章 イカの精子競争―より多くの子孫を残すための巧みな戦術と行動
14章 脳のデザインからみた知性の進化―イカの賢さの秘密はその脳にあり
15章 みんなの味方、美味しいイカ
16章 イカに絡まれ半世紀―自伝的イカ研究の発展と多様性
あとがき

【メモ】
p4 世界のイカ:約450種、日本近海は140種
  世界のタコ:あまりよく分かっていない。おそらく世界に270種、日本近海には60~70種
→なぜタコの方が分化が少ないのだろう?
化石頭足類のアンモナイト:2万種

p5 淡水イカ・タコはいない。塩水湖にもいない。

p7
コウイカ類の甲は多孔性の石灰質で船形、浮きとして機能、死ぬと浮かぶ
ヤリイカ科やアカイカ科は筋肉が優れ泳ぎ続けている→死ぬと沈む

深い海の中層のイカ:多くは皮膚の下に塩化アンモニウムを蓄える液胞があるので
比重が小さくなり、中性浮遊性を保つ。ニュウドウイカ、ダイオウイカなど。
よってアンモニアくさく、焼くと塩辛くて食べられない。

p9
スルメイカ、ケンサキイカの寿命:1年
魚類の耳石のような平衡石によって日輪が確認でき、寿命の確認が出来る

p12 最大のダイオウイカ:ギネス
1879.1.30の「ボストン・トラベラー」掲載、ニューファウンドランドに漂着した個体
口の先-体の後端:6.6m、蝕腕1本が11.5m

p13 日本最初のイカ:ヒメイカ 16mm程度
もともと「ヒナイカ」だったが、いつの間にか「ヒメイカ」になった

p18
自家発光するイカ:外洋性のツツイカ類
バクテリアなど共生菌により発光するイカ:沿岸性ダンゴイカ・ミミイカ類
全イカの約45%(200種以上)は発光性を有する
一方、タコで発光性を有するのは2種のみ

p38
スルメイカ
雌は直径1m程度のゼリー状卵塊を生み、海の中層を漂う(「卵塊中層浮遊・滞留仮説」)といわれている。
卵塊には長径1mm前後の卵が数万~数十万含まれている。
しかし天然の卵塊も卵もいまだに採集されていない。

p78
平衡石 2個、イカの頭部
イカの平衡感覚に関わるもの
丁寧に磨くと切り株のような輪紋がある。輪紋は1日に1本形成される日周輪。

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